第1章 11話 試験の終わり
ギルガとの戦闘が終わってから30分ほどで騎士団が到着した。
人数は10人ほどだが、その中にはホルダーのダニエルやゴールドナイトのミカの姿もあり、警戒度の高さがうかがえる。
「兄様・・・」
「ダリアン。無事でよかった。動けますか?」
「はい・・・すみません・・・」
「なぜ謝るのですか。あなたはギルガ相手によく生き残りました。まずは傷の回復に努めてください。詳しく話はまた後で聞きます。」
「はい、わかりました・・・」
「救護班、ミルトンとアンナさんの対応を急ぎお願いします。」
騎士への対応を促すとダニエルはアルのもとへと近寄ってくる。
「アルくん。まずは兄として弟を救ってくれたことに感謝を。そして全員の命があるのも君のおかげです。本当にありがとうございました。」
「ギリギリでしたけどね。それにギルガを倒せたのは俺1人の力じゃないですよ。ダリアンの作った傷がなければやられていました。生き残れたのは全員の力があったからです。」
「そうですか。わかりました。事の詳細はまた改めてブランヘルブに帰ってから聞きましょう。まずはあなたもブランヘルブに戻り傷を癒してください。」
「わかりました。あ、これは先に伝えておきますが、ギルガの他にも獣を討伐してます。ここから北東のところに3匹のサーベルサンドがいるはずです。」
「サーベルサンド?」
ダニエルが眉をひそめる。
「そうですか・・・わかりました。そちらも確認しておきます。」
そう告げるとダニエルはアルに背を向け、ミカに声をかけた。
「ミカさん、後は彼らをよろしくお願いします。私は周辺の調査をしてから戻りますので。」
「承知しました、ダニエル様。お気をつけて。」
ミカの言葉にうなずくとダニエルはすぐに密林の奥へと姿を消した。
「では私たちはブランヘルブへと戻るぞ。」
そう言って背を向けるミカにアルが声をかける。
「ミカさん、すみません。相棒の地竜を離れたところで待機させてるので、俺は一度そこによってから追いかけます。」
「そうか、1人で平気か?」
「はい、そんなに離れていないので大丈夫です。」
「わかった。では、密林を出たところで待っている。」
そうしてアルはミカたちと別れると、ジークのもとへと向かった。
「クエッ!」
アルの顔を見ると、ジークは声を上げて駆け寄ってきた。
「またせたね、ジーク。」
アルになでられると、ジークは心配そうにアルの傷口を見た。
「心配かけてごめんね、俺は大丈夫だよ。さ、試験も終わったし、俺たちも帰ろう。」
「クエッ!」
元気よく声を上げたジークの背に乗ると、アルは密林の出口へと向かった。
密林を出ると、そこには大型の馬車が停まっていた。中にはすでにアンナとミルトンが寝かせられている。
「アル、来たな。お前は・・・その地竜と一緒でよさそうだな。」
ミカの問いにアルはうなずく。
「では帰るとしよう。ダリアンは馬車に乗れ。バイクは他の騎士が乗っていく。」
ミカにうながされ、ダリアンが馬車に乗ると、アルたちは密林をあとにした。
「そういえば、試験はどうなるんですか?」
馬車と並走しながら、荷台にのるミカにアルはたずねた。
「ミルトンに話を聞いてからにはなるが・・・ギルガ相手に生き残ったのだ、試験としては合格だろう。ただ・・・今回の件を受けて騎士になりたいかどうかは改めて確認しなければならん。」
険しい表情でミカがそう答える。その様子にアルは少し違和感を覚えた。
「確かに俺たちが遭遇したギルガはイレギュラーでしたが、そういった危険はつきものでは?ダリアンもアンナも騎士になる以上それは覚悟の上だと思います。」
ミカのすぐ後ろでダリアンは無言のまま話を聞いている。
「だとしても、そういった経験をするにはまだ早すぎる。それに・・・」
ミカはここで少しだけためらうような様子を見せた後、こう続けた。
「ブランヘルブに着けばわかることだから話しておくが、実は他の試験場所でもギルガやそれに準ずるような獣の出現があったのだ。」
「え?」
その時、まっさきにミドナとブルの顔が浮かんだ。
「他の受験者は無事なんですか?」
「・・・わからん。他の場所でも監視していた騎士から緊急の連絡があり、ブランヘルブにいた騎士たちがそれぞれ向かっている。そして一番の問題は・・・1次試験での成績上位者ばかりが狙われたということだ。」
