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番外編2 アナスタシアの悪夢6

「……ハァ〜ッ、今日もあの夢を見たわ」


 マリアは気怠い身体を起こしてため息を吐いた。


 ここ連日、あの奇跡のエンディングを繰り返し夢に見ていた。夢の中の自分はまるでゲームを見ているような感覚で二人を眺めており、いろんな視点に切り替わるのを楽しみながら自分を慰めていた。それこそ二人の局部のアップとか、ジルベルトがアナスタシアを攻める部位をピンポイントで切り取ったまるでアニメのような映像が、自分が彼らに近寄った訳ではないのに、クローズアップされて見えてくるのだ。ジルベルトの浮気現場を実際に覗いた時では味わえなかった興奮を味わえ、マリアは寝る前に前日の夢を何度も思い返し、自慰しながら寝落ちするという毎日を送っていた。


 毎晩あの夢が見たくて早めに就寝しているというのに、なぜか起きた時にはグッタリと疲れており、日に日に怠さが酷くなっていったが、マリアはその理由については深く考えることはなかった。そんなことよりも、毎晩二人の絡みを夢に見ることにより、あの奇跡のエンディングを実際に生で見たい……という欲求ばかりが大きくなっていった。


 それこそ、王太子の婚約者になったエリザベスに手を出してしまおうと思うくらいに。


 悶々とそのことばかり考えるようになったある夜、いつもならば見ているだけだったのに、いきなり鏡の中にエリザベスが映ったかと思うと、今まさに絶頂をむかえようとしているアナスタシアの中にマリアの意識が引きずり込まれた。


 完全にアナスタシアと同化したマリアは、いきなり貫かれるような絶頂をむかえたが、あまりのことに放心してしまう。


 確かに気持ちが良い。気持ちが良いのだが……、普通に気持ちが良いだけだ。どこが奇跡なの?と拍子抜けするレベルで普通過ぎた。


 マリアは以前に媚薬を使って情事を楽しんだことも数回あり、それと同レベル程度の快感しか得られなかった。

 前世のエロゲーやTL小説で見た、連続絶頂の様子や、白目をむく描写や、最終的に気絶してしまう……なんてことはなく、期待外れもいいとこだ。

 以前実際にジルベルトとした時も感じたが、ジルベルトレベルの相手ならば探せばそこそこいるものだ。


 やはり、カギはエリザベスなんだろうか?

 ゲームの中でのエリザベスの立ち位置を考えると、エリザベスがどれだけジルベルトに好意を持つかで、攻略できるランクがかわるのだから、ジルベルトが相手に与える快感も、エリザベスの好意に比較してかわるのではないだろうか?


 今のジルベルトに対するエリザベスの好感度は最低だ。つまり、今のジルベルトと何をしても最低レベルの快感しか得られない……。


「やはりエリザベスがこのゲームのキングオブモブなのね……」


 マリアの夢の中とはいえ、不本意な二つ名をつけられたエリザベスだった。


 ★★★


「で……いったいあんたは何がしたいんだ」


 目の前のソファーで目を閉じて眠っているように見えるエリザベスを見下ろして、ジルベルトはウンザリとした声を発した。


 一時はエリザベスに執着し、マリアの言葉に惑わされてエリザベスを取り戻そうとしたこともあったジルベルトだが(シルバー侯爵令嬢ズ媚薬事件)、その後が大変すぎて、今ではエリザベスどころの話じゃないというのが正直な心境だ。

 あの時はシルバー侯爵令嬢ズの初めてを奪ったと疑われ、罪人扱いの上に慰謝料を払えとか責任をとれとか言われ、ストーン侯爵家から勘当される一歩手前までいったのだ。なんとか無実を証明することができたと思ったら、以前から話があった、イザベラ・カーンとの婚約話が再浮上してきてしまった。しかも、この婚約にはなぜかガーベラ・ブロンドを愛人として迎えるという、訳の分からない誓約までくっついていて、今まで関係してきた中のワーストワン・ツーとの結婚など有り得ないと、ジルベルトは逃げ回っているところだった。


