第1章 6話 入団1次試験
入団試験は1次試験と2次試験に分かれており、試験初日となる今日は、学園内で1次試験が行われる。
午前中に試験の説明があるため、集合時間は9時だとアンナから聞いているが、それまではまだ時間があるので、アルは日課になりつつあるジークとの朝の散歩に出かけた。
アルは当初泊まっていた宿を出て、今は4区の北東エリアに家を借りてる。アンナの家よりもさらに古めかしい家だが、平屋で小屋がついているところと、エリアのはずれにあり人が少ないところがアルは気に入っていた。
散歩コースは特に決まっておらず、5区のエリア内をジークの気の向くままに歩く。
いろいろな作物が育てられている5区は、どこを歩っても違った景色でおもしろい。アルもグランドエリアにいた頃はよくイモを育てて食べていたが、本気で農業に取り組めばここまで多様な作物を育てられることに素直に感動を覚えていた。
しばらくはブランヘルブにいるだろうから、畑を借りて何か試してみてもいいかもしれない。あとでアンナに相談してみよう。
めぼしい作物がないか、あたりを観察しながら歩いていると、4区から地竜に引かれた荷車が進んでくるのが見えた。
あれは・・・遠目でもわかるあの髭、間違いない。
あの商人だ。荷台には荷物が積まれているようだがまたどこかに行くのだろうか?
この短期間で3度目の出会いに驚きつつも、アルは商人に声をかけることにした。
「おはようございます。」
「おはようございます。あなたは・・・以前うちの店にいらっしゃった方ですね。」
「覚えててくれたんですね。」
「もちろん。お客さんの顔を覚えるのは商人にとってはとても重要なことですからね。」
「そうなんですね。店主さんは特徴的な見た目をしているので、すぐに分かりました。」
「あぁ、この髭ですね。いいでしょう?お客さんを覚えのと同じくらい、お客さんに覚えてもらうのも重要ですからね。見ての通り、効果はバッチリです。」
誇らしげに髭を撫でながら商人が胸を張る。本人もお気に入りのようだ。
「これからまた別の都市に行くんですか?」
誇らしげな顔が少し険しくなる。
「えぇ、そうですが・・・他の都市でもお会いしたことがあったでしょうか?」
おっと、確かに彼からしたらまた、はおかしいか。
「あぁ、いえ、そうではないんですが・・・」
そう言ってアルは、以前門の外で商人を見かけていたことと、その姿が特徴的で、3区で再び見かけた時に声をかけたのだということを伝えた。
「あぁ、そうでしたか。えぇ、いくつかの都市で取引をしているものですから、頻繁に都市の行き来をしております。今はスコッドウッドに向かうところですよ。」
「スコッドウッドですか。ずいぶん遠い都市まで行くんですね。」
「はい。半月ほどかかりますが、これも仕事です、仕方ありません。あなたもこれからお出かけですか?」
「いえ、俺はただの散歩です。今日は騎士団の入団試験なんですが、それまで時間があったので、この辺りを散策してました。」
「おや、そうでしたか。以前お会いした時もそうでしたが、あなたからは非常に強い気を感じます。きっと試験も難なく合格されることでしょう。次は騎士になったあなたとお会いできるのを楽しみにしていますよ。その際は、ぜひうちの店をご贔屓に。では、私はそろそろ失礼します。」
そう言うと男は北の門へと向かっていった。
散歩を終え家に戻ると、家の前にはアンナの姿があった。
「おはよう、アル。試験当日なのに朝から散歩なんて、あなたはいつも変わらないわね。」
「おはよう、アンナ。いやいや、緊張で体が固くならないように少し動いてきただけだよ。」
「嘘ばっかり。あなたが緊張することなんてまずないでしょ。」
そう言うアンナにおどけた表情でかえす。
「そういえば今日はその格好なんだね。」
アンナは珍しく学園の制服を着ていた。というか、制服を着ているところを初めて見た。
「えぇ、学園生は制服で受験する決まりなのよ。生徒なのかどうかすぐわかるしね。それより、もう出れるのかしら?」
