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第1章 3話 再会

時刻は昼時を過ぎたところ。

3区にある酒場でアルはアンナと食事をとりながら騎士学園について説明を受けていた。

「そもそも騎士学園っていうのは、騎士を目指す人たちが所属してて、必要な知識や技術を学ぶ場所よ。学園生は10代の人がほとんどだけど、年齢の制限はないわ。」

「騎士学園はどのホルドサイドにもあるのかな?」

「もちろん。騎士の数を増やすことが、人類の発展に直結するからね。」

気づいたことだが、アンナはなにか説明をする時、少し得意げな顔になる。

本人には言わないが。

「ここの騎士学園はフォルトレスの中にあるって言ったけど、入り方が2区にあって、1区や学園以外のフォルトレスのエリアには入れないようになってるわ。あと、騎士以外は武器の持ち込みができないから、あなたのあの長い武器も私の家に置いておいてね。」

「りょーかい。ちなみにあれは棍って名前の武器だよ。」

「ふーん。あれ、初めて見る武器だったけど、獣と戦うにはあまり効率がよくないんじゃないの?」

アンナはおそらく、刃がついていないことを言っているのだろう。

たしかに、獣を殺す、という点において言えば、刃のある武器の方が圧倒的に効率がいい。

現に、アルが1番得意としている武器も、棍とは違う、刃のある武器だった。

ただし・・・

「獣と戦うとき、必ずしもその命まで奪う必要はないからね。高い知能を持った獣なら、力の差を見せれば攻撃してこなくなるし。あと、あれはあれでアンナが思ってるよりも強力な武器だよ。」

