番外編2 アナスタシアの悪夢8
手違いでアナスタシアの悪夢7が二回投稿されてました。
正しいものに差し替えました。
教えてくださった方、ありがとうございました。
エリザベスが目を閉じてすぐ、ジルベルトの腕を強引に引っ張りながらマリア先生が教務室に戻ってきた。
「で……いったいあんたは何がしたいんだ」
聞き慣れたジルベルトの声に、エリザベスの瞼がピクリと反応する。その不機嫌な様子に、いきなり襲われる心配はなさそうだと、エリザベスはホッと安堵の息を吐いた。
身体の痺れはだいぶマシになったが、まだ普通に動ける状態ではないし、媚薬の効果も半減以下にはなっているのだろうが、身体は熱く火照り、恥ずかしい場所がむず痒いような、ジンジンした感じがして、つい足をすり合わせたくなる。
「あら、私はジルベルト君の味方なだけよ。あなたはエリザベスさんを取り戻したいのでしょう?この前だって、エリザベスさんに媚薬を飲ませる話にのってきたじゃない」
「あの時と今とじゃ状況が違うだろう」
今だって前だって、いつでも駄目に決まってるじゃない!
媚薬プレイも合意ならばありかもしれないけれど、騙しうちみたいに飲ませて襲ってくるとか、どの世界であろうと犯罪だ。この二人の倫理観が理解できない。
「あら、なにも変わらないわ。あなたはエリザベスさんが好き。エリザベスさんだって、昔はジルベルト君のことが大好きだったでしょう?ちょっと想い合う時期がズレてしまったけれど、お互いがお互いを好きだった事実があるんだから、好き合う者同士ならば身体を重ねるのは当たり前の行為よ。エリザベスさんだって、あなたの立派なアレを受け入れたら、あなたがいなければいられなくなる筈よ。それにね、エリザベスさんには痺れ薬を飲ませてあるから、ちゃんと意識はあるのよ。ほら、エリザベスさん、あなたもジルベルトが欲しいわよね」
マリア先生に起こされてソファーに座らされると、エリザベスは顔を両手で挟まれて何度もウンウンと頷かされた。
いや、無理やり過ぎるでしょ。
「ほら、エリザベスさんも同意ですって。それに、飲ませたのは痺れはだけじゃないの。もう一つの方も効果がでてきている筈よ」
「あんた……」
マリア先生がエリザベスのスカートを少しづつ上げるようにまくり上げ、あらわになった太腿に指を這わせた。
いやいや、ちょっと下着が見えちゃうから。
痺れ薬が効いているふりをしないとだから振り払うこともできずに、しかも媚薬の効果も残っていて、マリア先生の指使いについ変な声が洩れてしまう。
「……ゥン、ハァ……」
下手に唇を噛みしめる訳にもいかず、サイラスだけじゃなくラスティや隠密の皆さんにまで恥ずかしい声が聞こえたんじゃないかと、あまりの羞恥にエリザベスの肌が赤く色づいた。それがまた媚薬の効果のようにマリア先生やジルベルトには見えているようだった。
「ほら、いつも彼女達にしてきたように、エリザベスさんも可愛がってあげたらいいわ。どうやれば女の子が喜ぶか、教えてあげたわよね」
いやいや、触られたら絶対に叫んじゃいそうなんだけど。
「なにをしてるの?エリザベスさんはもうかなり辛そうよ。可哀想に」
そう言いながらマリア先生は悪戯にエリザベスの首筋を指でなぞったり、太腿の内側に手を差し込んで撫でたりしては、エリザベスの反応を見てニヤニヤしている。こんな中途半端な触り方じゃなく、もっとしっかり触ってあげさいよとジルベルトを促しているかのように。
その微妙なタッチに、エリザベスの息は上がり、身体を小さく震わせて反応してしまう。その様子を皆に見られていると思うと、どんな罰ゲームですか?!と叫びたくなるが、とにかくジルベルトが動くまではサイラス達は踏み込んでこないだろうから、ジッと我慢するしかない。
「悪いが、俺はノータッチだ」
ジルベルトが教務室を出ていく素振りを見せると、マリア先生はエリザベスの太腿を爪の跡がつくくらいきつく握った。あまりの痛さにエリザベスは思わず身体をのけぞらしてしまう。痛い!と叫びそうになり、くぐもった悲鳴を上げるに留まる。
