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第1章 12話 新たなスタート

翌朝、アルは騎士団の白い制服に身を包み、ジークともに家を出た。ふと頭をよぎるのはやはり昨日のことだ。

アルにとって、同世代の友人が出来たのは初めてのことだった。そして、知っている人間が死ぬのも初めてのことだった。

そのせいなのか、なんとも言い難いもやもやが胸の奥で渦巻いているのを感じる。

それを感じてか、時折りジークが心配そうにアルの様子を伺っていた。

「大丈夫だよジーク。俺は大丈夫。」

ジークだけでなく、自分自身にも言い聞かせるようにそう言うと、アルは大きく深呼吸をした。

「ふぅ。とにかくまずはもっと強くならないとなぁ。今のままじゃギルガを送り込んだやつには勝てないだろうし。よし、今日からミカさんにみっちり鍛えてもらおっと。」

そう言うとアルはパンと両頬を叩き、フォルトレスへと向かった。

学園とは違い、フォルトレスの入り口は1区にある。アルは西の内門につくと、立っている騎士にナイトバッジを見せた。すぐに中へと通され、アルは初めて1区へと足を踏み入れる。

「わーお。」

そこにはこれまで見たことのないような豪華な建物が並んでいた。

また、外を歩く人もみな高そうな服を着ている。今はアルも騎士団の制服を着ているが、普段の服装であれば間違いなく浮いていただろう。

「でもやっぱりここは窮屈なところだね。」

アンナから1区の話を聞いたときにも思ったが、内壁とフォルトレスに挟まれたこのエリアはあまり日も当たらず少し息苦しく感じた。

フォルトレスの入り口には、学園の校門と同様、上下に移動する部屋が設けられていた。アンナに聞いたがこれは昇降機と言うらしい。

扉の横にあるボタンを押すと、少しして扉が開く。中は学園のものと比べると、2回りほど広い作りになっていた。これならジークも問題なく入れる。中に入ると扉が閉まり、部屋は上へと移動し始めた。

昇降機を出ると、そこには広い庭が広がっていた。四方は建物に囲まれているが、上は吹き抜けになっており、しっかりと日も差し込んでいる。

庭の中心には噴水があり、建物の中とは思えない作りだった。

庭の奥には大きな扉があり、そこにミカが立っていた。

「おはよう、アル。」

「おはようございます、ミカさん。今日からよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく頼む。さっそくだが、まずは君たちの部屋に案内しよう。まずは地竜の・・・名はなんだったかな。」

「ジークです。」

「ジーク、君からだ。」

そう言うとミカは最初に獣部屋へと案内してくれた。そこにはすでに10頭ほどの獣がおり、アルと同様獣を連れている騎士もいるようだった。

「空いているところを使ってくれ。」

そう言われ、アルはジークを空いているスペースへと連れていくと、柱に手綱を結び、ジークをおいて部屋を出た。

「次は君の部屋だが、シルバーナイト以上の騎士はみな個室を与えられる。フォルトレスは6階建ての造りだが、シルバーナイトの部屋は5階だ。」

ミカによれば、6階にホルダーとゴールドナイト、4階にブロンズナイト、ホルドナイトの部屋があるらしい。

また、フォルトレスの中にもいくつか昇降機があり、獣部屋を出てすぐのもので5階へと向かった。

「君の部屋はここだ。ドアは君の魔力を感知して鍵が開くようになっている。基本的に君以外のものは鍵を開けることはできない作りだ。私は先ほどの昇降機の前で待っているから、荷物を置いたら来てくれ。」

ミカはアルを部屋まで案内すると、そう言い残して先ほどの昇降機の前へと戻っていった。

部屋はとてもシンプルな作りで、1人用の机とベッドが置かれているだけだった。アルは家から持ってきた荷物を机に置くと、すぐにミカのもとへと向かった。

「言い忘れていたが風呂は4階だ。24時間空いているから好きな時に使ってくれ。」

昇降機に乗り込むと、ミカはそう補足した。

アルたちは再び1階へと戻ると、今度は訓練場へと案内される。

「君の他にも何人かのシルバーナイトが私のもので動いているが、それはまた後で紹介しよう。まずは・・・君の実力を私に見せてくれ。」

そう言うと、ミカは壁に掛けてあった模擬刀を手に取った。

「ビーフォースを使っても?」

「かまわん。全力で来い。」

「じゃあ・・・いきますよ!」

アルはにやりと笑うとミカに向かって駆け出した。


それから1週間ほどが過ぎた。アルがフォルトレスに来た翌日には他の入団者も集まり、ダリアンやアンナもフォルトレスの中で見かけるようになった。ただ、訓練はそれぞれの階位ごとで行われるため、なかなか話す機会はなかったのだが・・・

「久しぶりね、アル。」

ミカとの訓練を終え、1階にある噴水の前で休んでいると、外から戻ってきたアンナと偶然会った。

「やあ、アンナ。久しぶり。体の調子はどう?」

「騎士団の優秀な治癒魔術士のおかげで完全に回復したわ。むしろ前よりも調子がいいくらい。」

アンナはそう答えると、アルの隣にこしかける。

「そういえば、あなたいきなりシルバーナイトに任命されたんですってね。すごいわ。実は私とダリアンもブロンズナイトに任命されんだけど、やっぱりあなたにはかなわないわね。」

「君とダリアンのことはミカさんから聞いてるよ。最初からブロンズナイトに任命されるだけでも優秀だって、ミカさんが言ってたよ。」

「それはそうなんだけど・・・あなたがいるから素直に喜べないのよね~。」

そう言いながらアンナは少しだけ眉をひそめてアルを見た。

「ただ、それが今の私とあなたの差だから、ちゃんと受け止めるわ。それに私だけじゃなくて、ダリアンもあなたに追いつこうと必死になってるの。シルバーナイトでのんびりしてたら、私たちが追い越しちゃうんだからね。」