ミカによれば、アルたち受験者は1次試験の成績順でグループが作られていたらしい。剣士2名、魔術師1名のグループでアルたちが最上位のグループだ。緊急要請があったのは全部で5か所だというから、ミドナたちのところにもギルガが現れたのだろう。
「これは明らかに騎士団の戦力低下を目的とした外部からの攻撃だ。そして・・・騎士団の中に情報を流した裏切者がいる。」
ミカがさらに表情を険しくし、語尾を強めた。
「すまない、少し取り乱した。ただ、やはりそういったことをふまえて、改めてその意思を確認する必要があるということだ。」
そう話すと、ミカは険しい表情のまま口を閉じた。
ブランヘルブへ戻ると、傷の手当てのためアルたちは騎士学園の医務室へと通された。
中に入るとすでに何人かの受験者がベッドに横になっており、医師からの治療を受けている。アンナとミルトンはまだ意識が戻っておらず、奥のベッドへと運ばれていった。
アルはベッドを見渡したが、ミドナやブルの姿は見当たらない。
「ミカさん、まだ帰ってきてない受験者はいるんですか?」
「いや、私たちが最後のはずだ。誰かを探しているのか?治療が終わったものや、不要なものは講堂に集められているから、もうそっちにいるのかもしれないな。お前も治療が終わったら講堂に向かってくれ。」
「そうですか、わかりました。」
ミカは医務室にいた騎士と少し会話すると、そのまま部屋を出ていった。
アルは指示されたベッドに腰かけ、医師が来るのを待つ。よく見ればかなり重傷を負っている受験者もいるようで、医師はみな忙しそうにしている。
ミドナたちが今ここにいないということは、軽傷でギルガから逃げきれたのだろう。
そんなことを考えながらベッドで休んでいると、アルのところにも医師がやってきた。
ただ、アルはすでに自身で回復魔法を使っていたことと、アルの体自体回復速度が速いこともあり、医師からの治療はすぐに済んだ。
医務室を出ようとしたとき、ちょうどアンナが目を覚ました。
「目が覚めたんだね、アンナ。」
「アル・・・よかった、無事だったのね。」
「あぁ、俺は大丈夫だよ。アンナは大丈夫?」
「私は・・・まだ少し動けそうにないわね・・・頭がくらくらするわ・・・それに・・・ここは?」
「ここは騎士学園の医務室だよ。あれから騎士団の人たちが駆けつけてくれて、君をここに運んだんだ。」
「そうだったのね。あれから・・・あっ、ダリアンは!?ダリアンは無事なの?」
「うん、彼も無事だよ。今はあっちで治療をうけてるところ。だから君もまずは自分の体を回復させることに集中するんだ。」
「そう、ダリアンも無事なのね・・・よかった。えぇ、そうするわ。」
そういうとアンナは再び目を閉じた。アルはアンナが目を覚ましたことを医師に伝えると、講堂へと向かった。
講堂につくと、入り口にはルービスが立っていた。
「アルくん。無事でよかった。大きなけがもないようだね。」
「えぇ、なんとか帰ってこれました。ルービスさんも緊急要請の対応に向かっていたんですか?」
「いや、私はすでに騎士ではないからね。ただ今回は人手が必要なこともあって、私は学園で試験から戻ってきた受験者の管理をしていたんだ。」
「そうですか。お疲れ様です。中に入っても?」
「あぁ、構わないよ。しばらくしたらマリリカ様が来るだろうから、それまで中で待っているといいよ。」
そう言うとルービスは講堂の扉を開け、アルを中へと誘導した。
講堂には30人ほどの受験者がいた。みな合格した受験者なのだろう、ところどころに軽傷を負っているものもいるが、表情は明るくリラックスしているように見える。ただ、ここにもミドナやブルの姿はなかった。
アルの頭に嫌な予感がはしる。ミドナやブルが合格していないとは考えられない。だとすると、別の場所にいる?誰か知っていそうな人は・・・アルは一瞬考えて、すぐさま講堂の入口へと引き返すと、ルービスに声をかけた。
「ルービスさん、他の受験者はどこですか?」
「他の受験者?不合格者のことかい?」
「いえ、違います。試験には合格しているはずです。」
「・・・」
ルービスは少しの沈黙の後、口を開いた。
「訓練場にいる。」
やはり知っていた。
「ありがとうございます。」
アルはそう言い残すとルービスに背を向けて訓練場へと向かった。
訓練場の入り口に近づいたとき、中から女の人の叫び声が聞こえた。
「なんで!・・・なんでなのよ!」
聞いたことのある声に、アルの心がざわつく。
はやる気持ちを抑えながらアルは急いで中に入ると、訓練場の奥でミオがうずくまっていた。その近くにはカレンと呼ばれていた受験者が立っている。
