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番外編1 マリア・ロンド動く

番外編 

本日2話投稿してます。

 マリアが学園の教師になった時、マリアは教師は天職だと思った。勉強を教えるのが好きとかではない。どちらかというと、一人で黙々研究するのが好きだったから。

 学園には、若くてピチピチした若者がいっぱいいる。しかも、貴族の若者など平民と違って欲求不満の塊だ。結婚するまで純潔に拘る貴族子女と違い、平民女子の貞操観念ゆるい。マリアも同じくで、学園ではそんな欲求不満の学生がウヨウヨいるものだから相手には困らなかった。

 そんな中、ジルベルト・ストーン侯爵がたまたま行った図書館の一角、平民の女子生徒と絡み合う姿を目撃した。


 衝撃だった。


『ジルベルト様、もっと……深く、きて』

『イヤらしい女だな。ほら、足を上げろよ』

『☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓』

『……☓☓☓☓、☓☓☓☓☓☓☓☓☓。☓☓☓、☓☓』


 マリアの頭に浮かんだ台詞そのまま口にする男女。見えない筈の二人の繋がった場所や、局部の映像すら頭に浮かぶ。

 さらにこの男子生徒の色んな女性との絡み合う場面が頭に浮かび、頭がガンガン痛んでよろけそうになったがふんばった。


 そして思い出したのだ。


 自分は輪島マリア、29歳女子校教諭であったことを。幼稚園から大学まで女子校、就職先まで母校を選んだマリアは、29歳にして立派な喪女、男性とお付き合いもしたことがなかった。おかげさまで妄想逞しくで、ネットにより知識だけは豊富だった。

 あんなこともしてみたい、こんなこともしてみたいと自分を慰める日々、とあるエロゲーにはまった。ジルベルト・ストーンという貴族男子が、とにかく色んな女子を攻略してHしまくるというもので、そのエロ画像をコンプリートしたくて何度も周回した。特にお気に入りは、気位の高い公爵令嬢を媚薬を使って快楽落ちさせるエンディング動画で、そこに持っていく為に課金も惜しまずした。


 マリアにとっての神ゲー。


 そんなエロゲーのエロ動画の音声をイヤホン越しに聞きながらの帰宅途中、駅のホームでふざけ合うカップルにぶつかられ、マリアはホーム下に転落した。転落防止のゲートはつけている最中で、まだ枠までしか設置されていなかった。

 電車の急停車する激しいブレーキ音と、周りの悲鳴。目の前に迫る電車のヘッドライト……。


 色んな男とヤりまくってみたかった!


 マリアの最後の思考は、イヤホンから聞こえたジルベルトの『イけよ』という声を聞いて途絶えた。


 どんな神の采配か、マリアは前世の希望そのままにエロゲーの世界に転生していた。しかも、ド嵌りしたジルベルトと致すこともできた。ちょっと予想と違ったが、このままいけばあのイヤミな程高飛車な公爵令嬢の快楽堕ちの神画像が見られるかもしれない。


 しかし、予想外な展開に!


 ジルベルトが好感度を上げなければならない婚約者と婚約破棄したのだ。彼女の好感度がそまのまま攻略成否のバロメーターだというのに。


 そして気がついた。


 ゲームでは、馬鹿なのこの子?と思うくらい鈍感で、ジルベルトの口先だけの約束や褒め言葉に浮かれて好感度を上げていった婚約者が、用意周到にジルベルトとの婚約破棄に向けて準備したということに。ゲームではありえない展開。そう思って見てみると、彼女が関わったから攻略対象者であったキャサリン・ハートとアナスタシア・ゴールドの攻略に失敗したんだと思えてきた。


 もしかして、彼女も転生者ではないの?


 疑念が確信に変わった。


 邪魔させない!あの神画像を見る為には、なんとしてもジルベルトの婚約者はエリザベス・ミラー伯爵令嬢でなければならない。


 マリアはジルベルトの再婚約を目指して動き出した。さらに、最終攻略には婚約者の好感度プラス、ある裏攻略ストーリーの展開が必要で、その為にはジルベルトとの接触が必須な人物がいた。