そう言って一瞬笑顔を見せた後、アンナが暗い表情になる。

「それから・・・ミドナとブルのこと、聞いたわ。残念だったわね・・・」

「そうだね・・・カレンさんには会った?」

「えぇ、私がまだ学園で治療中の時に会いに来てくれたわ。かなりこたえてたみたいだけど、でも、彼女の命だけでも助かってよかったと思ってるわ。ミドナとブルは・・・いい人たち、だったわよね・・・」

アルはゆっくりとうなずく。

「短い付き合いだったけど、二人ともいい友人だったと思ってる。」

「きっと彼らもそう思ってるわ。特にミドナなんて、あなたのことすごく気に入っていたもの。」

そう言って、アンナが微笑みながらアルを見る。そうして少しばかりの沈黙の後、アンナが再び口を開いた。

「そう言えば、ミカさんとの訓練はどう?」

「楽しいよ。毎日ボコボコにされてるけどね。」

「楽しいって・・・フフッ、やっぱりアルはアルね。ミカさんは厳しいって有名だけど、あなたには無用な心配だったみたい。」

そう言うとアンナはひょいっと立ち上がった。

「じゃあ私はこのあと訓練の報告が残ってるからそろそろ行くわ。話せてよかった。またね。」

「うん、またね。」

アルは座ったまま、中へと入っていくアンナを見送った。


翌朝、アルは3階にある中議堂に呼び出された。中に入るとダニエルとミカの他に数名の騎士がいる。

「アルくん、早い時間にすみませんね。他にも呼んでいるものがいますので少し待っていてください。」

ダニエルにそう言われ、部屋の中で待っていると、後からダリアンとアンナが入ってきた。

先に部屋いたアルを見つけたアンナが、呼ばれた理由を欲した表情で見つめてくる。ただ、アルもその答えを持っていないため、無言で目をそらした。

「そろいましたね。では、さっそく本題に入りましょう。あなたたち3人は今回の入団試験における成績上位者です。それは任命された称号からもわかっているとおもいます。あなたたちには来週行われる新星の儀に参加していただきます。新星の儀とは、すべてのホルドサイドから新しく騎士団に入団したものたちが集い、その力を示す場になります。場所は海上都市シーグランド。あなたたちはそこで他のホルドサイドの騎士と模擬戦をし、実力を示してきてください。」

面白そうな催しに、アルは目を輝かせる。

「違う階位の騎士と模擬戦をすることもあるのでしょうか?」

ダニエルの説明に対し、アンナが質問を投げた。

「いえ、新星の儀では同じ階位の騎士同士が模擬戦を行います。基本的に新星の儀に参加するのはブロンズナイトを任命をされた騎士になりますね。ただ、今回は他のホルドナイトでもシルバーナイトに任命された騎士が2人いますので、アルくんにも参加してもらいます。」

その回答にダリアンが悔しそうな表情を見せる。相変わらずわかりやすい。

「出発は5日後です。外部からの攻撃を考慮し、ゴールドナイトのシルビア・ラミールウッドとともにシーグランドに向かってもらいます。シルビアさん、よろしくお願いします。」

ダニエルの言葉に、奥にいた女性の騎士が頭を下げる。金髪の長い髪を頭の上でまとめているその騎士はかなり若く見えた。

「説明は以上ですが、何か質問はありますか?」

特に反応がないことを見るとダニエルはこの場をしめた。

「では解散とします。各自本日の訓練に向かってください。」

アルたち3人は中議堂を出ると、近くの昇降機へと向かう。

「ねぇねぇ、君たち!」

ちょうど昇降機の前に着いたときに後ろから声をかけられた。さきほど部屋にいた、シルビアというゴールドナイトだ。

「シルビアさん。」

その問いかけにアンナが反応する。どうやら顔見知りのようだ。

「アンナちゃん。久しぶりだね。騎士になれたようで私もうれしいよ!で、君がダニエル様の弟のダリアンくんで、君がギルガを倒したアルくんだね!よろしく!」

「よろしくお願いします。」

以前にも身に覚えのある、遠慮のなさを感じながらアルは頭を下げる。

「にしてもアルくんもシルバーナイトなんだね~。やるね~。私の弟と、どっちが強いかな~。」

「弟?」

シルビアの言葉にアンナが反応する。

「うん。インセットでシルバーナイトになったミグル・クビサイ。あれ、私の弟なんだ。」

「えっ!?」

アンナが驚いた声を上げる。

「シルビアさん、ミグルのお姉さんだったんですか・・・どうりでどこかで見たことあると思ったんですよね・・・」

「母親は違うんだけどね~。あれ、アンナちゃん、ミグルと会ったことある?」

「はい、試験の前に一度、アルと3人でギルドの依頼を受けました。」

「そうなんだ。騒がしい奴だったでしょ?まったく、誰に似たんだかな~。」

自覚がないところも似ている、とアルは思った。

「まぁミグルには勝てないと思うけどね~。」

その言葉にアルが口を開く。

「じゃあもしミグルに勝てたら、そのあとはシルビアさんも俺の相手をしてくれますか?」

シルビアは一瞬キョトンとした後、大きく笑った。

「ははっ、やっぱり君、おもしろいね!うん、いいよ!でも、私はミグルの10倍強いから、覚悟しておいてね!」

そう言うと、シルビアは背を向けて去ろうとする。

「あ、5日後のことはまた後で連絡するね!じゃあばいばい!」

振り返ってそれだけ言うとシルビアは颯爽と去っていった。

その後ろ姿を見ながら、アルは無意識にミグルの姿とかさねるのであった。

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