思い出したかのように目を見開きアンナが答える。

「確かにそうね。モンゴグルドを一撃だもんね。」

そう言うと、アンナは皿に残っていた料理を再び食べ始めた。


酒場から出た後は、再びアンナの案内で2区の大通りを進み、学園を目指した。

内壁の西門に着くと、先ほど見た東側の門とは異なり、扉は開いていて騎士が数名立っている。

人の出入りからみても、ブランヘルブの西側が正門にあたるようだ。

その門の右側に、他の建物とは作りの異なる建物が建っていた。

その建物は内壁よりも高く、最上階からはフォルトレスへと続く通路が見えた。

「あれが騎士学園への入り口ね。あの中に校門の結界があるわ。」

フォルトレスと同じ素材で作られているのだろう、明らかに周りと比べて浮いている。

中に入ると正面に結界が貼られているのが見えた。

「おや、アンナちゃん。休みの日に君が学園に来るなんて珍しいね。」

左手には窓のついた個室があり、中から中年の男が親しげに声をかけてきた。

瞬間、アルの記憶がざわつく。

その男は灰色の短髪に、右目には縦に一本の切り傷が入っていた。

「こんにちは、ルービスさん。今日はちょっとおばあさまに用があって。」

「おっと、マリリカ様は今外出中だね。あと1時間もすれば戻るだろうけど。急ぎかい?」

「いえ、急ぎではないんですが・・・。どうしようか。」

「ん?君は・・・」

アンナが振り返ると同時、ルービスはアルを見て一瞬考え込むそぶりを見せた。

「そうか、君がアルくんか。」

驚いたアンナが再びルービスを見る。

「ルービスさん、どうしてアルの名前を知ってるんです?」

「・・・」

「7年前、モルドレイクで会ったから、ですよね。」

アンナのその問いにアルが答える。

ルービスと呼ばれた男の体から溢れる気配は、微かだがアルの記憶にしっかりと残っていた。

「ローブで顔は見えなかったけど、あなたはあの時マリリカと一緒にいた人だ。」

ニヤリと笑い、ルービスがアルの答えを肯定する。

「ほぉ。さすがだね。あの年で見えるか。」

ルービスが手元にある魔石に手をかざすと、正面の結界が開いた。

「アンナちゃん、マリリカ様が戻るまで彼に学園を案内してあげるといい。マリリカ様には私から伝えておくよ。」

「え?でも・・・」

「いいからいいから、ね。」

今のやりとりに納得していない様子のアンナだったが、無言で微笑むルービスからそれ以上答えを聞きだせそうになく、しぶしぶその提案を受け入れる。

「そう、ですか。わかりました。じゃあアル、行こうか。」

アルはほんの数秒、ルービスと視線を合わせたあと、アンナについていくようにルービスの横を通り抜ける。

そう、あの時感じたのも、この冷たく暗い気配だった。


建物の奥には3つの扉があり、ちょうど真ん中の扉が開いた。

中は10人ほどが入れそうな小部屋で、部屋全体から微量の魔力を感じる。

アンナに続いてアルも部屋に入ると扉が勝手に閉まり、部屋ごと上へと移動しているのがわかった。

おそらくは魔法によるものだろうが、その使い方がアルにはとても新鮮だった。

「ねぇ、どういうこと?」

部屋が動き出すなりアンナが詰め寄ってくる。

先ほどのやりとりが気になってしょうがないという様子だ。

「7年前、あの人はマリリカとうちを訪ねてきたんだよ。」

「どうしてルービスさんがおばあさまと一緒に?騎士でもないのに・・・」

考えるそぶりを見せるアンナにアルは続ける。

「あの人はたぶん騎士だよ。あの頃よりは衰えてるけど、今もかなり強い。ただなぜマリリカと一緒だったのかは俺もわからないな。話したのもさっきが初めてだしね。」

「でもあの人が剣を持ってるところなんて見たことないわ。それに彼は片足がなくて移動もままならないはずよ。」

片足がない?

先ほど見たときはそんなふうには全く見えなかった。

それに、7年前のあの時も、片足ではなかったはずだ。

「アンナが彼を知ってるのはいつから?」

「えっと、おばあさまに連れられて初めて学園に来た時だわ。たしか5年前くらいだったと思うけど。」

「そうか、じゃあ俺と会った後に足を失ったってことだね。だからあの時より衰えてるように感じたんだ。」

部屋越しで見えなかったとはいえ、たたずまいからはそれを感じさせないところにもルービスの実力が垣間見える。

「あの人はアンナが思ってるよりもマリリカと近しい人なんじゃないかな?片足が無くても学園の門番を任せられると思われてるようだし、俺が尋ねてくることもマリリカから聞いてたんだと思うよ。」