「あぁ、問題ないけど、まだ早いんじゃないかな?」
そう言うと、アンナは手に持っていた袋をアルに差し出した。
「昨日の夜兄さんが来たのよ。これはあなたへの差し入れ。で、今日は受験者で校門が混むから早めに行けって。」
「そうか、わかった。じゃあジークを休ませてくるから待ってて。」
「あ、試験日は自分の武器を持ち込めるから、あの棒を使うなら持って行った方がいいわよ!」
「棒じゃなくて棍ね。」
そう言うとアルはジークを小屋に連れて行き、棍を持って家を出た。
校門にはすでに10人ほどの列ができていた。
早めにきたためか、まだそこまで混んでいないようだった。
アルたちもその列に並ぶ。
数分で校門の前に着いたが、その間にも列は伸び、あっという間に数十人の列ができていた。
「悔しいけど兄さんの助言は正しかったってことね。今度会ったらお礼を言っておくわ。」
校門の受付で名前を書くと、手首につけるリングが渡された。
リングには魔法陣が組み込まれているようで受験者の管理ができるようになっているらしい。
受付の男からは学園の1階にある大講堂に向かうようにと指示を受けた。
ちなみに今日はルービルの姿はなかった。
大講堂には50名ほどの入団希望者が集まっていた。
服装を見る限り、みな騎士学園の生徒のようで、アルのような外部の人間はまだ見当たらない。
顔見知りの者がいるようでアンナは挨拶を交わしに行っていた。
「貴様も騎士を目指していたとはな。」
振り返ると声の主は相変わらず軽蔑の目でアルを睨みつけていた。部屋に入った時から存在には気づいていたがまさかあちらから話しかけられるとは思わなかった。
「身の程をわきまえた礼儀は覚えてきたか?」
「あいにく礼儀を教えてくれる大人が周りにいなくてね。騎士になったら覚えるよ。それとも君が教えてくれるかい?ダリアン。」
名前を出した途端、その表情はいっそう険しくなった。
「気安く俺の名を呼ぶな。」
「君から話しかけてきたのにずいぶんないいようだね。」
「どうやらあれではまだ力の差がわからなかったようだな。いいだろう、今度ははっきりその身にわからせてやる。今日の試験が終わった後に訓練場に来い。逃げるなよ。」
一方的に話を終わらせるとダリアンは離れていった。
「また何か言われた?」
ダリアンと話しているところを見ていたらしい、一通り挨拶を終えたアンナが戻るなりアルに問いかけた。
「いや、ただの挨拶だよ。今日の試験が終わったら手合わせしてくれるんだって。」
「ダリアンがそう言ったの?そう、仲良くなったならいいけど・・・というか試験の後に手合わせなんてよくやるわね。」
「軽い手合わせだよ。アンナも見にくるかい?」
「そうね・・・手合わせって言ってもダリアンがムキにならないか心配だし、一応行くわ。あの人手加減とかしなそうでしょ?」
どうやらアンナの心配はアルの安否らしい。
「そうだね、もしもの時は頼むよ。」
少し誤った認識をされている気がするが、まぁいいだろう。
1時間ほどたったころ、大講堂の入り口が閉められた。
講堂の中に集まったのは200人ほどだろうか。
ちらほら外部の人間も見えるが、ほぼ学園生と言っていいだろう。
講堂内が話し声でざわざわしている中、壇上の袖から1人の騎士が出てきた。
「これよりマリリカ様から挨拶がある。静粛にその場で待機せよ。」
大きな声で受験者にそう伝えると再び袖にひっこんだ。
しーんと静まりかえる講堂内。
そこにカツ、カツという足音を響かせながらマリリカが現れた。
そのまま壇上の中心まで歩き、こちらに向き直る。
「騎士入団希望者の諸君。まずはその心意気に感謝を。今我々がこうして平和に暮らせているのは、これまで数多くの騎士たちが命をかけて戦い、勝利してきた結果である。騎士とは人類の希望であり、誇り高き存在なのだ。そんな騎士の一員にならんとここに集まった諸君らも人類の希望と言えよう。ただ、ここにいる全員を騎士として迎え入れるわけにはいかない。騎士には戦うための力が必要だからだ。用意した試験は2つ。その中で己が力を証明し、1人でも多く我々の仲間に加わってもらえることを願っている。以上。」
