第1章 10話 危機との遭遇
あれから交代で見張りをしていたが、結局カゲトラは現れなかった。
「おはよう、アンナ。少しは休めた?」
テントから出てきたアンナに声をかける。
「おはよう。えぇ、意外と休めたわ。これなら今日も問題なく動けそうね。」
「それはよかった。あ、これ食べる?」
アルは先ほど捕まえてきた獣をアンナに差し出した。
「ありがとう。でも結構よ。自分で準備しているから。」
そう言ってアンナは鞄から食料を取り出しアルに見せると、そのままアルの隣に腰かけ食べ始めた。
「ダリアンも特に動きはなさそうだね。」
「そうみたいね。はぁ、今日こそはカゲトラが現れてくれるといいんだけどなぁ。」
アンナは不安げな表情を浮かべながら、そばで丸くなっているジークをなでる。
「私が探知魔法を使いこなせていれば、カゲトラもすぐに見つけられたかもしれないのに・・・」
「ないものを考えても仕方ないよ。それに探知魔法は上位の魔法だから、そもそもこの試験で使われることは想定されてないんじゃないかな。ミドナも言ってたように、ダリアンの作戦は間違ってないと思うから、今はそれを信じてもう少し待ってみよう。」
「えぇ、そうね。わかったわ。」
朝食を食べ終えると、アンナは昨日いた場所へと戻っていった。
「さてジーク、今日もカゲトラを誘き出せるよう頼んだよ。」
「クェッ!」
そう言ってアルはジークにこの場を任せると、再び木の上へと駆け上った。
「今日もダメか・・・」
夕暮れ時、木から降りたアルがジークに近づきながらぼそりと呟く。
「お疲れ、ジーク。今日はここまでにしよう。」
そう言って首元をなでると、嬉しそうな表情を見せる。
「それにしてもこの森、なんだか違和感があるんだよな〜。少し・・・静かすぎる。」
この密林に入って1日半、大型の獣をまったく見かけていない。
アルの経験からすれば、もう少しその気配を感じても良い気がしていた。
「この森がそうなのか、もしくはイレギュラーなことが起きているのか・・・」
そんなことを考えながら食事の準備をしようとしたその時だった。
「ブゥー!」
突如大きな音を立てて魔道具が振動し、見るとアンナを示す矢印が赤く点滅している。
「来た!」
アルはすぐさま手綱をほどくと、ジークをその場に待機させ、1人その場所へと向かった。
魔道具の指す場所に着くとアンナが左腕から血を流しながら杖を構えていた。
ただ、辺りに獣の姿はない。
その時アルとは反対方向からダリアンも姿を見せた。
「アンナ、大丈夫!?」
「えぇ、大丈夫。少し爪がかすっただけよ。それより・・・まだ近くに潜んでるわ。」
それを聞くとダリアンが短く詠唱し、半径20mほどの結界をはった。
「カゲトラを逃がさないための結界だ。解除しない限り外へは出れん。」
「よし、ダリアン、そっち側は任せる!」
「うるさい、俺に指図するな。」
アンナを間に挟み、アルとダリアンは背中合わせになりながら辺りを見回す。
不自然なほどの静寂の中、アルはじっと林を見つめる。
闇の奥、きらりと何かが光ったと同時、影から大きなトラがアルにとびかかってきた。
「スラスト!」
「波斬撃!」
アルの突きをうけ、絶命したカゲトラが横たわる。
振り返るとダリアンの前にも別のカゲトラが倒れていた。体には大きな切り傷が刻まれている。
「カゲトラは群れで行動するのか。じゃあまだいるかもしれないね。」
「結界内にいたのはこの2匹だけだ。」
どうやらダリアンは結界をはった時にカゲトラが2匹いることに気付いていたらしい。
だったら言ってくれればいいのにと、そう思いながらダリアンを見たが、すぐに目をそらして倒れているカゲトラへと近寄っていった。
