第1章 9話 入団2次試験開始
2次試験初日の今日もアンナはアルの家にやってきた。見ればホバーバイクにはずいぶんたくさんの荷物が積まれている。
「おはようアンナ。準備万端みたいだね。」
「当たり前じゃない。私はあなたと違って外で生活したことなんてないんだから。」
「外って言ってもルブルエリアだからそこまで過酷じゃないよ。」
「あなたと一緒にしないでよね。まったく。」
そう言っていつもの呆れ顔を見せる。
「あなたも準備はできてるのよね?」
「あぁ、もう出れるよ。」
「じゃあ行きましょ。」
アルは荷物を持つとジークをつれて家を出る。
「ジーク、今日もよろしくな。」
「クェッ!」
ジークに乗り、アンナと並んで学園を目指す。
「そう言えば聞こうと思ってたんだけど、君ってダリアンと婚約してるの?」
「げっ」
途端にアンナがいやな顔を見せる。
「誰から聞いたのよ・・・」
「ミドナからだよ。」
「はぁ。ダリアンとは腐れ縁でね、幼いころはよく一緒に遊んでたの。彼、あんなだから女子はみんな怖がってあまり話さないでしょ。そんな中で私だけが普通に話してるから、いつの間にかそんな噂が広まったみたいなのよね。」
「ふーん、じゃあ婚約はしてないってことか。」
「するわけないでしょ。ダリアンだって迷惑してると思うわ。」
あの様子をみるに、ダリアンはそうでもない気もするが・・・まぁそれは言わないでおこう。
今回は学園に入る前に、校門の近くにある広場により、ジークを預ける。
「おぉ、アルにアンナじゃねぇか!」
ちょうどミドナたちもバイクを止めて学園へと向かうところだったようで、アルたちに気づくと声をかけてきた。
「おはよう、ミドナ、ブル。調子はどう?」
「絶好調よ!な!」
横のブルが無言で頷く。
「1日でずいぶん仲良くなったのね、あなたたち。」
「おうよ。今回の試験も同じ組みだといいよな。外部生組ってことでよ。」
「はは、そうだね。」
「そういや、アル、昨日も1人で依頼を受けてたんだって?」
「え、そうなの?」
ミドナの発言にアンナが反応する。
「こっちは必死で準備してたっていうのに、ほんと呑気なものね。」
「はははは。まぁ特にやることもなかったしね。」
「みずくせぇな、俺らにも声かけてくれればよかったのによ。」
「そう思ったんだけど、そう言えばミドナたちの家を聞いてなかったからさ。」
「あ、確かに。じゃあ今回の試験が終わったらうちに招待するからよ、楽しみにしててくれや。」
「わかった、ありがとう。」
「もちろんアンナも招待するぜ。こう見えてブルの料理は絶品だからよ。」
「わかった、楽しみにしてる。そう言えば、あなたたちは2人で住んでるの?」
「いや、俺とブルとブルの姉貴の3人だ。ちなみにブルの姉貴は俺の婚約者だぜ。」
「へぇ、なんだか素敵な関係ね。あ、念のため言っておくけど、私ダリアンと婚約なんてしてないからね。」
「ん?なんでアンナがダリアンとって話になるんだ?」
急な話にミドナが首を傾げる。
「ミドナ、アンナはマリリカの孫なんだ。」
「えっ!そーなのか!じゃああんたの名前はアンナ・ルーシスか!」
「ええ、そうよ。というか私もこの前はちゃんと名乗ってなかったわね。改めてよろしく。」
「お、おう、よろしくな。(おいアル、そういうことはちゃんと言っとけよ!)」
小声でアルにそう言うミドナに対し、アルは無言で微笑んでおいた。
学園の講堂にはだいたい100人ほどの受験生が集まっていた。
「試験ではいつもどれくらいの受験者が合格するのかな?」
アルは隣に立つアンナに尋ねる。
「毎回の合格者は50人前後ってところかしら。今回2次試験を受けるのは120人って言ってたから、ここからさらに半分は減る感じね。」
