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第1章 4話 獣狩り

鳥の鳴き声でアルは目を覚ます。

昨日は宿の近くの温泉に入った後、部屋に戻ってからはすぐに寝てしまった。

慣れない人混みに、無意識に疲れが溜まっていたのだろう。

アルの泊まった宿は、周辺一帯が宿場街となっており、とても静かな場所だった。

おかげで昨日はしっかりと休むことができ、体の調子もいい。

窓を開けると、遠くからは商人の声が聞こえる。

まだ日が昇って間もないようだが、すでに商店は賑わい始めているようだ。

アンナの家に向かうには少し早すぎるので、アルは宿の周辺を散策することにした。

外に出ると、ちょうど太陽が外壁の上から顔を出し、アルを照らす。

そんな太陽を背にし、朝の涼しい空気を感じながらアルはまだひとけのない道を歩き出した。

外で暮らしていたアルにとっては、静かな場所の方が落ち着きを感じることができた。


少し歩くと宿場街から抜けたようで、商店が並ぶエリアに出た。

先ほど聞こえていた賑わいはまだこの辺りにはなく、あれはどうやら別の場所だったようだ。

それぞれのペースで開店の準備を進める商人たちを横目に歩く中、ふと一つの店が目に止まった。

特徴的な刺繍の施された服に左右に伸びた長い髭。

作業をしているその男は、ブランヘルブの門で見たあの商人だった。

店の棚は液体の入った大小様々な瓶が並べられている。

アルは好奇心にかられ、男に近づいて声をかけた。

「おはようございます。気持ちのいい朝ですね。」

男は自分が声をかけられたことに気づくのが一瞬遅れたようだが、ゆっくり振り返ると、柔らかい表情でアルに答える。

「おはようございます。えぇ、実に気持ちのいい朝ですな。お客さん、うちはまだ開店前ですが・・・何か買われますか?」

「いや、何か買いに来たってわけじゃないんですが、何のお店なのかなぁと思って。」

「あぁ、うちは薬屋ですよ。といっても、騎士の方向けですがね。回復薬や強化薬なんかを置いてますが、一般の方はほとんど使いませんから。」

「なるほど、そういう薬があるんですね。」

よく見れば、瓶の前には札が付けられており、それぞれに値段と効果が書かれている。

「騎士の人たちはよく買われるんですか?」

「回復系のものはそうですね。ただ、強化系の薬は少し値が張りますので、上位の騎士の方がたまに買われる程度です。」

「そうですか。あ、あまり長居しては迷惑ですね、開店前にすみませんでした、機会があればまた寄らせてもらいます。」

「いえ、かまいませんよ。またぜひお越しください。では。」

そういって男は頭を下げると、再び店の作業へと戻った。

その後は特に気になる店もなく、少しずつ人も増えてきたので、1度宿に戻り、荷物を持ってアンナの家に向かうことにした。


アンナの家に着くと、小屋から機械を修理する音が聞こえた。

小屋の鍵は開いていたので、中に入り声をかける。

「おはよう、アンナ。ずいぶん早くから作業しているね。」

「おはよう、アル。えぇ、まだ修理が終わってなくてね。でももうすぐ終わると思うから、ちょっと部屋で待ってて。」

「わかった。おはようジーク。昨日はよく休めたかい。」

喉元を撫でながらジークの様子を伺う。

「ジークって本当に賢いのね。全然騒がないし、私の言うことも理解しているように動くから驚いたわ。ブランヘルブにいるうちは、ずっとここにいてもいいからね、ジーク。」

「クェッ!」

いつの間にかジークと打ち解けた様子のアンナに、少し安心したアルであった。


アルはブシュリムのギルドで何度か依頼を受けたことがあった。ただ、依頼を受けていたのはグレイで、アルはハンターの登録はしていなかった。

「アンナはハンターの登録はしてるの?」

ギルドに向かう道すがら、アルは隣を歩くアンナに尋ねる。

「えぇ、もちろん。」

そう言って鞄から取り出したハンターカードを見せてくれた。

「Bランクなんだね。」

ギルドでは、ハンターも依頼もAからCの3段階でランク付けされており、基本は自分のランクと同じ依頼を受ける。

「えぇ、ただ、普段は採集系の依頼しか受けてないけどね。Bランクなのも、何度か兄さんとAランクの依頼を受けたせいで上がっちゃったのよね。あ、兄さん今は父の店を継いだからギルドの依頼は受けなくなったけど、一応Aランクのハンターだったのよ。」