「そういうことなのかしら。」

まだ納得しきっていないようだが、とりあえずは落ち着いたようだ。

ちょうどそのタイミングで部屋の上昇が止まり、入った時とは逆側の扉が開いた。

目の前には先ほど見たフォルトレスへ続く通路が続いている。

「まぁあとでおばあさまに聞いてみればわかることね。」

そう言ってアンナは先にすたすたと小部屋を出て行った。


フォルトレスの中の一部といっても、学園はかなり広いようで、さまざまな設備が備わっていた。

講義室、魔導室、研究室のような騎士育成のための部屋から、食堂、休憩室、医務室などの設備もあり、騎士輩出に力を入れているのがわかった。

中でも興味をひいたのは図書館という広い部屋で、たくさんの書物が収められており、人類の歴史や世界に生息する獣の生態など、さまざまなことがわかるらしい。

武術に関する書物もあるらしく、ぜひ読んでみたかったのだが、休日は閉まっているようで中に入ることはできなかった。

ちなみにアルに文字の読み書きを教えたのもグレイだ。


最後に案内されたのが訓練場と呼ばれるところだった。

今まで案内された部屋の中でも1番広く、高さも3、4フロア分くり抜いて作られている。

「アンナじゃないか。休みの日に学園に来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」

訓練場の奥で、黒い服を着た男が剣を振りながらアンナに話しかけてきた。

「あなたの方こそいつもここにいるのね、ダリアン。休みの日にまで学園の制服を着て訓練だなんて、まったく学園生の鑑ね。」

少し呆れた様子でアンナが答える。

「鍛錬を怠らず、常に有事に備えるのは騎士として当たり前のことだろう。」

「あっそ。私はちょっとおばあさまに用があったのよ。あ、アル、彼はダリアン・ポーター。さっき話したダニエル・ポーターの弟よ。」

「そうか、じゃあ君も強いのかな?俺はアル・グレイシア。よろしく。」

そう話しかけた瞬間、ダリアンは一瞬にしてアルに詰め寄り、持っていた模擬刀をアルの首元にあてた。

「ちょっとダリアン!何してんのよ!」

アンナの問いかけを無視し、ダリアンはアルに冷たく言い放つ。

よく見ればそのダリアンと呼ばれた男は青く鋭い目をしていた。

「身分の違いもわからん愚か者が気安く話しかけるな。俺が騎士の礼儀を教えてやろうか。」

その一言でなんとなくダリアンの性格がわかったアルは、わざと挑発するような発言をする。

「丸腰の相手に武器を突き立てて脅すのが騎士の礼儀なのかな?」

「ほぉ、この状況でずいぶん余裕じゃないか。」

お互い目線をそらさず、張り詰めた空気が流れる。

そこに慌てて間に入ったアンナがダリアンを引き離した。

「ちょっとやめてってば!なんであなたっていつもそうなのよ。彼はおばあさまの客人なのよ。」

「ふん、知らん。ケガをさせたくなかったら先に礼儀を教えておけ。」

そう言うとダリアンは模擬刀を投げ捨て、訓練場を出て行った。

「ごめんね。彼ちょっと傲慢なところがあって。悪いやつじゃないんだけど。」

そういって地面に落ちた模擬刀を拾うと、部屋の奥、幾つもの模擬武器が置かれた場所に戻しに行った。

「ずいぶん熱心に剣を振っていたみたいだね。さっきの動きも悪くなかった。」

「当然よ、学園内じゃその実力はトップだし、すでにシルバーナイト並みって言う人もいるわ。」

「えっと、シルバーナイトってのは、騎士の序列か何かだっけ?」

