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アナスタシアのお茶会

午後にも投稿します

「あの……少し可愛らし過ぎやしませんか? 」


 エリザベスは髪の毛をフンワリと巻かれ、かなり手のこんだハーフアップに、小さな花の髪飾りがその茶色い髪の毛に散らされていた。透明感のある肌は、日頃のキャサリンから貰った基礎化粧品のおかげと、公爵家の専属侍女の化粧技術の賜物だ。どうやってここまで長くしたんだ? という睫毛は視界に影を落とすくらいだし、ピンクブラウンで色付けられた瞼は可愛らしさの中に色気も醸し出していた。下瞼に入れられた白いラインと銀色のラメは、目を大きく見せるだけじゃなく、目が潤んでいるような艶めかしさもある。頬は上気したようなピンク色で、プルプルの唇はプックリと愛らしく、自然なピンク色をしているが、もちろん化粧の賜物だ。


 顔面だけ見ても誰これ? な状態であるのに、これでもかとコルセットでウエストをしめられ、メリハリのとれた身体を作られた。この胸の谷間は幻だな……と、つい遠くに視線を彷徨わせてしまう。

 全部脱いで風呂に浸かったら、「この詐欺師!! 」とつられても仕方がないくらいにはエリザベスの原形がない。


「で、やはりこれを着るんですね」


 もう、ここまできたらされるがままだ。上半身は淡い空色のレース仕立てで、スカートは瑠璃色でフンワリと広がる形をしている。スカートは前にサイラスがくれたドレスと同じ布地でできているのか、不思議な光沢がありサイラスの瞳の色である。楚々とした美少女が着たらきっと凄く可愛いんだろうな……と、自分が袖を通すのが申し訳なく思えるくらい素敵なドレスだった。


「全く、執着が半端ないですわね。まぁ、ベスには似合いそうですけど」


 すでに支度を終えていたアナスタシアが部屋に入ってきた。右側に垂らされた赤髪はゴージャスにうねっており、宝石が散りばめられていた。目尻を強調したキツめの化粧はアナスタシアらしさが出ており、身体の線に沿ったエメラルドグリーンのドレスは、アナスタシアのスタイルだからこそ着こなせる挑発的なデザインだった。


「こんな素敵なドレス……」


 今回もサイラスが用意してくれたから、もちろん喜んで着させてもらうが、自分にこんなに可愛いドレスが似合うとは思えない。


 アナスタシアが侍女に指示をし、エリザベスはドレスを着せてもらった。


「ほら、やっぱり似合いますわ。あの駄犬、女性のドレスなど今まで興味もなかった癖に、ベスに似合うドレスを嗅ぎ分ける嗅覚だけは褒めてあげてもよろしいわね」


 アナスタシアに促されて鏡の前に立つと、確かに可憐な少女がそこに立っていた。思った以上にドレスを殺していなくてホッとする。


「ベス! あぁ、なんて愛らしいんだ。今日の茶会が女性しかいなくて良かった。こんなに可憐な彼女、他の男になんか見せたくない」


 ノックもなく扉が開き、公爵家のフットマンの制服を着たサイラスが部屋に入ってきた。青銀髪の髪の毛は金髪のカツラで隠され、特徴的な瑠璃色の瞳はカラーコンタクトレンズでコバルトブルーに変化していた。どこからどう見ても美形。もう少し地味めの色合いにはできなかったのかと、少しサイラスを恨めしく思ってしまう。きっと今日のお茶会の女子は、みんなサイラスに目を奪われてしまうことだろう。


「ラス! ここは衣装部屋ですわよ。まだ着替え前だったらどうするつもりですの! 」

「え? それってどんなご褒美? もう少し早くくれば良かったかな」

「お馬鹿なことを。どうです。素晴らしく綺麗になったと思いませんこと? ベスの魅力を最大限に引き出せたと自負しておりますの。ラスのドレスも良い働きをしておりましてよ」


 化粧したり髪の毛を結ったりしてくれたのは公爵家侍女たちだが、事細かく指示を出してくれたのはアナスタシアだ。アナスタシアが誇らしげに胸を張るのもわかる。


「確かに可憐で可愛くて綺麗で、控え目に言っても最高だとは思うよ。でも、いつものフンワリとした笑顔で制服を学園一着こなしているベスも、僕は最高だと思っているけどね。どっちの彼女もベスである限り最高だ」