「そうなんだ。じゃあマイクも誘えばよかったな。そうすればAランクの依頼が受けられたのに。」

「絶対いや。」

そう即答するとアンナはぷい、と首を振り、歩く速度を上げた。

ブランヘルブのギルドはブシュリムと比べるとかなり大きかった。

その分依頼も多いようで、たくさんの人が出入りしている。

「アル、ハンターカードを持ってないなら、先に作ってきたら?私は良さそうな依頼があるか見ておくわ。」

そういうとアンナは人混みをかき分けて依頼の貼られている掲示板の方に向かって行った。

ギルドの窓口は建物の1番奥にあり、アルはそちらに向かう。

依頼を受ける窓口とハンター登録用の窓口は分かれており、依頼の方には列ができていた。

その列を横目にアルは登録用の窓口にいる女性に声をかける。

「あの、ハンター登録したいんですが。」

「はい、ではこちらの紙に登録される方の情報を記入いただけますか?」

そう言って渡された紙にアルは名前などを記入し、窓口の女性に渡す。

「アル・グレイシア様ですね。ハンターカードの発行を行いますのでこちらで少々お待ちください。」

そう言うと受け取った紙を持って奥の部屋へと入っていった。

待っている間、ふと隣の窓口に意識をやると、どうやら揉めている様子の男が目に入った。

「だから、Aランクなんだって!」

アルと同年代に見えるその男は、黒の短髪に褐色の肌をしており、首元や肩、腕など見えている肌には様々な模様の入れ墨が入っている。

「そう言われましても、ハンターカードをお持ちでない方に依頼をお渡しすることはできない決まりですので・・・」

「だから調べてくれよ。俺はミグル・クビサイ!インセットで何度も依頼は受けてるんだって!カードは置いてきちまったんだよ。」

「ですから、それを証明するのがハンターカードとなっていますので・・・」

堂々めぐりの様子を見せる2人を横目に、アルは戻ってきた女性からハンターカード受け取る。

「お待たせしました。こちらがアル様のハンターカードとなります。」

受け取ったカードにはアル・グレイシアの名前とCの文字が刻まれていた。

「最初はCランクから初めていただき、こなした依頼に応じてランクが上がる仕組みとなっております。ただ、カードを紛失されますとまたCランクからとなってしまいますので、取り扱いには十分ご注意ください。」

「どうもありがとう。」

対応してくれた女性に頭を下げ、アンナのところへ向かおうと振り返る間際、先ほどの隣で揉めていた男と目があった。

ただ、まだ決着はついていないようで、すぐに男は意識を受付の女性へと移した。

「お待たせ。良さそうな依頼はあった?」

掲示板の依頼を見上げているアンナに声をかける。

「これがいいなって思うんだけど、どう?」

そう言ってアンナが選んだのは強化薬の元となる野草の採取の依頼だった。

「せっかくなら討伐の依頼にしようよ。報酬もいいし、俺もいるから大丈夫だよ。えーと、これなんかどうかな?」

アルが手に取ったのはサーベルサンドという獣の討伐依頼だ。

「えー、サーベルサンドの討伐依頼?大丈夫かな・・・うーん、でもあなたってモンゴグルドも討伐出来るのよね。そんなのAランクの依頼だろうし・・・まぁいいわ、それにしましょ。」


「こちらの依頼ですが、Aランクの方がいない場合は、3名以上のパーティーでないとご依頼ができませんね。」

受付の女性から依頼の紙を差し戻されて、アルとアンナは顔を見合わせた。

「えっと・・・そうですか。わかりました。じゃあ他の依頼を・・・」

「なぁ、それ俺も混ぜてくれよ。」

急に横から声が入る。

見れば先ほど依頼の窓口で揉めていたあの男だった。

「あ、さっきの。」

「え、アル、知ってる人?」

「知ってるというか、さっきハンターカード作る時に、隣の窓口で揉めてた人。ハンターカードを忘れたけど、Aランクだから依頼を受けさせろって受付の人と揉めてたんだ。」

「なにそれ、ずいぶん勝手な人ね。そもそもハンターカードを持ってないならこの依頼も受けられないわよ。」

「大丈夫、カードは新しく作ったから。」

そう言って、Cの文字が刻まれたハンターカードを見せる。

「Cランクじゃない。」

「しょうがないだろ、いくらAだと言っても聞いてくれないんだから。ま、そんな細かいことはいいだろ、俺がいればその依頼も受けられるんだし、そもそも俺の強さはAランク以上なんだから。」