その様子からアルはすべてを察すると、ゆっくりとミオに近づいた。
「ミオさん・・・」
アルがそっと声をかけると、ミオはゆっくりと顔を上げる。
「アル・・・さん・・・ミドナが・・・ブルが・・・あぁー!!」
そうして大粒の涙をうかべて顔をくしゃくしゃにしながら、再びうずくまってしまった。
ミオはすでに会話ができる状態ではなかった。
ミオのそばにはミドナとブルが横たわっていた。
ただし、ミドナは上半身と下半身がつながっておらず、ブルの胸には大きな穴が開いていた。
それを見た時、アルは無意識に顔をしかめ、こぶしを握り締めていた。
アルにとって彼らとの付き合いはほんの数日だった。しかし、その短い時間の中でも、彼らはアルによくしてくれた。ミドナもブルもとても魅力的な人間だと思った。これからよき友人になれると思っていたし、今度は騎士として一緒に獣の討伐にもいくだろうと思っていた。それなのに・・・
もし自分がその場にいれば、と、一瞬考えてアルは頭を振った。
ブランヘルブへの帰り道、ミカに言った言葉を思い出す。今回の件は確かにイレギュラーだった。しかし、騎士として生きる以上、そういったことは避けられない。
アルは一度目をつぶり、大きく息を吐く。
それを見ていたカレンが泣きながら声をあげた。
「すみません・・・ミドナさんも、ブルックさんも、わ、私を守って戦ってくれて・・・でも、私、何もできなくて、怖くて・・・」
よく見れば彼女も傷だらけだった。
「君が謝る必要なんてない。君も、ミドナも、ブルも、必死で戦った。そうだろう?だから、自分を責めちゃだめだよ。」
下を向くカレンにそう声をかけると、アルはしゃがんでミドナとブルに近づいた。
そして、青白くなった2人の顔にそっと触れると、優しく声をかけた。
「2人とも、お疲れ様。こんなになるまで戦って、よく頑張ったね。あとはゆっくり休んで。」
そう言ってアルは立ち上がり辺りを見回す。
訓練場にはミドナたちのほかにも十数人ほどの受験者と4名の騎士が寝かされていた。近くにはミドナたちについていた騎士の姿もある。
ミカの話によれば、外部からの攻撃を受けたのは全部で5組。その攻撃でアルたち以外の組はほとんどが命を落としてしまったのだろう。
アルはゆっくりと視線をミドナとブルに戻し、小さくつぶやく。
「君たちの仇は・・・俺が必ずうつから。」
ブランヘルブにきたばかりで、アルにはなぜ騎士団が攻撃を受けたのかまったくわからない。しかし、その攻撃はアルの友人の命を奪った。それだけでアルにそう決意させるには十分だった。
アルはもう一度大きく息を吐くと、うずまったままのミオに声をかけた。
「ミオさん」
しかし、ミオからの反応はなく、ミドナとブルの間でうずくまったままだ。しばらくはそっとしておいた方がいいだろう。
アルは2人から離れると、カレンに声をかけた。
「君も一緒に講堂に行こう。ここから離れた方が君も落ち着くと思うから。」
「でも・・・」
カレンはミオを気にしている様子だった。
「ミオさんのことは騎士の人に任せよう。俺たちがここにいても何もできないからね。」
そう言ってアルは半ば強引にカレンを連れ出すと講堂へと向かった。
「アルくん。訓練場に探していた人はいたかい?」
再び講堂に戻ってきたアルにルービスが声をかける。
「はい。」
「・・・そうか。それは残念だったね。」
ルービスは少しだけ声のトーンをさげてそう返すと、講堂の扉を開いた。
「そろそろマリリカ様から話がある。これからについては中で聞いてくれ。」
アルは無言でうなずくと、カレンを連れて中へと入る。講堂にはダリアンの姿もあった。どうやら治療は終わったらしい。ただ、アンナの姿はなく、彼女はいまも医務室だろう。
アルが講堂にはいってすぐに、壇上にマリリカが姿を現した。
「諸君、まずは入団試験ご苦労だった。一部別室で治療中のものもいるが、ここにいる諸君らはみな騎士になるための素質があると判断された者たちだ。我々もうれしく思う。ただ、今回は改めてもう一度入団する意思を確認させてもらいたい。」
そう言うとマリリカはゆっくりと受験者たちをみわたした。
「実は今回、いくつかの受験者の組で想定外の獣の攻撃を受けた。それにより、監視していた騎士を含め、15名が命を落としている。」
突然のマリリカからの報告に講堂内がざわつく。
