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4 サイラス第3王子とその仲間達+α

本日2話目です

 生徒会室とは生徒会を運営する部屋であり、生徒会とは学園生活において生徒達が自発的・自治的に行う組織で、学園内の問題を解決したり、積極的に学園生活を楽しみ、有意義な生活が送れるように活動することを目的に運営されている。

 つまり何が言いたいかと言うと、大食い選手権の場でもなければ、一商会の商品開発の場所でもないし、ましてや恋人の惚気を垂れ流す場所でもないということだ。 


 通常ならば、生徒会長一人、副会長二人、会計一人、書記二人、庶務一人、広報一人の計8人で構成されるのだが、サイラスが生徒会長になった時、あまりの立候補(女子ばかり)の多さに、下心のない人選をしたところ、副会長にアナスタシア、会計にキャサリン(アナスタシア推薦)、書記にラスティ(サイラス推薦)はすぐに決まり、全ての役員を一人体制で行うことにした。

 残りの庶務と広報だが、最初は2年生から人望の厚いとされる男子1名と女子1名を選んだのだが、広報に決まった男爵令息は身分至上主義で、キャサリンに「たかだか平民の分際で」とかほざいた為にアナスタシアの逆鱗に触れて即日除名処分となった。もう一人の庶務の女子は入学記念パーティの激務に耐えきれなかったのか、「脱会届」なるものを生徒会室のテーブルの上に残した後、生徒会室に二度と顔を見せなくなった。


 まぁ、気心の知れた人間だけでいいかということになり、生徒会業務をこなしつつ、生徒会室はお互いの趣味(冒頭に陳述)の場所になりつつあった。

 大食い選手権←アナスタシアとラスティ、商品開発の場所←キャサリンとアナスタシア、惚気垂れ流し←もちろんサイラスである。


「なぁ、エリザベスを庶務にむかえたいんだけど」

「却下ですわ」

「なんでだよー」


 貴族子女としてはお上品とは言い難いが、サンドイッチを片手に書類をさばいていくアナスタシアは、手の動きも口の動きも止まることがない。それを補助しているのはラスティで、見事なまでの呼吸で、書類が書き終われば新しい書類に差し替え、食べ物がなくなれば手渡す。飲み物を差し出すタイミングもまさにプロフェッショナルだ。

 アナスタシアが副会長の仕事兼広報を兼ねているのだから、それは忙しいことだろう。ちなみに庶務の仕事はラスティとキャサリンが兼任している。


「あなた、ベスがこの部屋に来てる時は、全く仕事が捗らないじゃありませんか!しかも、目の前でベタベタベタベタベタベタ!鬱陶しいんですわよ」

「しょうがないさ。外じゃ人目があって触れることもできないんだから」

「婚約もまだなんですから、触れる方がおかしいんですわ!全く我慢のきかない駄犬なんですから」


 プリプリ怒るアナスタシアに、ラスティは愛おしそうな視線を向ける。


「僕はあなたの忠犬だよ、シア」


 アナスタシアの手が珍しくピタリと止まる。


「ラスティを犬だなんて思ったことなくってよ」

「いや、見事な忠犬ぶりだぞ。ラスティは僕の側近というより、シアの忠実な執事だよな」

「ま!ラスティが執事ですって。でもそれもアリですわね。……四六時中一緒にいられますわ。ラスティの執事服姿……」


 最後の方は心の声がポロッと溢れてしまったらしく、アナスタシアはワタワタとしながら「なんでもありませんことよ!」と、誤魔化すように猛然と書類を書き上げていく。ラスティはそんなアナスタシアを蕩けるように見つめており、そんな生徒会室の状況を無言で見ていたキャサリンは、ベタベタするかしないかの差はあるが二組共十分糖度マシマシですよと、心の中で思うだけにする。

