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通商護衛戦  作者: 雪風
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寿命一週間の頭脳

 ──4月末、東北大学──


「先生、また壊れました」


「そうか……」


 研究員の言葉に小川兄弟の兄、浩は声を落とした。


(俺は電子工学が専門で化学は専門外。


 どうしろと言うのだ……)


 彼はICを開発していたが樹脂に問題があった。


 冷えると樹脂が枯れ葉のように収縮し、金線を切断、ICをバラバラにしているのである。


 樹脂の配合を変え、最適な物を探っていたが3日で半数が壊れ、残りも1週間を越える事はなかった。


「配合を変えてみよう。 


 ロットは多いし焦る事は無いさ」


「分かりました」


 研究員が去って行く。


(俺が居た頃よりスケールが違う。


 要求される純度、精度も違う。


 それは良いがそもそも周辺材料を内製出来ないのが痛い)


 樹脂の品質が半導体開発の足を引っ張っていた。


 湿気に弱く、作動温度上限が40℃、50℃で不可逆な熱変性を引き起こすゲルマニウムトランジスタを潜水艦や南方に派遣される車両及び航空機に使う訳にはいかない為、シリコンを開発、実用化していた。


(開戦時までにICにしたかったがこれでも史実よりマシだ。


 NC工作機械や産業用ロボットで造った飛燕や彗星のエンジンも今の所問題無いようだし兵器の精度も上がっている)


 IC程ではないが、トランジスタを搭載したNC工作機械でも1940年代の工作機械より一桁上の精度が出せる。


 独から導入した冷間加工に加え、銃身、弾薬の製造工程や火薬の温度管理も1960年代の水準に引き上げれば、固有誤差の少ない──所謂優秀な狙撃兵に支給される『出来の良い』銃が量産出来るのである。


 風や温度と言った外部の影響がなければNC産兵器の銃砲弾薬を用いた時の散布界は従来の──手加工の50%に収束する。


 1万m以遠の潜水艦を数発で沈める事が出来た理由の一つである。


「浩君、ちょっと良いかね」


 ノックもそこそこに渡辺寧教授が実験室に顔を出した


「あ、はい。


 何でしょう」


「カド、キャダだったか?


 あれを図面表示じゃなく純粋な計算処理に回せば演算速度はオモイカネ三型の16倍になるんじゃないか?」


 三型は柏で稼働している計算機の事である。


「CADですか。 仰る通りですが物が無いんですよね……こちらもICで手一杯ですし。


 伊藤中佐にせっつかれましたか」


「いや、そういう訳じゃない。


 富士通から買って手直しするさ。


 追って連絡するがその時に研究員を何人か貰うけど構わないね?」


「はい」


「それは良かった。


 君達の情報で採れる金はあっても人は融通しないといけない。


 技術以外の資料も読んだが──」


 と言葉を切る。


「──金解禁が無ければな──まあ過ぎた事は仕方無いか。


 時間を取らせて悪かったね。


 じゃあまた」


 渡辺教授はそういうと自身の研究室に戻って行った。


 金解禁により600t。


 時価にして6億円相当の金が流出。


 国家予算の三%を占めた大和型の建造費が一億三千八百万円余りだった事を考えると、維持費込みで四隻分が吹っ飛んだ計算になる。


 兄弟が情報提供した菱刈鉱山に眠る金の埋蔵量は21世紀レベルの採掘技術で350t。


 国後島の金山の50tを合わせても2/3しかカバー出来なかったのである※1


(俺も戻るか。


 ICが完成すれば工作精度は更に一桁上がる。


 固有誤差由来の弾のバラツキもNC工作機械産の6割に減る。


 人も金も欲しいが来年には製品化しなきゃマリアナまでにユーザーが慣れるかどうか……後で伊藤中佐に相談してみよう)


 浩はそこで思考を打ち切ると研究室に戻った。


 ※1……世界恐慌と金解禁で日本はGDPの25%を喪失。


 米国は30%を喪った。

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