「あら、私はジルベルト君の味方なだけよ。あなたはエリザベスさんを取り戻したいのでしょう?この前だって、エリザベスさんに媚薬を飲ませる話にのってきたじゃない」

「あの時と今とじゃ状況が違うだろう」


 マリアから媚薬の話を持ちかけられた時は、ギリギリまだエリザベスの婚約が成立していなかった。結婚に女子の処女性が求められる貴族社会で、処女を喪失すればエリザベスは王太子の婚約者などにはなれないだろうと、マリアの話にのったジルベルトだったが、その結果があれだ。

 今では正式に王子の婚約者になったエリザベスに手を出すなど、どこの馬鹿だよという話だ。例えエリザベスがジルベルトの元婚約者で、かつジルベルトがエリザベスに特別な感情を持っていたとしてもだ。


「あら、なにも変わらないわ。あなたはエリザベスさんが好き。エリザベスさんだって、昔はジルベルト君のことが大好きだったでしょう?ちょっと想い合う時期がズレてしまったけれど、お互いがお互いを好きだった事実があるんだから、好き合う者同士ならば身体を重ねるのは当たり前の行為よ。エリザベスさんだって、あなたの立派なアレを受け入れたら、あなたがいなければいられなくなる筈よ。それにね、エリザベスさんには痺れ薬を飲ませてあるから、ちゃんと意識はあるのよ。ほら、エリザベスさん、あなたもジルベルトが欲しいわよね」


マリア先生は、ソファーに横たわるエリザベスを支えて座らせると、エリザベスの顔を両手で挟んで、何度もウンウンと頷かせる。


「ほら、エリザベスさんも同意ですって。それに、飲ませたのは痺れはだけじゃないの。もう一つの方も効果がでてきている筈よ」

「あんた……」


 マリアがエリザベスのスカートを少しづつ上げるようにまくり上げ、あらわになった太腿に指を這わせる。


「……ゥン、ハァ……」


 エリザベスの口から艶めかしい声が漏れる。思わず太腿をガン見し、生唾を飲み込んだジルベルトだが、さすがにここでマリアの甘言に釣られる訳にはいかない。それがどれだけ魅力的だとしても……。


「ほら、いつも彼女達にしてきたように、エリザベスさんも可愛がってあげたらいいわ。どうやれば女の子が喜ぶか、教えてあげたわよね」


 確かに、それまで自分勝手に性欲を発散するだけの行為だったのが、マリアと関係を持つようになってからは、相手の反応を見るようになったし、相手が感じれば感じる程、ジルベルトに返ってくる快感も大きいと知った。


「なにをしてるの?エリザベスさんはもうかなり辛そうよ。可哀想に」


 エリザベスは頬を薔薇色に染め、ハァハァと小さく息を吐き、動かない身体で、マリアが悪戯に触れる度に身体を小さく震わせて反応している。瞼がピクピク動いているから、なんとか頑張って身体を動かそうとしているのだろう。


「悪いが、俺はノータッチだ」


 ジルベルトが教務室を出ていく素振りを見せると、マリアはエリザベスの太腿を爪の跡がつくくらいきつく握った。エリザベスは痛みからか快感からか、身体をビクビクと震わせ、色づいた吐息のように息を吐いた。


「なんでよ!人がこれだけお膳立てしてあげてるっていうのに、あんたはいつもいつも……。プレイヤーの私がエリザベスを抱けって指示を出してるんだから、あんたはおとなしく言うことを聞けばいいのよ!それがあんたの為なの!今のままじゃあんたのセックスはいつまでたっても普通止まり。奇跡のエンディングなんか程遠いのよ!」


 ジルベルトは、マリアが何を言っているのかほとんど理解はできなかったが、自分のセックスが普通呼ばわりされたのだけは理解できた。


「普通で悪かったな!俺に二度と関わるな」


 ジルベルトは教務室から出ると、足早に普通科の校舎へ向かった。


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