 お色気の塊であるアナスタシアには目もくれず、サイラスはエリザベスの元にくると、ウエストを抱いて頬にキスをしてきた。

 綺麗に着飾ったエリザベスも、普段のエリザベスも、どちらも良いと言ってくれたサイラスに、エリザベスはキュンキュンしてしまう。


「だから、ベタベタ禁止だと何回言えばわかるんですの! 本当に駄犬ですこと。ベスのお化粧が剥げるような行為は絶対に禁止ですからね。よろしくって?! あなた達、後は茶会の準備を手伝ってきてちょうだい。ラス、ステイですからね、ス・テ・イ! 」


 ベタベタするなと言いつつ、アナスタシアは侍女達を下げて自分も部屋から出ていった。日頃なかなか二人っきりになれないエリザベスとサイラスに二人になる時間をくれたらしい。


 パタンと閉じる扉の音を合図に、サイラスがエリザベスを抱きしめた。ドレスが皺にならないように、化粧がサイラスの洋服について剥げないように、かなり気を使ってくれているのがわかる。それが凄く嬉しいのだが、逆に物足りなくも感じる。思いっきりギュッとして欲しいし、自分もサイラスにスッポリ包まれて抱きつきたい。


「……無茶苦茶キスしたい」


 ボソリと呟いたサイラスに、エリザベスは思わず笑み溢れる。


「私もです」

「……あぁ……うぅ……、したいけど、キスだけで止まれる自信が1万%ない。シアに確実にしばき倒される」


 しばらく充電するように抱き合っていた二人は、扉のノックする音でゆっくり離れた。


「ラス、もう茶会の準備ができたので、エリザベス嬢を庭に案内してください」


 顔を出したのはラスティで、彼もまたカラーコンタクトレンズで瞳の色を替えていた。後は髪を整えてオールバックにしているだけで、全くもって別人に見える。


 学園でのボサボサヘアーでちょっと猫背気味のラスティ・ウッドというキャラクターは、サイラスが変装しやすいように作られたキャラクターらしい。実際のラスティは、どちらかというと舞踏会などで見かけた洗練され、落ち着いた雰囲気を醸し出すあの姿が真実の姿のようだった。また、子爵令息ながらに魔力が高く魔法が使えるというサイラスが話していたラスティ像も事実で、いずれサイラスの側近として働く予定というのも嘘偽りない事実らしい。


「ハァッ、今日が踏ん張りどころっていうか、シア頼みなところがかなり後で怖いんだけど、彼女らの証言さえ取れれば、後は婚約破棄まではカウントダウンだな」

「そうですね。私も頑張ります」

「あー、早く人前でもイチャイチャしたい! 」


 いや、人前で公然とイチャイチャするのは、公然猥褻罪じゃないですかね。第3王子殿下を捕まえることができる騎士がいるとは思えないけれど。


「私が恥ずかしくないレベルでお願いしますね。人前でのキスは頬までですよ」


 サイラスは、アナスタシア達の前ではエリザベスを膝に乗せようとしたり、食事も食べさせようとしたり、普通に抱き寄せたり、キスも頬やオデコには普通にしてくるので、、純日本人の意識が強い今のエリザベスにはかなり恥ずかしい。

 エロゲーの世界観だから、人前でベロチューくらいは普通なのか? まさかの挿入しなければギリOKなんてのが普通の価値観だとは思いたくない。ジルベルトも見物人がいるのを知っていて体育館倉庫でヤったりしてたみたいだし。まさか、そのレベルを求めてないよね……とエリザベスは不安になる。


「えーッ! チューはいいだろチューは」


 美形のサイラスにチューとか言われると、その唇の厭らしさにクラクラする。


「馬鹿なこと言ってないで、早くエリザベス嬢を連れて行ってあげてください」


 サイラスはラスティに向かって顔を顰めると、わざと唇の端を掠めるようにエリザベスの頬にキスを落とした。「ギリセーフ。化粧は落ちてないからな」と満足そうに言うと、エリザベスの手を取りエスコートするように部屋を後にした。






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