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生徒会室にて……我慢です

午後にも投稿します。

ヒーローとヒロインのイチャイチャシーンがあります。ご理解のある方のみ、お進みください。

「ハァッ……幸せ」


 サイラスはエリザベスの髪の毛を撫で、その背中……というか腰の辺りをサワサワと触りながら、エリザベスをギューギューに抱きしめていた。


「早く全部僕のにしたい……」

「あぁ、可愛い。可愛すぎて辛い」

「なんか全部がピッタリくる。エリザベスの身体は僕に抱きしめられる為にあるみたいだ」

「最後までしなかったらセーフか?」

「味見くらいなら……」


 どんどん不穏になるサイラスの独り言(多分、口に出して言っていることに気がついていない気がする)と、ジリジリと下がってくる手に、エリザベスは困ってしまった。まだかろうじてお尻までは下りてきてないが……。微妙なところな気もする。


 一番困ったのは、サイラスに触られるのが全然嫌ではない自分に対してで、お互いに好きだと認識した今、身体を重ねることに嫌悪感はない。貴族子女としてはアウトなのだが、好きな人と触れ合いたいと思うのは、男も女もない自然な衝動だということを、前世日本人であるエリザベスは知っていた。


 ただ、今自分の気持ちのままにサイラスを受け入れてしまったら、ジルベルトと同じ人種になってしまうんじゃないかと、それだけがエリザベスを流させないたった一つの楔だった。

 ジルベルトと違い(もしかすると、ジルベルトは多数女性に同じように愛情を向けられる人間なのかもしれないが)、サイラスとの間に思い合う愛情があるとしても、契約上婚約者がいるのだから、サイラスとの関係は不貞とされてしまう。


 愛のある行為が不貞だなんて耐えられない。


 スカートの上から擦っていたサイラスの手が、スカートのウエスト辺りをウロウロとさ迷う。ホックを外そうかどうしようか悩んでいるようだったが、サイラスの悶々とした理性がなんとか機能しているようで、ホックが外されることはなかった。でも、諦められないようにホックをイジイジ触る様子に、エリザベスはつい苦笑してしまう。


「ラス様」


 咎めるように声を上げると、サイラスはエリザベスの頭に顔を埋めてグリグリ頬擦りする。


「うん、わかってるよ。……大丈夫。ちゃんと我慢できる。僕は理性と忍耐力を兼ね備える王族の一員だからね。魔力を制御する為に、精神面もかなり鍛えたし。大丈夫、本能になんか……少ししか負けないからね」


 少し負けるんかい! 


 エリザベスが堪えきれずにクスクス笑うと、サイラスは情けない顔を上げて、エリザベスのオデコにチュッとキスした。


「接触面積が多いから我慢がきかないんじゃないんですか?」

「1ミリの隙間もなく抱き合いたいのに、これでも無茶苦茶妥協してるんだよ。顔中にキスもいっぱいしたいけど、可愛いベスの顔ももっと見たいし、ベスの柔らかい身体をもっと触りたいけど、そうすると僕の我慢が限界突破するだろうし……。ハァッ……、天国なんだけど辛い」


 十代男子にとって、確かにこのオアズケ状態はどんな修業だよって感じなのかもしれない。


 エリザベスからもチュッとサイラスの顎にキスをすると、エリザベスはサイラスの膝から下りて隣に座った。手を恋人繋ぎにすると、サイラスが未練たらたらで小指で指の股を擦ってくる。


「擽ったいです」

「擽ったいだけ?」


 繋いだ手を正面に持ってくると、エリザベスの手の甲にチュッチュッと喰むようにキスをし、ペロッと舐め上げた。


「キャッ!」

「ベスは全部甘い。見えないところもきっと甘いんだろうな」


 指の股に舌が当たり、エリザベスは繋いでない方の手で口元を押さえ、恥ずかしい声が漏れないようにする。


「フフッ……可愛いな」


 サイラスがエリザベスの手に頬擦りした時、生徒会室のドアがバタンッと大きな音と共に開き、アナスタシアの怒声が響き渡った。


「ラス!!その不埒な手を離しなさい!!!」


 乱れたエリザベスの姿を隠すようにサイラスにエリザベスは抱きしめられ、エリザベスからはドアの方が見えない。でもなんとなくアナスタシアとキャサリンだけでなく、本物のラスティもいるように感じ、エリザベスは居た堪れなくてサイラスの腕の中で閉じこもった。


