第2章 1話 旅の始まり
騎士の朝は早い。
騎士の主な仕事には、ホルドサイドの警備、ルブルエリアでの聖道の管理と獣の討伐、ギルドでは受けきれない依頼の対応などがあげられる。
日中はそれらの活動がメインとなるため、騎士たちはみな、朝食前に訓練を行っていた。
先日の入団試験に合格した新団員も例に漏れず、先輩騎士たちとともに朝から剣を振る。
その試験でいきなりシルバーナイトを任命されたアル・グレイシアは、入団後、ゴールドナイトであるミカ・ルグルシアから直々に訓練を受けていた。
「うっ!」
訓練の終わり際、ミカの蹴りをくらいアルが吹き飛ぶ。
「5分、といったところか。まぁ新星の儀までにはなんとか使えるようになったな。以前よりもビーフォースに体が耐えられるようになってきている。」
地面に大の字になっているアルにミカがそう話しかける。
「はぁ、はぁ、、はい、ただ、やっぱりまだ疲労感がすごいですね、、」
蹴られたお腹を押さえながら、アルが答えた。
「当たり前だ。その技は通常一年以上時間をかけて修得するものだからな。君の場合は無理やり体に叩き込んでいる。体に慣れるまではまだしばらくかかるだろうから覚悟しておけ。」
「はい、わかりました。」
アルは立ち上がり服についた土を払うと、ミカとともに訓練場を出た。
「そういえば、結局あれから新たなギルガは出ませんでしたね。」
入団試験での事件の後、他のホルドサイドと連携をし、黒い獣が現れた際にはすぐさま情報伝達を行う方針になっていた。
ただ、入団試験から2週間ほどが経っても、そのような獣の報告は上がっていない。
「やつらはおそらく、獣を放つタイミングを見計らっているのだろう。こちらが警戒していることはわかっているだろうからな。特に3日後から始まる新星の儀は厳重に監視を行う手筈だ。」
新星の儀。各ホルドサイドの新団員が互いに模擬戦を行い、その力を示す、騎士団恒例のイベントだ。
要塞都市ブランヘルブからは、アル・グレイシア、ダリアン・ポーター、アンナ・ルーシスの3名が新星の儀に参加することになっていた。アルたちを監視、護衛するのは、ゴールドナイトのシルビア・ラミールウッド。明日の朝、彼女とともにブランヘルブを発ち、海上都市シーグランドに向かうこととなっている。
「アル、今日の任務は昼までで構わない。午後は明日からの旅路に備えてくれ。」
「了解しました。あ、明日の詳細ってミカさん知ってますか?」
「なんだ、シルビアから聞いてないのか?」
「この前会ったときは後で説明するって言ってったのですが、それっきりで。」
「まったく、あれもぬけているところがあるから困ったものだ。」
ミカは眉間にしわを寄せ、一つ息を吐くと続けて口を開いた。
「明日は9時に大議堂に集まってくれ。全員揃い次第出発となる。くれぐれも遅れるなよ。」
「ありがとうございます、了解しました。」
その後アルは午前の任務を終えると、必要なものを買うため、街へと向かうことにした。
「アル!」
フォルトレスを出ようと、1階の中庭を歩いていると、後ろからアンナが駆け寄ってきた。
「あなたも今日の任務は終わったみたいね。そういえば、明日のことシルビアさんから聞いた?私まだ聞けてなくて、探してるのよね。」」
「いや、俺も聞けてなくて、さっきミカさんから聞いたよ。シルビアさん、たぶん伝え忘れてるみたいだね。9時に大講堂だって。」
「そうなのね、よかった~。でもなんで大講堂なのかしら。まぁいいわ、これで買い物に行けるし。あ、アルもこれからどこかに行くところだった?」
「うん、少し街で買い物をしようと思ってね。」
「あら、なら私も一緒に行っていいかしら?」
「あぁ、構わないよ。じゃあ行こうか。」
そうしてアルはアンナとともに街へと向かった。