「本来そういったことが起こらないよう、各組にはシルバーナイトを1名ずつつけていた。試験エリアも事前に調査を行い、シルバーナイトが対処できない獣がいないことは確認済みだ。つまりこれは偶然のものではない。意図的な騎士団に対する攻撃だ。その標的として諸君ら受験者が狙われ、助けられなかった者がいたことは申し訳なく思っている。」
そう言うとマリリカは頭を下げた。それを受験者たちは無言で見つめる。
「首謀者は必ず我々が見つけ出す。ただ、諸君らの中には不安に思うものもいるだろう。もちろん、騎士になればさまざまな危険が伴うものだ。しかし諸君らはまだ騎士ではない。今の話を聞いて意思の変わったものは遠慮なく入団を辞退してもらってかまわない。」
その言葉とともに講堂の扉が開かれた。沈黙の中、受験者にまだ動きはない。その時後ろから袖をつかまれた。
「アルさん・・・私は・・・辞退しようと思います・・・私はもう、戦えません・・・」
そういうカレンは小さく震えていた。
「そうか。わかった。さっきも言ったけど、自分を責めちゃダメだよ。君がずっと下を向いてることを、ミドナもブルも望んでないはずだから。それを忘れないで。」
そう答えたアルに、カレンは無言で頷くと静かに講堂を出ていった。
そんなカレンを見て、他にも数名の受験者が講堂を出て行く。
「では改めて・・・」
残った受験者に動きのないことを確認するとマリリカは再び口を開いた。
「我々騎士団は諸君らの入団を歓迎する!これからは諸君らが人類の希望だ。騎士としてさらなる高みを目指し、日々精進してくれ。私からは以上だ。」
そう言うとマリリカは講堂をあとにした。説明の時と同様、マリリカと入れ替わりでミカが壇上に姿を見せる。
「では私から君たちの今後の動きについて説明をする。この後君たちには騎士を証明するナイトバッジと騎士団の制服を渡す。私の話が終わった後、各自隣の部屋に移動し、1次試験の時に渡されたリングと引き換えにそれらを受け取ってくれ。それをもって今日は解散だ。そして明後日からはフォルトレスで生活をしてもらう。ナイトバッジと制服を身につけ、最低限の荷物だけもって明後日の朝9時までにフォルトレスに来るように。説明は以上だ。では次は、フォルトレスで会おう。」
そう言うとミカは壇上から姿を消した。
ミカの話が終わると、受験者はみな指示通り講堂を出て隣の部屋へと移動し始めた。アルもそれに続き隣の部屋へと向かう。講堂を出るときに辺りを見回したが、先ほどまでいたルービスの姿はなかった。
「アル・グレイシアくんですね。」
隣の部屋で騎士にリングを渡すと、引き換えに制服が差し出される。
「えーっと、あなたにはまず制服のみお渡しします。ナイトバッジについてはマリリカ様からお渡しするとのことです。この後学長室に向かっていただけますか?」
「学長室ですか、わかりました。」
おそらくは先ほどの件についても話があるのだろう。アルは制服を受け取ると、1人に学長室へと向かった。
学長室に入ると、そこにはマリリカのほかに、ダニエルとミカ、そしてルービスもいた。
「アル、来たかい。ダニエルから少し話を聞いたが、まずはギルガの討伐、よくやってくれたね。お前のおかげでミルトン、ダリアン、そしてアンナの命が助かった。礼を言うよ。」
「ギリギリでしたが、なんとか倒すことができました。ミルトンさんも助かったみたいでよかったです。」
ダニエルやミカもいる手前、アルはいつもの調子でマリリカに接することを控えた。
その様子にマリリカは、ふん、と鼻を鳴らす。
「まずは試験エリアでの出来事について詳しく聞かせてくれるかい?」
マリリカからそう言われ、アルはカゲトラを討伐した後の出来事について詳しく話をした。
「黒い瘴気を纏った獣か、なるほどな・・・たしか以前にもお前は黒いサーベルサンドと遭遇したのだろう?その討伐個体はどうした?」
「その時一緒にいたミグル・クビサイという人物が、調査のためにブリガーデンに持っていったと思います。」
「ミグル・クビサイ・・・あの武術バカの小僧か・・・それはいつのことだ?」
「たしか10日ほど前だったと思います。」
「ミカ、調査状況についてブリガーデンに確認してくれ。」
「わかりました。」
そう答えると、ミカは学長室を出ていった。
「その後再び訪れたサーベルサンドの縄張りで何者かの視線を感じたと・・・ルービス、お前はどう思う?」
壁に寄りかかる形で話を聞いていたルービスにマリリカが問いかける。
