番外編2 アナスタシアの悪夢3
番外編です。
前回と同様です。夢の中だし、R15で大丈夫かなと思うんですが……。
カクヨムでは投稿OKでした。
「ンッ……フゥ……ンァッ」
アナスタシアは、喘ぎ声を我慢しているように喉を鳴らしながら身体を捩らせた。時折ピクピクと身体を震わせ、胸の頂きは夜着をピンッと押し上げるほどに尖っている。
「ゥンッ……アァッ!」
アナスタシアの閉じられた両目から涙が溢れ落ち、背中を仰け反らせて腰を上げてビクビクと震える。
アナスタシアの腰がドンッとベッドに落ちた衝撃でエリザベスは目を覚ました。
「……シア様?シア様!」
涙を流しガタガタと震えているアナスタシアを見て、エリザベスはアナスタシアの肩を揺さぶって起こそうとした。
しかし、どんなに揺さぶってもアナスタシアは目を覚まさず、口からは嬌声が漏れ始めた。
「ァン、アァァッ!ㇵウッ……アッ……アッ……アァァン」
まるで誰かに突き上げられているかのようにアナスタシアの身体は跳ね、アナスタシアは涙を流しながら身体を揺らす。
「……ンッ、ィイッ、ジルベルト!アァァッッ!」
アナスタシアの悲鳴のような声が掠れて消えた。
「……ジルですって」
一瞬放心したようにつぶやいたエリザベスだったが、アナスタシアがイヤイヤとするように首をふり、辛そうに身体を捩りながら何かから逃れる様子を見せたので、エリザベスはアナスタシアの頬を強めに叩いた。
「シア様起きて!シア様!」
アナスタシアは身体を大きくしならせてから、ゆっくりと涙の膜が張った目を開いた。
大きな胸が上下し、息も荒く全身を紅潮させている様子は、女のエリザベスが見ても色気が溢れていて赤面してしまうくらい色っぽかった。
「……わ、わたくし」
「ごめんなさい、シア様。起こそうとしたんですがなかなか起きてくださらなくて……。頬を叩いてしまいました」
アナスタシアは震える身体を押さえるように自分の身体を抱き締め、何度も深く息を吸っては吐くを繰り返し、なんとか身体の熱を逃しているようだった。
「シア様、お水を」
エリザベスはベッドから下りると、水差しから水をくんでアナスタシアに差し出した。汗と涙で水分をだいぶ失ったアナスタシアは、エリザベスから手渡されたコップの水を勢いよく飲み、口の端から漏れた水がアナスタシアの首筋から胸元を濡らした。
「お水で濡れてしまったわ。着替えましょう」
アナスタシアは言われるままに頷くと、エリザベスの手を借りてベッドから下りた。エリザベスが夜着を脱がせて背中を拭ってあげたタオルをアナスタシアに渡すと、アナスタシアはまるで汚いものを落とすようにゴシゴシと胸元を擦った。
「シア様、肌が赤くなってしまいます」
「ベス……、夢だとわかっていますのに、気持ちが悪くて仕方がありませんの」
「シア様……」
エリザベスは新しい夜着をアナスタシアに羽織らせると、ボタンを上まできっちりと閉めた。
「わたくしは汚れてしまったのかしら」
「そんなことはないわ!シア様はなにも変わらないんだから」
「でも……あんなにリアルな感覚……わたくしが知らない筈のあの……」
アナスタシアは顔を覆ってうつむいてしまった。肩が小刻みに揺れ、涙を流しているようだ。
「シア様、私には魔力香がわかるんです」
「……」
いきなりなんの話なのかと、アナスタシアは顔を上げてエリザベスの方を見た。やはり瞳は涙に濡れ、いつもは力強いアナスタシアの瞳が不安げに揺れていた。
「男女が交わると、お互いの魔力香を纏うようになるようなんです。でも、シア様からはシア様の香りしかしない。甘酸っぱいベリーの香りです」
「……わたくしはベリーの香りがするんですの?」
「はい。とっても甘くて美味しそうな香りです」
「フフッ……甘くて美味しそうなのね」
「キャシーは澄んだ白檀の香りだし、ラス様はサンダルウッドです」
「ラスティは?」
「ラスティ様は爽やかなシトラスの香りですよ」
「そう……。わたくしも嗅いでみたいわ。シトラスの香り」
アナスタシアはポロリと一粒涙を流して言った。
「……シア様、私の話を信じてくれますか?」
「もちろんよ。なにを疑うことがあって?」
エリザベスは、サイラスにも話していない前世の話を、アナスタシアに話す決意をした。アナスタシアを悩ましている夢は、前世のエロゲーの記憶で間違いなさそうだったからだ。
アナスタシアがジルベルトに特別な感情を抱いていれば話は別なのだが、アナスタシアはジルベルトをクソカス野郎と毛嫌いしているから、ジルベルトに抱かれたいという願望は一ミリも持っていないだろう。ならば、アナスタシアの夢はアナスタシアの意志とは関係なく、多分エロゲーの奇跡のエンディングを見させられているのではないだろうか。
マリア先生の魔力によって。
そう、アナスタシアからはジルベルトの魔力香はせず、マリア先生の魔力香が僅かにしたのだ。といっても、マリア先生との接触は数えるほどしかなかったので、ジルベルトからのまた嗅ぎで覚えていたものだが。嗅ぎたいわけではないのに。
やはりマリア先生には前世の記憶があり、いろんな出来事の裏で暗躍している気がする。今回はアナスタシアにまで。それにしても、他人の夢に干渉できる魔術があるのか、それとも無意識に干渉してしまっているのかわからないが、なんとも恐ろしい話である。
アナスタシアはエリザベスが話すのを黙って聞き、エリザベスが話し終わるとゆっくりとうつむいて息を吐いた。顔を上げたアナスタシアは、さっきまでの不安げで儚い様子から、いつも通りの生命力溢れて気の強いアナスタシアへ戻っていた。
「許さないわ!クソカス男の分際で!!」
「シア様、今回はジルベルトは関係ないと思うの。多分、私と同じ前世を持った人……多分マリア先生が、シア様にゲームのエンディングを夢で見させているんだわ」
「夢に干渉する魔力なんて、なんて危険な……」
「そうよね。私もそう思う。でも、魔力を遮断できさえすれば、シア様は悪夢は見なくなると思うんです。だから、そんな魔導具がないか、ラス様に相談したいんですが……」
サイラスに相談するということは、ラスティにも話が行くということで、アナスタシアは好きな人に話したくないことを話さなければならなくなる。
「もちろん……わかっておりますわ」
アナスタシアはキュッと唇をを噛んだ。




