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第1章 7話 試験の後の手合わせ

手紙を読み終えると、アルはしばらくレイのことを思い出していた。手紙には、レイはすでに休眠状態に入ったと書いてあった。そうなれば、もっても5年と聞いていたから、もうあまり時間がない。それまでに聖龍石を手に入れなければ。

ただ、まずはこの試験に受からなければ話にならない。

2次試験がどんなものかはわからないが、ひとまずは試験に集中しよう。

時間もお昼前になっていたため、アルは本を棚に戻すと食堂へと向かうことにした。


食堂にはすでに何名かの受験者がいた。

アルが図書館で時間を潰している間に、続々と一次試験の合格者が出ていたようだ。

アルはカウンターで料理を注文し、お金を払う。

学園内では通常の店よりも安い値段で提供しているようだ。

「よぉ!」

受け取った料理を持って、空いている席へと向かっている途中、アルは2人組に声をかけられた。

1人は薄茶色の短髪に腰には2本の短剣を下げた青年。

もう1人はおおがらで背中に斧を背負った無表情の男。

「君も外部の受験者だよな?たしか・・・アル・グレイシアって呼ばれてたかな?」

「あぁ、そうだけど・・・」

見れば2人はすでに食事を終えているようで、空の容器がテーブルの上に置かれている。

「俺はミドナ・カミナ。こいつはブルック・トイ。君と同じ外部の受験者だよ。あ、よかったら隣どうぞ。」

促されるまま、アルは彼らのテーブルについた。

「アルくんってブランヘルブの人じゃないよね?外部の人間で試験を受けるのはほとんどがギルドのハンターだけど、君のことを見たのは今日が初めてだ。だから今日まで外部の受験者は俺たちだけだと思ってたもんな、ブル。」

そうふられてブルックと呼ばれた男が無表情のまま無言で頷く。

「ちょっと理由があってね。少し前にブランヘルブに来たばかりなんだ。あと、アルでいいよ。」

「やっぱりそうか。りょーかい、アル。外部生同士仲良くしよう。俺たちもミドナとブルで構わないぜ。」

そう言って差し出された手をアルは握る。

「ミドナたちはずっとブランヘルブでハンターの仕事をしてるの?」

握手を交わした後、アルは料理を口に運びながらそう問いかけた。

「あぁ、俺もブルもあまり裕福な家の出じゃないからな。剣を持てるようになった時からずっとハンターをやってる。」

「ふーん、じゃあ2人は長い付き合いなんだね。」

「おうよ、おかげで俺たちの連携は完璧だぜ。な?」

ブルが無言で頷く。

「ブルは昔獣との戦いで喉をやられてな、言葉が話せねぇんだ。その上この見た目だからよく怖がられるんだが、根はいい奴だからよ、アルも仲良くしてやってくれや。」

「あぁ、ブルもよろしくね。」

アルを見て再びブルは無言で頷いた。

「それでミドナたちはどうして騎士に?」

「稼ぎが安定してるってのと、腕試し、かな。ギルドの依頼はAランクで頭打ちだからよ。それ以上の獣とやるには騎士になるしかないだろ?俺もブルも腕には自信があるから、どこまでいけるか試したいのさ。アルは?」

「俺も同じかな。まぁどちらかと言えば、俺がやりたい相手はホルダーだけど。」

「わはーっはっはっは!アル、お前もなかなか変わってんな。ホルダーと戦いたいなんてやつ初めてだよ。」

どうやらミドナはアルのことがかなり気に入ったようだった。

初対面での距離の近さは感じるが、裏表のないその雰囲気にアルも悪い気はしなかった。

「そうだ、今日の試験が終わったら一緒にギルドの依頼を受けないか?ぜひアルの戦いを見てみたい。」

「試験の後、手合わせの予定があってね。その後でもよければ行かせてもらうよ。」

「なんだ、俺たち以外にもアルに興味を持ってるやつがいるのか。わかった、じゃあ俺たちは先にギルドで待ってるぜ。」

「アル、ここにいたのね。」

どうやらアルを探していた様子のアンナが後ろから声をかけてきた。

「やぁ、アンナ。その様子だと1次試験は問題なかったみたいだね。」

「当たり前じゃない。そもそも学園の成績上位者にとってみればあれくらいの試験は合格して当然よ。あ、あなたたちは・・・」

「おーい、アル!こんな綺麗な女性と知り合いなんて、聞いてないぞ!しかも学園生じゃないか!すました顔して抜け目ないやつめ。おっと失礼、俺はミドナ・カミナ。で、こっちのでかいのがブルック・トイ。見た通り外部の受験者だ。」

