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第1章 1話 異端の青年

降り注ぐ太陽の熱が肌を焼く。

まだ昼前だと言うのに、容赦なく肌に突き刺さるその熱に、アンナは唇をかんだ。

しかし、今いる場所を考えれば仕方のないことだった。

灼熱の砂漠の中、アンナはホバーバイクのペダルを最大まで踏み込み、最短で都市ブランヘルブの門を目指している。

目の前の風景は蜃気楼をおこし歪んでいて、少し前からエンジンがおかしな音をたてているが、今のアンナにそれを気にする余裕はない。

下手を打った。まさかあんなところにモンゴグルドの巣があるなんて。

ちょっとした出来心で帰りを急ぎ、聖道をそれた自分を悔やんだ。

気づいた時にはすでに遅く、聖道への退路はヤツに絶たれ、未整備地帯の強行突破を余儀なくされた。

「やばい、本当にやばい・・・」

焦るアンナのすぐ背後には、黒紫色の巨体で砂の中を泳ぐ獣が迫っていた。

モンゴグルド。

サメのような見た目をした、人喰いの獣。

このアスラ砂漠一帯に生息しており、ブランヘルブの人々から恐れられている。

アンナも話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。

せめて都市の外壁が見えるところまで辿り着ければ、衛兵が気づいて助けてくれるかもしれない・・・

「ボンッ」

その刹那、暑さに耐えかねたエンジンが煙を上げる。

兄から譲り受けた年季もののホバーバイクは、灼熱の中のフルスロットルで限界を迎えた。

「もうっ!なんでこんな時に・・・」

焦る気持ちとは裏腹に、ホバーバイクの速度はあからさまに落ち、モンゴグルドとの距離がどんどん縮まってくる。

「ブルブルブルブル・・・バゥッ!」

モンゴグルドとの距離が数m先まで迫った時、鼻先で砂ごと跳ね上げられ、ホバーバイクもろとも激しく吹き飛ばされた。

「うっ、うぅっ」

熱せられた砂面の上をアンナは勢いよく転がっていく。

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホ・・・」

すぐに体勢を立て直そうとして地面に腕をついたとき、左腕に激痛がはしった。骨が折れたかもしれない。しかしそんな事を気にしている暇はない。

アンナはすぐ背後に迫ったモンゴグルドに対抗するため、痛みを堪えて腰に備えた杖に手を回した。

「!?ない・・・杖がない!」

素早く辺りを見回すと、頼みの綱は数メートル先の砂面に埋もれていた。

「そんな・・・あれがないと魔法が使えないのに・・・」

「ザバババッ!」

反射的に振り返ると、口を大きく開けたモンゴグルドが砂面から飛び出したところだった。

小さく不揃いな歯をいっぱいに並べた口が、ゆっくりと迫ってくる。

死の間際、風景がスローモーションに見えると聞いたことがあるが、こんな感じなのだろうか。

そんなことを思いながら目を閉じると、脳裏に母と祖母の顔が浮かんだ。

お母さま、おばあさま・・・ごめんなさい・・・

無意識に、祈るように手をあわせたその瞬間、

「ドンッ!」

目の前に現れた人影が、モンゴグルドの巨体を大きく弾き飛ばした。

「フギュッ!」

突然の衝撃に奇声をあげながらモンゴグルドが宙を舞う。

そのままドサッ、と言う音を立てて砂面に落ちた後、その巨体はぴくりとも動かなくなった。

「助かっ・・・た?」

急な出来事にアンナの頭はまだ混乱していた。

そんなアンナに、砂煙の中振り返った影が問いかける。

「ふぅ、なんとか間に合った。大丈夫?」

呆然とする意識の中、アンナはなんとか口を開く。

「シーカーの方・・・ですか?ありがとうございます、助けていただいて・・・」

砂煙が落ち着くと、そこに現れたのは麹色こうじいろの作業着のようなつなぎに薄橙うすだいだいの髪をなびかせた青年だった。

砂よけのゴーグルをつけているが、年は私と同じくらいに見える。

その青年の右手には不思議な装飾のされた棒が握られていた。

なんだろう、あの武器は?

初めて見るが、あれでモンゴグルドを吹き飛ばしたのだろうか?

「いや、俺はシーカーじゃないんだけど・・・ちょっと用があってブランヘルブに向かう途中だったんだ。そしたらたまたまモーグに追われてる君を見かけてね。」

「モーグって・・・モンゴグルドのこと?」

アンナのその問いかけに青年は一瞬目を見開いたが、すぐに納得したような表情で答えた。

「そうか。ホルドサイドの人はあれをモンゴグルドって呼ぶんだね。うん、そうだよ。」

少しずつ意識が落ち着いてくると同時に、アンナは青年の話す内容に違和感を感じ始める。

「ホルドサイドの人たちって・・・あなた・・・何者?あなたもホルドサイドに住んでるんじゃないの?」

「いや、俺は外で育ったんだ。モルドレイクのそばなんだけど・・・確かあの辺はグランドエリアって言うんだったかな。」

「えっ!?」

急な意識の覚醒とともに、青年の発した単語に思わず声が出た。

「ちょっと待って、グランドエリアって言った?・・・えっ?」

青年の言葉を繰り返してみたが、やはりその意味が理解できず、困惑が表情に現れる。

ルブルエリアですら人が住めるところではないのに、さらに外側のグランドエリアで育った?

ありえるわけがない。

「あ、これはあんまり言わない方がいいんだったかな。まぁいっか。それでこれからブランヘルブにいるマリリカって人に会いに行くところなんだ。というか、自己紹介がまだだったね。俺の名前はアル・グレイシア。よろしくね。」

淡々と続ける青年の言葉に未だ理解の追いついていないアンナだったが、続いて出た言葉にさらに困惑の表情を強めた。

「マリリカ?マリリカって・・・マリリカ・ルーシスのこと?」

アンナの返答に、青年は驚いた表情を見せる。

「君、マリリカを知ってるの?」

「知ってるも何も・・・」

一瞬、アンナは目をふせ、再びアルと名乗ったその青年を見る。

「私の名前はアンナ・ルーシス。マリリカは私の祖母よ。」

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