「任務でフォルトレスの外に出ることはあるけど、こうしてゆっくり街を歩くのは久しぶりね。」
3区の商業エリアにつくと、アンナがぽつりとつぶやく。
確かにアンナの言う通り、アルもこうして街を歩くのは久しぶりだった。
「フォルトレスの中でも生活に必要なものは手に入るし、任務が忙しいとなかなか街に出る機会も減るよね。」
「そうなの。特に私たちは入ったばかりで訓練の時間も多いから、夜にはくたくたなのよね~。あ、ちょっとここによってもいいかしら?」
そう言うと、アンナは杖を扱っている店へと入っていく。
アルも中に入ると、中にはたくさんの杖が壁に掛けられており、奥には作業台のような机が置かれていた。
「すみません、杖の調整をお願いできますか?」
奥の作業台に座り、何やら作業をしていた女性が振り向いて答える。
「いらっしゃいませ。杖の調整ですね。どのようにいたしましょうか?」
「もう少し、魔力出力をあげたいんです。」
「わかりました。では、少し見てみますので、杖をお預かりしますね。」
そう言われ、アンナはその女性に杖を手渡した。
それをもって作業台に戻ると、丸いレンズ越しに杖をのぞき込む。
「えーっと、はいはい、、この杖なら、調整できそうですね。少しお時間いただきますが、このまま調整してしまってよろしいですか?」
作業台に座り、杖をいじりながら女性が言う。アンナが答える前に、もう調整を始めているように見えるが、アルはそれには触れないことにした。
「はい。じゃあまたあとで来ますね。」
アンナが答え、外へと出る。
「そういえば、あの杖の調子はどう?」
騎士団試験の前に買ったあの杖のことは、アルも少し気になっていた。
アンナは魔力が膨大で、品質の悪い杖だとすぐに壊れてしまうため、少し値の張る杖を一緒に買いにいったのだった。
「うん、かなりいい感じよ。あなたが教えてくれた魔力出力のイメージのおかげで、杖へのダメージがほとんどなくなったの。それに、私も杖に強化魔法をかけられるようになったから、しばらくは大丈夫だと思うわ。あとの課題は私の魔力コントロールね。」
「それはよかった。じゃあもうモーグに襲われる心配はないね。」
そう言ってアルは少しだけアンナをからかう。
「もう、それは言わないでよね~。でも、今なら冷静にモンゴグルドとも戦えるはずよ。」
そう言うアンナは、以前よりも自信にあふれているように見えた。
短い時間ではあるが、アンナも騎士団での訓練で、成長を感じているのだろう。
それから何件か店を回った後、アンナの兄、マイクの店にも立ち寄った。
「兄さん、連れてきたわよ!」
店に着くなり、アンナが大きな声でマイクに呼びかける。
呼ばれたマイクが振り向き、アルを見つけると店の奥から飛び出してきた。
「おぉ、アルくん!会いたかったよ!まずは騎士団への入団、おめでとう!いきなりシルバーナイトだなんて、やっぱり君はすごいね。それから、、また妹を救ってくれたんだってね。本当にありがとう。」
アルの手を握り、マイクが深く頭を下げる。
「なにかお礼をしたいんだが、アルくんはバイクも乗らないからな~。あと俺にできることと言ったら、、あ、そうだ。」
マイクは何か思い出したように店の奥へと入ってくと、小さな袋をもって戻ってきた。
「これ、よかったらもらってくれないか。小さいけど、中に入れたものは外からの影響を一切受けない、魔法袋だ。外に出るときには、きっと役に立つと思う。」
「兄さん、それ、、」
後ろでアンナが、何かを言いかける。
「いいんだ。ずっと店にいる俺には必要のないものだし、アルくんが持っていてくれた方がこの袋をうまく使える。なにより、2度も妹の命を救ってくれたアルくんに何も返せないんじゃ、俺が納得できないからな。」
