匂いにランキングをつけてみた結果
R15バージョンです。
本日2話目です。
最近、ラスティから聞いた魔力の匂いというのを意識するようになって、ひたすらクンカクンカ匂いを嗅ぐようになったら、好きな匂いと嫌いな匂いの区別がつくようになった。
男女関係なく、ランキングをつけてみた。
好ましい第1位、ラス様。2位以下をダントツ引き離しての堂々の1位でした。その爽やかなサンダルウッドの香りは最上級の癒やしで、たまにそこに混ざるフローラルの香りに癒やしの中に甘い疼きを感じます。
第2位、うちの家族。お父様はオリエンタル調の匂い。お母様はラベンダー、次女のキャロ(キャロライン)は百合、三女のリー(オリーブ)はグレープフルーツが香る。みな違う匂いではあるが、同じくらい好ましい。
第3位、アナスタシア・ゴールド公爵令嬢。一度も話したことはないが、すれ違うと必ずベリーの甘い香りがする。ほんの少し酸っぱさの混じる匂いが香りのアクセントになってとても良い。
3位に近い第4位がキャサリン・ハート。彼女は白檀の香り。前世日本人としては落ち着くんだよね。ラスティの匂いと似ているけど、それよりもスパイシーで甘みが少ない感じ。
では逆に嫌いな匂いの第3位、社会学のサントス先生。鞣した革の匂い。嫌いというか苦手な匂いという感じ。
第2位、ティタニア・オスマンタス男爵令嬢。金木犀の香り。何というか、一昔前のトイレの匂い? すれ違う度にブワッと香って、思わず息を止めちゃう。
第1位、ジル……なのよね。意識したことはなかったけど、前は一番好ましく思っていた筈なのに、今は一番受け付けない。濃いムスクの香りになんか色々混ざって(多分関係した女性の魔力香)とにかく臭い。
匂いに敏感になった結果、エリザベスは屋上で一人お弁当を食べていた。好きな匂いだけに囲まれていれば問題ないが、そうでない匂いの方が教室には多く、どうせなら美味しく食べたいではないか。屋上ならば人はいないし、何よりも自然の良い香りがし、景色が良く目にも優しい。少し肌寒いが、だからこそ人もこなくてちょうど良い。
屋上の出入り口の裏側に回り、置いてあった大きな木箱に腰掛けてランチボックスを開いてサンドイッチを食べていると、屋上の扉が開く音がした。
「ウッ……」
覗いてみなくても、ムスクの香りと金木犀の香りで誰だかわかった。ジルベルトとティタニアだ。ティタニアはジルベルトの8番目の攻略対象で、エリザベスが前世を思い出すきっかけとなったあの令嬢だ。
「ジルゥ〜、見て見てェ〜、王宮が見えるゥ〜」
語尾を伸ばしきった甘ったるい口調は、男に媚び媚びなおバカさんにしか聞こえない。屋上の出入り口の裏側からチラリと覗くと、ジルベルトの腕にベッタリ身体を押し付けるティタニアと、そんなティタニアの黒髪をかき分けながら耳を厭らしく舐め回すジルベルトがいた。
「……アンッ。ジルゥ、ジルベルト様ァッ」
いやいや、こんな寒い所でおっ始めるつもりですかね?!
エリザベスは慌ててランチボックスを閉じると、どこかに逃げ道はないか辺りを見回した。
屋上の出入り口の裏側のこのスペース、明らかに事を致すにはちょうど良く見える。出入り口からは死角だし、後ろと右手は柵になっていて出入りできない。唯一屋上に繋がる左手だけに注意をはらえばあとはもうやり放題だ。エリザベスが座っていたこの大きな木箱も、もしかしてベッドの代わりかもしれない。
こんなとこで鉢合わせは厳しい!