「ふーん・・・アル、どうしようか?」

「俺は構わないよ。」

特に異論はなく、Aランクだというこの男に少し興味もあったため、アルはすんなり承諾した。

「じゃあ決まりだな。お姉さん、このパーティーでその依頼を受けるよ。」

嵐のような男の参加で、サーベルサンドの討伐依頼は受領となった。


「では改めて。俺の名前はミグル・クビサイ。インセットに住んでっけど、今は旅の途中ってところかな。ただ、いろいろあって金がなくなっちまったから、依頼を受けて一稼ぎしようとしてたってわけ。強さはさっきも言ったけど、Aランク以上だから戦いは任せてくれていいぜ。」

ギルドを出たところで、ミグルが自己紹介を始める。

「あなたインセットから来てるのね。まぁ1番大変なところをやってくれるって言うなら文句はないわ。私はアンナ・ルーシスよ。ブランヘルブの騎士学園に通ってるわ。よろしく。」

「俺はアル・グレイシア。騎士になるために昨日ブランヘルブに来たばかりだから、状況はミグルとあまり変わらないかもね。目的も同じくお金稼ぎだよ。」

「アンナにアルだな、よろしく。てかお前らブランヘルブの騎士を目指してんのか。じゃあ試験に受かれば俺と同期ってことだな。」

「あなたも騎士を目指してるの?」

「おうよ。と言っても、俺はもう騎士になるのは決まってるんだけどな。」

ミグルによれば、ギルドでの実績がある場合など、試験を受けずとも騎士になれる場合があるらしい。

「へぇ、じゃああなたが騎士になっていれば、Aランクのハンターってのは事実ってことね。」

「いや、だからそれは事実だっての・・・」

「というかあなた、誰かに似てるのよね。前に会ったことあるかしら?」

「知らん。ただ、ブランヘルブに来たのは初めてだぞ。」

「そう。じゃあ気のせいかしらね・・・そういえば、あなたの武器は?何も持ってないようだけど。」

「俺の武器はこの体よ。なんたって俺は武闘家だからな。」

そう言うと握った拳を前に突き出す。

その拳は、確かに武闘家らしく、固く荒々しい見た目をしていた。

「へぇ、珍しいわね。インセットだと武闘家が多いのかしら?」

「いや、そうでもねぇさ。ただ、俺は自分の力を1番活かせるのが体術だったってだけ。武器も使えなくはないけどな。」

「ふーん。ま、ちゃんと役に立つならなんでもいいわ。さ、行くわよ。」

そう言うと、アンナはそそくさと歩きだしていった。

「おいアル、アンナっていつもこんな感じなのか?」

「うん。普段通りだよ。」

そうミグルをフォローするアルであった。


サーベルサンドは砂漠地帯に住む中型の獣で、黄土色の体に下顎から長く突き出した牙が特徴的な肉食獣だ。

縄張り意識が強く、たいていの獣はサーベルサンドのテリトリーを避ける。

ただ、縄張りに入らなければ、めったに攻撃してくることはないため、人への被害もほとんど聞かない。

今回の依頼は、聖道の近くに縄張りを作り始めたサーベルサンドの群れの討伐だった。

アルたち3人は依頼書に書かれていた討伐場所を目指し、ブランヘルブから南東に伸びた聖道を進んでいた。

「それって魔法で飛んでる?」

隣を走るミグルにアルは尋ねる。

ミグルはアンナのホバーバイクよりも小さい、立って乗るタイプの機械に乗っているが、エンジンの音がまったくしなかった。

「あぁ、これね。そうそう、俺の魔力が動力になってんの。ショットバイクっていったかな。」

「なにそれ、インセットではそんなのが売られてるの?」

アンナが食いつき声を上げる。

「いや、まだ試作品の乗りもんだよ。特殊な素材と魔法陣で魔力を動力に変えてるんたが、いかんせん変換効率が悪くてね。魔力をばんばん吸い取りやがる。魔力の少ないやつには使えない代物さ。」