そう言うと、再びカツ、カツと足音を立てながら壇上の袖へと姿を消した。
マリリカと入れ替わりで先ほどとは別の騎士が壇上に現れた。
マリリカの部屋の前で会った、ミカと呼ばれていた女性の騎士だ。
「初めまして。私はゴールドナイトのミカ・ルグルシアだ。これから君たちに受けてもらう試験について説明する。マリリカ様もおっしゃっていたが、試験は2つだ。1次試験はこの後行う基礎能力試験、2次試験は後日ルブルエリアで行う数日間の討伐試験だ。2次試験については、1次試験に合格したもののみが対象となるためこの場では説明しない。基礎能力試験だが、剣士と魔術師に分かれて行う。この説明が終わった後、呼ばれたものから2階の測定室に向かってくれ。測定方法の詳細は部屋にいる担当者から説明がある。測定後、結果はすぐ出るので、合格となった者は再びこの大講堂で待つように。説明は以上だ。」
一方的に説明を終えると、ミカ・ルグルシアも颯爽と壇上を去っていった。
騎士がいなくなると、講堂内は再びざわめきだす。
「ミカって人、この前会った時とは印象が違ったね。」
「おばあさまの孫って立場で会う時はすごく優しいんだけどね。実際は鬼のルグルシアって呼ばれるくらい厳しい人なんだって。」
「たしかに、鬼みたいな表情だった。」
そんな話をしていると、大講堂の入り口が開き、騎士が入ってきた。
「さっそく始まるみたいだね。」
「えぇ、そうね。誰から・・・」
「アル・グレイシア!測定室に向かえ。」
おっと、俺が1番か。
「俺からみたい。よし、じゃあ行ってくるね。」
「学園生以外からなのかしら。えぇ、頑張ってね。またあとで会いましょ。」
「ありがとう。アンナもね。」
そう言ってアルは大講堂を出て2階へと向かった。
2階に上がると、入り口の上に測定室と書かれた部屋が5つほど並んでいた。
扉にはそれぞれA〜Eと書かれている。
部屋の前の通路には白い白衣のような服を着た男が立っており、アルの名前を確認するとAの部屋に入るよう指示を出した。
部屋に入ると、たくさんの機械と正面に大きな窓が目に入った。
窓の奥には長細い別の部屋が見える。
機械の前には外の男と同じ格好をした男が立っており、特徴的な丸メガネを指で押し上げながらアルに話しかけた。
「こんにちは、アル・グレイシアさん。あなたは剣士として受験ですね。武器は・・・棍、ですか。刃のない武器とは珍しい。しかもその装飾・・・」
そう言って少し興奮気味にアルに近づき、棍に顔をグッと近づける。
「これはいい武器ですね。ほとんどの騎士は剣や槍を好んで使います。ここブランヘルブでいえば、刃のない武器を使うのはゴールドナイトのシルビア様だけなんですよ。あと有名どころで言うと氷雪都市カイランドのホルダーも錘と言う武器を・・・おっと失礼、話が脱線してますね。」
コホン、と咳払いしながら姿勢を正し、もといた位置へと男は戻る。
「武器、好きなんですね。」
アルは素直にそう感じた。
「えぇ、本当は私も使えればよかったんですが、いかんせん体が弱く、その道は諦めました。今はこうして騎士の方に関わる仕事をしながら、ひっそりと楽しんでおります。騎士の方がどんな武器を使われているかは一通り把握しておりますよ。」
男は少し嬉しそうに、そして少し自慢げにそう話すと、メガネを再び押し上げ、試験の説明を始めた。
「では、改めて・・・私は試験官のルーといいます。私から試験の手順について説明しますね。試験は奥の部屋で行います。3体の人工獣が1体ずつ順番に出てきますので、それぞれの特徴を踏まえて戦ってください。強さはギルドで言うところのBランク程です。1体につき1分ほど戦ってもらい、途中でやられたら不合格、最後まで立っていられれば合格です。なにか質問はありますか?」
なるほど、模擬戦のようなものか。
「人工獣は倒してもいいんですか?」
「倒す?あぁそれは構いませんが・・・耐久性は非常に高く作られてますのでまず難しいかと。」