なにやら大切なもののようだということはアルにも伝わっていた。
「本当に、俺がもらっていいんですか?」
「あぁ。君にもらってほしい。」
マイクの真剣なまなざしに、アルはその覚悟を感じ取ると、そっと袋を受け取った。
「じゃあ、ありがたく使わせてもらいます。」
「あぁ、ありがとう。ただ、それでアンナのことを助けてくれた恩がすべて返せるとは思ってないからな!なにか俺にできることがあったら、すぐに言ってくれよ!」
そう言って笑顔を見せるマイクに、アルも笑顔でうなずき返すのだった。
「これ、本当にもらってよかったのかな?」
マイクの店を出た後、アルは隣を歩くアンナに尋ねる。
アンナは少しの沈黙の後、立ち止まり口を開いた。
「それ、亡くなった父さんがくれたものなの。兄さんが騎士になった時にね。でも、兄さん騎士を辞めちゃったし。さっき言ってた通り、機械屋の兄さんには不要なものよ。だから私も、あなたが持ってた方がいいと思うわ。」
寂しそうな表情でアンナはそう答えた。
「そうか、お父さんの、、大事に使わせてもらうよ。」
「えぇ、なくしたらただじゃおかないからね!さ、しんみりした話はこれでおしまい!ほかに行きたいところはある?」
いつもの表情に戻ったアンナがアルに向き直り尋ねる。
「もう一か所だけ、いいかな。」
そう言ってアルは最後に、以前行った薬屋に立ち寄った。
特徴的な髭の店主が営んでいる店だ。よく外に出かけているようだったが、今日は店にいるようで、ちょうど客と思われる男が店から出て行った。
「ここは?」
後ろからアンナが尋ねてくる。
「薬屋だよ。回復薬や強化薬もおいてる店でね。少し試してみようかと思って。」
「へぇ、でも強化薬って高価なものよね。私はなんだか使うのがもったいない気がしちゃうわ。」
「いざって時に効果がどれだけのものか把握しておかないと困るだろ?それに、そんなにたくさん買うつもりはないよ。」
そう言ってアルは店の中へと入った。
「あなたは、、アル様ですね。騎士団入団おめでとうございます。」
騎士団に新たに入団したものは、試験翌日の新聞で公開されている。店主もそれでアルのことを認識したのだろう。
「こんにちは。もうスコッドウッドから戻られたんですね。」
「えぇ、3日ほど前に戻ったところです。後ろにいる方は、、アンナ様ですね。」
名前を呼ばれ、アンナが頭を下げる。
「初めまして。私はこのウェルーナの店主をしております、ビクターと申します。アル様も、自己紹介させていただくのは初めてでしたね。以後お見知りおきください。」
そう言ってビクターは深々と頭を下げた。
「それで、今日はどういったご用件で?」
頭を上げたビクターがアルに向き直る。
「回復薬と強化薬を試してみたいんですが、少量でも買えますか?」
「はい。それでしたら、小瓶のものがございます。」
ビクターはカウンターの下から小瓶がたくさん入った箱を取り出した。
「肉体に対するものと、魔力に対するものがございますが、アル様の場合、前者でよろしいですか?」
ビクターの問いにアルはうなずく。
「わかりました。では、こちらの回復薬と強化薬がお勧めです。」
そう言って箱の中から緑と赤の液体が入った小瓶を取り出した。
「緑が回復薬、赤が強化薬になります。回復薬のほうは、軽度のケガであれば完全に回復させることができます。重度のケガの場合は、その度合いを和らげることができます。ただし、致命傷に対しては効果は期待できません。強化薬のほうは、この量で約10分、身体機能が強化されます。時間は短いですが、強化の度合いは保証しますよ。」
そう言ってビクターはカウンターにおいた2つの薬をアルに差し出す。