「ふーん、でも魔力の多い人間には使えるのよね?」

「まぁそうだな。」

「じゃああとで乗らせて!魔力量だけには自信があるからそこは大丈夫よ!」

「おう、かまわないぜ。」

「武闘家って言ってたけど、ミグルは魔法も使うんだね。」

「俺はただの武闘家じゃねぇからな。まぁそれは戦闘の時にでも見せてやるよ。」

そう言ってはにかむとミグルは速度を上げた。


依頼書に書かれた場所に着くと、遠くの砂面に棒状のものが立っているのが見えた。

サーベルサンドが縄張りを示す時に作る目印だ。

「あれだな。ここからだとサーベルサンドの姿は見えないが、とりあえずあそこまで行ってみるか。」

「ちょっと、他に獣がいるかもしれないわよ。」

「辺りにその気配はねぇから大丈夫だよ。」

ミグルはそう言って聖道を出ると、砂面に立った目印に向かっていった。

「なんでそんなのわかるのよ・・・」

不安な表情を見せるアンナにアルは声をかける。

「訓練すれば、気配を感じられるようになるんだよ。ミグルの言うとおり、近くに獣はいないみたいだから大丈夫だよ。それになにか近づいてくれば、ジークが教えてくれるから。」

「そう・・・わかったわ。ジーク、頼りにしてるわね。」

不安の色は拭えていないようだったが、ジークの頬に触れると、アンナは聖道を出た。

アルも合わせてアンナの横を進む。

「アルも獣の気配を感じることができるのね。」

「外で過ごしてれば自然と身につくさ。そうしないと生き残れないからね。アンナは探知魔法は使えないの?」

「魔力量が多いせいか探知魔法みたいな繊細な魔法は苦手なのよね。魔力出力をうまくコントロール出来なくて、だからすぐ杖もダメになっちゃうんだけど。」

そう言って腰に下げた自作の杖に目をやる。

「一度上級者用の杖を使ってみてもいいかもね。アンナの杖だと魔石の純度が低いせいでコントロールがうまく効いてないしれないし。資金稼ぎなら俺も付き合うからさ。」

「そう・・・ね。ありがとう。考えてみるわ。」

「いたぞ、サーベルサンドの群れだ。」

先に目印についたミグルが声を上げる。

アルたちも追いつき、ミグルの指差す方を見ると、岩陰に数頭のサーベルサンドが見えた。

あちらもアルたちに気づいているようで、じっとこちらを伺っている。

「ん?」

ふと岩山の上に一匹のサーベルサンドがいるのに気づいた。

その時アルが、感じた違和感は2つ。

そのサーベルサンドが群れとは離れて敵の前に一匹だけで姿を見せたこと。

そしてその体が黒くもやがかって見えたこと。

「ミグ・・・」

「岩陰にまだ隠れてそうだな。まぁ行けばわかる。さっさと片付けちまおーぜ。」

あの一匹に気づいてないのか、ミグルはそう言うと彼らの縄張りに入り、岩陰に見えるサーベルサンドの群れへと向かって行ってしまった。

「ちょっと、また勝手に行かないでよ!」

文句を言うアンナと共に、アルもミグルの後を追う。

そんな侵入者に対し、サーベルサンドの群れは何かの合図を待つようにじっと動かずこちらを見ていた。

やはりおかしい。

通常、縄張りに入った敵を見つけたら群れでそれを迎え討つのが彼らの習性だ。

アルの中の違和感がどんどん大きくなる中、先ほどの位置から半分ほど進んだところで、突然岩山の上にいた一匹が大きく吠えた。その途端、サーベルサンドの群れは急に岩陰を飛び出し、アルたちとは逆方向に走り出した。

「ミグル!」

「わかってる!」

ミグルも違和感には気づいているようだった。

「こりゃ誘われてんなぁ。こいつらにそんな知能はないはずなんだが・・・まぁいい、乗ってやろーじゃねぇか。アル、とりあえずあの群れを追うぞ!」

「わかった!ただあまり深追いはするな!」

アルの返答に片手を上げてミグルは答える。

「てかなんだったんだ、あの上のやろーは。気持ち悪りぃ見た目しやがって。」

アルたちには聞こえない声でそう呟ながらも、まずは目の前を走るサーベルサンドを片付けようと、ミグルは速度を上げた。


先ほどの場所からかなり離れ、周りにはもう砂漠しか見えない。それでもまだサーベルサンドは前を走り続けている。ときおり振り返り、あきらかにアルたちを誘導しようとしているようだった。