 ジルベルトの密会現場に遭遇することが多かったことにより、スルースキルが爆上がりしたキャサリンだった。


「なぁなぁ、ベスの生徒会入り」

「しつこいですわ!却下ですわよ」

「僕はシアと同じで」

「保留でお願いします」


 四人のうち、賛成一、反対二、保留一で否決となりました。


「あの、ベスの件は保留なんですが、一人だけ推薦できる人物がいます。さすがにこの忙しさでは仕事にも差し支えますから」


 学業と言わないところが、まさにキャサリンらしい。


「その人物は?」

「ダニエル・ハート。私の父がたの従弟ですが、学園の2年生です」

「彼は秘密は守れる?」

「商売人は信頼が命ですから」

「採用!」

「キャシーの推薦なら賛成ですわ」

「シアに賛成」


 満場一致でダニエル・ハートが生徒会役員に推薦されることになった。


 それから三日後、ダニエル・ハートが庶務として就任し、再度エリザベスの生徒会入りを話し合った結果、賛成二、反対二、賛成寄りの保留一ということで、あくまでもアナスタシアの補佐をするということと、人前ではベタベタしないということをサイラスに念書まで書かせた上で、エリザベスの生徒会入りも決定したのだった。


「まぁ、生徒会活動をする放課後など、ベスが一人になってしまうのには不安がありましたし、良かったんではないですか」

「そうですわね。でも、これで人手も確保できましたし、通常の生徒会活動に戻れますわ。というわけで、次はガーベラ・ブロンド騎士爵令嬢に接触しましょうか」

「どうせなら、ルルア・グリーン伯爵令嬢とライラレシア・ブラウン男爵令嬢も一緒に会えるように、お茶会でも企画したらどうです?イザベラ・カーン子爵令嬢が一緒でも良いかもですね」


 ダニエルが可愛らしい笑顔を書類から上げた。庶務として、学園内で使う備品の購入を一つの商会に偏ることなく平等に発注し、備品の納期の確認受け取りさらに分配まで行っている。ハート商会として商会組合にも加入しているどころか、キャサリン父が組合長でもあるから、ハート家の名字を持つダニエルは小さい時から組合事務所に顔が売ってあったし、何よりその天使のように可愛らしい容貌で組合員に可愛がられていた。

 通常の価格よりもかなり安価で仕入れることができているのは、まさにダニエルのおかげだった。


 金髪巻き毛の美少年であるダニエルだが、ニコニコと人畜無害なふりの裏に隠された腹黒さや商魂逞しい商談技術は、サイラスやラスティすら称賛するものだった。何より溺愛体質のサイラスとラスティだからこそ気がついたダニエルの粘着質なキャサリンへの執着を知り、キャサリンさえ抑えておけばこの少年は絶対に自分達を裏切らないと確信した。

 ゆえに速い段階でサイラスの秘密を共有し、エリザベスの婚約破棄にも協力してもらうことにしたのだ。


「いっきに集めるんですの?」


 ジルベルトのお手つきに囲まれてのお茶会とか、まさに地獄絵図だなとエリザベスはゲンナリする。


「そう。ブロンド騎士爵令嬢は、基本平民思考のようで、貴族正妻は狙っていないみたいなんです。愛人狙いというやつですね。グリーン伯爵令嬢とブラウン男爵令嬢は婚約者がおり、結婚は婚約者と、後は遊びと割り切れるタイプのようです。三人共に共通しているのは、安定した生活の確保であり、婚約者のいる二人はそれにプラス生活を乱さない範囲での刺激的で享楽的な日常でしょうか」


 天使な笑顔で享楽的とか言われると、小さい子にいけないことを教えているような気分になる。


「なるほど、三人には決して証言内容と証人が外部に漏れないこと、公式文書には残さないこと、後は婚約者の王宮への登用及び出世でも約束してやれば、証言は取れるかもしれないな」

「まぁ、他の遊びが婚約者にバレることはこちらの関与外なので、それで十分でしょう」

「騎士爵令嬢は?婚約者はいないでしょう?」


 キャサリンの一言に、ダニエルは最高に可愛らしい笑顔を向ける。

 現実主義のキャサリンにとって、ダニエルの可愛らしい容貌は魅力にカウントされておらず、その商才の高さのみがダニエルを側に置く理由となっていた。このままダニエルが大商人に成長すれば、ゆくゆくは婚姻によりハート商会を継がせるのも良いと、ハート商会の跡取り娘としては、恋愛感情抜きの打算で将来の自分の結婚を考えていた。