「ラスティ、部屋から出ろ。シア、ちょっと今は支障があるから一旦ドア閉めて」

「一分ですわ!一分でちゃんとなさって!」


 ドアが閉まり、生徒会室の中は再度サイラスと二人きりになる。


 エリザベスが慌ててYシャツの裾をスカートの中に突っ込んでいる間に、サイラスはボタンをきっちり上までしめてくれ、髪の毛を撫でて整えて後頭部にキスを落とした。


「まだキスもちゃんとはしてないんだけどな。シアの奴、絶対に勘違いしてるよな」

「エッ?」

「まぁ、いいか。じゃあドア開けようね」


 サイラスはエリザベスと恋人繋ぎをしたまま一緒に立ち上がると、二人揃ってドアを開けに行った。


「お待たせ、どうぞ」

「ラス!あなたはやっぱり待てができない駄犬でしたのね」

「酷いなぁ。少し軽ーくフライングしちゃっただけで、ちゃんと待てはできているよ」

「軽くてもフライングは駄目です。でも……ちゃんと正体明かせたんですね。ラス、本当に良かったです」


 青銀髪のカツラを脱いで手に持ったラスティが、天パー気味の茶髪をかき上げて、苦笑気味に最後生徒会室に入りドアを閉めた。


「お会いするのは3度目ですね。僕が本物のラスティ・ウッドです」


 紳士の礼をとるラスティに、エリザベスもスカートの裾を摘んで淑女の礼を返す。


「エリザベス・ミラーです。学園ではいつもサイラス第3王子殿下と入れ替わっているんですか?」

「ベス。恋人からそんな風に呼ばれるのは悲しいよ。いつも通りラスって呼んでくれないか」


 サイラスに腰を抱かれ、近くに引き寄せられると、甘く耳元で囁かれた。もちろん、周りみんなに聞こえるようにだから、囁き声ではなかったけれど。


「ラス様!」

「だって、お互いに好きだって確認ができたんだから、恋人で間違いないだろ。恋人しかしない行為もしたしね」

「まだです!まだそこまでは……」


 サイラスは、真っ赤になって俯くエリザベスの後頭部にキスをすると、「本当に可愛すぎて辛い……。ラスティ、絶対に見るな!僕以外がエリザベスを見ることを、王命で禁じようかな。玉璽をちょっと拝借すれば可能だよな……」などと、とんでもないことをつぶやいている。


「凄いな。こんなめちゃくちゃなラスは初めて見た。エリザベス嬢、お気になさらず。ラスとはまぁ需要に応じて入れ替わっています。去年からはほとんど毎日ですけどね。どこぞの王子殿下がどこぞの伯爵令嬢に会いたいとかぬかすものですから。僕の影武者ぶりも、おかげさまでかなり堂に入ってきたというものです」

「まあ……」


 サイラスが入れ替わっていたのがエリザベスに会いたかった為だと知り、エリザベスはほんのり頬を赤く染めた。


「ああ!ベス、そんな可愛い顔を他の男に見せたら駄目だって。本当に油断も隙もない」


 みんなから顔を隠すようにエリザベスを抱きしめて、サイラスは周りを牽制するように唸り声をあげる。


 いや、それはサイラスだけにエリザベスが可愛いく見えるフィルターがかかって見えているだけで、他の人にはただの地味で平凡な小さい子くらいにしか見えていませんからと、エリザベスは声を大にして言いたかった。


 ラスティは、そんな恋惚けしているサイラスは放置し、さりげなくアナスタシアをソファーまでエスコートする。


「シア、紅茶をいれよう。今お茶菓子を用意するから、座って待っていて。キャサリン嬢も座ってください。ラス、いい加減にエリザベス嬢を離してあげなよ。動けないだろうに」


 ラスティはキビキビと動き、紅茶をいれ直し、テーブルの上には茶菓子どころか、どこから用意してきたのかわからないが軽食まで並べていた。しかも、アナスタシアの前には溢れんばかりに並べたて、アナスタシアが食べる側から空の食器を片付けて新しいケーキやサンドイッチなどを置いていく。


 まるで椀子蕎麦みたいだな。


 阿吽の呼吸とでも言うんだろうか、アナスタシアも目の前に置かれた物を当たり前に食べている。多分、ラスティはアナスタシアの好みを熟知しているんだろう。迷うことなくアナスタシアが食べやすいように配置を替え、アナスタシアが食べたい物が手前にくるようにしているようだ。

