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二人は仲良しなんですね

R15バージョンです。

本日2話目です。

「あーッ、ちょっと待ったァッ!」


 最後のアップルパイの欠片をアナスタシアが口に入れようとした瞬間、凄まじい土煙と共にラスティが現れた。異常な速さだったから、身体強化魔法を使って走ってきたのかもしれない。


「あら、ラスじゃないですか。どうなさいましたの?」


 アナスタシアがパクリとアップルパイを食べてから言うと、ラスティが膝から崩れ落ちた。


「あ……ァ、ベスのアップルパイがァァァ」

「あら、ラスも食べたかったんですの?いらっしゃるのが遅かったですわね」

「シア酷いよ。僕は待ってって言ったのに……」

「早い者勝ちですわ」


 ツンと顎を上げて言うアナスタシアの口調はかなり親しげだし、ラスティも子爵令息が公爵令嬢に話しかける口調ではない。何よりもお互いに愛称で呼び合っている。

 エリザベスが驚いて二人を見ていると、同じように二人を見ていたキャサリンが軽蔑したようにラスティに声をかけた。


「ラスティ様にはベスのアップルパイを食べる資格はありませんね」

「エエッ?!何で?キャサリン嬢は何でそんな酷いこと言うんだい?!昨日までは一緒にベスの美味しいデザートを分け合ってた仲じゃないか」


 ラスティは今までも数回お昼時に現れたことかある為、キャサリンとも多少は会話をするようになっていた。キャサリンはエリザベスがラスティに惹かれているのに気がついていたし、ラスティもエリザベスに興味以上の感情を持っていると思っていた。それがアナスタシアとの親しげな態度を見て、まるでエリザベスとアナスタシアを天秤にかけているように思えてしまったのだ。

 知り合いに毛が生えたくらいのラスティと、趣味を共有できる親友であるエリザベスを比べたら、そりゃラスティに極寒の視線を向けようものである。


「そうね。ラスにベスのお菓子はもったいなさすぎるわ。これからは、わたくしがいただいてさしあげてよ」

「冗談じゃない。本当はベスの作ったお菓子は僕が全部食べたいくらいなんだ。シアにだってあげたくないね」

「オホホホホ、何をおっしゃっているのかしら。誰にあげるかはベスがお決めになるでしょう?たかだかちょっと数回お菓子をもらっただけで図々しいですわよ? 」

「図々しいのは君だろう。今までベスからお菓子をもらったこともなかったじゃないか」

「まぁまぁ、わたくし、お菓子だけじゃなく、お弁当までシェアしていただきましたのよ。ベスとキャシーとは命の糧をわける親友ということですわ」

「僕は毎日ベスのクッキーを貰ってるからね。ポッとでてきて大きな顔をされたら困るよ」


 アナスタシアとはこれから親友になりたいと思っていたから、すでに親友扱いは嬉しいの一言だけれど、アナスタシアとラスティにエリザベスのお菓子を取り合われてるのは如何したものか?あまりに仲が良さそうな二人の雰囲気に、胸がギュッとせつなくなる。


「お二人は仲良しなんですね。ラス様、アップルパイはもうないですが、クッキーなら作ってきたのがありますから、もしよろしければどうぞ」

「仲良しじゃない」

「仲良しなんかじゃなくってよ」


 ラスティはエリザベスからクッキーを受け取りつつ、アナスタシアとラスティの声が重なる。


「いや、どう見ても息がピッタリですけど」


 キャサリンが半眼でラスティを見やりつつ言う。


「そりゃ、付き合いが長いだけだ」

「そうですわね。わたくしとラスとラ……第3王子は幼馴染なんですの」

「あぁ、シア様は第3王子の婚約者候補でしたね」

「有り得ないから」

「有り得ないですわ」


 またもや重なる声に、アナスタシアが第3王子の婚約者候補が有り得ないなら、やはりこの二人が良い仲なのではないかとキャサリンは疑いの視線を向ける。

 エリザベスももしかして……と思わなくもないが、公爵令嬢と子爵令息の婚約は難しいのでは? と思いたい気持ちと、第3王子の側近に選ばれるくらい優秀でしかも秘されているが魔術士でもあるラスティならば公爵令嬢との婚姻も可能なのでは?という思いに胸の中がドロドロしてしまう。