「ふーん。1次試験の受験者が200人くらいだったから、合格率は25%ってところなんだね。」
「えぇ、本当はもっと騎士を増やせるといいんだけど、なかなか難しいみたい。ただ、学園が作られる前はもっと少なかったようだから、おばあさまの実績はすごいってことね。」
なぜかアンナが得意げになっているが、それはスルーしておこう。
時間になったのか、講堂の扉が閉められる。
そうして壇上には再びミカが姿を見せた。
あいさつもそこそこに2次試験についての説明が始まる。
「先日も話したが、これから君たちには3日間、3人1組で試験対象の獣を討伐してきてもらう。組み分けはすでにこちらで行っているので名前を呼ばれたら前に来るように。それから、討伐が成功しても3人全員が合格というわけではない。各組に試験官がついて審査しているから、各々が力を発揮し討伐に貢献してくれ。では組み分けを行う。」
そう言うと、講堂の前に40人の騎士が並んだ。
「ではまず1組目。アル・グレイシア。」
おっと、また1番最初か。
アルは前に出て、指示された1番左にいる騎士の前に向かう。
「ダリアン・ポーター。アンナ・ルーシス。」
「なっ!」
学園生の中からダリアンの声が漏れるのが聞こえた。まぁそうなるよね。
明らかに不満そうな顔でダリアンがアルの後ろに並ぶ。
そしてその後ろにアンナが続いた。
「なんだかつくづく変な縁ね。まぁ3日間よろしく。ダリアン、あなたもね。」
「うん、よろしくね。」
アルも反応するが、ダリアンは目も合わせず無言のままだ。
「2組目。ミドナ・カミナ。ブルック・トイ。カレン・キトナ。」
2組み目が呼ばれ、隣にミドナが並ぶ。
「何だよアル、別々の組かよ。ま、しょーがねぇな。お互い頑張ろうぜ。」
そういって差し出された拳にアルも拳を合わせる。
「(てかダリアンと同じ組なんだな。なんか不機嫌そうだけど大丈夫か?)」
耳元でミドナが問いかける。
「はははは、うん、大丈夫だよ。」
「ならいいんだが・・・ってあんまり人の心配してる場合じゃねぇな。俺も気合いいれねぇと。」
そう言うと、ミドナは後ろに向き直り、同じ組のカレンと呼ばれた受験者とあいさつを交わしていた。
そのあとは淡々と組み分けが発表され、ついに40組全てが並び終わる。
「これで組み分けは以上だ。ここからはそれぞれの組についている騎士から説明を受け、それぞれ試験場所へと向かってくれ。では、健闘を祈る。」
そう言い残すと、ミカは壇上から姿を消した。
「ではここからは私が説明しますね。」
ミカがいなくなってすぐ、今度は目の前に立つ騎士が説明を始める。
「私はシルバーナイトのミルトン・キールといいます。今日から3日間、あなたたちにつき審査をしますが、基本的には陰から見守り、サポートなどは一切行いません。命の危険がある場合には介入しますが、その場合は不合格となります。」
最低限の安全は保証するということか。まぁ騎士団としても、ある程度の実力があるものを死なせるのは本意ではないのだろう。
「今回あなたたちの討伐対象はカゲトラです。別名アサシンタイガーと呼ばれ、隠れるのが非常に得意な獣ですが、それを見つけ出し討伐まで行ってください。場所はブランヘルブの北東にある密林です。」
そう言うとミルトンはアルに地図を手渡した。
「説明は以上です。なにか質問は?」
「カゲトラを討伐したら、その時点で試験は終了ですか?」
さっそくアンナが質問を投げる。
「はい。ですので、3日を待たずして試験終了となる組もあるでしょう。」
「なるほど。じゃあ早く討伐できれば3日もルブルエリアで過ごさなくていいってことね・・・アル、ダリアン、さっさとカゲトラを討伐して試験を終わらせましょ!」
急にテンションの上がったアンナが声を上げる。よほどホルドサイドで寝泊まりするのがいやらしい。