「なんでホルダーは知っててシルバーナイトは知らないのよ。」

「いやぁ、前に聞いた気もするんだけど、1番強い人たち以外興味なくてね。」

「はぁ、まったく・・・わかったわ、説明してあげる。」

呆れ顔でそう言い、話してくれた内容をまとめるとこうだ。


今から300年以上前、3番目の都市バインドラが誕生した時に、騎士団が作られた。

騎士団に所属し、ホルドサイドの統治、獣の討伐、未開拓エリアの調査などを行う人たちを騎士と呼んだ。

騎士を構成するのは、ナイトとシーカーの2つ。


ナイト:ホルドサイド内での活動を主とし、ホルドサイドの統治、獣の討伐を行う。

ナイトはホルダーを頂点としていくつかの称号で分けられており、上から順番に、ホルダー、ゴールドナイト、シルバーナイト、ブロンズナイト、ホルドナイトとなっている。

割合としては、各ホルドサイドにホルダーが1人、ゴールドナイトが3〜5人、シルバーナイトが10〜20人、ブロンズナイトが50〜60人、それ以外はすべてホルドナイトで全体の約8割を占める。


シーカー:ホルドサイド外での活動を手とし、ルブルエリア、グランドエリアの調査、開拓を行う。

シーカーも同様称号で分けられており、上から順番に、グランドシーカー、ハイドシーカー、シーカーとなっている。

グランドエリアでの活動を許可されているグランドシーカーは、世界でも数人ほど。ホルダーと同等の実力を持つ。


「なるほど。このシーカーってのにはどうやったらなれるのかな?」

「試験に受かって騎士になった後、希望すればシーカーとしての任につけるわ。あなたが騎士になるとしたら絶対にシーカーね。」

勝手に決めつけて勝手に納得した表情のアンナが続ける。

「そろそろおばあさまも戻ってると思うから、学長室に行ってみましょうか。」

アルは頷き、アンナとともに訓練場を後にした。


学長室はフォルトレスの最上階に位置しており、入り口には騎士が1人立っていた。

「アンナ様。マリリカ様がお待ちです。」

「ミカさん、ありがとうございます。」

ミカと呼ばれた騎士が扉をノックし、片方の扉を開ける。

中に入ると、部屋の奥、窓際でこちらに背を向けて立つマリリカの姿があった。

その姿を見た途端、体がずしりと重さを増す。

7年ぶりだが、その威圧感は衰えていないようだ。

「久しぶりだね、マリリカ!元気そうでなによりだよ。」

瞬間、体にまとわりつく圧が消える。

「まったく辺鄙へんぴなところで育ったせいで、その年になっても人との距離間がおかしいのは治らないようだね。」

振り返り、マリリカの鋭い眼光がアルをとらえる。

「あたしを面と向かってマリリカなんて呼ぶ奴はお前とお前の親父くらいだよ。」

一つため息を吐き、目の前の椅子に腰掛ける。

そのまま机に肘をつき、再びアルを見た。

「あのバカは元気にしてるのかい」

「さぁね、もうかれこれ5年は会ってないから」

「はっ、まぁあれにまともな教育なんざ無理だろうね。」

「同感だね。」

そんなやりとりの中、アルの後ろからアンナが顔を出す。

「あの、おばあさま。アルとはどういったご関係なのですか?」

「おやアンナ。ルービスから聞いたよ、お前がこいつを連れてきてくれたんだね。なぁに、こいつの親父があたしの教え子だったってだけさ。それ以上でも以下でもないよ。」

「アルのお父様が教え子・・・そうでしたか。あ、そういえばルービスさんもアルのことを知っているようでした。アルに聞いたら、7年前におばあさまと一緒にモルドレイクで会ったことがあると。」