「わかりました。あ、あとこの棍なんですが、もしかすると聖武器って呼ばれるものらしいくて、これを使っても大丈夫ですか?」
「なんと、それは興味深い。聖武器を見る機会なんてそうそうありませんからね。もう少し見せて・・・いやぁ違う違う、今は抑えないと。えぇ、構いませんよ。聖武器といえども、使う者に実力がなければそれは普通の武器と変わりませんので。聖武器の力を引き出せる時点で騎士の資格は十分といえますよ。」
「そうですか、わかりました。」
ルーが手元のボタンを押すと奥の部屋に続く扉が開いた。
「では中へ。これより1次試験を開始します。」
奥の部屋はガラス越しに見るよりももかなり広い空間だった。
壁には魔法陣が刻み込まれており、どうやらそれで空間を広げているようだ。
こんなこともできるのか。
アルの通った扉が閉まると同時に、部屋の奥の壁が一部引き上がり、中から背丈が3mほどの人工獣が現れる。
二足歩行だが前にだらりと伸ばした長く太い腕が今にも地面につきそうだ。
胴体も太いが足は短くパワー型だろう。よく見れば体の表面にはびっしりと魔法陣が刻まれていた。
その人工獣が数歩前に出ると突然目が赤く光り、スピードを上げてアルに向かってきた。
左腕を大きく振り上げた人工獣がアルの目前に迫る。
だが、アルはまだ動かない。
そして人工獣がアルの射程に入った瞬間。
「スラスト。」
シマミミズとの戦いでも見せたアルの音速の突き。
直後、ドスンと言う音を立てて顔に穴の空いた人工獣が仰向けに倒れた。
「これは・・・」
スピーカーからルーの声が漏れる。
その後すぐに扉が開くと、慌てた様子でルーが入ってきた。
そのまま倒れた人工獣のそばまできてしゃがみ込み、綺麗に空いた顔の穴を覗き込む。
「なるほど・・・人工獣を一撃ですか・・・どうやらその聖武器をしっかりと使いこなせているようですね。」
ルーはすっと立ち上がるとアルに向き直る。
「あなたの実力はわかりました。まだ一体目ですが、試験はここまでよいです。あなたは合格です。」
隣の部屋に戻ると、ルーはアルの腕輪に魔法陣の刻まれたカードをかざした。
その際、一瞬カードと腕輪が光る。
「これで手続きは終わりです。この後は、13時にもう一度先ほどの大講堂に集合してください。それまでは自由に過ごしていただいて構いません。試験お疲れさまでした。それで・・・もう行ってもらっていいのですが、時間もあまりましたので少しお話を聞いても?あ、もちろんこれは私の個人的な興味ですので、断ってもらってもまったく構いません。」
「俺は構わないですよ。13時までは特にやることもないみたいですし。」
「おぉ、それはありがたい。」
ルーはそわそわした様子でメガネを押し上げる。
「では・・・まずはその棍を見せていただいてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ。」
アルが棍を渡すと、ルーは鼻息を荒くしながら棍をじっくりと眺めだした。
「ふむふむ・・・なるほどなるほど・・・確かにこれは普通の武器ではないですね。ただ、クレアトールの名が入っていない・・・通常、聖武器にはそれを作ったクレアトールの名が刻まれるものです。これはどちらで手に入れたのですか?」
「知人から借りているんです。だから、どこで手に入れたのかは俺も知らなくて。」
「そうでしたか。ではその知人の方に聞けば、聖武器かどうかわかるかもしれませんね。ありがとうございます、こちらはお返しします。それから、あなたは学園の生徒ではないようですが、その強さはどこで身につけたんですか?」
「それもその知人に戦い方を教わって、ですね。」
「その知人の方、非常に気になりますね・・・アルさんは以前からブランヘルブに?」
「いえ、数日前まではモルドレイクの近くに住んでました。」
「モルドレイクですか・・・モルドレイク!?」
大きな声を上げながらルーは飛び上がる。
「モルドレイクって、グランドエリアにある、あのモルドレイクですよね?」
「そうです。」