「他の組も討伐対象はカゲトラなんですか?」
続いてアルが質問を投げる。
「いえ、試験を行うエリアが異なるので、必ずしも同じとは限りません。」
と言うことは、他の組と討伐対象を奪い合うことにはならなそうだ。
「試験中、メンバーが別れて行動することは問題ないですか?」
今まで黙っていたダリアンが口を開いた。こちらはよほど俺と一緒がいやらしい。
「互いに100m以上離れなければ問題ありません。ただ、それ以上離れると私の監視可能な範囲外になってしまうので気をつけてください。」
「範囲外に出た場合は失格ですか?」
アンナが追加で質問をする。
「いえ、失格にはなりません。ただ私が受験者を評価できないというだけです。」
100m以上離れた場合、そこでの行動は一切評価対象にはならないということだろう。
3人1組という試験のルール上当然か。
「他には・・・なさそうですね。では、ここからはあなたたちで方針を決め、行動してください。」
そう言うと、ミルトンは講堂を出て行った。
「いよいよ開始ね。じゃあ私たちも討伐場所まで向かいましょうか。」
アンナがそう言うと、ダリアンが無言で地図を取り上げ、さっと目を通すとそのまま講堂を出て行こうとする。
「ちょっとダリアン、どこいくのよ!」
「この男と馴れ合う気はない。俺は先に向かわせてもらう。」
「先にって、あんまり離れたら試験にならないでしょ!」
「それは試験エリアに入ってからの話だろ。お前らは後からエリア近くの宿場までこい。」
そう言い残すとダリアンは1人講堂を出て行った。
ちなみに宿場とは、聖道上に設けられている宿のことで、主に商人などが利用するためのものだ。
「まったくなんなのよ・・・」
開始早々先が思いやられる展開に、アンナが肩を落とす。
「ダリアンの言う通り、試験エリアに入るまでは気にしなくてもいいんじゃないかな。」
「そうかもしれないけど、3人1組での試験なのよ?もう少し協調性を見せられないのかしら。あんなんじゃ騎士になっても周りが迷惑だわ。」
それはごもっとも。まぁアルの存在が彼の協調性をより低くしているのも事実だが。
なんとかこの3日間で少しでも打ち解けられないだろうか。一瞬そんなことを考えたアルだったが、あまりの現実味のなさにすぐさま首を振った。
「アル、そっちの討伐対象は何だったんだ?」
ミドナたちも試験の説明が終わったようで、アルに近づき声をかけてきた。
「カゲトラって獣だよ。」
「げ、カゲトラ?そりゃまた面倒な獣だな。3日じゃ見つからない可能性もあるぜ。」
「え、そうなの!?」
すぐに討伐して帰る気満々だったアンナが反応する。
「あいつらは影に隠れることができるからな。その上生息域は影の多い密林だ。普通に探したって見たからねぇよ。」
「普通じゃ見つからないってことは、何か特別な探し方があるのかな?」
アルの問いにミドナがニヤリと笑う。
「探すんじゃなくて、おびきだすんだよ。3人でいるところには間違いなく出てこない。カゲトラをおびきだすならそれぞれ単独行動がマストだな。」
「単独行動、か。なるほど・・・」
アルは先ほどのやりとりを思い出し、ダリアンの質問の意図を理解した。ダリアンはカゲトラの性質を知っていたのだ。
「ありがとうミドナ。助かったよ。そっちの対象はなんだったの?」
「いいってことよ。俺たちの対象はモンゴグルドだぜ。」
「モーグか。じゃあすぐ討伐して帰れそうだね。」
「かぁー、言うねぇ。ギルドじゃモンゴグルドはA+って扱いなんだが。まぁ俺たちでもやれない獣じゃねぇ、きっちり仕留めてくるさ。な?」
無言で立つブルが頷く。
「カレンもこの組なのね。」
ミドナの組の最後の1人、カレン・キトナと呼ばれていた女子生徒にアンナが声をかける。