「ど、どうも。私はアンナよ。」

「アンナだね、よろしく。おいアル、この後の手合わせってアンナじゃないよな?」

「あぁ、別の学園生だよ。」

「また学園生か。ブランヘルブに来たばかりだという割にはずいぶん友人が多いな。」

「手合わせの相手は友人って感じじゃないけどね。」

少し納得のいかない表情を見せたミドナだったが、それ以上聞かれることはなかった。

「よし、じゃあ俺たちは先に講堂に戻るとするわ。また後でな、アル。」

「うん、また後でね。」

ミドナとブルが食堂を出て行った後、アルはアンナの食事が終わるのを待っていた。

「彼らと知り合いだったの?」

「いや、知り合ったのはさっきだよ。」

「それにしてはずいぶん仲が良さそうだったけど。」

「なんだかずいぶん気に入られたみたいでね。今日も試験の後に依頼を受けようって誘われたよ。」

「え?この後ダリアンとも約束があるんでしょ?大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、ただの手合わせだから。」

「あなたはそうかもしれないけど・・・ダリアンがムキになったら無傷じゃすまないわよ?」

「その時はまた考えるよ。」

「はぁ・・・まぁいいわ。そろそろ私たちも講堂に戻りましょうか。」


アルたちが講堂につくと、1次試験の合格者はある程度集まっているようだった。

当然そこにはダリアンの姿も見える。

その後2、3名の受験者が部屋に入ってきたところで部屋の扉が閉じられた。

壇上に再びミカが姿を見せる。

「1次試験はただ今をもって終了だ。ここにいる君たちはこの後2次試験に臨んでもらう。期間は明後日から3日間。3人1組で行う討伐試験だ。組み分けはこちらで行う。ルブルエリアで3日間を過ごしてもらうから各自準備をしておくように。今つけているリングは明後日もつけてきてくれ。集合は今日と同じ9時にこの場所だ。説明は以上、今日はこれで解散だ。」