「牙をはぎ取ってさっさと帰るぞ。」
そういってダリアンがしゃがみこんだ時、パキンという音を立てて結界が消えた。
「なんだと!?」
驚いた様子でダリアンが振り返り空を見上げる。
アルも異常を感じて空を見上げようとしたその時だった。
「ドスンッ!」
突如背後に上から大きな何かが落ちてきた気配。
「ん?」
振り向くと同時、視界の端から大きな手が迫ってくるのが見えた。
アルは咄嗟に棍を縦に構えたが、こらえる体勢が間に合わず、そのまま大きく吹き飛ばされてしまう。
「アル!」
アンナの呼ぶ声が聞こえたが、すぐに2人の姿は見えなくなった。
「くそ、なんだ今の?」
100mほど吹き飛ばされたところでアルは地面に着地した。
そうしてふと、ミドナの話を思い出す。
「・・・あれが、ギルガ?」
瞬時に感じた強さとあの見た目からおそらくそうだろうとアルは判断した。
それならば急いで戻らないといけない。アルはすぐさまアンナたちのところへと向かおうとするが・・・
「ガルルル・・・」
すでにアルの周りを黒い瘴気をまとったサーベルサンドが3匹囲っていた。
「まったく・・・あれから気にはなってたけど、こんなところで会うなんてね・・・」
どうしようか考えるアルをよそに、真後ろにいた1匹が飛びかかってくる。
アルはすぐさま棍を振り払うが、それを足でいなしよけられてしまう。
「なるほどね・・・ミグルの言う通り、確かにこれはやっかいだな・・・」
すかさずとびかかってきた別の1匹に対し、今度は突きを放つがそれもよけられてしまった。
やはりただの獣じゃない。アルは覚悟を決めて棍を握る手に力を入れる。
「さっきのやつためにとっときたかったんだけど、仕方ないか。」
そう言って大きく息を吸い込むと、全身に魔力をまとわせた。
「さっさと終わらせてアンナたちのところに戻らせてもらうよ。ビーフォース」
その瞬間、アルの全身が白く輝きだした。
~~時はアルが吹き飛ばされた瞬間にもどる~~
「アル!」
アンナがあの男の名を叫んだが、ダリアンにその行方を追う余裕はなかった。
「アンナ、目の前に集中しろ。死ぬぞ。」
「死ぬって、アルが・・・え?」
空から降ってきた獣の正体に気づき、アンナが絶句する。
「なんでここに・・・なんでここにギルガがいるのよ!」
このエリアにいるはずのない獣、ギルガ。しかも目の前にいるギルガは少し様子がおかしい。首元や体のところどころに赤黒い鱗のようなものがついていて、全身を黒いもやが覆っている。
アンナが叫ぶと同時、少し離れたところで監視していたであろうミルトンが姿を現し、ダリアンの前で剣を構えた。
「2人とも逃げてください。私が時間を稼ぎます。」
剣を向けられたギルガがミルトンをみる。
「試験は中止です。こいつはあなたたちでどうにかできる相手じゃない。今すぐ逃げてください。」
そういうミルトンの体は震えていた。
それもそのはず、シルバーナイトであるミルトンにとってもギルガは格上の相手。1人で戦えば1分ともたないだろう。
「あなた1人じゃたいして持たないでしょう。俺たちも戦いますよ。そうすれば数分は稼げる。」
「数分稼げたところであなたたちが死んでしまっては意味がないんです!緊急の連絡は入れましたが、騎士団が到着するまでには数十分はかかる!」
「待つのは騎士団じゃない。さっき吹き飛ばされたあの男です。」
その言葉にミルトンとアンナが驚いた表情を見せる。
「吹き飛ばされたって・・・アルくんですか?彼も受験者ですよ?待ったところで・・・」
「大丈夫です。あの男なら・・・ギルガにも勝てる。」