「ギルガもサーベルサンドも、何者かに操られていたとみるのが妥当でしょう。ただ、獣を操る魔法など聞いたことがない。その視線の人物に聞ければよかったんですが・・・サーベルサンドの縄張りの方は、特に変わったところはなかったと聞いてますんで、まずは死体を詳しく調べる必要があるでしょうな。」
ルービスの返答に今度はダニエルが口を開く。
「それについてですが、ギルガの死体は回収しています。体のところどころに鱗の生えた明らかに異常な個体でした。ただ・・・サーベルサンドについては死体が見つかりませんでした。アルくんの言った場所に戦った痕跡はあったので、私たちが着く前に何者かが回収したものと思われます。」
「そうか・・・」
ダニエルの発言にマリリカが少し考え込む。
「状況についてはわかった。まずはギルガの調査を最優先に進めるとしよう。それからアル、お前にはもう一つ伝えておく。実は今回、他のホルドサイドでも同じように入団試験が行われていたんだが・・・そのうち、スコットウッド、マジュリン、カイランドの3つのホルドサイドでも受験者が襲撃された。いずれも1次試験の上位者が狙われ、ほとんどが命を落とした。」
「そうですか・・・つまり今回の首謀者は単独ではない、ということですね。」
「あぁ。単独ではなく・・・おそらく組織的な集団によるものだろう。」
「でも、なぜそれを俺に?」
「それは、お前には今後シルバーナイトととしてブランヘルブ以外でも動いてもらうからだ。」
そう言ってマリリカは銀のバッジをアルに差し出した。
「それはシルバーナイトのナイトバッジだ。通常はホルドナイト、ブロンズナイトを経てからにはなるが、お前の実力はすでにゴールドナイトにせまる。今回の件を受け、騎士団の力をより強固にしたい今、お前を他の入団者と同じように扱っていてはもったいないからな。特例にはなるが、お前をシルバーナイトに任命する。」
それを聞き、アルはちらりとダニエルを見た。
「もちろんダニエルや他のゴールドナイトの賛同も得ている。私の独断ではないから安心して受け取れ。」
アルの考えを察したマリリカが先回りして答える。
「わかりました。ではありがたく。」
そう言ってアルはナイトバッジを受け取った。
「今後はミカのもとで動いてくれ。それから他の受験者は明後日からだが、お前は明日からフォルトレスに来るんだ。詳しいことは後でミカから聞いてくれ。」
ギルガとの戦いで少し無理をしたため、明日はゆっくり休もうと思っていたがしかたない。
「一晩あれば魔力も回復するだろう?」
再びマリリカが先回りして答える。どうやらアルの考えはすべてお見通しらしい。
「それに、ビーフォース2発で限界のようじゃ、現役を退いたあたしにも勝てないよ。ミカにみっちり鍛えてもらいな。」
「・・・わかりました。」
マリリカの言葉にアルは少しむっとするも、事実であるため何も言い返せずしぶしぶ承諾した。
そんなやり取りを終えると、ミカが学長室に戻ってきた。
「ブリガーデンに確認できました。5日前にミグル・クビサイから鱗の生えたサーベルサンドの提供があったとのことです。そしてその調査結果ですが・・・生えていた鱗は龍の鱗の可能性が高いとのことです。」
「なんだと?」
マリリカから一瞬すさまじい圧を感じる。これはかなり怒っているようだ。
「こやつら、神聖なる龍の血を汚すか・・・許せん・・・」
両こぶしを強く握り、険しい表情を崩さないマリリカにダニエルが口を開く。
「5日後の聖議会で他のホルダーとも議論し対策を考えましょう。我々もまだ現状の整理ができていませんので。それまで可能な限り調査を進めておきます。」
「そうだな・・・」
ダニエルの言葉にマリリカは大きく息を吐き、感情を落ち着かせる。
「ミカ、アルには明日からフォルトレスに来るよう伝えてある。詳しいことは伝えてないから、後はお前に任せるよ。」
「は、承知しました。」
「ではこの場は解散とする。みな遅くまでご苦労だったね。」
その言葉に、ダニエルは頭を下げるとさっそうと学長室を出ていく。それに続いてルービスも部屋を出ていった。アルもミカとともに学長室を出る。
「マリリカ様からも聞いていると思うが、君は明日から私のもとで動いてもらう。ただ、今日はもう遅い、具体的な話はまた明日にするとしよう。明日は10時にフォルトレスに来てくれ。」
「はい、わかりました。」
それだけ伝えるとミカはアルに背を向けて去っていった。
「ふぅ・・・さて、帰るか。」
アルは人気のなくなった学園を出ると、ジークを連れて帰路へとついた。




