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図書館での情事

R15バージョンです。

本日2話目です。

 キャサリン・ハート……ジルベルトとは図書館で出会うのよね。探していた本が所定の場所になく、図書館中を探していたキャサリンが、誰もいない図書館の奥の棚にようやく目当ての本を見つけ、本を取ろうとしたけど届かず、その本を背の高いジルベルトが取ってあげるという、ベタ中のベタな出会い。ただ、ここで実際にキャサリンが取りたがっていた本を取ってしまうと、いきなり攻略失敗になるのよね。クールな見た目で実はゴリゴリの乙女小説が大好きなキャサリンは、趣味バレを一番に恐れているから。そして、その乙女小説をジルベルトが借りることが第二の攻略ポイント。あの見た目で乙女小説というギャップがキャサリンのツボにはまるのだ。


「とりあえず……図書館に行ってみよう」


 帰り支度をしたエリザベスは、まだ人の残る教室を後にした。

 普通科・騎士科・魔術学科棟はキャンベル王立学園の敷地内に三角形の頂点に位置しており、その中心に実習棟や修練場、図書館、体育館などがある。王立学園の敷地は広く、周回馬車が回っているが、放課後特に用事のないエリザベスは、ゆっくり歩いて図書館を目指した。


 確か、図書館の一番奥もジルベルトの浮気スポットだったわね。


 そんなことを思い出しながら図書館の奥に足を運ぶと、チュボチュポ……と何やら淫らな音が聞こえてきた。本棚の本を一冊抜き、隙間から奥を覗いてみると……、ビンゴでした。立っているジルベルトの前に膝立ちになって蠢く長い髪の女性。制服ではなくワンピース姿だから、司書のスザンナ先生で間違いなさそうだ。一週間学園にこなかっただけで、もう10番目の攻略対象まで攻略が進んだらしい。なんとも精力旺盛なことだ。がしかし、これはまだまだスザンナ先生攻略の序盤だ。

 そして、スザンナ先生との浮気はこの世界では浮気とカウントされない。スザンナ先生は子持ちの既婚者だからだ。


 ジルベルトは目尻を赤くさせ、色気増々の視線でスザンナ先生の口元を見つめている。スザンナ先生はジルベルトの前にしゃがみこんで、なにやら熱心に致しているようだが、エリザベスの位置からは詳しくは見えない。見えないが、音とスザンナ先生の動きから何をしているかは想像できた。

 ジルベルトの腰は自然と前後に揺れ、スザンナ先生のYシャツのボタンを弾き飛ばす勢いで外して、下着を無理やり下げてそのタワワな爆乳を引きずり出して揉みだした。

 スザンナ先生のくぐもった嬌声と粘着質な音が混ざり、静かな図書館に響いている。


 エリザベスが用事があるのはジルベルトの後ろの棚なので、この行為が終わるまで動きようがない。ガン見してバレるといけないので、本棚の隙間に音をさせずに本を戻す。

 こんなにいかがわしい音を響かせて大丈夫なんだろうかと、いらぬ心配をしてしまう。図書館は広いし人はまばらとはいえ無人ではない。実際、近くまできて引き返す足音もする。

 さすが、エロゲーの世界。こういうことも日常なんだろうか?元祖エリザベスの時はエロとは全く無縁だったけれど。


 各務愛莉の時は、レス気味の彼氏(他ではお盛んだったらしいけどな!)に対する欲求不満と純粋な興味心からエロゲーにはまったが、あれは二次元だから良かったんであって、三次元でしかも自分の婚約者が相手となると、ひたすら気持ち悪いだけだ。

 元祖エリザベスのあの純粋無垢な恋心は、新生エリザベスには一欠片も残っていないらしい。


 本をとる為の梯子の下でうずくまって時間が過ぎるのを待っているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

 気がついた時は、すでに西日が図書館の中を照らし、窓から見える空はピンク色から紫に移行していた。


「……アフ」


 欠伸をしながら伸びをすると、何かが床に落ちた。落ちた物に手を伸ばすと、それは男子の制服の上着だった。


「おはよう」

「おはよう……ございます?」


 いきなり声をかけられ、ビクッとして声のする方を見ると、ボサボサ頭の男子生徒が本棚に寄りかかって本を読んでいた。


「よく寝てた」

「あ……」


 本棚の裏でのジルベルトとスザンナ先生の情事を思い出し、声を出したらまずいとエリザベスは慌てて口に手を当てた。


「大丈夫。彼らはもう帰ったよ」

「……彼ら」

「うん。ジルベルト・ストーンとスザンナ・フォーク」

「……」


 ジルベルトがエリザベスの婚約者であることをラスティが知っているかはわからないが、もし知っていたとしたら非常に気まずい。婚約者の浮気現場の裏で、呑気に寝てしまっていたのだから。