ダリアンは訓練場でアルと対峙した時、アルの実力をおおよそ見抜いていた。そしてその実力と目の前のギルガを比べた時に、ほんの少しアルのほうが上回っていると感じた。
「ダリアン、あなた・・・」
「やつの強さはこの身をもって体感済みだ。癪だが今はあの男にかけるしかない。」
「しかし、それではあなたたちも危険に・・・」
「どのみち逃げたところですぐに追いつかれますよ。今の俺たちじゃあいつからは逃げきれない。だったら俺は生き残る可能性の高い方にかける。」
ミルトンはじっとダリアンを見つめ、ふう、と小さく息を吐いた。
「・・・わかりました。ではあなたを信じましょう。ただし、私が主攻を務めます。アンナさんは後ろに下がって援護を。」
「はい・・・わかりました。」
そう言ってアンナは杖を構えながらギルガから距離をとった。
「ダリアンくん、左右から攻めましょう。あなたなら、私の攻撃にもあわせられますね?」
「えぇ、問題ないです。」
そう答えると、ダリアンはゆっくりと右からギルガに近づいた。
「急に出てきた割にはずいぶんおとなしいですね。なんならこのまま帰ってくれてもいいんですよ。」
ミルトンがこちらをみたまま動かないギルガに対して声を上げる。しかしギルガは動かない。
「ずいぶん余裕ですね・・・こちらの準備が整うまで待った上に先制の隙まで与えてくれるとは。それなら遠慮なく行かせてもらいますよ!」
そう言ってミルトンが素早くギルガに切りかかった。
「な・・・」
目の前の事象にミルトンが絶句する。ミルトンの剣はきれいにギルガの胴体を捉えた。しかし、そこには一切の傷はなかった。
「ありえない・・・」
「ミルトンさん!」
動揺をあらわにするミルトンに対し振り落とされた大きな腕。それをギリギリのところでよけるとミルトンは少し距離をとる。
背中を見せたギルガに対し今度はダリアンが攻撃を仕掛けた。
「波斬撃!」
カゲトラをしとめた一撃。しかしそれもミルトンの攻撃と同様、ギルガに傷を与えることができなかった。
「くそっ!」
背を向けたままのギルガのバックブローを、ダリアンは後ろに跳躍しよける。
ギルガはそのままゆっくりと状態を起こすと、振り返りダリアンを見た。
「なるほどな。俺たちの攻撃ではダメージを受けんから余裕というわけだ。」
そしてなにより厄介なのは、奴がまだ本気で動いていないということ。完全に遊んでいる。ダリアンはたらりと汗が頬をつたうのを感じた。
「二人とも離れて!」
後方のアンナが叫ぶ。見れば杖に魔力をため、上位の魔法を放とうとしていた。
それを見たダリアンとミルトンは後ろに跳躍しギルガから距離をとった。
「いくわよ・・・マラキオラ!」
杖から放たれた光が一直線にギルガに向かっていく。
それを見たギルガはその場にとどまり、体の前で腕をクロスに構えた。
「いけー!」
アンナが叫ぶと同時、光がギルガにあたって、辺り一帯を大きな爆発が飲み込んだ。
ダリアンたちもその爆風をうけながらその場に耐える。
「・・・やったか・・・」
砂煙に包まれる中、ダリアンはじっと目を凝らした。
しかし、かすかな希望もつかの間、砂煙の中にいたのは先ほどと同じ位置に立つギルガだった。
左腕にはそれなりの傷があり、出血もしている。ただ、ダメージはそれだけだ。
「あれだけの攻撃を直接受けて、ダメージがそれだけだと・・・」
「そんな・・・シマミミズにだって効いたのに・・・」
急激に魔力を消費したせいだろう、アンナがその場に座り込む。
その瞬間、ギルガが右腕を振り上げてアンナへと飛びかかった。
「アンナ!」
「そうはさせません!」
ギルガが右腕を振り下ろす直前、ミルトンがすばやくアンナの前に割って入り、剣をかまえてその一撃を受け止めた。
「ぐぅっ!」
