婚約破棄でお願いします2
午後にも投稿します
「は? 」
ジルベルトは目を見開いてエリザベスを見つめる。
「不貞の現場を目撃した日時と場所を詳しく説明できますか」
「はい。あれは○月☓日の放課後です。場所は騎士科の3年生の教室。ストーン侯爵第3令息にクッキーを渡しに行きました。そうしたら、誰もいない教室で、ストーン侯爵第3令息とそちらのオスマンタス男爵令嬢が……。ストーン侯爵第3令息は彼女を抱き抱えるようにして……その……致しておりました」
「何を馬鹿な! 」
「え〜、色んなとこでしてるから覚えてないわぁ。それって駅弁スタイルよね。ジルベルト様は逞しいから安定感抜群なのよねぇ」
「馬鹿、黙れ! 」
ティタニアが状況もわからずケラケラ笑い、ジルベルトはそんなティタニアの口を塞ごうとする。
「私、ショックで倒れてしまい、三日間高熱を出して学園は一週間休みました」
「確かに、ミラー伯爵令嬢が学園を一週間休んだ時期と重なりますね」
「それを証明できるものはありますか? 」
調停員の一人が資料を確認し、もう一人の調停員が聞いてくる。
「……ありません」
ジルベルトは安堵の息を吐き、エリザベスに向かって両手を広げて近づいてこようとした。
「あぁ、きっと高熱過ぎて悪夢を見たんだよ。可哀想に。なんで俺に言わなかったんだ。そんな悪夢、俺がちゃんと否定してやったのに」
「証明はできませんが現実です」
エリザベスは父親の手をギュッと握って、ジルベルトが近づいてくる恐怖に耐えた。ジルベルトは調停員の一人に止められ席に戻される。
「では、第五の証言。こちらをご覧ください」
ザイス(サイラス)調停員がそう言うと、丸い玉を取り出した。それを手の平に乗せると、玉はキラキラ光りだし、目の前に立体画像を映し出した。
「これは……」
「映像の魔導具です」
半透明のジルベルトが、やはり半透明のティタニアと屋上でヤってる映像が映し出された。しかも大音声付きで。
エリザベスは目を瞑った上にさらに手で覆い、ミラー伯爵はそんなエリザベスの両耳を手で塞いで「アーッ」と叫びながらエリザベスに音が聞こえないようにした。
「えっと、3回戦まで録画されてるんですが、見ますか? 」
「結構だ。しまってください」
ストーン侯爵が見るに絶えないと手を振り、ザイス(サイラス)調停員は映像の魔導具をしまった。
「アンドレ様、こんな茶番は沢山だ」
「父上、そう、茶番なんだ! 」
「うるさい!! 黙れ!!! 」
響き渡る怒声に、ジルベルトはポカンとした顔でストーン侯爵を見つめた。
「なんだ。やっぱりバレていたか。ミラー伯爵にもバレていたようだよね」
アントンと名乗った主調停員が、目深に被っていたフードを徐ろに脱いだ。
ブロンドに王家特有の瑠璃色の瞳。顔つきはサイラスに似ていたが、年を重ねた落ち着きが大人の男の色気を醸し出していた。
「王太子殿下……」
「うん、エリザベス嬢とは初めましてだよね。舞踏会とかでは見かけたことはあるんだけど。で、ストーン侯爵、茶番とは? 」
「私共侯爵家でも調査を行っておりました。愚息の不貞行為も確認が取れております。エリザベス……いやミラー伯爵令嬢、君は何を望む? 私は君の望む通りにしようと思っていたんだよ」
強面のストーン侯爵の顔が情けなく歪み、エリザベスをジッと見つめた。
「婚約破棄……でお願いします」
大きくため息を吐いたストーン侯爵は、辛そうにしかしはっきりと頷いた。
「やはりそうか……。君が愚息を望んでくれたら、愚息に王宮一の鍵屋の作った貞操帯をつけ、しばき倒して根性を叩き直そうと思っていたが……遅すぎたな。……婚約破棄承った」
ジルベルト以外は皆、エリザベスとの婚約に好意的だったのだ。ジルベルトに貴族位を与える目的での婚約だったが、ジルベルトの兄達はエリザベスを妹のように可愛がってくれていたし、ストーン侯爵も同様に気にかけてくれていた。
「俺は認めない! 」
ジルベルトが凄まじい表情で叫び、エリザベスに掴みかかろうとしてきた。しかし、ストーン侯爵がその襟首を掴み、床に引きずり倒した。さすが武の侯爵家当主。年は重ねてもその動きは俊敏で力強い。ジルベルトの上に乗り上げ、完全にジルベルトの動きを封じてしまった。
「おまえの許可など求めていない。愚か者が! 」
そのままジルベルトは騎士に押さえつけられて部屋を退出させられた。「エリー、愛しているんだ! 」と叫びながら引きずられて行ったが、エリザベスには意味がさっぱりわからなかった。
それからストーン侯爵家当主とミラー伯爵家当主が婚約破棄の書類にサインし、さらに王太子の認印までその場でもらい、エリザベスの婚約破棄は無事に完了した。