「アル、聖道からこんなに離れて大丈夫なの?」

不安な表情でアンナが問いかける。

「いや、そろそろ引き返した方がいいね。ミグルにも伝えよう。」

そう言うとアルはミグルに向かって声を上げた。

「ミグル!この辺で一度様子を見よう!」

しかし周りの風が強く、ミグルに声が届かない。

「ミグル!これ以上は・・・」

「ブォーン!!」

アルが再び声を上げたと同時、突然目の前の砂中から大きな影が飛び出した。

「うぉぉぉお!!!!」

その影の真上にいたミグルはショットバイクごと大きく吹き飛ばされ、砂丘の先で姿が見えなくなってしまった。

それを今度はサーベルサンドたちが追い、砂丘の影に消えていく。

アルたちも追いかけたかったが、目の前の生物がそれを許してはくれなかった。

全長はおそらく2、30m。イモムシのような体の先端には、紫の触手と茶色の触覚が円状にびっしり生えており、アルたちに向かってその中をのぞかせている。

「シマミミズ・・・!なんでサーベルサンドの縄張りの中にいるのよ!」

「いや、すでにサーベルサンドの縄張りからは抜けているよ。どうやら奴らはここに俺たちを誘い込みたかったらしい。」

気配はなかった。いや、違うな。

強風の中、目の前のサーベルサンドに気を取られ、シマミミズの気配に気づけなかったと言うのが正しい。

「さて、どうしようか。」

いつのまにかアルたちの背後には別のサーベルサンドが群れを成し、襲うタイミングをうかがっていた。

シマミミズとはまだ少し距離があるが、近づけばあの巨体を叩きつけてくるだろう。あんなのの下敷きになればひとたまりもない。

「アンナ、君の使える魔法で1番強い魔法は?」

「え?」

一瞬呆然とするアンナだったが、すぐに冷静になりアルの問いに答える。

「あぁ、えっと、マラキオラよ。」

「上級の爆発魔法だね。うん、十分だ。すぐ撃てる?」

「詠唱と魔力を溜めるのに3分くらいかかると思う・・・でも、それまでこの杖がもつかわからないわ。それに、これを運転しながらなんてとても無理よ・・・」

「アンナの魔法が溜まるまで、シマミミズは俺が引きつける。だからその間、ジークに乗ってアンナは魔力を溜めてくれ。」

そう言いながらアンナの杖に手をかざし力を込める。

アルの手のひらが輝き、それが杖にも伝わり輝き出した。

「杖には強化の魔法をかけたから、マラキオラ一発くらいなら耐えられるはずだよ。さ、ジークに乗って。」

言われるままアンナはジーク乗せに乗る。

「ジーク、アンナの魔法が溜まるまでうまく逃げ回ってくれ。」

「クェッ!」

「ちょっと、アル!」

「魔法が溜まったら合図をくれ!」

「まったくもう!なんでこう勝手な人ばっかりなのよ!わかったわよ、やればいいんでしょ!」

そう言うとアンナは杖を構えて詠唱を始めた。

アンナに注意が向かないよう、アルはシマミミズに向かって走り出す。

背後のサーベルサンドはじっと動かずこちらを見ていた。近づけば彼らもシマミミズの攻撃範囲に入ってしまうため動けないようだ。

ならば都合がいい、まずはシマミミズを片付けさせてもらおう。

その刹那、ドバーンという大きな音を立ててシマミミズが頭を砂面に叩きつけてきた。

アルは大きく飛び上がりそれをよけると、空中で棍を構える。そのまま回転しながら落下の速度を上げ、勢いそのままに棍をシマミミズの体に叩きつけた。

「そぉーれっ!」

しかしその柔らかい体に威力は吸収され、逆に反動でアルは吹き飛ばされてしまう。

「やっぱり刃のない武器は相性が悪いな。まぁアンナの魔法が溜まるまでの時間稼ぎだ、次々っと。」

そう呟きながらアルは砂面に着地すると、再びシマミミズに向かって走り出す。

頭を振り上げたシマミミズが再び叩きつける攻撃を仕掛けてくるが、今度は上ではなく真横に避ける。

地面に頭が叩きつけられる瞬間、弾けた砂が激しい衝撃となってアルを襲うが、構わずシマミミズに向き直って根を構える。

「スラスト!」