「はい、ミドナさんとブルックさんに迷惑をかけないように頑張ります。」
「大丈夫よ、あなたの魔法操作は学園一だもの。ミドナ、ブル、カレンをしっかり守るのよ。」
「おうよ、まかせとけ。」
「よ、よろしくお願いします・・・」
ミドナにポンポンと肩を叩かれ、カレンが少し困惑した表情を見せる。
「ミドナ、あなた初対面で距離が近すぎるわよ。カレンが困ってるわ。気をつけて。」
「お、そうか、すまんすまん。」
アンナに指摘され、ミドナが慌てて謝罪する。
「モーグが対象ってことは、ミドナたちはこれから東に向かうのかな?」
「あぁ、南東の砂漠地帯だ。アルたちもカゲトラが対象なら北東の密林だろ?途中まで一緒に行こうぜ。」
「そうだね、じゃあさっそく向かうとしようか。」
そうしてアルたち5人はブランヘルブの東門へと向かった。
東門にはすでに何組かの受験者たちがいた。検問が終わると各々が自分たちの討伐場所へと向かっていく。
アルたちもそれに続き、門を出てから東に1時間ほど進んだ。
「ここからは別々だな。」
進んできた聖道の分岐点にさしかかり、バイクを止めてミドナが言う。
「アル、アンナ、また3日後に会おうぜ。見つけるのも大変な獣だが、お前らならきっとカゲトラを仕留めて帰ると信じてるぜ。」
「うん。俺もミドナたちがどれだけ大きなモーグを討伐してくるか楽しみにしてるよ。」
「おう、まかせとけ!よし、ブル、カレン、行こうぜ。」
そう言うとミドナたちは聖道を南東へと進んで行った。
「私たちも行きましょうか。」
「そうだね。ジーク、行こう。」
首元をぽんぽんと叩き合図をすると、ジークはクエッという声を上げて北東に続く道へと駆け出した。
それからさらに1時間ほど聖道を進み、遠くに密林が見えたところでダリアンの指示した宿場に着いた。
宿場には、1階が酒場、2階と3階が宿になっている建物がぽつんとたっている。
数日前、アルがブランヘルブへと来る道中にも何度かこの宿場は見かけたが、どれも同じような作りと見た目をしていた。
建物の前には数台の荷車が停められているが、ダリアンのものと思われるものは見当たらない。
「おかしいわね・・・ダリアンのバイクがないわ。」
「まだ着いてないのかな?もしかしてもう先に行っちゃった?」
「それじゃ3人1組の試験にならないじゃない。まったく・・・とりあえず一度中に入ってみましょ。」
そう言ってアンナは一階の酒場へと入っていく。アルも続いて入ると、酒場の中には奥のテーブルに商人らしき人物が1人いるだけで、やはりダリアンの姿はなかった。
「やっぱりいないわね・・・少し待ってみましょうか・・・」
「君たち・・・騎士団試験の受験者かい?」
ちょうどカウンターの奥から出てきた男がアルたちに気づいて声をかけた。
立派な髭を蓄えた、いかにも店主というような男だ。
「あ、はい、そうですけど・・・」
「そうか、よかったよかった。さっき来た兄ちゃんから荷物を預かってるんだよ。えぇっと・・・どこに置いたかな・・・あ、あったあった。これを君たちに渡してくれって。」
そう言うと男はカウンターの下から小さな袋を取り出しアンナに渡した。
「君たちも騎士団を目指してるんだってな。試験頑張れよ〜。あ、これはサービスね。」
男はさらに2人分のお茶を差し出す。
「え、いいんですか?ありがとうございます・・・」
「いいのいいの。これからを担う若者には頑張ってもらわにゃいけんからな。おっと、いかんいかん、まだ仕入れの途中だった。」
そうして男は再びカウンターの奥へと戻っていった。
「これ、ダリアンよね・・・」
「そうだろうね。とりあえず中を見てみようか。」
袋の中には小石ほどの丸い魔道具が2つと四つ折りの紙が1枚入っていた。
「これは・・・」