質問など一切受け付けず、ミカは説明を終えると壇上の袖から出ていった。

「次の試験は討伐試験か。楽しみだね。」

「楽しみって3日間もルブルエリアで過ごすのよ!?そんなの過酷すぎるわ・・・」

他の受験生もアンナと同意見なのか、講堂内がざわめきだす。

「とにかく明後日までに準備しないと・・・あなたも余計なことに時間使ってないで準備した方がいいわよ。」

「3日間くらいなら準備しなくても平気だよ。」

「そうだった・・・あなたはずっと外で過ごしてたんだもんね・・・」

いつものごとく、アンナは呆れたような表情を見せる。

視界の端でダリアンが部屋から出ていくのが見えた。

「よし、じゃあ俺も訓練場に行こうかな。アンナも行くだろ?」

「えぇ、そうね・・・行きましょうか。」

他の受験生に続いてアルたちも部屋を出た。


訓練場着くとダリアンの他にも何人か学園生が集まっており、みな2階から様子をうかがっていた。

「1次試験は受かったようだな。まぁ俺に楯突いておいてあの程度の試験も受からんようじゃ話にならんがな。」

入ってきたアルを見るなりダリアンが声を上げる。

「当たり前でしょ。あれくらい受からないようじゃおばあさまも推薦なんてしないわよ。」

「なんだアンナ。お前もこいつがやられるのを見にきたのか?」

「あなたがムキにならないか心配で見にきたのよ。2次試験も2日後なんだし、お互い怪我でもしたら大変でしょ。」

「お互いだと?ふざけるな、これは一方的な教育だ。こいつに身の程を教えてやるんだよ。」

「アル、手合わせなんて嘘じゃない。」

くるっと振り返り、アンナはアルを問い詰める。

「まぁ手合わせみたいなものだよ。俺は大丈夫だから、アンナは安心して見てて。」

「まったくもう・・・」

そう言うとアンナは訓練場の2階へと向かって行った。

アルは右手に棍を持ち、訓練場の中心へと向かう。

「そんなもので獣を殺せるのか?刃のついた武器も使えん腰抜けめ。」

壁にかけられた模擬刀に手を伸ばしながらダリアンがそう言うと、2階から茶化すような笑い声が聞こえた。

「言うね。」

一貫して見下すその姿勢に、アルは少しだけ自分が感情的になっているのを感じた。

「俺はこれで大丈夫だよ。それに君も模擬刀じゃなくて、その腰に下げてる短剣を使ってくれていいよ。やられた後で模擬刀のせいにされるのも嫌だからね。」

「なんだと?」

伸ばしかけた手がピタリ止まり、鋭い眼光がアルを睨みつけた。

「貴様死にたいのか?」

アルはわざとらしく笑みをうかべて答える。

「大丈夫、たぶん君の剣は俺にはあたらないから。遠慮なく全力で来てくれていいよ。」

「そうか。なら、死ね。」

そう呟くと、ダリアンは一瞬にしてアルの目前に迫り、腰の短剣を引き抜くと思い切り振り上げた。

初めて会った時に見せた動きと同じだ。

「ちょっとダリアン!」

アンナの叫び声が聞こえる。この場にいる他の学園生であれば、これで終わっていただろう。だが、アルにとっては遅い。軽く上半身をそらし、笑みも崩さずその一撃を避けた。

「なっ・・・」

避けられると思っていなかったのだろう、ダリアンが目を見開き、アルを見る。

「貴様・・・あの時わざとよけなかったな?」

「君もあてる気なかったろ?」

「なるほど。俺に楯突くだけはあるようだな・・・ならば・・・」

そう言ってダリアンは数歩下がると、短剣を中段に構える。

斬流舞ざんりゅうぶ。」

「ダリアン!ダメだってば!」

アンナの声を無視してゆっくりと流れるように動き出したダリアンは、そのスピードを徐々に上げていく。

これは・・・舞か。

「ヒュッ!」

そう思った瞬間、その舞のような動きの中から、鋭い攻撃が飛び出した。

「おっと。」

アルは再び上体を逸らしそれを避ける。だがダリアンの動きは止まない。なるほど、舞と斬撃を組み合わせた攻撃か。確かに無駄がなく効率的だ。

そんなことを考えるアルをよそめに、短剣の刃先はスピードを上げながらアルの急所を狙い続ける。

アルはダリアンの動きを観察しながらも、最小限の動きで避け、棍を使っていなした。


どれくらい経っただろう。おそらくは数分、いや、もっと短かったかもしれない。

ダリアンの攻撃は洗練された動きであり、血の滲むような鍛錬の賜物たまものだろうと、アルは素直に感心した。しかし、それでもまだ遅い。

何度か斬撃を出したところで最高速度に達したダリアンの舞だったが、それでもその攻撃がアルに当たることはなかった。

「嘘でしょ・・・」

舞を出した時のアンナの反応を見れば、この技が学園生の間でも危険な技として認知されているのがわかる。それがまったく通用しない状況に、2階からは驚きの声が漏れていた。

「くそっ・・・はっ、くっ・・・」

まだ舞をやめないダリアンだったが、その表情はかなり苦しそうだ。それもそのはず、これだけのスピードで動き続けるには相当体力を使っているはずだ。ただ、あれだけのことを言い放ち、自らギャラリーも集めた手前、一撃も当てずにはやめられないのだろう。