構えた棍を回転させながら、凄まじいスピードで放つ突き。それによってシマミミズの体には直径数十センチの穴があいた。

この巨体に対してのダメージは微々たるものだろう。しかし、アルの目的としては十分だった。

わずかばかりでもダメージを負ったシマミミズは、アルに狙いを定め、頭やお尻の部分を使って叩きつけを繰り返した。

それを避けては突きを繰り返し、しばらく時間を稼いでいるとアンナから合図が聞こえた。

「アル!準備できたわ!」

見るとアンナの構える杖には凄まじい魔力が溜められていた。

それを確認し、アルは手を挙げる。

そして目前に迫ったシマミミズの頭を避けるとその大きな背に飛び乗った。攻撃を避けられたシマミミズは、ゆっくりと頭を上げると口をアルに向ける。

「これで最後だ、おとなしくしててくれよ。」

そう呟くと、魔力を込めた棍を構え、素早く突きを繰り出した。

「スパークスラスト!」

電気をまとった突きがシマミミズの体に突き刺さり、頭を上げたままその体が一瞬硬直する。

「アンナ、今だ!」

「ちゃんと逃げなさいよ!マラキオラ!」

アンナの杖から放たれた光は一直線にシマミミズに向かっていき、その体に触れた瞬間激しい爆発を起こした。

「ドカーン!!!」

凄まじい音とともに、爆発によって巻き上がった砂煙があたり一面を覆う。

「やった・・・のかしら?」

目をこらし、アンナがじっと様子をうかがうと、はれた砂煙の中から体の後ろ半分だけを残したシマミミズの残骸が現れた。

「ふぅ・・・上手くいったみたいね。あれ、アルは?」

アンナが一息ついた途端、今度は後ろから砂面をかける音が聞こえた。

「そうだ、サーベルサンド!」

振り返り杖を構えるが、すでにその魔石は砕け、使い物にならなくなっていた。

「ジーク、逃げて!」

「その必要はないよ。」

上空から現れたアルがアンナとサーベルサンドの群れの間に着地し、砂煙が上がる。

「アル!無事だったのね!」

「あぁ、大丈夫だよ。それよりさすがだね、アンナ。想像以上だったよ。少しばかり高く飛び上がる必要はあったけどね。」

そう言うとアルはサーベルサンドの群れに向き直り、棍を構える。

「さて、ここからは俺の出番だね。ジーク、少し下がってて。」

クェッと鳴き声をあげ、ジークはアルから離れる。

すると先頭にいたサーベルサンドがアルに飛びかかった。

ドスン。

「え?」

目の前で起きたことにアンナは声を上げた。

直前まで高く飛び上がっていたサーベルサンドがいつのまにか地面に横たわり動かなくなっていたのだ。

他のサーベルサンドも何が起きたのかわかっていない様子でその場から動けなくなる。

「来ないならこっちから行くよ。」

そう呟きながらアルは駆け出し、サーベルサンドの群れに近づくと、棍を大きく振り払った。

「リジェクト」

それにあわせて数十匹のサーベルサンドが宙をまう。

今度はアンナも何が起きたかはっきり見えた。

しかし、見えていても理解はできなかった。

それほどまでにアルの強さは異常に感じた。

「まだ少し残ってるね。逃がさないよ!」

先ほどのアルの攻撃をかろうじて免れたサーベルサンドたちが背を向けて走り出す。

しかしすでに遅かった。背後に迫ったアルが再び棍を振ると、残ったサーベルサンドはすべて弾き飛ばされ、動かなくなった。

本当に一瞬だった。

「まぁこんなもんかな。これもだいぶ使い慣れてきたな。」

そう言って手に持つ棍をくるくると回しながら、馴染んできた武器の感触を確かめる。

「アスラ砂漠で助けてもらった時はよく見えなかったけど、あなたってやっぱり強いのね。少し異常なくらいよ。」

ジークに乗ったまま近づいてきたアンナが声をかける。

「君の魔法だって、上級魔法の域を超えてたけどね。あ、そういえばミグルを忘れてた。」

そう言って先ほどミグルが飛ばされた方を見ると、砂丘の上を歩く人影が見えた。

どうやらミグルも無事のようだった。

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