「わたくしは、ここにいるラスのことなど全く全然これっぽっちも異性と意識したことはありませんのよ」

「そりゃ僕だって。第一、シアには昔から好きな奴がいるから」

「な……何故それを?!」


 ボンッと顔を真っ赤にするアナスタシアに、「気づいてないのは当事者だけだから」とラスティは呆れ顔だ。


「まぁ、シア様には好きな方がいらっしゃるのね。婚約はなさらないんですか?」

「わたくしはしたいな……なんて思っておりますのよ。お父様にも、ラ……彼以外とは絶対に結婚しないって言っておりますし。でも、どこぞのおバカさんがわたくしを隠れ蓑にして婚約者を決めるのを延ばしてらっしゃるから、彼に正式に申し込めないんですの」

「第3王子にも困ったものだね」


 アナスタシアは忌々しそうに何故かラスティを睨む。ラスティは涼しげな笑顔でアナスタシアの言葉を流し、エリザベスから貰ったクッキーを一人抱えて食べ始めた。


「なぜ第3王子は婚約者を決めないんですか?」

「そうですね。シア様を筆頭に素晴らしいご令嬢が候補に挙げられてますよね」


 公爵家からはアナスタシアが、他にも侯爵家のご令嬢が二人、伯爵家からも三人の名前が挙がっていた。こちらの伯爵家は、伯爵家でも特に由緒ある御三家で、エリザベスの家が同じ伯爵家と名乗るのが躊躇われるくらい格式のあるお家柄である。また、さすがエロゲーの世界、みなさんお色気ムンムンの才色兼備なご令嬢方で、誰が王子妃になっても納得できた。誰でも選びたい放題だからこそ、一人に絞れないんだろうか?


 エリザベスはサイラス第3王子のことは遠くからチラリとしか見たことはなかったが、第一印象、「ザ・王子様だな」だった。サラサラとした肩より少し長めの青銀髪で、回りにいた護衛の騎士などと比べたら細めだが、引き締まった体型でスラリと背が高く、何より顔がいい。すこぶるいい。遠目からみても無茶苦茶かっこよかった。前世ならば確実にジャニーズの仲間入り間違いなしだ。瞳の色は王家独特の瑠璃色で、光の当たり方によって青にも青紫にも緑にも見えるという不思議な色合いらしい。さすがに遠すぎて、エリザベスには第3王子の目の色まではわからなかったが。


 あれ、瑠璃色?


 エリザベスはごく一瞬見えたラスティの瞳の色を思い出した。瑠璃色……に見えた気がする。いや、瑠璃色に近い紫がかった青色だったのか?

 ラスティの目の色と、秘された魔術士としての資質が繋がった気がしたが、ラスティが髪型で目を隠しているならば、それは聞いてはいけないことのような気がした。もし王族の落とし胤とかなら、王位継承権などの問題も勃発し、ややこしいことになりかねないからだ。


「……から、王子は婚約者をまだ決めかねているんだ」


 エリザベスが考え込んでいる間に、第3王子の婚約者が決まらない件についてラスティが何か話したようだが、エリザベスは聞いていなかった。


 どうせエロゲーの世界の王子様だから、いろんな女子を味見したいから……とかなんとかエロエロな内容に違いない。


「そうなんですか。意外ですが、ちょっと親近感がわきました」


 エリザベスはビックリしてキャサリンを見た。


 エロエロに親近感わいちゃったの? 


 ジルベルトのこととか、毛虫を見るがごとく毛嫌いしていた元攻略対象キャサリンは、どちらかというと乙女小説のような純愛に憧れる、見た目クール中身ピュアな乙女だと思っていたのに。乙女小説からTL小説まで幅広く好む雑食女子だったようだ。活字中毒で、文字が書いてあれば何でも読むエリザベスの末妹のオリーブと話が合うかもしれない。


 エリザベスはどんどん勘違いな思考を広がらせているが、エリザベスが聞いていなかった時のラスティ(のかっこうをしたサイラス)は「第3王子は政略結婚を好まないんだ。一生共に生活するならば心から愛せる人と、同じように愛を返してくれる人と結婚したいと思っているから、王子は婚約者をまだ決めかねているんだ」と、エリザベスを真剣に見つめながら言ったのであった。


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