「ありがとうございます。試すにはちょうどいい量ですね。2つでいくらですか?」
アルが尋ねると、ビクターは笑顔で答えた。
「こちらは差し上げます。騎士団への入団のお祝いとして受け取ってください。」
「え、いいんですか?」
「はい。アル様の今後のご活躍、期待しております。」
「ありがとうございます。じゃあまた来ますね。」
「はい、お待ちしております。」
アルは薬を受け取ると店を出た。
「ずいぶん親切な人ね。強化薬なんて、少量でも高価なはずよ。きっとあなたがお得意先になるのを期待しているのね。」
「前に話した時は、騎士の人がよく来るって言ってたから、それなりに信頼できるお店なんじゃないかな。」
「へぇ、そうなのね。だったら私も魔力の回復薬をもらっておけばよかったわ。」
初めからタダでもらう気満々のアンナに対し、ずいぶん図々しいなと思ったアルだったが、それは言わないでおいた。
空が茜色に染まるころ、アルとアンナはフォルトレスへと戻った。
「俺はジークのところによってから戻るよ。」
「わかったわ。じゃあ私は先に戻るわね。明日からまた、よろしくね。」
そう言うと、アンナは昇降機のほうへと向かっていった。
アルはそのまま獣部屋へと向かう。
「やっほー、ジーク。いい子にしてるかい?」
「クェッ!」
アルを見るなり、ジークが元気な声をあげる。
「今日はお土産があるんだ。」
アルは先ほど街で買ったワニガエルの肉を鞄から取り出し、ジークに渡した。
「明日からしばらくここを離れるんだ。今回君はここで留守番だよ。1週間くらいで戻ってくると思うからいい子にしてるんだよ。」
そう言って食べるのに夢中なジークをなでる。
この部屋にいる獣は基本自分で世話をするルールだが、フォルトレスには代わりに世話をしてくれる人もいて、アルがいない間はその人にジークの世話をお願いした。
ものの数分でジークは肉を食べ終え、体を丸める。
完全にリラックスモードのようだ。
「じゃあね、ジーク。」
アルはそれを見届けると、立ち上がり自分の部屋へと戻った。
「さてと、明日からの荷物をまとめちゃおうか。」
アルは騎士団から支給されている黒の鞄に荷物をつめる。
騎士として動く時には、身につけるものはすべて統一する方針らしく、制服や靴、鞄にいたるまで、すべて騎士団仕様だ。その鞄に、予備の制服をたたんでしまう。今まで薄い生地の服しかきたことがなかったアルだが、騎士団の制服にはやっと慣れてきたところだった。
ちなみに、ブランヘルブの騎士団の制服は白だが、他のホルドサイドではまた色が異なるらしい。
「よし、こんなものかな。あとは、、」
荷物を一通りつめ終え、アルは今日もらった回復薬と強化薬を手にとる。
新星の儀では、武器を除いて戦闘のサポートを行うものの使用は禁止になってた。
「模擬戦では使えないけど、シーグランドに向かう道中で試せるかもしれないし、一応、持っていくか。あ、それなら、、」
そう言ってアルは、マイクにもらった魔法袋に回復薬と強化薬をしまった。
「これなら瓶が割れる心配もないね。さて、少し早いけど、ご飯とお風呂を済ませてこようかな。」
普段この時間は、まだ任務や訓練をしているが、今日はそれもない。
他にすることもないので、アルは食堂へと向かうことにした。
食堂に着くと、やはり中にはまだほとんど人はいなかった。
「あ、アルくん!」
食事をとり、席につこうとした時に声をかけられた。
「シルビアさん」
「ちょうどよかった。他の人たちはまだ任務中だから1人で寂しかったんだよね。一緒にいいかな!」
そう言ってシルビアはアルの隣に腰を下ろす。
「シルビアさんも今日の任務は早く終わったんですね。」
「そうなの。明日からの護衛の準備のために、ミカさんが調整してくれたみたい。ん?護衛、、なにか忘れているような、、」