しかしその舞にも乱れが生じ始めた。

プライドの高いダリアンでもさすがに力の差を思い知っただろう。

そろそろ終わらせるか、とアルが棍を構えた時。

「何をしているんですか?」

唐突に訓練場の入り口の方から声がかけられた。

と同時に、舞を止めたダリアンがふらふらとよろめきながら膝をつく。

そのまま顔を伏せ、肩を大きく上下させながら息をしていた。顔からは大粒の汗が溢れている。

アルが振り向くと、そこに立っていたのはダリアンと同じ青い瞳に黒髪の、白い服を着た若い男だった。

「ここでの真剣の使用は禁止のはずでしょう。」

「にい、さま・・・はぁ、はぁ・・・」

顔をあげ、苦しそうな表情のままダリアンが声を絞り出す。

ダリアンの兄。この男がブランヘルブのホルダー、ダニエル・ポーターか。

「なるほど。これは確かに・・・まだ勝てないな。」

ホルダーを初めて目の当たりにしたアルがぼそりとつぶやく。ダニエルから感じる強さは親父やグレイから感じるものに近い。

「ダリアン。真剣を使い舞まで出すとは。少し感情的になりすぎです。未熟な証拠ですよ。」

「はい・・・すみま、せん・・・」

「さぁ、この場は解散ですよ。みな次の試験に備えるように。2人は少し残ってください。」

ホルダーに促され、その場にいた学園生はみなそそくさと訓練場を出て行く。

アンナも心配そうに見ていたが、他の学園生に続いて訓練場を出て行った。

「君がマリリカ様の推薦した受験者ですね。」

訓練場から他の学園生が出ると、ダニエルがアルに問いかけた。

「どうも。アル・グレイシアです。」

「私はこの都市のホルダー、ダニエル・ポーターです。まずは弟の非礼を謝罪させてください。」

「いえ、お互い合意ですから、謝罪なんていりませんよ。」

「そうですか。」

小さく頷くと、今度はアルの後ろで小さくなっているダリアンに声をかける。

「ダリアン。なぜ短剣を抜いたのですか?」

「俺の力を・・・侮辱されたからです。」

「彼は何と言ったのです?」

「お前の剣は当たらないから安心して攻撃してこい、と・・・」

「なるほど。ただ、今の様子を見るに彼が言ったのは侮辱ではなく事実です。お前に相手の実力を読む力があれば、そもそもこんなことにはならなかったでしょう。今回の件は彼からけしかけたのですか?」

「・・・いえ・・・俺からです・・・」

「そうでしょうね。まったく、どうもお前は他人を見下す癖がある。その高いプライドはお前の成長を妨げますよ。真剣を使用した罰は後日受けてもらいます。今日は帰りなさい。」

「はい・・・すみませんでした、兄様。失礼します・・・」

そう言うとダリアンはアルに目もくれず肩を落としたまま訓練場を出て行った。

「マリリカ様が推薦するだけあって、かなり実力があるようですね。ダリアンが見せた斬流舞はそう簡単に避けられるものじゃありませんから。」

ダニエルはゆっくりとアルの横を通り過ぎると、訓練場の中心に向かっていく。

「それに人工獣も一撃だったと聞いています。それだけの実力があれば、他の都市にいたとしても耳には入ってくるのですが・・・例えば、ガルモット・イスラやミグル・クビサイのように。」

1人目は初耳だが、2人目はこの前ともにギルドの依頼を受けたばかりだ。

実際に戦っているところは見ていないが、こうしてホルダーにも名を知られていると言うことは、ミグルの言っていたことは本当だったのだろう。

ダニエルは少し歩いたところで振り返えるとアルに問いかけた。

「あなたは外から来たんですね。」

ホルダー相手に嘘を突き通せるとも思わなかったので、アルは素直に答えることにした。

「えぇ、そうです。」

数秒、ダニエルが考えるそぶりを見せる。

「なるほど。わかりました。あなたもいろいろと事情があるのでしょうから、今はこれ以上聞くのはやめましょう。」

そう言うとダニエルは再びアルの横を通り、訓練場の入り口へと向かう。

「あなたのように実力のある方が騎士になっていただけるのは非常にありがたいことです。またお会いしましょう。」

入り口で一度振り向きそう言い残すとダニエルは訓練場を出て行った。

「あれがホルダー、か。3年・・・だな。それで彼らに追いついてみせる。」

1人残されたアルはぼそりとつぶやくと、胸の高鳴りを感じながら訓練場を出た。

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