番外編2 アナスタシアの悪夢2
番外編2です。
午後にも投稿します。
番外編2の1と冒頭は似ています。しばらくこんな感じです。嫌な方はとばしてください。
「ィヤァァァッ!!」
またしても悪夢で飛び起きたアナスタシアは、全身汗まみれでガタガタと震えていた。
涙が溢れて止まらない。
身体の全てが敏感になっていて、自分で自分の身体を抱き締めただけで甘い吐息が漏れそうになるほどで、自分でさえ触れたことのない下腹部が熱を持ち、ジンジンと腫れたような感触に思わず太腿を擦り合わせる。グチュリと濡れ漏れた音に、さらに涙が止まらなくなる。
閨教育を受けたアナスタシアだから、自分の身体の変化を正確に理解していた。今までは否定していたが、明らかに自分の身体は男性を受け入れる準備が整っており、子だねが欲しいと男性を受け入れる場所が疼いていた。なんなら、閉じている筈のその場所に、自分以外の異物が侵略し蹂躙していった感触までまざまざと残っている。
「……なんで」
自慰もしたことがない、当たり前だが男性に触れさせたこともないというのに、夢によって自分の身体は高められ、さらにはハテてしまったようだった。
アナスタシアはベッドから下りると、夜着を脱ぎ捨てて月明かりに全裸を晒した。ベルを鳴らして侍女を呼ぶと、シーツ交換を言い渡してから浴室に向かった。お湯を持ってこさせるのを待つことなく、アナスタシアは水で何回も身体を清めた。
ガタガタ震えているのは寒いからで、決して欲情が残っているからではない。
自分の身体は夢の中で誰かに好き勝手されている。
アナスタシアは生まれて初めて恐怖を感じた。
誰か、誰か助けて……。
★★★
「シア様、何か悩み事でも?」
サイラスがラスティと共に公務で学園を休んでおり、今日はエリザベスとキャサリンの三人で生徒会室でお昼を食べていた。
「別に……いえ、実は……」
アナスタシアには珍しく食事をとる手が止まっていた為、エリザベスが心配そうに聞いてきた。アナスタシアも最初は隠そうとしたが、ラスティには話せない……話したくない話でも、この二人にならば話せると思い直し、躊躇なさいながらも夢のことを話しだした。
最近夢見が悪いこと、内容は詳しくは覚えてはいないが明らかに淫夢で起きた時の嫌悪感が半端ないこと、また夢だと思えないくらい感覚がリアルで、起きた後にもその感触が消えていないことなど。
淑女として詳しく口にするのも憚られるようなことまで、アナスタシアは思い詰めた表情で赤裸々に語った。
「……つまり、シア様は誰だかわからない男性に夢の中で悪戯されていると?」
ただの夢、欲求不満だからじゃないの?とは二人共言わず、アナスタシア以上に真剣な表情でアナスタシアの話を受け止めていた。
「淫魔……物語の存在だと思っていましたが、そのような存在がいるんでしょうか?」
キャサリンの言葉に、アナスタシアの眉根が寄る。
一般的には魔術は身近な存在ではないが、魔力や魔術の存在は確かにある。高位貴族であればあるほど魔力には敏感だ。
魔力がある獣、魔獣は現実にもいるし騎士達が討伐もしているが、知能のある魔物の存在は今まで認められていなかった。物語の淫魔のような存在が現実にいるとしたら、それこそ国にとっても重大な問題になりえるのだ。
「淫魔……かどうかはわからないけど、誰かの悪意が魔力に乗ってシア様に悪夢を見せている……のかも」
エリザベスの頭にあったのはマリア先生のこと。
剣術大会、文化祭後の出来事からマリア先生が転生者ではないかと疑ったエリザベスは、このことにもマリア先生が絡んでいるのではないかと思った。もし転生者で熱烈なエロゲーマーだとしたら、このエロゲーの最終攻略者であるアナスタシアの奇跡のエンディングを見たいと思うのではないだろうか?
もちろんこのことは言えないので、エリザベスは言葉を濁しつつ発言した。
「私は過去に似たようなことがなかったか調べてみようと思います。もし誰かの魔力が介在しているとしたら、それを遮断する方法も探してみます」
「キャシーありがとう」
「私は……今日シア様のお屋敷にお泊まりに行っても良いかしら?」
「お泊まりですって?!」
アナスタシアはパチンと扇子を開いて口元を隠しながら、エリザベスにズイッと近寄った。釣り上がり気味の大きな目を細められ、エリザベスを真っ直ぐに見つめる。
「まぁまぁッ!あなたがわたくしの屋敷にお泊りにいらっしゃるですって!……もちろんよろしくってよ!!どうせならキャシーもいかがかしら?パジャマパーティー、憧れていたんですの」
見た目ではわからないが口調が弾んでいるから、かなり喜んでいるようだ。それだけでも気分転換になるだろうと、エリザベスはとりあえず胸を撫で下ろした。
「残念ですが、私は今晩商談が入っているので伺えませんが、ぜひ次回は参加させてもらいます」
「絶対よ」
それからキャサリンは、さっそく図書館へ行って調べてくると生徒会室を出ていった。
「シア様、夢の相手のことだけど、本当に覚えていないのかな?ちょっとした特徴……髪色や瞳の色とか黒子なんか記憶に残ってない?あとはちょっとした癖とか」
アナスタシアは首を横に振る。
夢を見ている時はちゃんと相手を理解しているようだし、なんなら好意すら抱いているようだが、夢から覚めると全て霞がかかったように思い出せない。ただ、その感触がラスティのものでないのはわかった。ラスティならばあんなふうにアナスタシアに触れることはないだろう。夢の人物は、傲慢にも思えるくらい力強くアナスタシアを無理やり快感に引きずり落とし、アナスタシアが未知の感覚に恐怖を感じても、その手を緩めてはくれない。
もしラスティが相手ならば、不安に感じる筈がないのだ。同じ状態になったとしとも、アナスタシアが流すのは喜びの涙だろう。
「……手がとても大きいような気がしましたわ。多分、男性の中でも。あとは深爪なくらい爪は短いかと」
アナスタシアは思い出したくない感覚を思い出してしまい、自分の身体を両手で抱き締めた。
「ごめんなさい。思い出させちゃったんですね。今日、シア様と同じお部屋に泊まらせてください。シア様がうなされたら、絶対にすぐに起こしてさしあげますから」
「もちろん、同じベッドに泊まってちょうだい。ベスと一緒に寝たら、変な夢なんか見ない気がいたしますもの」
エリザベスは学園の授業が終わると、一度家に帰って泊まり仕度をしてからゴールド公爵家の迎えの馬車に乗り、アナスタシアの待つゴールド公爵家に向かった。