「俺たちへの明日の詳細の説明では?」
「あ!そうだ、それそれ!今日の朝招集しようと思ってたんだけど忘れちゃった~」
シルビアが困った表情で頭を抱える。
「ミカさんから9時に大講堂だって聞きましたよ。さっきアンナには伝えましたけど、ダリアンにも伝えておきましょうか?」
「そうそう、9時に大講堂!ありがとう、アルくん!じゃあダリアンくんへの伝達もお願いしてもいいかな?」
「わかりました、後で伝えておきます。」
「ありがとう!これで何も気にせずご飯が食べれるね!」
思い出す前から何も気にせずご飯を食べていたように思うが、それは言わないでおこう。
「あ、アルくんはもう準備は終わった?」
「はい。さっきアンナと一緒に街に買い物に行ってきたところです。」
「えー、ずるい!私も行きたかったな~。アルくん誘ってよ!」
シルビアがほほを膨らませてアルを見る。
「アンナとは1階の中庭でたまたまあったんですよ。それに、シルビアさんも今日の任務が早く終わってるなんて思わなかったですし。」
「うそうそ、ごめんね。アルくんおもしろいから、ついからかいたくなっちゃって。」
シルビアはすぐにもとの笑顔に戻ると、目の前の料理を口に運んだ。
「そういえば、シルビアさんはミグルとはよく会うんですか?」
「うーん、私がゴールドナイトになってからは、ほとんど会ってないかな~。それまでは、年に数回は会ってたんだけどね~。」
「それは、シルビアさんが忙しくなったからですか?」
「うん、、まぁ、そうだね。」
あまり話したくないのか、シルビアの顔が少しだけ曇る。
「でも、あの騒がしい弟に会うのは、これくらいの頻度でちょうどいいけどね!」
何かを振り払うように、シルビアが再び笑顔を見せた。
「アルくんもミグルにはあったんでしょ?どうだった?」
「かなりの実力者だと感じましたよ。でも、勝てないとは思わなかったですけどね。」
アルは笑ってそう答える。
「ははは、やっぱり君、いいね。この前会った時よりもまた強くなってるみたいだし。ミカさんにずいぶん鍛えられてるみたいだね。君と手合わせするの、楽しみだなぁ〜」
「俺は今からでも構わないですよ。」
アルの言葉に、シルビアは顔の前で人差し指を振る。
「ちっちっちっち~。ダメだよ。言ったでしょ?ミグルに勝てたらって。私はシルバーナイトの中では、ミグルが1番強いと思ってる。騎士団に入ったばかりだとしてもね。そして私は弱い相手とは戦わない。だからミグルに勝って、その強さを私に証明してね。」
料理を食べ終えたシルビアは立ち上がってアルに背を向けた。
「よし、じゃあそろそろ私はそろそろ行こうかな。楽しかったよ、アルくん。また明日からもよろしくね!」
そう言い残すと、シルビアは食堂を出て行った。
「強さを示す、か。」
シルビアの背中を見ながらアルはぽつりとつぶやくと、残っていた料理を口へとかきこんだ。
食事の後、アルが大浴場へと向かうと、そこには1人先客がいた。ちょうど探していた人物だ。
「やぁ、ダリアン。久しぶりだね。」
ダリアンは目を閉じたまま湯船につかり、アルの問いかけには答えない。
アンナと同様、ダリアンのこともフォルトレス内でなどか見かけることはあったが、こうして直接話すのは、ダニエルから新星の儀の話を聞かされた時以来だ。
アルは椅子に腰を下ろし、体を洗いながら背中越しにダリアンに話し続ける。
「新星の儀、楽しみだね。他のホルドサイドから来る優秀な騎士と手合わせできるなんて、なかなかいいイベントだよ。君もそう思うだろ?」
少しの沈黙の後、ざばっという音とともにダリアンが立ち上がり、アルの後ろに立つ気配がした。
「俺はもう、、貴様に勝つまで他の誰にも負けん。貴様も無様な姿はさらしてくれるなよ。」
