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番外編1 シルバー侯爵家のお茶会へ行きます

番外編です。

本日2話目です。

「本当に行きますの?」

「侯爵家直々のお誘いだから断れないもの」


 昨日エリザベスの元に届けられた招待状は、シルバー侯爵家の紋章で封蝋された正式なもので、伯爵家のエリザベスが無視できる類のものではなかった。しかも、返信不要となっているので、欠席したら無断欠席となり伯爵家が侯爵家に喧嘩をふっかけたと取られかねない。


「だから、僕が従者のふりして付きそうんじゃないか」


 エリザベスの後ろに、茶色の髪の毛を後ろで一括りにし、目には茶色のカラーコンタクトを入れたサイラスが立っていた。口には含み綿を入れ、洋服の中にもかなり厚くタオルを巻いてふっくらとした体型を装っている。ハート商会自慢の特殊メイクアーティスト(化粧部門商品開発科所属)に、初老メイクを施してもらい、誰もこれがサイラスとは気が付かない出来に仕上がっていた。


「屋敷には入れても、お茶会の席には同席できないでしょう。それならばわたくしが侍女に扮した方がよかったんではなくて?」

「シアが侍女って、口開いたらすぐにバレるに決まってる」

「あら、そんなことなくってよ。わたくしにできないことなんかないわ」

「無理無理。それにシアには調べてもらいたいことがあるから」

「マリア先生のことですわね」


 サイラスは、ジルベルトにもいまだ隠密をつけて見張っている。その隠密からの報告で、ジルベルトにマリア先生が接触したらしいのだ。そして、シルバー家の茶会の招待状をジルベルトに渡した……というのはストーン侯爵家の老執事からのタレコミだ。彼はエリザベスのことをことのほか可愛がってくれており、ストーン侯爵家に行ってもジルベルトにかまわれることのなかったエリザベスの遊び相手になってくれたこともあった。その老執事が、エリザベスのことを心配して、わざわざ手紙を寄こしたのだった。


 一昨日、ストーン侯爵家にマリア先生が訪ねてきて、一旦は取り次ぎを拒否したのだが、ジルベルトがストーン侯爵家の訓練場に行く為に屋敷を出た時、どうやらマリア先生と接触してしまったらしいのだ。暗くなっても訓練場から戻って来ないジルベルトを心配して、老執事がランプを持って訓練場へ言ったら、「ミラー伯爵令嬢」とマリア先生が言っていたのが聞こえたのと、ジルベルトの手にシルバー侯爵家の封蝋の施された手紙が握られていたということが手紙に書かれていた。


 その手紙を読んだエリザベスは、シルバー侯爵令嬢ズとマリア先生、そしてジルベルトに繋がりがあると理解した。文化祭の時も、わざわざ2年生の教室に訪れたマリア先生は、シルバー侯爵令嬢ズに話しかけ、サイラスとの婚約が成立するようにと激励していたらしいし……。

 なによりエリザベスが気になっていたのは、サイラス達には言えないあのことに関係する。マリア先生《《だけ》》が攻略対象者ではないという事実だ。婚約破棄の調停を行うにあたり、ジルベルトが関係(キスや触れ合いぐらいの軽い関係は除外)を持った女性を洗い出した結果、14人だった。エロゲーの攻略対象者は15人。うち、キャサリンとアナスタシアは攻略失敗しているので、13人は見事攻略対象者と一致していた。残りの一人、それがマリア先生だ。

 しかもその時の調べで、マリア先生は高頻度でジルベルトの他の女性との密会場面に出没しているらしいのだ。つまりは、ノゾキ。


 ノゾキ趣味のあるエロ教師。


 まぁ、エロゲーの世界だからアリなのかなと、ちょっと引いたのを覚えている。


 でも待てよ……と。

 なぜ転生者が自分だけだと思うのか?


 モブですらなかったマリア・ロンドという女性が、これだけジルベルトに関わってくるということは、彼女はあのゲームに精通している転生者なのではないだろうか?