マリリカの眉が少しだけあがる。

「お前・・・わかるのかい?じゃあミカも?」

「やっぱりそうか。あのミカって人はかなり変わってたから確証はなかったけどね。」

「そうかい・・・まぁいい。ルービスが7年前あたしと一緒にいたのはあいつがあたしの護衛を務めてたからだよ。」

護衛、か。

とするならば、やはり実力者ということだろう。

「ルービスさんは騎士だったんですか?」

「そうだよ。ただその後すぐの任務で負った怪我で騎士はやめちまったがね。」

「そうだったんですね・・・」

「それよりアンナ、お前ケガをしているね?」

アンナの体が緊張するのを感じる。

「・・・はい。未整備地帯に入り、モンゴグルドに襲われました。」

「なぜ魔法を使わなかったんだ。」

「ホバーバイクと一緒に杖も吹き飛ばされてしまって・・・それで危うく食べられそうなところをアルに助けてもらいました。」

「そうかい・・・それは面倒をかけたね。」

「かまわないさ、こうしてすぐマリリカにも会えたわけだしね。」

「ふん。アンナ。」

「はい。」

「お前を信頼して外での探索を許可してるんだ。わかってるね?」

マリリカの目が鋭く光る。

「はい。すみませんでした・・・」

「それと、こいつはしばらくお前が面倒を見てやりな。」

「はい。わかりました。」

「任せたよ。で、アル。勝手に部屋のものを食べるんじゃないよ。それは来客用だ。」

アンナとのやりとりの間、勝手にソファに腰掛け、テーブルの上に置かれた果物へ手を伸ばすアルにマリリカが注意する。

「あれ、俺って一応来客扱いじゃないのかな?」

「はっ、ガキが調子に乗るんじゃないよ。」

再び圧を体に感じ、アルはそっと手を引っ込めた。

「それじゃあ改めてお前の口からここにきた目的を聞こうか。」

まっすぐにアルを見つめてそう尋ねるマリリカに、アルも姿勢を正す。

「俺の目的は、ホルダーになること。そして聖龍石を手に入れること。」

「ホルダー!?」

後ろでアンナが声を上げる。

「本気で言ってるの?そんなの・・・なれるわけないじゃない・・・ホルダーは最強の騎士に与えられる称号よ?」

「なるさ。」

正面、マリリカの目を真っ直ぐに見つめたままアルは答える。

「ならないといけないんだ。」

「でも・・・」

「アンナ、お前は少し黙ってな。」

まだ何か言いたそうなアンナだったが、マリリカの言葉にそれ以上声を発することはなかった。

「二言はないね?」

「あぁ。俺はホルダーになるよ。」

アルの瞳の奥底まで見るようにマリリカは目を細める。

「いいだろう。それならまずは、ホルドナイトの称号を得てもらおうか。」

そう言うとマリリカは入団試験申込と書かれた紙を机の上に差し出した。

「これは?」

「騎士入団試験の申込書だよ。ホルダーは騎士の最高位だからね。まずは来月の入団試験でホルドナイトになってもらうよ。」

「ふーん、ま、いっか。りょーかい。これは名前だけ書けばいいのかな?」

「他にもいろいろと必要だが・・・紹介者があたしだから名前だけで十分だろう。」

そう言われ、アルは入団届に名前を記入する。

「アル・グレイシア・・・か。いいだろう、これは預かっておくよ。」

「うん、よろしくね。」

マリリカは、アルの入団届を受け取ると、机の引き出しへとしまった。

「アンナ、これを。」

そう言って別の引き出しから取り出した二つ折りの紙をアンナに渡す。

「こいつの宿が書いてある。連れてってやりな。」

「はい、おばあさま。」

「試験まではまだ時間があるからね。それまではギルドの依頼でも受けて金を稼ぎな。そこの宿もお前の親父から預かった金じゃ泊まれるのはせいぜい3日だよ。」

「わかった。いろいろとありがとう、マリリカ。あ、それと・・・」

そう言うと、アルは鞄から手紙を取り出し、マリリカに渡した。

「これは?」

「グレイがマリリカに渡せって。」

「そうかい・・・わかった、これは預かるよ。さ、行った行った。あたしゃこう見えても忙しいんだ、お前の相手は終わりだよ。」

退出を促され、アルとアンナは部屋を出た。


「変わってるとは思ってたけど、まさかホルダーになるなんて言い出すとは思わなかったわ。」

マリリカの部屋を出て、1階に戻るために昇降部屋に入ったところでアンナが話し始める。

「確かに世界で一番偉大な称号ではあるけど、あなたってそういうの興味ないと思ってたし。」

「俺の目的はホルダーの称号じゃなくて石だよ。」

「石?あ、そういえばさっきも石がどうとか言ってたわね。あれってなんのこと?」

聖龍石。

龍と契約するために必要な魔石。

アンナはそれについては知らないようだったが、おそらく知っている人の方が少ないのだろう。

アンナからの余計な詮索を避けるため、アルは聖龍石の別な情報を伝えた。

「ホルダーにだけ与えられる特別な石だよ。その石には数字が示されて、それがそのままホルダー内での強さの順位になるんだ。」

「そんなの手に入れてどうするのよ?あ、自分よりも強いやつと闘いたいとかそういうこと?うーん、やっぱりあなたの考えてることはよくわからないわ。」

「ふふ。でも自分が何番目に強いのかわかるのはいいことだよ。ひとつ上のホルダーと闘っていけば効率よく強くなれるしね。」

「闘っていけばって・・・まったくどこまで本気なんだか・・・まぁ、それがあなたの望みならかまわないんだけどね。」

そう言うとアンナは話の理解を諦めたようで、開いた扉から先に出る。

「そういえば、さっきのアンナの説明で騎士についてはなんとなくわかったけど、どうやったら上の称号が手に入るのかな?」

「上の称号?あぁ、ゴールドナイトまでは試験があったり、普段の実績が協会に評価されて称号が与えられるわ。ただ、ホルダーは別ね。ホルダーになるには、ゴールドナイトになった上で、現役のホルダーからの指名を受けるか、現役ホルダーとの決闘による勝利のどちらかよ。」

「最強に勝てば、最強の称号が手に入る、か。シンプルでいいね。」

「シンプルって・・・でもほとんどのホルダーは前任者からの指名によってその称号がを得ているわ。今のホルダーの中で決闘でその称号を得たのは、確かベトラルとブシュリムのホルダーだけね。」