 シルバー侯爵令嬢達だ。


 マリアは先んじて彼女らに接触し、さらにはジルベルトとシルバー侯爵令嬢達の接触を成功させた。


 そして今、そのシルバー侯爵令嬢達とマリアはお茶をしていた。


「お二人が王子妃になられて、あの麗しい第3王子殿下の両脇に立たれたら、それは素晴らしく美しい絵画のようでしょうね」

「「まぁ、マリア先生!私達もいつもそう思ってますの」」

「本当、第3王子殿下の周りはシルバー侯爵令嬢達含め、麗しいご令嬢達ばかりだから、少し毛色の変わった伯爵令嬢が目についただけです。すぐにあなた方の方が良いと気が付きます」


 シルバー侯爵令嬢達は満足気に頷き、紅茶を々タイミングで口に含み、同じタイミングでカップを置いた。


「けれど、婚約が成立してしまうと少し厄介ですわね」

「「なぜですの?」」


 マリアは眉を下げ、口元に手を持っていって本当に困ったかのような表情を作る。


「現国王も、皇太子もその他の王族の方々がみなさん一人しか妃を娶っていないからです。多くても二人。後継ができないと問題があった場合のみです。皆様、一夫多妻の権利をお持ちなのに、国民が一夫一婦制だからと合わせておられるんです。そのような状態で、まさか第3王子だけが複数妻を娶るなど、周りが許さないのではと懸念してます」

「「つまり?」」

「ミラー伯爵令嬢と婚約し結婚してしまうと、どんなに後で第3王子殿下がお二人を娶りたいと願っても、よくてどちらかのみのお話になってしまいますね。今ならどちらかが先に嫁がれてお子を作らなければ、3年もすれば第二夫人のお話もでるでしょう」

「「どうすれば……」」


 マリアは手で隠した口元にニンマリと笑みを浮かべた。


「ミラー伯爵令嬢には元婚約者がおります。彼は彼女と別れたくなかったようです。彼女も元は婚約者を愛していました。ちょっと見目麗しい王子様に目移りしてしまっただけ。元の鞘に収まって貰えば良いのですよ。貴族のご令嬢は私に達平民と違って、貞節が尊ばれるものです。特に王族は」

「……」


 ゲーム内でアナスタシアに媚薬を用いる際、ジルベルトがこの二人から媚薬を手に入れなければならず、その時に媚薬を貰い受ける為の選択肢ワードが「貞節」。似たような文章でも駄目、ズバリ媚薬をくれと言っても駄目なのだ。

 そして今回は媚薬が貰いたい訳じゃない。興味がない訳ではないが、今回はシルバー侯爵令嬢達に使わせてエリザベスに媚薬を盛り、ジルベルトに襲わせる必要がある。婚約後だと、サイラス第3王子が手を出す可能性大ゆえ、婚約式がある前に行動に移さなければならない。なにせ、結婚前の貴族令嬢には貞節が求められるのだから……。


「そうですわね。清い身でいないと王族には嫁げませんわね、マニ」

「その通りよ、サリ。あぁ、お茶会のお誘いをしたわよね、マニ」

「確かにお誘いしたわ。さっそく、明日にでも招待状を出しましょう。まさか、伯爵令嬢ごときが侯爵家のお茶会を断る訳ない筈ですわ」


 シルバー侯爵令嬢達は顔を見合わせてクスクス笑う。明らかにやる気満々に見える。


「お茶会をお開きになるのなら、近々にしないといけませんね」


 マリアはすました顔で紅茶をすすり、あんに婚約式の前にやってしまえと唆す。


「「もちろんそうですわね。明後日にしましょう」」

「忙しくなるわね、サリ」

「そうね、マニ。美味しいお菓子を用意しなくては」

「そうね、サリ。特別甘いのじゃないといけないわ」

「カカオなど良いですよ」


 確か、ゲームではチョコレート菓子に媚薬を混ぜていたのを思い出したマリアは、さりげなく媚薬入りチョコレートにしたらどうかと提案する。


「そうね!それがよろしいですわ。後は他のお客様も手配しないとですわね。一人……二人……複数もありかしら?」

「サリ、あまり話を大きくしては駄目よ。お茶会は質素にしないとだわ」

「そうね。マニ、あなたの言う通りね」


 エリザベスとジルベルトを元鞘にという話が、いきなり不穏な方向に進み出し、マリアは慌てて話の流れを修正する。


「あの、ここはやはりお茶会の他のお客様は元婚約者の方はいかがですか?これが元で、愛が再燃するかもしれませんもの」

「それもそうですけれど……」

「私、彼とは親しい友人なんです。話もすぐに通せると思いますよ」

「「マリア先生がそう言うなら……」」


 マリアはすぐにジルベルトに話をしに行くと、早々にシルバー侯爵邸を後にした。




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