 もしも実際にそうなのだとしたら、いくらマリア先生のことを調べても、マリア先生がジルベルトに絡む理由なんてでてくる訳がない。


 でもそんなこと言えないし……。


「ベス、大丈夫だよ。絶対に僕が守るから」


 マリア先生のことを考えていたのだが、お茶会のことが不安で悩んでいるように見えたようだ。サイラスは、小太りで初老の男性の姿でエリザベスを抱き寄せて、目尻にキスを落とした。


 嗅覚ではサンダルウッドの香りでサイラスだと認識し、視覚では小太りのおじさんとしか認識できず、頭が誤作動起こしそうになる。


「飲み物を飲んだらいけませんわよ。あの双子、以前紅茶に下剤入れた前科がありますもの」

「あー、あったな。いきなり、ゴロゴロいいだしたから、なんの音かと思ったら、いきなり隣に座っている令嬢がお腹を抱えて走り出したっけ。走りながら特大な屁をかましてたな」

「それは忘れて差し上げなさいな。あの頃、ラスにかなりアプローチしていた令嬢でしたわね。あれがあってから、領地に引き籠りになってしまわれたわ。あと、果物水も飲んだらいけませんわよ」

「それも下剤ですか?」

「いえ、こちらは媚薬でしたわね」

「あー、それもあったな」

「え?」


 まさか、ラス様も媚薬を盛られたとか……。


 エリザベスが「まさか!」と息をのむと、サイラスがエリザベスを安心させるようにエリザベスの肩を撫でた。


「媚薬といっても、軽いやつだから。ちょっと身体が熱くなって脱ぎたくなるような。僕は多少の毒や媚薬は効かないから問題なかったけど」

「そうでしたわね。ラスのお誕生日会でしたかしら。至る所でストリップショーが始まってびっくりしましたわ」

「至る所……。ラス様も見たんですね」


 どうやら飲んだのは一人じゃないらしい。


「いや、脱いだって言っても、みんなドレスだったからスパスパは脱げなかったんだ。侍女達が慌てて隠したし。令息達はかなり際どいとこまで脱いだけど、まぁ騎士科の鍛錬中ならギリギリありなくらいだったし」

「まぁ、でもお胸ポロンはしてましたわね。皆様、まだお発展途上の時にでしたけれど」

「見たんですか!」


 つめ寄るエリザベスに、サイラスは首を横にブンブン振る。


「あら、二つ年上のマイラ様に抱きつかれていましたわよね?彼女は他の令嬢達と違って、かなり成熟していましたかしらね」

「いやいやいや、目閉じていたからね。全く、全然、神に誓って見ていない!」


 ……過去のことだし、不可抗力ということで許してさしあげよう。


「そういう時は、全力で逃げてくださいね」

「わかった!全力で逃げると約束する」

「まぁ、あれでだいぶ婚約者候補が減りましたわよね」

「まぁ、すっきりはしたよね。ゼロになれば言うことなかったけど」


 媚薬は要注意だ。お茶会の席にジルベルトがいるかはわからないが、シルバー侯爵家には待機しているだろう。


「無味無臭の毒薬とか媚薬はありますか?」

「今のところはないね。毒薬はわずかでも苦味があるし、媚薬は甘いかな」

「じゃあ、水だけいただきます。果実水もアレルギーだと言って断ります」

「それが無難ですわ。ベスにはこれを渡しておきますわね」


 アナスタシアから赤い宝石のついたネックレスを受け取った。


「これは?」

「ここを開けてみてくださる。ゴールド公爵家秘伝のお薬が入っているんですの。黒いのは麻痺系の解毒薬、白いのは下剤の解毒薬、赤いのは媚薬系の解毒薬ですわ。全部に効く訳ではありませんけれど、かなりオールマイティに効きますのよ。かなり酷いものでも軽減はできる優れものですの。市販はされてませんわ」


 宝石をひねると中が空洞になっており、言われた薬が一粒づつ入っていた。


「王家に伝わるものと同じかな?僕も用意はしてきたけど」


 アナスタシアは鼻で笑った。


「王族は毒に耐性をつけますから、薬の開発改良はあまりなさらないでしょう。うちのは公爵家の薬師が長い年月をかけて開発いたしたものですからね。王家の薬なんかおよびませんことよ」


 エリザベスはアナスタシアから貰ったネックレスを首から下げ、「よし!」と気合を入れた。



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