それだけ言い残すと、ダリアンは勢いよく浴室から出てていこうとする。
「あ、ダリアン、ちょっと待って!明日は9時に大講堂に来るようにって!」
一瞬足を止めたダリアンだったが、特に返答はせず浴室から出ていった。
「相変わらずだな~。ま、頼まれてたことはすんだし、この広いお風呂を満喫させてもらおっと。」
そうしてアルは、誰もいない広々とした湯船を満喫するのであった。
翌日、アルはまとめた荷物を持ち、大講堂へと向かった。
アルが着くと、中にはすでにシルビア、アンナ、ダリアン、そしてダニエルに加え、紫の制服をきた初老の男性と、アルたちと同年代のメガネをかけた女性がいた。
あの制服は確か、、、
「おはようございます、アルくん。これで全員ですね。まずはお互い自己紹介からしましょうか。」
ダニエルにうながされ、初老の男性が前に出る。
「新団員の諸君、はじめまして。私はブシュリムのゴールドナイト、オジロ・ジャークというものじゃ。こちらは、ブロンズナイトのローザ・ミーガン。」
オジロに紹介され、ローザと呼ばれた女性が頭を下げる。
「私はブランヘルブのゴールドナイト、シルビア・ラミールウッドです。そしてこちらから、ブロンズナイトのダリアン・ポーターとアンナ・ルーシス、そして、シルバーナイトのアル・グレイシアです。」
アルたちも同様に、オジロたちに向かって頭を下げる。
「ほぉ、君が噂のアル・グレイシアか、、それにブロンズナイトも2名。ダニエル殿、ブランヘルブには優秀な人材が集まっているようですな。」
「マリリカ様のご尽力があってのことですよ。」
オジロの問いかけにダニエルはそう返すと、全員に向き直った。
「ではこれよりみなさんには、シーグランドに向かっていただきます。海路のため、想定外の攻撃は考えにくいですが、常に警戒は怠らないでください。シルビアさん、オジロさん、よろしくお願いいたします。」
ダニエルに対し、シルビアとオジロが頭を下げる。
「私は行くことができませんが、みなさんの活躍を期待しています。では、お気をつけて。」
アルたちもダニエルに頭を下げると、シルビアを先頭にフォルトレスを出た。
「オジロさん、お久しぶりですね!相変わらず元気そうで安心しました。」
フォルトレスを出ると、シルビアが隣を歩くオジロに声をかける。
「ほっほっほっほ。お前さんも相変わらずじゃな。しかもいつの間にかゴールドナイトになっておるとは。若い者の成長速度はおそろしいのぉ。」
「今ならオジロさんにも勝てるかもしれないですよ?」
「ミカには勝てるようになったのか?」
オジロの言葉に、シルビアは顔をしかめる。
「いえ、それはまだ、、」
「ほっほっほ。ではまだわしにも勝てんよ。精進しなさい。」
「はーい。」
「オジロさんは、ブランヘルブの騎士とも面識があるんですか?」
今のやり取りを聞いていたアンナが質問を投げる。
「あぁ、剣術の指導で昔からブランヘルブにはよく来るんじゃよ。」
「なるほど、だからミカさんも知っているんですね。」
「ミカはわしが剣術指導でブランヘルブに呼ばれるようになった当初からの付き合いでのぉ。あれには一通りの剣技は教え込んでおる。」
「アルくんは今、そのミカさんのもとで訓練してるんですよ!」
シルビアがよこから割って入る。
「ほぉ、そうか。なら、、ダリアンくん、君も剣士、だったな?」
「はい。」
「ではシーグランドに着く間、君たち2人は少しわしが見てやろう。」
「いいんですか?」
オジロの言葉にアルが反応する。
「あぁ、かまわん。船上では暇だからの。シルビア、お前さんはどうする?」
「私は遠慮しておきます!」
そう言うと、シルビアは歩く速度を上げていってしまった。