強烈な一撃をうけ、しかしミルトンは血を吐きながらもなんとか耐えきった。
ただ、次は受けきれないだろう。攻撃を受けた剣にはひびが入り、ミルトンの足は少し地面に食い込んでいる。
「ミルトンさん!」
ダリアンが叫んだが遅かった。
ギルガの右腕を受け止めた状態のミルトンを、今度は横からせまる左腕が吹き飛ばした。
「ぶぅっ・・・」
もろに攻撃を受け強く木にたたきつけられたミルトンは、大量の血を吐きながら地面に倒れると、その場で意識を失った。
「ミルトンさん!」
「アンナ、防御魔法を使え!」
「えっ」
アンナが目の前に意識を戻すと、今度はアンナに向かって横から大きな手が迫っていた。
「ロックウォール!」
間一髪、アンナは岩の壁をだしギルガの一撃を受ける。しかしその壁は攻撃を受けきれず、アンナもろとも吹き飛ばした。
「きゃあぁ!」
「アンナ!」
吹き飛ばされたアンナは地面に倒れて動かない。
「きさまぁ!」
我を忘れたダリアンが短剣を構えギルガへと突進する。
「斬流舞!」
その勢いのままにダリアンは舞を繰り出した。
ギルガの大きな手をよけながら舞い、斬撃を繰り出す。その斬撃は、やはりギルガの体に傷をつけることができなかった。しかし、ダリアンは手を止めない。
「1度の攻撃でダメージを与えられないなら、繰り返せばいい・・・俺の体力が先に尽きるか、お前の耐久力が限界になるか・・・根競べだ・・・」
そうしてダリアンは攻撃をし続けた。その結果・・・
「うぅっ・・・」
限界を超え、舞いを続けたダリアンの体が悲鳴を上げた。
足に力が入らず、ふらふらとよろけながら後退し、肩で息をしながら膝に手をつく。
しかしダリアンは小さく笑った。
「俺の勝ち・・・だな・・・」
「ピキッ」
そうつぶやくと同時、ギルガの左肩にひびが入った。本当に小さなひびだ。実際のダメージはほとんどないだろう。しかし、ダリアンの攻撃はギルガに届いたのだ。
「ガァアアア!!」
ギルガが大きく叫ぶと左腕を大きく振り、ダリアンを吹き飛ばした。
短剣を構え、なんとか直撃はさけたが、それでも勢いよく吹き飛ばされ、思い切り木にたたきつけられる。
「ぶっ・・・」
血を吐きながらも、ダリアンは倒れず耐えた。そして・・・
「遅いぞ・・・」
「ごめんごめん、戻るのに少し手間取っちゃってね。でも、上出来だよ、ダリアン。あとは俺に任せて。」
林の中、体にいくつかの傷を負いながらも姿を見せたアルにそう告げると、ダリアンは意識を失った。
3匹目のサーベルサンドを倒し終えた時、アルはもしかすると間に合わないかもしれないと思った。
それだけサーベルサンドが強敵だった。
アルの使った魔法、ビーフォースは上位の肉体強化魔法だ。騎士の中でも使えるものは限られるだろう。もし鍛えられていないものが使うと、体が耐えられず壊れてしまう。アルにとっても使えるのは1日に1度。それ以上は体がどうなるかわからない。だからギルガと戦うときまで取っておきたかったのだが、そうも言ってられなかった。
ビーフォースを使い、なんとかサーベルサンドを倒したアルは、すぐさまアンナたちのところへと向かった。サーベルサンドとの戦闘中、大きな爆発音が聞こえたが、あれはアンナのマラキオラだろう。あれで倒せていればと思ったが、楽観的過ぎると頭を振った。
そうしてなんとかアルがその場所へと戻った時、立っていたのはダリアンだけだった。
そのダリアンも、アルに一言伝えると意識を失い倒れてしまった。
アンナも意識を失っているが、息はある。ミルトンは口から大量に血を吐いており、ここからだと生きているかはわからない。
まぁどちらにせよ、目の前の獣を倒さない限り、全員生き残る道はない。