「彼は君の婚約者……だよね」

「まぁ……そうですね」


 やはり知られていた。 

 エリザベスは小さな身体をさらに小さくして居心地悪そうに頷く。


「君がここにいたのは彼にはバレてないから安心して。もしかして……ショックで気を失っていたとか?」

「いえ、この後ろの本棚に用事があったんですけど、まぁ……出るに出れなくて。それで終わるまで待ってようかなって思っていたら……いつの間にか寝てました」


 好き好んで出歯亀していた訳じゃないアピールをする。婚約者の情事を覗いて喜ぶ変態だと思われたら大変だ。


「えっと……、家の都合の婚約者だから、相手が何してても気にならないってことかな?」


 あまり掘り下げて欲しくない会話なのだが、ラスティはズバズバと聞いてくる。


「まぁ、今は気になりませんね」

「婚約者に恋愛感情はないってこと?」


 だから掘り下げますね。


「今はないですね」

「前はあった?」


 エリザベスは、大きくため息をついて立ち上がってスカートについた埃をはらった。


「小さい時から、ジルのお嫁さんになるんだって言われてきましたから。刷り込み?みたいなものです。ジルも二人の時は優しいですし……初恋だったと思います」

「初恋……」


 表情がわからないけれど、何故かラスティが声を震わせて今にも泣きそうに口角が下がってしまっている。

 優しい人なんだろう。赤の他人の気持ちを慮って泣きそうになるなんて。それにこの上着、ラスティの物のようだ。頭からかけられていたようだったから、ジルベルトからエリザベスを隠す意味があったに違いない。


「これ、ありがとうございました。初恋は実らないって言いますからね。……私は大丈夫です。アハハ、結婚前にジルの浮気癖を知ることができて良かったんです」

「諦めて結婚するのか?」


 エリザベスはラスティに上着を返し、大きく首を横に振った。


「いいえ。今からこんな様子では、私が子供を産んだらジルは浮気三昧になるのが目に見えてます。私は、一生自分だけを見てくれる人と結婚したいです」

「それは、君も一生相手だけを見る……ということ?」

「もちろんです」

「それは……素敵だな」


 多分、見つめ合っているんだと思う。ラスティの目は見えないけれど、真剣に見られている気はした。


「でも、婚約破棄は難しい……だろう」

「そうなんですよね」


 エリザベスは梯子の段に腰掛けて視線を下に向ける。

 格上の侯爵家に、格下の伯爵家から物申すことはできない。だからこそジルベルトの浮気の物的証拠を集めたいのだが、浮気相手の貴族子女からしたら、絶対に秘匿したい事だろう。婚約者がいる男に手を出したことも、自分の純潔がすでにないことも、世に知られたらアウトだからだ。証言をとることは難しそうだ。


「でも!頑張ります!絶対に婚約破棄してもらいますから!」

「……そうか。うん、頑張れ……いや僕も手伝う。手伝わせて欲しい。一人より二人だ。一緒に頑張ろう」


 ラスティの手がフワリとエリザベスの頭を撫でた。その温かさと、綺麗な口元の笑みに、エリザベスの胸がドキリと高鳴る。

 

 この人、顔を隠しているのは、実はカッコ良すぎてとかじゃないの?


 嫌いな人にやられたら拒絶反応が出る行為も、好印象を持っている人からされたらドキドキするだけだ。顔が見えないのに、なぜかラスティがカッコ良く見えてしまうのは、何効果だろうか?


「一緒に?」

「ああ」

「でも……何もお返しできないです。もしかしたら、ストーン侯爵家に睨まれるようなことになるかもしれません。だから……」


 ラスティの申し出は嬉しい。嬉しいのだが、子爵家のラスティが侯爵家に何かされたら……。そんな危険なことはさせられないと、エリザベスが断りの言葉言おうとしたら、ラスティは周りをキョロキョロと見て、唇に人差し指を当てた。


「一つ、僕の秘密を教えよう。いいかい、驚かないで」


 ラスティはそう言うと、左手を前にかざした。その指先に炎がポッと灯る。


「え?」


 マジック?かくし芸かしら?


 魔力や魔術がある世界ではあるが、一般人には全く馴染みがないものだから、エリザベスも最初はラスティが指先から出した炎が魔術であるとは思わなかった。


「炎は適性が低いからあまり使えないけど、一番わかりやすいから。得意なのは身体強化魔法」

「魔術……が使えるんですか?え?でもウッド子爵令息は魔術学科ではないですよね」

「ああ、将来は官吏を目指しているからね。魔術が使えることは公言してないんだ。知っているのは国王陛下と第3王子だけ」

「国王陛下と第3王子……」


 そんなVIP中のVIPしか知らない秘密の中に仲間入りとか、ちょっと意味がわからない。

 魔術士は国の宝……実際にその国の宝が目の前にあるなんて、なんていうか凄すぎて逆に実感が湧かない。


「そう。僕はこの学園を卒業したら、国の中枢に勤めることが決まっている。第3王子の側近としてね。だから、相手が侯爵だろうが僕に圧力をかけることはできないだろう」

「魔術……初めて見た」


 魔術が使える……そんな栄誉なことを公言しない理由があることにエリザベスは気がついていなかった。




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