「そうでしたか・・・どおりで強いわけだ。マリリカ様の推薦で特殊な外部生が受験すると耳にしていましたが、あなたのことだったんですね。ではこれ以上聞くのは、やめておきましょう。」
何かを察したのか、ルーは質問をやめ、落ち着きを取り戻した。
「引き留めてしまってすみませんでした。あなたなら問題ないと思いますが、2次試験も頑張ってください。」
測定室を出ると、入室を指示した白衣の男はアルには目もくれず無言で立っていた。
アルも無言で男の前を通り過ぎ、3解へと続く階段に向かう。
13時まではまだかなり時間があったので、アルはひとまず前回学園に来た時には入れなかった図書室と呼ばれる部屋に行ってみることにした。
4階にあがると、図書室と書かれた部屋の扉は開かれており、どうやら今日は解放されているようだった。
中に入るとずらりと並んだ本棚が目に入る。
左手にはカウンターのようなスペースがあり、職員と思われる女性が座っていた。
その奥には机や椅子が並べられており、近くの柱には閲覧スペースと書かれている。
すでに何人かの学園生が利用しているようだが、見るからにまだ幼く、今日の試験を受けていない学園生だろう。
入って正面の掲示板には図書室の案内図が貼られており、アルはまず歴史と書かれた1番右の本棚から見てみることにした。
本棚を一通り見て回ったが、ホルドサイドの歴史、武術や剣術、農業などさまざまな分野の本があり、どれも興味深いものばかりだった。
アルはその中から龍に関して書かれた本を数冊手に取り、閲覧スペースへと向かう。
席はほとんど空いており、アルは1番近くの席を利用することにした。
1冊目は龍の生態について書かれた本で、タイトルは【獣の頂点】だ。
アルはパラパラと本をめくりながら知りたい情報がないか探す。
本には龍の寿命、体の作り、生息地帯など、基本的な情報が書かれている。
またこの本によれば、世界には数十から数百の龍がいて、人類の知らない龍も数多くいるそうだ。
実際グランドエリアはとてつもなく広いし、人が足を踏み入れたことのない土地もあるのだから、きっとそうなのだろう。
そうして数分ほどかけ、一通り目を通してみたが、アルの知りたいことは書かれていなかった。
まぁそもそもその知りたいことというのがイレギュラーな内容だし、龍に関する情報自体あまりないのだから、書かれていなくても当然か。
あまり期待せず他も見てみようと、そう思いながら2冊目に手を伸ばした時だった。
「やぁ、アルくん。」
突然後ろから声をかけられ、とっさに振り向く。
そこに立っていたのはルービスだった。
気配を消していたのだろう、アルは話しかけられるまで彼の存在に気づけなかった。
やはりこの男ただものではない。
「どうも。今日は校門での仕事は休みですか?」
「あぁ、今日は非番でね。実は君に少し用があってここで待っていたんだ。君なら試験もすぐ終わるだろうから、時間を持て余すと思ってね。ここは時間をつぶすにはもってこいだろう?」
その表情からは何を考えているのか読み取れない。
「それでわざわざ気配を消して待っていたんですか?」
アルがそう言うとルービスは眉を上げ、少しおどけた顔を見せた。
「少しばかり君の反応が見たくてね。ただその顔を見るに、私の力もまだまだ捨てたものじゃないと言えそうだ。」
驚きは抑えたつもりだったが、少し顔に出たか。
ルービスは満足そうな顔を見せるとそのままアルの隣の席に腰を下ろした。
右足は義足のようで動きはゆっくりだが、日常生活にはそこまで影響はなさそうだ。
「それで用とは?」
もったいぶるような態度のルービスに対し、突き放すようにアルは言う。
「まぁそう邪険にしないでくれ。君も時間はあるだろう?要件は話すが、その前に1つ聞かせてくれないかな。」
不敵な笑みを浮かべながら、ルービスはアルに向き直る。
「君はどうして騎士を目指すんだい?」
アルを見つめるその目からは、やはり冷たい気配を感じる。
「もしかしてこれも試験ですか?」