アルは気持ちを切り替え、ギルガに意識を集中した。
「不意打ちのうえに、飛ばした先にはサーベルサンドなんて、そんなに俺と戦うのが怖いのかい?」
ゆっくりと棍をかまえながら、アルはギルガに言葉を投げる。
「ガァアアア!!」
それに対し、ギルガは突如大きな叫び声をあげると、合わせた両手を振り上げながらアルに飛びかかった。
「よく見れば君も黒い瘴気をまとっているね。ただ、そんな攻撃じゃ不意打ちでもくらわなよ。」
大ぶりの一撃をアルは難なくよける。
「次はこっちからいくよ。コンボ・スラスト!」
隙だらけのギルガの横っ腹に、アルは連続で突きを放った。
「くっ、やっぱり硬いな・・・」
渾身の突きをすべてはじかれ、アルは顔をしかめる。
「なら、次は、1点集中で・・・」
そう言って握った棍に魔力を込める。
「スパークスラスト!」
シマミミズの体にも穴をあけた電気をまとった一撃。
見れば突いた場所がすこしだけひび割れていた。
「グァヴゥ!」
アルの一撃にギルガは少しよろめくと、目を赤く光らせてアルをにらみつけた。
「よしよし、これならいずれ倒せそ・・・」
そう思った瞬間、本能的にアルは後ろに飛びのいた。
それと同時に、ブオン、という風切り音をたてて、ぎりぎりアルの目の前を何かがかすめる。
見ればアルのいた場所にはギルガの大きな手が振り下ろされていた。
「あっぶな・・・なるほどね。さっきまでは本気で動いてなかったってわけだ。」
アルがスピードで大きく勝っているのなら、攻撃をよけながら突きを繰り出し続ければいい。
そうすれば問題なく勝てると思った。しかしこの目の前の獣は、スピードすらアルを上回ろうとしていた。
アルは額の汗をぬぐい、覚悟を決める。
「しかたない。体が耐えられるかわからないけど、このままじゃいずれやられるしね。なら・・・体が壊れる前に君を倒してみせる。いくよ・・・ビーフォース!」
体が白く輝くと同時、今度はアルから仕掛けた。ギルガに近づき、棍を思い切り振り払う。
「リジェクト!」
ギルガはそれを両腕で受け止めると、回転しバックブローを放った。
しかし、すでにアルはそこにはおらず、再びギルガの射程外から踏み込み棍を振り払う。
だがまたもや両腕で受け止められてしまった。
「くそ!」
アルは後ろに飛び距離をとる。
「あの腕の部分、特に頑丈だな・・・腕以外ならそれなりにダメージも入るはずなんだけど・・・」
それはこれまでノーガードだったギルガをみれば間違いないだろう。
自身の体中に感じる痛みをこらえながら、アルはじっとギルガをみる。
どうする?もうあまり時間はない。でもあの両腕をなんとかしないかぎり、アルの体に限界がきて終わりだ・・・どうする・・・
「ん?」
ふと、ギルガの左肩に小さなひびが入っているのが見えた。
「あれは・・・ダリアンか。」
ボロボロになりながらも、ダリアンはあの場でできることを最大限やりきってアルへと託した。
「よし、いける!」
ダリアンの残した傷跡に勝機を見出したアルは、もう一度踏み込もうとして・・・
「ぶっ・・・」
口から血を吐き、その場に膝をついた。思った以上に限界が近い。
しかし、その隙を見逃さず、ギルガが両手を振り上げながら飛びかかった。
先ほどとは比べ物にならない速度での攻撃。だが、その一撃はまたしてもアルを捉えることはなかった。
「隙を見せれば大振りの一撃を出すと思ってたよ・・・スラスト!」
攻撃をよけながらも放ったアルの突きは、見事ギルガの左肩を貫通した。
「ガァアアア!」
大きな声を上げながらギルガが後ろによろめく。同時に左腕が力なくだらりとのびた。
「逃さない!」
アルは棍を構えてさらに踏み込む。それを見たギルガは右腕を体の前で構えた。