 それを知っているダニエルは、さらに商人として必要な情報網の獲得と人脈の拡大に日々精進している訳である。


「彼女はストーン侯爵令息の愛人狙いだからね、だからこそのカーン子爵令嬢だよ。エリザベス嬢の次点として彼が婚約するとしたら彼女だろう。この醜聞が世に知れ渡れば特に。カーン子爵令嬢は侯爵令息の浮気には寛大みたいだからね。子爵令嬢が騎士爵令嬢のことを認めるという確約が取れれば、騎士爵令嬢は満足するんじゃないかな。逆にエリザベス嬢が侯爵令息の婚約者のままなら、彼の愛人など絶対に認めないというスタンスを取れば、婚約破棄には協力してもらえるんじゃない? カーン子爵令嬢にしても、愛人を管理できるのなら、その方が正妻としての立場を保ちやすくなるからね」

「そういうものなの?」


 一夫一婦制が染み込んでいるエリザベスにとって、愛人など考えたくもないが、ふと王族には第二夫人第三夫人が認められていることを思い出した。

 基本貴族は一夫一婦制だが(跡継ぎができた後は愛人可)、確実に子孫を残すことが求められる王族のみは、男子跡継ぎができなかった場合は重婚が推奨されているのだ。


 そんな不安な気持ちに敏感に反応したサイラスは、エリザベスの元に歩いて行くと、エリザベスの机に腰をかけて、その頭を抱き寄せてキスを落とした。


「ですからベタベタしない!」


 ピシャリと扇子を投げつけるアナスタシアに、ラスティが「まぁまぁ」と間に入る。


「ベス、何か余計なこと考えただろ」

「余計なことというか……」


 今世においても前世においても、浮気は絶対に認められないエリザベスだ。もうあんなに辛い思いはしたくない。


「僕は唯一人の人がいれば他はいらない。ベスもそうだろう?浮気はこの国の文化かもしれないが、僕は溺愛体質なんだ」

「でも……」

「まだわかってない?何人も溺愛できるくらい僕は器用じゃないんだ。僕は王族だけど気楽な3番目だからね。夫人は一人だけでも誰からも文句はでないよ。それに、前に話しただろ。魔力の相性のいい相手は、よっぽどのことがない限り王族の結婚相手としては好まれる。僕とベスは最高に相性がいいからね、誰からも文句なんか言わせないさ」


 エリザベスの髪の毛を掬い取り、チュッチュッとキスを落とすサイラスは、誰が見ても激甘で、エリザベス以外の人間は鬱陶しそうな表情を隠そうともしない。一応相手は第3王子なのだが……。


「では、わたくしが彼女達を公爵家のお茶会に招待いたしましょう」

「じゃあ私はベスの侍女役としてついて行きますね」


 平民のキャサリンは、公のお茶会に招待はできない。


「じゃあ僕達はフットマンにでもなるかい」

「第3王子がフットマンですか?」

「変装道具が必要ですね。ぜひ僕にお任せください。ハート商会の化粧部門には特殊メイク担当もありますからね。どうせなら、サイラス王子殿下のウッド子爵令息のモノマネクオリティも上げてさしあげますよ」

「モノマネしてる訳じゃないんだけどな」

「なら、僕のラスクオリティも上げられるかな? ラスが外出している間、なるべく出歩かないようにしているんだけれど、最近ラスがボクに頻繁に変装するものだから、あまりに表に出なさ過ぎて、引きこもり王子って呼ばれてるようで。まぁ、呼ばれてるのはラスだからいいといえばいいんだけど」

「ラスティ、おまえな……」

「了解です」


 それからお茶会の話を煮詰め、生徒会の仕事も目処がついたところで、最終下校時間となった。



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