「なんでよ!人がこれだけお膳立てしてあげてるっていうのに、あんたはいつもいつも……。プレイヤーの私がエリザベスを抱けって指示を出してるんだから、あんたはおとなしく言うことを聞けばいいのよ!それがあんたの為なの!今のままじゃあんたのセックスはいつまでたっても普通止まり。奇跡のエンディングなんか程遠いのよ!」
ジルベルトって……そうなんだ。
後で聞いたのが、今のマリア先生の言葉を聞いた男性全てが、ジルベルトに同情したと言っていた。
「普通で悪かったな!俺に二度と関わるな」
ジルベルトはドアを勢いよく閉めると、教務室から出て行ってしまった。
「……信じられない!せっかく人がここまでお膳立てしてあげたっていうのに」
「お膳立てとは、ベスに薬を盛ったことか?」
マリア先生に気付かれないように音を立てずに机の下から出てきたサイラスが、マリア先生の後ろに立って言った。
「そうよ!それが……な……、サイラス殿下?!」
普通に返事をしてしまったマリア先生だったが、いない筈の第三者の存在に気が付き、振り返ってサイラスの存在を認めた。
「おまえはベスに薬を盛ったことを認めるな?僕は全て見ていたが」
「いえ、私は……」
サイラスはテーブルの上に置いてあるエリザベスが飲んだティーカップを手にした。
「これを調べれば、痺れ薬は出てくるだろう。媚薬はおまえ自らエリザベスに飲ませていたな。ラスティ、マリア・ロンドの衣服を検めろ!」
窓から入ってきたラスティと、扉から入ってきた隠密の一人に挟まれて、マリア先生は諦めたように洋服のポケットから媚薬が入っていた瓶を取り出した。
「ほら、あげるわ。これが欲しいのでしょう。でも私はエリザベスさんを害するつもりはなかったのよ。二つとも調べて貰えばわかるわ。身体に害のあるものではないのだから。ほんのちょっとしたおふざけじゃないの」
「エリザベスは僕の正式な婚約者だ。何があったとしてもそれは覆らない。まぁ、何かさせるつもりも毛頭ないがな」
サイラスが視線でマリア先生を連れて行くようにラスティに促すと、マリア先生は素直にラスティに腕をつかまれて歩き出す。扉を出る直前に振り返り、エリザベスが目を開けて自分でソファーに座っているのを確認したマリア先生は、淡々とした口調でエリザベスに話しかけた。
「もう……リセットはできないのかしら」
「リセットボタンなんかどこにもないと思いますよ」
「そう……。つまらないゲームね」
最後までマリア先生にとってのこの世界は、ゲームの中の世界だという認識しか持てなかったようだ。
マリアを連れてラスティと隠密一人が出ていき、教務室にはサイラスとエリザベスが残された。(エリザベスは気がついていないが、他にもエリザベスにつけられている隠密が一人と、サイラスにも数名ついており、二人を見守っているのだが……)
「ベス、まだ身体が辛いんじゃないか?」
「……ほんの少し」
エリザベスがモジモジと太腿を擦り合わせるようにし、サイラスはそんなエリザベスの横に座ると、さっきマリア先生が掴んだ太腿を撫でた。
「傷になっていないか見るよ」
ギリギリまでスカートが捲くられ、サイラスの目に太腿の内側についた三本の引っかき傷が目に入る。
「痛い?」
サイラスが傷をなぞると、エリザベスは今度は我慢しなくて良いとばかりに甘い吐息を吐いた。
「消毒しないとだね」
サイラスが両手でエリザベスの太腿を広げて傷口に顔を寄せ、エリザベスを見上げながら舐めあげると、エリザベスは両手を口に当て、イヤイヤと首を左右に振った。媚薬が残る状態でこんなことをされたら、肝心な場所には触れていないのにイキそうになる。
サイラスはそんなエリザベスを見上げて、少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「さっきも、マリア・ロンドに触られて感じていたね。そうだ、お仕置きしないとだった」
「いえ……それは……」
サイラスはエリザベスに気づかれないように隠密に合図を送り、部屋の外の警戒に当たらせ、それから隠密から教務室に近づく人物がいると秘密の合図が入るまで、サイラスはエリザベスを啼かせた。