「無駄だ!」
今度はギルガにダメージを与えるためではなく、右腕を弾き飛ばすために棍を振った。
「ガァッ!」
ギルガは構えていた右腕を弾き飛ばされ、大きくのけぞる。
「くっ!」
アルは両足に走る激痛をこらえながら、最後の力を振り絞り、全身に力を込めた。
「顔ががら空きだよ・・・くらえ・・・ヴェル・スラスト!」
ビーフォースを駆使し、アルが放った渾身の突き。
その一撃はギルガの頭部をきれいに貫き、この戦いの終わりを告げた。
バタッという音を立てて、目の前の獣が後ろに倒れる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・なんとか・・・勝てたな・・・」
体から一気に力が抜け、アルもその場に大の字になる。
「ぐぅ・・・いたぁ~」
全身の悲鳴を感じながら、アルは暗くなり始めた空を見上げた。
「ビーフォースまで使えるとはな。」
いつのまにか意識を取り戻していたダリアンが、木に寄りかかりながらアルに声をかける。
「なんだ、起きてたなら手伝ってくれてもよかったのに。」
ダリアンのほうを向く余裕もなく、アルは空を見上げたまま答える。
「ふん・・・今の俺にあの戦いに加われるほどの力はない・・・わかってて言っているのだから貴様もたいがい性格が悪いな。」
「はははは。でも、あの肩の傷がなかったら多分負けてたよ。あれ、つけたの君だろ?助かったよ。」
「なぜそう思う。」
「肩にはきれいに斬撃の跡が重なってあったからね。すぐに君の斬流舞だとわかったよ。」
「・・・俺は貴様を認めん・・・だが・・・今回のことは感謝しておく・・・」
「おや、君らしくないね。頭でも打った?」
「この場でとどめを刺してやろうか。」
「ごめんごめん。あ、ミルトンさん生きてるかな?」
「まだ息はある。だがかなり危険な状態だろう。騎士団がくるまでもつといいが・・・」
「俺も魔力が切れてて回復魔法が使えそうもないからな・・・待つしかないか・・・」
「お前・・・回復魔法も使えるのか?」
「低級のものだけどね。」
そう言うとダリアンは少し顔をしかめた後、ガサガサと足につけたポーチから何かを取り出すとアルに放り投げた。
「これは?」
「回復薬だ。それを使って回復魔法をかけてやれ。」
「・・・もっと早く出してくれても良かったんだよ?」
「それがなくても貴様は死なんだろ。いいからさっさと回復魔法をかけてやれ。」
「やれやれ・・・」
ダリアンらしさに安心しつつもアルは回復薬を飲むと、横たわるミルトンに近づき、回復魔法をかけた。
「ふぅ。これでできることはやったし、あとは騎士団を待とうか。」
アルは近くの木にもたれて座ると生き絶えたギルガを見る。
「それにしてもこいつはなんだったんだろう。君の結界を破って入ってきたし、明らかに普通じゃないよね。」
「本来この辺りにギルガはいない。それになにか様子もおかしかった。何者かが意図的に送り込んだとしか考えられん。」
「やっぱりそうか。実はさっき飛ばされた先にも鱗のはえたサーベルサンドがいたんだよね。明らかに待ち伏せしてた。」
「なんだと?・・・そうか、そのサーベルサンドに手こずっていたというわけか。これだけの獣を操っていたとなると首謀者の実力は相当なものだな。」
「そうだね。そいつが今襲ってきたら君に任せるよ。」
「そこまでバカではないだろう。騎士団が向かっている今、のこのこ出てくればそのしっぽをつかませるようなものだからな。」
そう言うとダリアンは暗くなった空を見上げて黙り込んだ。
アルもそれ以上は口を開かず、余った魔力を使い自身に回復魔法をかけながら騎士団の到着を待った。




