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番外編1 シルバー侯爵家のお茶会は大混乱

番外編です。

本日2話目です。

「あなた、さっきから人の話を適当に流して、本当に失礼な方ね」

「そんなつもりは……」

「じゃあ、私達がサイラス様の10歳のお誕生日に渡したプレゼントは言えますの?!先程たっぷりお話いたしましたけど」


 スルースキルが過ぎたようだ。さっき双子がサイラスについて熱く語っていた時、エリザベスはエリザベスでサイラスのことを考えていたから、双子の話は全く記憶になかった。

 シルバー侯爵令嬢ズはプルプルと震えるほど怒っているようで、前世におけるクレーム対応の一番駄目な例をしてしまったことに気がついた。


「ごめんなさい」


 謝る時は誠意をこめて!


 エリザベスは姿勢正しく45度頭を下げて謝る。そこから十秒数えて頭を上げた。


「そうねぇ、そんなに謝るなら許してさしあげないこともないわ。ね、マニ」

「そうね、サリ。仲直りのしるしに、私達があなたの為に特別に用意した、そのカカオ菓子を食べてちょうだい」

「それがいいわ!せっかくあなたの為にお取り寄せしたのに、食べていただけないなんて酷い話だもの」


 シルバー侯爵令嬢ズは両手を叩いて満面の笑みを浮かべる。


 明らかに怪しいこのカカオ菓子を食べろと……?


 エリザベスは取り分けたカカオ菓子を手に取った。

 一応、このカカオ菓子はシルバー侯爵令嬢ズの前にあったのを交換したものだ。自分達に媚薬を盛るとも思えないからこれはセーフな筈だ。もし万が一こっちにも仕込んであったとしても、いざとなればアナスタシアの薬がある。


 エリザベスは意を決してカカオ菓子を口に入れた。


 サクッとした食感の後、ドロッと濃厚なチョコレートが口に広がった。味は凄く美味しい。甘みが強いから、もし媚薬が入っていてもわからないかもしれないが。


 ゆっくりと咀嚼した後コクリと飲み込む。後味もかなり濃厚で、できれば紅茶でさっぱりと流したいが、何が入っているかわからない紅茶よりは水が良い。


「あの、とても濃厚で美味しかったです。でも、ちょっと濃かったのでできればお水をいただきたいのですが」

「水、水ですわね」


 マニエラが手元のベルを鳴らして侍女を呼びつける。


「ミラー伯爵令嬢に果実水を」

「すみません、果物アレルギーがあるので、何も味付けしてないお水でお願いします」

「まぁ、あなた、ただの水なんか口にしますの?あれは手を洗ったり顔を洗ったりするものでしょう。まるで平民のようではありませんか」

「サリ、平民を馬鹿にしたらいけないわ。皆が皆、井戸水を飲んでいる訳ではないのですから」


 いや、どっちを馬鹿にしてるんだろう?平民か、エリザベスか……、多分両方だ。


 すぐに水がグラスに注がれ、エリザベスの前に置かれた。

 匂いを嗅ぐと無臭だから何も入っていないただの水で間違いなさそうだ。念の為、ほんの僅か口に入れて味を確かめる。やはりただの水だった。一口飲んで口の中をさっぱりさせた。


「ありがとうございます」


 マニエラが退出しようとした侍女を呼び寄せ、何か耳打ちした。侍女は頷いてから礼をして下がった。

 もしあれが媚薬などの類の物ならば、ジルベルトにスタンバイするようにと指示したのかもしれない。

 エリザベスは念の為、いつでも薬を飲めるようにネックレスの宝石の中から薬を取り出しておいた。


「……あなた、暑くはないのですか?」


 しばらく無言で観察されていたようだが、サリエラが我慢できないというように聞いてきた。


「いえ、心地よい温度だと思いますけど」


 肌寒く感じることが多くなった晩秋、普通にしていて暑いなどということはない。


「なにか、ムズムズしませんこと?」

「私は花粉症はありませんけど。サリエラ様はムズムズするんですか?この時期はブタクサももう落ち着いたでしょうから、ハウスダストでしょうか?」

「失礼ね!お掃除は侍女達に徹底してやらせておりますのよ!」

「サリ、落ち着いて。ミラー伯爵令嬢、カカオ菓子をもう一ついかが?」


 サリエラの様子から、仕込まれた何かしらの薬(暑くなってムズムズとか、媚薬確定だ)は即効性のものなんだろう。症状が表れないエリザベスに、サリエラはイライラしている様子だった。