アンナは魔道具を手に取ると少しだけ魔力をこめる。するとその表面に2つの矢印が浮かび上がった。一方の矢印の下には0、もう一方には999の数字が表示されている。
「この魔道具、おそらくお互いの位置を確認するためのものね。こっちの紙は・・・」
四つ折りの紙を開くとアルとアンナに向けたメッセージが書かれていた。
『魔道具を持ってエリアに入れ。それぞれ100m以内を保って別々に行動しろ。カゲトラが現れたら裏のボタンを押せ。』
やはりダリアンはカゲトラをお引き出す方法も知っていたようだ。
それにしてもこんな魔道具を持っているなんて、ダリアンも準備がいいな。
感心するアルをよそに、アンナは大きなため息をついた。
「ほんとに勝手な人ね・・・試験が終わったら絶対文句言ってやるんだから。」
呆れた表情のまま、アンナはもう1つの魔道具をアルに渡す。
「はい、これ。あなたも魔力をこめてみて。」
アルが魔力をこめると、こちらもアンナのものと同様の表示が浮かび上がった。
「よし、あなたのも問題なく動くわね。じゃあまずはダリアンの近くまで行きましょうか。そこから別々で動きましょう。」
「うん、わかった。」
お茶を飲み終えるとアルたちは酒場を出て密林へと向かった。
宿場から1kmほど北に進んだところで、密林の入り口についた。木陰にはダリアンのバイクが停まっている。
「ダリアンもここから入ったみたいね。ただ、ずいぶん奥まで進んでるみたい。」
魔道具を見ると、ダリアンと思われる矢印の表示が999から変わっていなかった。
「まったくどこまで行ったのかしら・・・しょうがないわね、もう少し進みましょう。」
アンナはホバーバイクをダリアンのバイクの横に停め、密林へと入っていく。
アルはジークから降りると、手綱を引きながらそのあとを続いた。
「そうえば、この密林にはカゲトラ以外にも人を襲う獣はいるのかな?」
「さぁ、私も来るのは初めてだからわからないわ。ただ、密林に住む獣で有名なのはバルコングね。この密林にいるかどうかはわからないけど。」
「バルコングか。この前ミドナたちと行った密林で討伐してきたよ。たしかあの密林にはギルガって獣もいるんだっけ。」
「あぁ、ブランヘルブ北西の密林ね。あそこはギルガのテリトリーで有名よ。まぁあんなのに出てこられたら試験どころじゃないけど。」
どうやらそのギルガって獣はかなり危険な獣として知られているらしい。
「でもどうしてそんなに有名なのに騎士は討伐しないのかな。」
「ギルガはテリトリーを犯さない限り襲ってこないからよ。人に危害を加えることがほとんどない獣を、わざわざ危険を犯してまで討伐に出向くほど騎士も暇じゃないってこと。」
「なるほどね。」
そんな話をしながらしばらく密林の中を進んでいると、ダリアンとの距離が200mほどになっていることに気づいた。
「もう少しね。じゃあそろそろ私たちも別れましょうか。」
「うん、そうだね。あ、アンナ、もし危ない状況になったら合図してね。その時は駆けつけるから。」
「ありがとう。でも、これは私の試験だもの、できる限り自分でなんとかするわ。また夜に会いましょう。」
「わかった。じゃあね。」
「えぇ、あなたも気をつけて。」
そう言うと、アルはダリアンに近づきつつも、アンナとは別の方向に進んだ。
アンナと別れてから100mほど進むと少しひらけた場所に出た。魔道具を見ると、それぞれの距離は90、85と表示されている。
「よし、じゃあこの辺で様子を見てみようか。」
そう言ってジークとともに腰を下ろしかけて・・・
「あれ・・・もしかして、ジークと一緒にいたらカゲトラって出てこない?」
「クェ?」
ジークと顔を合わせ、アルは今まで気づかなかった盲点に苦笑いを浮かべた。
「いいかい、ジーク。君はこの場所で大人しくしているのが今回の仕事だよ。俺は木の上で気配を消して周囲を探ってみる。」