「なんでみんな決闘しないのかな?俺だったら絶対するのに。」

「最強の騎士だからホルダーなのよ?ゴールドナイトにまでなれる騎士の中には、自分よりも強い相手に決闘を挑むおかしな人はあまりいないってこと。」

「ふーん。ま、とりあえずはゴールドナイトってのになればいいんだね。」

「まずは騎士になってから言ってちょうだい。」

そう言うとアンナは歩くスピードを上げた。


校門に着くと、ルービスはすでに今日の仕事を終えたのかその姿はなかった。

ただ、校門の結界は中から出るものには影響を与えないようで、何もせずとも出ることができた。

「そうだ、少し3区に寄っていい?ホバーバイクを修理するための部品を買いたいの。」

「あぁ、かまわないよ。そうだ、ジークへの手土産も買いたいから、獣の肉が売っているところにも行きたいな。」

「ええ、いいわ。じゃあ部品を買った後に案内するわね。」

3区のエリアは昼と変わらず多くの人で賑わっていた。

アンナによれば、日が落ちてもこの賑わいは続くらしい。

アンナが向かった店は3区の大通りに入って少し歩ったところにある古い店だった。

店頭には数台のホバーバイクが並んでおり、店の奥には火花を上げながら工具を使い作業をする人の後ろ姿が見える。

アンナは入り口の柱に取り付けられた金属の板を数回叩き、その人物に来店を知らせた。

「はいはい、なんのご用で・・・ってなんだ、アンナか。」

顔全体を覆うようにつけていたマスクをはずすと、アンナやマリリカと同じ薄桃色の髪をした青年が顔を見せた。

「なんだとは何よ。兄さんから買ったあのバイク、エンジンが全然使えないじゃない。もう少しでモンゴグルドに食べられるとこだったんだから。」

綺麗に整った眉がぐっと上がり、先ほどよりも大きな声でアンナの発言を否定する。

「そんなわけあるか。あのバイクには古いがそれなりのエンジンを積んでたはずだ。どうせお前の乗り方が悪かったんだろう。日中の砂漠で、フルスロットル走行でもしたか?」

「うっ・・・」

「ふん、図星じゃねぇか。そんな乗り方してたら新品のエンジンだろうがすぐダメになるわ。」

「そんなこと言ったってあの状況じゃ仕方ないじゃない・・・」

「なんか言ったか?」

「何でもないわよ!とにかく、別のエンジンが必要なの。あのバイクに積める一番安いのを売って。」

「まったく、これだから機械をわかってない奴は・・・おっと。すまないね、気づくのが遅れてしまった。君はアンナの友人かな?」

アルに気づくとその青年は声のトーンを戻し、優しい表情を見せる。

「そんなところです。俺はアル・グレイシア。」

「マイク・ルーシスだ。妹が迷惑かけるね。」

そういって作業用の手袋を外し、アルに右手を差し出した。

「いえ、たいしたことはないですよ。」

アルも右手を出しその手を握る。

初対面ですでに打ち解けた様子の2人を横目に、アンナが少しバツが悪そうな表情を見せた。

「迷惑って・・・確かにかけたけど・・・。彼、おばあさまの客人なの。彼のお父上がおばあさまの教え子だったんだって。」

「ほぉ、と言うことは君の父上はさぞ優秀な騎士なんだろうね。ばあさまが自身の教え子と認めてる騎士なんて数えるほどしかいないだろうさ。」

「どうでしょう。側から見れば優秀なのかもしれませんが、俺から見れば自己中心的な大人にしか見えないですけどね。自分の子供の面倒を他人に押し付けて、何年もフラフラしているような人ですから。」

「なにそれ、酷い話ね。だからあなたもそんな変な性格になっちゃったのね。」

「アンナ、君だんだん俺へのあたりが強くなってるよね。朝のこと、もう忘れたのかな?」

「ごめんなさい・・・」

それをきっかけに、アスラ砂漠での顛末てんまつを聞いたマイクから、アンナは本日2度目のお叱りを受けるのだった。


「じゃあこれがエンジンな。走ったらちゃんとメンテナンスするんだぞ。」

「もう、わかったってば!これ代金ね!じゃ!」

お叱りの後、なんとかエンジンを買うことができたアンナは、ものすごい勢いで店を出ていった。

「じゃあ俺もこれで。」

アンナに続き、アルも店を出る。

「アルくん。」

アルを呼び止めるようにマイクが声をかけた。

「君、かなり強いだろ。」

振り返り、その問いかけの真意を探るようにマイクの目を見る。

「まぁ、それなりには。」

「謙遜もしない、か。十分だ。すまんがアンナをよろしく頼むよ。俺の大切な妹なんだ。」

「アルー!何してんの、行くわよ!」

少し離れたところからアンナが声を上げる。

マイクの問いかけに対し、アルは無言で頭を下げ、店を後にした。

アルには最後、マイクが笑ったように見えた。

その後は、肉屋でワニガエルの肉を買った後、少し3区をふらふらしてからアンナの家へと戻った。

「ジーク、いい子にしてたかい。ほら、大好物のワニガエルの肉だぞ。今日もありがとな。」

「クエッ!」

ジークは嬉しそうに声を上げると、アルの手渡したワニガエルの肉を食べ始めた。

「私たちも食事にしましょ。」

部屋の方から声をかけられ、アルは小屋を出る。

テーブルには帰りがけに屋台で買った食事が並べられていた。

「ジークはうちで預かっておくわ。たぶん宿には獣用の小屋はないだろうからね。」

「それは助かるよ、ありがとう。」

「それで、明日は朝からギルドに向かうでいいのかしら。」

「うん、構わないよ。」

「わかったわ、じゃあそれまでにホバーバイクを修理しておくわね。」

「朝までに直りそうなのかい?ジークがいるから急がなくても構わないよ。」

「いつまでもジークに甘えるわけにはいかないわ。この後も作業するつもりだし、明日の朝には間に合わせるつもりよ。」

「そうか、じゃああまり長居しないほうがいいね、食べ終わったら宿に向かうよ。」

アルの泊まる宿は3区の北エリアにあり、アンナの家からもそれほど離れていなかった。

簡単な地図も書いてあったし、わからなければ人に聞くから大丈夫だと言ったのだが、結局アンナが宿まで案内してくれた。

「今日はいろいろとありがとう。アンナのおかげでとても助かったよ。」

「お礼を言うのは私の方よ。まぁしばらくは一緒に行動することになるだろうから、明日からまたよろしくね。」

そう言うとアンナは再び来た道を帰っていった。

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