すると、屋上への出入り口のさらに上に登る梯子が目についた。梯子には良い思い出はないが、そんなことを言っている場合じゃない。エリザベスはランチボックスを腕にひっかけて、屋上への出入り口になっている小屋の上に続く梯子に足をかけた。梯子を登りきり小屋の上に転がり出ると、ちょうどそのタイミングでジルベルトとティタニアが裏側にやってきた。木箱の上にティタニアを押し上げ、ジルベルトがティタニアのスカートの中に頭を突っ込んでいる。
反対側(屋上出入り口側)から下りられないかと向きをかえると、本を片手に大きく目を見開いているキャサリンとバッチリ目があった。
「ァッ……」
下ではアンアン声が響き、あまりにも居た堪れない状況に陥る。
どれくらい見つめ合っていたかわからない。もう、お互いに表情がない。元からキャサリンはクールで、表情に感情を表すことはあまりないようだが。
「上脱げよ」「寒いからヤだ」「オッパイ舐めたい」「やぁよ、寒い」「じゃあ保健室行くか」……な会話が聞こえてきて、バタンと大きく扉が閉まる音がした後に無音になった。
キャサリンは手に持っていた本を横に置き、何故か耳から耳栓を外した。
なぜ耳栓?
「……、その本、私も好きです」
キャサリンが置いた本はエリザベスが梯子から落ちてまで所定の位置に戻した乙女小説だった。
キャサリンは本を背中に隠し、瞬時に顔が真っ赤になった。
「その本もですけど、同じ作家さんの……」
王道の学園物のラブストーリー、平民が王子様に見初められるシンデレラストーリーは文句なしにキュンキュンすること、幼馴染ものは……ちょっと心情的に受け入れられないけれどお話としては面白いと思うとか、とにかく熱く語った。
「うちにも沢山あるんですよ、この作家さんの小説」
「……そう。そうですか。まぁ、私は時間潰しに読んでいるだけですけど、害がない小説だとは思いますよ」
ツンデレ? まだデレてないけどツンデレ属性ですか?
「害がない……そうですね。でもそれって凄くないですか? 色んなドロドロした現実の中で、読むだけで純粋に楽しくて幸せな気分になれるんですもの」
「あぁ……まぁ、あなたはそうですよね」
ジルベルトとのことだろう。あれがエリザベスの婚約者だと知っているからの一言に違いない。
エリザベスは困ったような笑顔を浮かべる。
婚約者に浮気された令嬢としては、ショックに青ざめ泣き叫ぶべきだろうか?激昂して怒り散らすべきだろうか?エリザベスに演劇の素養はないので、自分の素直な感情を出すしかない。
キャサリンはしまったという顔をし、オロオロと視線を彷徨わせる。余計な一言を言ってしまったと後悔している表情をしていた。
「私、ハッピーエンド至上主義なんです」
「は?」
「政略結婚とか、契約結婚とかウンザリです。政略結婚でも愛があれば……かもしれませんけど、他所見ばかりする婚約者に抱く恋心は持ち合わせていませんから。気持ちも身体も唯一人の人だけに開かれれば十分です。乙女小説の主人公が、愛する人を他人と共有しました?有り得ません。自分がされて嫌なことは他人にしてはいけない。常識ですよね」
フン!と鼻息荒く言い切ると、いつもはクールなキャサリンが目を真ん丸にしてエリザベスを見ていた。
「……そんなことを言う貴族がいるなんて思いませんでした」
あ……、エロゲーの一コマ。このセリフ、状況は全く違うけれど、キャサリンがジルベルトに言うセリフだ。このあと、お互いに見つめ合って、いきなり濃厚なキスシーンに突入するのよね。
「あら、貴族も平民もないですよね。人間としてどうかと思うし。他の女性と平気な顔して浮気を繰り返す男と、幸せなハッピーエンドなんか想像できる?私には無理だわ」
「……私も無理ですね」
お互いに顔を見合わせてクスリと笑う。いつもは冷たい表情のキャサリンの可愛らしい笑顔に胸がズキュンとなる。
いやいや、さすがにキスシーンはないから。
でもあのセリフが出たということは、キャサリンを攻略できたってことだろうから、この際……。
「あの!私とお友達になってくれませんか。本の感想言い合ったりとか、放課後お茶会したりとか、そんな友達になりたいです」
「……」
「お願いします!!」
エリザベスは片手を前に突き出して頭を90度下げた。
「……本の感想は二人だけの時にしてくださるなら」
ほっそりとした手に包まれ、エリザベスはガバッと頭を上げた。
「私のことはベスと呼んで。あなたは……キャシー、キャシーって呼んでいいですか?」
キャサリンはエリザベスの食い気味な勢いにびっくりしたようだが、しっかりと頷いてくれた。
昼休みももうすぐ終わりの時間になり、二人は放課後に図書館へ行く約束をして教室に戻った。