そう言うとアルは近くにあった木に手綱を結ぶ。
「これぐらいの長さならジークも不自由なく動けるかな。食事は夜に持ってくるからね。」
「クェッ!」
「よし、いい子だ。じゃあ俺は・・・あれがいいかな。」
周囲を見渡し、身を潜めるのにちょうど良い木を見つけると、アルはその幹を駆け上った。
「うーん、やっぱりそんなすぐには現れないか。」
近くで捕まえた3匹の野鳥を手に、アルはジークのそばに姿を現す。
すでに日が暮れてから時間がたっており、あたりは暗闇に包まれている。
「アンナとダリアンのところにも現れてないみたいだね。」
手に持つ魔道具にも変化はない。
「はいジーク、今日の夜飯だよ。」
「クェッ!」
2匹の野鳥を渡すと、ジークは嬉しそうに食べ始めた。
アルは残りの1匹を調理するため魔法で火を起こす。まぁ調理と言っても丸焼きにするだけだが。
「影に潜むなら夜の方が出てきやすかったりするのかな。」
そんなことを考えながら魔道具に目をやると、1つの矢印がもう一方の矢印へと近づいていた。
そうしてそれぞれの矢印が同じ場所をさした後、今度はアルのいる方へと向かってくる。
「これはアンナかな。」
しばらく待っていると、予想通りアンナが姿を現した。
「今日は出てこなかったみたいね。」
「そうみたいだね。まぁ警戒心の強い獣みたいだし、じっくり待つしかないんじゃないかな。」
「そんな呑気なこと言って、試験が終わるまで出てこなかったらどうするのよ・・・」
そう言いながらアルと同じ倒木に腰を下ろす。
「それは困るけど・・・でもダリアンもこの作戦がベストだって考えてるんでしょ?それならきっと大丈夫だよ。」
アンナが驚いた表情でアルを見る。
「どうしてあんなに仲が悪いのにダリアンのことを信じられるのよ。」
「仲の良し悪しはおいといて、ダリアンが信用できる人間かどうかは少し手合わせすればわかるよ。それに仮にもダリアンは学園内ではトップの存在でしょ?この魔道具もそうだけど、準備もしっかりしてるみたいだし。」
「まぁ、そうね・・・人とのコミュニケーションはよく間違うけど、学園の課題で間違ってるところは見たことがないわ。」
アンナが納得したような表情で答える。
「だからもう少し様子を見てみよう。そういえば、ダリアンと会ってきたの?」
「えぇ、夜は交代で見張りながら休んだほうがいいと思って声をかけに行ったんだけど・・・俺は自分の身は自分で守るから必要ない、だって。ほんとなんなのかしらね。」
「それも作戦なんじゃないかな。夜も1人でいた方がカゲトラが出てくる可能性は高いだろうし。」
「え、じゃあ私たちも1人でいた方がいいのかしら。」
「いや、備えがないなら夜は1人でいない方がいいよ。俺もジークと交代で見張りをするつもりだったし。ダリアンはおそらく結界か何かを準備してるんじゃないかな。だから俺たちは交代で見張りをしながら朝まで休もう。」
「わかったわ。」
「あ、ご飯は食べた?これいる?」
ちょうど焼き上がった野鳥を半分に裂き、アンナに差し出す。
「いえ、大丈夫よ。自分で持ってきたものをもう食べたから。」
「そう、じゃあ全部食べちゃうね。アンナ先に休んでいいよ。ジークも休ませるから最初は俺が見張りをしておくよ。」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうわ。」
そう言うとアンナは少し離れたところに野営用の小さいテントをたてる。
「じゃあおやすみなさい。時間になったら起こしてね。」
「うん、わかった。よく休んでね。」
「外で寝るのなんて初めてだからちゃんと休めるか不安だけど、頑張ってみるわ。」
そう言ってアンナはテントの中へと入っていった。




