08
脳が鈍い。泥水のような思考しかできない。
カーテンは開いていた。晴れだ。
時刻は十時二十一分。
昨日どれだけ酒を飲んだのだろう。筋トレをして体が疲れているのも、影響しているかもしれない。
肩を叩かれた。水入りのコップを受けとった。
全細胞歓喜。
「おはようございます」
「汚ハ酔う」
ドブガエルみたいな声が出た。
「やめた方がいいと思いますよ、あれ。毎回も言っていますけど。」
「うん」
「もしかして、買い足しました?」
「うむ」
「はぁ、まったく。本当にしょうがない人ですね。本当に一人暮らしできてたんですか?」
「水のおかわりをください」
軽く頬を叩かれた。痛くない。
「他に欲しいものはありますか?」と少女は頬をペチペチと叩きながら言った。
「豊満な胸」
少女はべこピンをして、コップを奪い去り、水を入れ、持ってきてくれたものを、僕は一気飲みした。
全細胞歓喜。
「いい御身分ですね。女の子にこんなに甲斐甲斐しく面倒をみてもらって。前世で一体どれほど徳を積んだんですかね」
「異世界転生して世界を救ったんじゃない?」
「なんかそれ違くないですか?それだと、むしろ今世は酷い目に合わないとバランス悪くないですか?」
「そのあと、正妻戦争が起きたんだよ。誰が一番奉仕できるか、って。世界を救うまではチュートリアルで、そこらからの本編がきっと肉体的に辛かったんだよ」
「遠回しなセクハラやめてください。もぎますよ?」
「対戦よろしくおねがいします」
急所を握り引っ張られた。
「痛い!痛い!痛い!本当にもぎ取ろうとするやつがあるか!」
「いえ?潰そうとしましたけど」
「一緒だよ!使えなくなったらどうするだよ!」
「使う予定あるんですか?」
「あるかもしれないだろ。おい、なんだその顔。やめろ、なんで半笑いなんだよ。僕はまだまだ若いだぞ!今の時代、僕みたいな奴はけっこういるんだぞ!」
「友達いないのに誰から訊いたんですか?」
「友達くらいいるわ。そういうデータがあるんだよ。」
「きっと、サンプル数が小さいですね。もしくは、調査方法が悪かったんでしょう。もしかして、秋葉原でデータを集めました?なら、納得です。あと友達いないんですね」
「いろんな人に謝れ」
「どうしてですか?事実でしょ。まぁ少なくともあなたに謝る必要はないですね」
「なんでだよ、むしろ一番俺に謝れ」
「え?この家に来た次の日に言われましたよ。うちにある者は自由に使ってくれていい、って」
「字が違ぇよ。そんなメイドさんを沢山雇っている貴族みたいなこと言うわけねぇだろ」
「メイドさん、て言うところが気持ち悪いですね。秋葉産まれ、秋葉育ちって感じがして。普通に召使いとか、お手伝いさんて言えばいいのに。気持ち悪いです」
「お、お前、オタクか俺に親でも殺されたのかよ」
「親は殺されてませんが、裸を舐めるように見輪姦されました」
「犯罪者みたいに見える漢字の使い方するな!しかも、君の裸を見たのは僕の責任じゃないだろ。風呂上がりに君が勝手に毎回毎回子供みたいな体で子供みたいに走りまわっているだけじゃないか。おれいです~。かんしゃしてくださ~い、とか言いながら」
「やっぱり舐めまわしてたんじゃないですか。見てないのにどうして子供みたいな体って形容できるるんですか殺しますよ普通に」
少女はどこか懐かしい目をしていた。あぁ、あれだ。子供の時に動物園でみた、肉を食べている時のライオンの目だ。
「わっ、悪かったよ。もう、子供みたいな体とか言わないから、その本をおいてくれ。暴力と不平等の人類史で殴られたら死んじゃうから」
「え?使う予定あるんですか?」
「え?金玉潰そうとしている?それとも僕の頭が空っぽだっていいたいの?お前にはこの本を使いこなせない、てこと?」
「まぁ、どっちでも結果は同じですね」
「ねぇ、それって金玉に脳みそがあるって意味?それとも金玉をつぶしたら痛みで死ぬて意味?」
「金玉金玉五月蠅いですね。口を閉じないと本当にやりますよ」
僕は黙った。
僕は水を飲もうとした。けれど、中身がなかった。
少女は、僕の手からコップを奪った。
「他に欲しいものはありますか?」と少女は言った。
「珈琲を淹れてくれ。君と僕で二杯」
わかりました、と少女は言ってキッチンに行った。
「まぁ、本当に俺が前世で得を積んでいたら、君の胸はそんなに薄くならないよなぁ」
文庫本の角で頭を殴られた。