「はい、いただきます」


 カカオ菓子を食べてからすでに30分くらいたっているが、身体の様子は何もかわらない。遅効性の物だとアウトなのかもしれないが、エリザベスが帰宅してから効果を発する物など使わないだろう。毒物ならありえるかもしれないが、さすがに毒殺をしては侯爵家だとしても有罪だ。


 エリザベスは落ち着いた様子でカカオ菓子を手に取ると、見せつけるように口に入れた。


 やはり美味しい。


 カカオ菓子自体は本当に高級菓子のようだ。今度はしっかり味わって食べる。中のチョコレートは固まっていないのに濃厚なチョコレートの風味がするとか、どうやってこの状態を維持できているのか。


 ゆっくりと時間をかけて一つ、二つ、三つと食べていく。


「……そんな」


 全く様子の変わらないエリザベスに、サリエラは自分の前にあるカカオ菓子に手を伸ばした。


「サリ!」


 マニエラの静止も届かず、サリエラはカカオ菓子をパクリと一口で食べてしまう。


 あららららら。


 エリザベスが置き換えた方のチョコレートを、サリエラが一口で食べてしまった。自業自得とはいえ、どの程度の媚薬なんだろうか?薬を飲ませた方がいいのかと、エリザベスはサリエラをマジマジと見る。


「サリ?」

「やはり、美味しいですわ」


 即効性の物で10分から15分くらいだろうか。食べてすぐのサリエラに効果が出るなんて、それこそ小説の話だろう。それとも、食べてすぐに効果抜群とでも言われて薬を売りつけられたのか。


「ほら、マニも食べてごらんなさいな。美味しいですわよ」


 サリエラがマニエラの口にカカオ菓子を持っていく。しばらく食べる食べないの問答をしていたが、とうとうマニエラが折れてカカオ菓子を一口かじった。


「あら、本当。美味しいわ」

「あ……」

「いかがなさったの?ミラー伯爵令嬢」

「い、いえ」


 赤い薬は一つしかないのに、二人共食べてしまった。


 エリザベスは水を飲み、シルバー侯爵令嬢ズは紅茶を飲みながら、マニエラとサリエラは二人だけで会話をする。

 すると、ちょうど10分たった頃、サリエラの目がトロンと潤み、頬に赤みが増してきた。そして、太ももをを擦り合わせて身体をユラユラと揺らしだす。


「サリ?どうかしたの?」

「マニ、暑いの。この部屋、凄く暑くない?それに何かムズムズするのよ」

「ムズムズって……どこが?」


 サリエラが指差した場所を見て、マニエラはサッと顔色をかえる。


「サリ、あなた!」


 マニエラがベルを数回かき鳴らすと、侍女が出入りしていた扉ではなく、エリザベスの後ろにあった小さな扉が開かれた。


「エリー!大丈夫か?!どこか辛いとこはないか!」


 これは、わかった上での登場ですね。


 予想はしていたが、ジルベルトが続き部屋から現れて、エリザベスの方へ駆け寄ってきた。


「私はなんともありません。サリエラ様のご様子がおかしいんです」

「えっ?」


 エリザベスは、立ち上がって椅子でジルベルトをブロックしつつ、すでに座っていられなくなって床に崩れ落ちて悶えているサリエラを指差した。


「ほら、騎士科で病人の救急処置とか習っているんじゃないんですか?!サリエラ様をなんとかしてあげてください」

「なんとかって……」

「ほら、早く!」

「いや、でも……」


 状況(サリエラが間違って媚薬を食べた)を把握したのだろう、ジルベルトは尻込みしつつエリザベスに背中を押されながらシルバー侯爵令嬢ズに近づく。

 サリエラはドレスのボタンを焦れったそうに外しだしていた。指が震えるのかなかなかうまくいかず、マニエラに「暑い……辛い」と訴えている。上気した表情と吐息混じりの声が異常に色っぽく、こんな状態でサイラスを呼ぶなんて絶対に無理だ。とにかくこの状態をなんとかしなくては!


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