ちなみに、調停員はキャンベル王国の王子三人で、王太子(長男)のアンドレ殿下、継承第二位(次男)のフィリップ殿下、そしてエリザベスの愛しのサイラス殿下だった。
婚約破棄が成立した瞬間、エリザベスを抱き上げたサイラスは、あたりを憚ることなくエリザベスを抱きしめ、熱烈なキスをした。
ミラー伯爵はそれを見て気絶し、ストーン侯爵は「うちの嫁になる筈だったのに……」と肩を落としてつぶやき、そしてサイラスの兄二人はサイラスの肩やら頭をどつき回した。
★★★
その後、ジルベルトが性懲りもなくエリザベスに執着して一悶着おこしたり、キャサリンとアナスタシアの化粧品が王都で爆発的にヒットしたりと色々あったが、次の年の新年祝賀舞踏会当日、マーメイドラインの青紫色のドレスを着たエリザベスがいた。
ホルターネックで腕も肩も大胆に出たドレスではあったが、上品なレースと、光により色をかえる光沢のある不思議な布地の効果か、もしくはエリザベスの持つ可憐な雰囲気のおかげか、厭らしさが全くなく、ただただ可憐で上品な装いだった。
さらに左手の薬指には、プラチナの土台に大粒のサファイアが乗り、ダイヤの散りばめられた指輪がはまっており、耳朶にも同じくサファイアのイヤリングがついていた。
「ハァッ……、凄い複雑」
「どうしたんですか? 」
「だってさ、こんなに綺麗で可愛い婚約者が、僕の色を纏ってるんだよ。みんなに見せびらかしたい気持ちと、誰にも見せないで僕だけの特別にしておきたい気持ちがあるんだって。できることなら王宮の僕の部屋に二人でひきこもりたいよ」
「私も。こんなに素敵な私だけの王子様を独り占めしたくてしょうがないです」
「じゃあ、エスケープする? 」
エリザベスは恥ずかしそうに俯き、濃紺色のタキシードに包まれたその腕に手を置く。
「ラス様がそれをお望みになるなら……」
真っ赤に染まったエリザベスの耳朶を見て、サイラスはエリザベスを横抱きに抱え上げた。そして控え室にいる侍女を下がらせ、扉前を護衛をしている騎士に声をかけた。
「婚約者殿が体調不良のようだ。舞踏会は欠席すると伝えてくれ」
エリザベスを抱き抱えたまま廊下を足速に歩き、警護の騎士と侍女しか入れない王族専用エリアに入る。婚約者とはいえ、エリザベスも初めて入る場所だ。
サイラスはとある豪華な一室に入ると、朝まで人払いをしてさらに奥の部屋の扉を足で蹴り開けて入る。
「王子様のお行儀じゃないわ」
「今は、君が欲しくて気が急いているただの男だよ」
サイラスはエリザベスをベッドの前に立たせると、自分は無造作に濃紺のタキシードを脱ぎ捨て、他もポイポイと脱いで床に放る。下履き一枚の姿になったサイラスは、筋肉ムキムキではないものの、綺麗に引き締まった身体をしており、まるで美術館の彫刻のようだった。
「脱がすよ」
サイラスはまずエリザベスの宝石を外してベッド脇のチェストに置いた。髪飾りも外し、髪の毛を丁寧に解いていく。ホルダーネックの首のリボンを外して背中のボタンを外されると、エリザベスのドレスはストンと落ちた。
「手を」
サイラスに手を取られてドレスを引き抜かれる。ドレスは椅子にかけられ、コルセット姿のエリザベスが月明かりに晒された。
「キス……していい? 」
エリザベスが許可を出す前に、サイラスの熱い唇が押し当てられた。性急に舌が口内に入ってきて、エリザベスの舌を嫐るように吸い上げる。お互いの唾液が混ざり、クチュクチュという音だけが静かな部屋に響く。チュポンッという音でお互いの唇が離れると、サイラスは嬉しそう笑み崩れた。
「あぁ……綺麗だ。僕の色を纏っていたベスが一番綺麗だと思っていたけど、何も纏っていない君が一番魅力的だって知ったよ」
いつの間にかコルセットを脱がされ、防御力のない紐パン一枚にさせられていた。エリザベスが慌てて胸を隠すと、クスリと笑ったサイラスがエリザベスを抱き上げてベッドに運んだ。優しくベッドに横たえられ、サイラスが上に覆いかぶさってくる。
「ごめんな。途中で止められないって、先に謝っとく」
「……止めなくていいです」
エリザベスは胸を隠していた手をサイラスの頬に当て、触れるだけのキスをした。
「できるだけ優しくするから」
「はい、お願いします」
★★★
初めてでこれって……。
朝まで抱き潰されたエリザベスは、もちろん起き上がることもできず、さらには熱を出して一週間は王宮のサイラスの部屋で看護を受けることになった。サイラスは翌朝にアナスタシアに扇子で頭を思いっきりしばかれ、「この駄犬がぁッ! 」という怒声が響き渡った。
やはりここはエロゲーの世界で間違いないようです。
本編は完結です。次からは番外編になりますが、番外編はちょっとキャラクターの魅力が壊れた……という方もおられるようなので、嫌な方はここでストップでお願いします。




