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僕は大量の参考書こと、家出少女との生活を描いたライトノベルやゲームを購入した。家出少女との生活の仕方なんてことを、あたりまえだが義務教育でも大学でも教わらなかったし、友人やましてや家族になんて相談できなかった。そもそも、家出少女なのか放浪女なのかもわからない。
訊けばいい話なのだが、未成年に手を出した可能性に対する焦りに比べたら、同居すること自体は何も問題ない気がしてきたので、訊けないでいた。先人たちもいきなりそんなことを訊いてはいなかったし。
少女は喋らないし、動かない。怒られ子供みたいに、あるいは死んでいるみたいに。部屋の隅になにもせずにじっと座っている。僕も大概だが、少女はありえないほどコミュニケーションスキルがなかった。いや、スキルはあるのかもしれないが、少なくともそれを使うことはなかった。少女は振る舞いは正しいのかもしれない。自分だったら家主の機嫌を取ろうとするより、何もしないで黙っているだろう。主従関係とは、すこし違うが立場は明確だ。余計なことはしない方がいい。冷蔵庫を勝手にあけ、食材を勝手につかい、当然のように朝食をつくる少女なんているわけがない。だったら僕が気さくに話かければいいのかもしれないが、何話せばいいのかわからない。教科書はそこらへんのことについて教えてくれなかった。
あまりにも何もしないでじっとしていられるのは、怖いので僕は彼女に本を渡した。
「別にいつまでいてもいいけど、いつまでもそうしていられるのは困る。金稼いでこいとか、家事をしろとかは別に言わないから、せめて本でも読んでくれ。?あぁ、でも流石に少しは運動してくれ。運動しないと身体がカスになる。散歩とかでいいし、ダンベルとベンチをつかってくれて構わない。あと、うちにあるものは自由に使ってくれ。コーヒーでもなんでも好きに淹れてくれ。ぼくはこう見えて平均所得より稼いでいるし、本と食費とジム代以外と家賃や光熱費に水道電気以外にほんとんど金を使わない。そこそこ金の余裕がある。全て僕の許可なく使ってくれて構わない。いうまでもないけれどパソコンのデータを消すとかそういう鬼畜行動はやめてくれ」
「ありがとうございます」と少女は言った。
「あと、そこの部屋には入らないでくれ」
「わかりました」
少女は本を読み始めた。
僕は珈琲を二杯いれた。