「おいおい、私が試験官をするようなまっとうな職員に見えるかい?」
確かに。
まぁそんなのはどちらでも構わないが、この男の意のままになるのも癪だ、適当に答えておこう。
「なぜって、騎士は人類の希望ですからね。俺もホルダーになって人類の発展にこうけ・・・」
「違うな。」
強引に話を遮られた。
「君はそういうタイプじゃない。他のホルダーと戦いたくてって方がまだ君には信憑性がある。が、それも違う。じゃあなぜだ?グランドエリアで育った青年が、わざわざなりたいわけでもない騎士になって何を目指す?」
その表情からは先ほどの笑みは消え、真っ直ぐアルを見つめる。
どうやら適当なことを言っても逃してはくれなそうだ。
アルはこの男を信用したわけではないが、マリリカの護衛を務めていた立場から話しても問題ないと判断した。
ふぅ、と1つ息を吐き、アルは本当の目的について話し始める。
「俺の目的は聖龍石ですよ。それが手に入るなら別に騎士になんてならなくてもいい。」
「聖龍石・・・か。なるほど。」
腕を組み、ルービスが少し考えるそぶりを見せる。
「そんなに龍の力が欲しいのかい?」
やはり聖龍石の使い道については知っているようだ。
ただ、その予想ははずれ。
別に龍の力が欲しいわけじゃない。
が、アルは無言のまま否定はしなかった。
「その顔を見るにまだ何かありそうだが、まぁいいだろう。龍との契約を目的としているということは、君は彼らの存在には肯定派ということか。」
「肯定派?」
どう言う意味だろう。
「人によって龍に対する感情は異なるだろう?知性があると言っても、人を捕食対象としか見ない龍もいる。中には龍を殺したいほど恨んでいる人もいるのさ。」
「獣の頂点を殺す、ですか。」
目の前の本を手でなぞりながらアルは呟く。
「無駄な感情ですね、人が龍に勝てるわけがない。」
「意外だな、君なら龍にも臆せず挑むのかと思ったが。」
「実際に見たことがなければそう思ったかもしれないですね。でもあれは次元が違う。」
そう、次元が違うのだ。
龍以外にも強い獣はたくさん見てきたが、彼らだけはまったくの別物。
「そうか。まぁグランドエリアで過ごしていれば、見る機会はあるか。」
何度か軽く頷くと、ルービスは組んでいた腕をほどき、こちらに向き直った。
「聞きたいことは聞けたし、そろそろ本題に移ろうか。私が君に会いに来たのは、これを渡すためだ。」
そう言って内ポケットから何かを取り出し、机の上に置く。
「グレイドからの手紙だ。」
グレイから手紙?なぜルービスが?
「マリリカ様のところに届いたんだよ。それで私が君に渡しておくよう頼まれね。」
アルの考えを察したのか、ルービスはそう続ける。
「ルービスさんはグレイを知ってるんですか?」
「あぁ、知っているよ。彼と、それから君の父親とは騎士時代の同期でね。私が騎士だったことはマリリカ様から聞いているだろう?」
なるほど、そういう繋がりか。
確かに年齢的にも同世代だし、騎士だったことを考えればなにもおかしなことはない。
「そうだったんですね。昔マリリカと一緒にモルドレイクに来た時にはそんな様子はなかったので、てっきり初対面なんだと思ってました。」
「あの時はもう彼らとは立場が違ったからね。ただ、今思えば、少しくらい挨拶をしておいてもよかったのかもしれな。」
少し物思いにふけるような表情を見せたルービスだったが、ふっ、と笑うと立ち上がった。
「さて、用も済んだし私はこれで失礼するよ。また会おう、アルくん。」
そう言うとルービスはゆっくりと図書室を出て行った。
やはりその思考が読めない男だったが、今度グレイに会ったら彼について聞いてみようとアルは思った。
意識を切り替え、目の前に置かれた手紙に手を伸ばす。
グレイからの手紙にはこう書かれていた。
『レイが休眠状態に入った。思ったよりもその時は近いようだ。石が手に入らなきゃどうしようもないが、覚悟はしておいてくれ。それから、俺もしばらくモルドレイクを離れることになった。詳細は伏せるがいつ戻れるかはわからない。また連絡する。』