 サイラスはそんなアナスタシア達には見向きもせず、エリザベスの給餌をしようと、ケーキを一口切ってはエリザベスの口元に持ってくる。恥ずかしいから止めて欲しいのだが、断ろうとすると、サイラスの綺麗な瞳が悲しそうに曇るから、エリザベスはしょうがないから口を開けてケーキを頬張る。


 そんな中、周りの環境に感情を揺らすことなく、マイペースでケーキを食べるキャサリンと目があった。


「ラス様、お腹いっぱいです。もう入りませんから。キャシー、ラス様とウッド子爵令息が入れ替わっていたこと、前から知っていたの?全然驚いていないけど」


 キャサリンは同じ生徒会役員として知らされていただけなのかもしれないが、仲間外れにされたような寂しさを覚えてしまう。王族のことだし、気軽に話せることではないが、この中でエリザベスだけが知らなかったとしたら、やはり少し……。


「知っていたというか、気付いていただけ。さっきサイラス第3王子殿下と一緒に生徒会室に来たのに、サイラス第3王子殿下がすでに生徒会室にいて、ベスに襲いかかっているのを見て確信したんです。その後、目の前でサイラス第3王子殿下のふりをしていたウッド子爵令息がカツラを脱ぎましたし」

「襲い……」

「襲ってないからな。合意の上だから」

「そうですわ!ラス!あなたベスを襲ったばかりか、勝手に正体をバラしてどういうことですの?!まぁ、この二人ならば問題はないですけれど、もし先程他の生徒も連れてきていたら、大変なことになっておりましたわよ」

「だから、襲ってないって。それなら、ラスティの姿でベスに告れって言うのかよ。冗談じゃない」

「それはこちらこそ冗談じゃありませんわ!ベスがラスティと付き合っていると勘違いしてしまったら、大問題じゃありませんの。わたくしが許しませんわ」

「まぁ、僕もそれは困る。知らない間に彼女ができてるのも、婦女子を襲ったって思われるのも」


 ラスティは真面目な顔で冗談を言う人らしい。


「だからあれで良かったんだよ。ってかおまえまで。ところでキャサリン嬢、いつ気がついたんだ?ベスはまぁ、それなりの理由があるけど」


 キャサリンは紅茶を一口飲むと、丁寧に口元を拭いてから眼鏡をクイッと上げた。


「去年のダンスパーティーの時ですね。シア様が一度だけですけれど第3王子殿下のことをラスと呼んだことと、二人のやり取りが学園でのシア様とウッド子爵令息のものと同じだったからです。ダンスパーティーのウッド子爵令息も、あまりに学園の時の子爵令息と違いましたし」

「なんだよ、シアのせいじゃないか」


 アナスタシアは扇子でパタパタ口元を扇ぎ、ツンと明後日の方角を向く。


「あら、誰にでも間違いはありましてよ。それより、よくそれをずっと黙っていれましたわね。誰かに話したいとか思わなかったんですの?」

「特には。王族とか、平民の私達からしたらそれこそ異世界の人間くらい無関係な人種ですし、興味もありませんから。貴族のふりして手を付けてやろうとか、何かベスに悪さする為にそうしてるなら、それこそ学園に抗議したかもしれませんけど」


 本人目の前にして、興味がないとか断言したキャサリンは、最強の平民女子かもしれない。


「まぁ、ラスに興味などわきませんわよね。ちょっと顔がいいだけの普通の王族ですもの」


 そして、最強の貴族令嬢はアナスタシアだった。


「ラス様はちょっとではなく、凄く顔面偏差値が高いですよ。まぁ、私以外ここにいる皆様が綺羅綺羅しいですけどね。あと、とても優秀な王族です。優しくて頼りがいがあって、素晴らしい方です」


 思わず力説してしまい、アナスタシアに「それはベス限定のラスですわね」と呆れ顔をされる。


「僕にはベスが一番キラキラ輝いて見えるよ」


 サイラスは感極まったように抱きついてくる。


「ベタベタ禁止!!ですわよ。ベスの外聞に関わります」

「まぁ、僕達だけなら良いのでは?こんなに幸せそうなラスは初めて見たし。ちょっと……かなり面白いしな」


 ラスティの本音が最後に少し溢れ、この三人は間違いなく幼馴染だと納得する。


 それから、きちんとエリザベスが婚約破棄を果たして、サイラスと正しい関係を築くまでは、決して一線を超えてはならないと、アナスタシアに何度も繰り返しお説教を食らった。主にサイラスが。

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