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生徒会室にて……知ってますけど

本日2話目です。

ヒーローとヒロインのイチャイチャシーンがあります。ご理解のある方のみ、お進みください。

「ちょ、ちょ、ちょっ……」


 エリザベスのいきなりの号泣に慌てたサイラスが、制服をバタバタと叩いてハンカチを探す。見つからなかったのか、自分の制服の袖でエリザベスの涙を拭った。

 ほんの薄くではあるが化粧をしているから、サイラスの制服の袖にアイシャドウのピンクとファンデーションの肌色が移ってしまう。


「よ……汚してしまいます」

「別に大丈夫。……泣いてる理由聞いていいか?」

「……」


 好きだという告白の後のいきなりのエリザベスの大号泣に、サイラスはキリリとした眉毛を可能な限り下げて、目には心配でいっぱいだという色を浮かべてエリザベスの顔を覗き込んでいる。


「ご……ご迷惑だったんですよね」

「は?」

「すみません。私、私……。まだ婚約破棄もちゃんとしてないのに、こんな私に好かれても困りますよね。私なんて地味で目立たないし、貧乳だし、特にこれといって魅力的なとこなんて何もないのに、ラス様みたいな素敵な方に告白とか、分不相応にも程がありますよね。やだ、恥ずかしい。見ないでください」


 エリザベスが顔を隠すように両手で顔を覆うと、サイラスにギュッと抱きしめられた。


「ちょっと待って!何か勘違いしてる!僕もベスが好きだ。分不相応とか意味がわからないだろ。ベスは地味じゃないよ。そりゃシアみたいにド派手なのと並んだら地味に見えちゃうかもしれないけど、可憐で愛らしい、僕には最高に魅力的な女性だ。貧乳……はよくわからないけど、誰もがスイカみたいな胸が好きな訳じゃないだろ。僕にはちょっと気持ち悪く思えるし、その……手にスッポリ納まるくらいささやかなベスの胸の方が好ましい……かなって何を暴露してるんだ、僕は……」


 サイラスはエリザベスの肩に顔を埋め、大きなため息を吐く。


「そんな、慰めてもらわなくても」

「慰めてなんかないから、事実を言ってるだけだから。僕はベスの全部が好きだよ」

「でも、じゃあ、何で……」

「……?」

「私が好きだって言ったら、全然嬉しそうじゃなかった。なんか、辛そうな顔してたもの」

「違う!違うんだ!」


 サイラスはガバッと顔を上げ、エリザベスの両肩を掴んで身体を離した。


「本当は、ベスに言わなきゃいけないことがあったんだ。その上で僕から告白しようと思ってた。それが、あまりにベスが可愛くて……つい理性が。いや、まぁそれは置いといて、きちんと話しをする前にベスから告白されて、嬉しかったんだけど、同時にちゃんと話せていないことが辛かった」


 サイラスの瞳には嘘がなく、エリザベスは首を傾げた。

 嬉しいのに辛いとは? まだジルベルトとの婚約を破棄できていないうちに告白したことだろうか? 不誠実だと思われたんだろうか?


「好きだって気持ちだけでも伝えたかったんです。不誠実でしたか?」

「違う。不誠実なのは僕だ」

「エッ?!」


 まさか、公にされていないけれど、婚約者候補の中から婚約者がすでに決まってしまっていたとか? 

 結婚はその相手としなければならないから、エリザベスは愛人にと考えていたとか?!


 目をまん丸にしてサイラスを見ると、サイラスはエリザベスが何か勘違いしていることに気付いたのか、エリザベスの頬を指の背で撫でて苦笑した。


「ねぇ、ベスは誰が好きなの? 聞いていい?」

「……ラス様ですけど」

「うん、僕もベスが……エリザベス・ミラー伯爵令嬢が好きだ」


 それでは両想いでめでたしめでたしじゃないか。

 何が不誠実で辛い気持ちになるかわからない。


「ベスは、ラスティ・ウッド子爵令息が好きなんだよね?」


 そこで初めてサイラスの言いたいことを理解した。サイラスの目は不安で揺れており、エリザベスの答えを耐えるように待っていた。


「ラス様が好きです。いつも困った時には助けてくれて、私の作ったクッキーを美味しそうに食べてくれるラス様が好きです。地味で平凡な私のことを可愛いって褒めてくれるラス様が好きです。その不思議にかわる瑠璃色の瞳も好きですよ」


 サイラスがハッとしたように目元に手をやる。


「ラスティ・ウッド子爵令息ではなくて、私の目の前にいるただのラス様が好きです」

「いつから……?」

「何がです?」


 サイラスは髪の毛に手をやると、茶色のボサボサなカツラを脱いだ。中から青銀髪のサラサラとした髪の毛が出てくる。その青銀髪を無造作にかき上げ、サイラスはエリザベスの頬に手を添えた。


「いつ気がついた?」

「今年の頭……新年の祝賀舞踏会の時でしょうか」

「4ヶ月も前かよ」


 サイラスの手がエリザベスの頬をフニフニと摘む。


「何でわかった?」

「匂い……ですね」

「え? 僕臭い?」

「いい匂いですよ。爽やかなサンダルウッドの香りに、たまにフローラルのような甘さが混じる」

「香水はつけてないけど」


 サイラスは自分の袖の匂いを嗅ぐ。


「魔力香、前にラス様が教えてくれましたよね。相性が良い相手の香りは好ましく感じるってやつです」

「あぁ、うん。魔力が強いと感じやすいんだよね。なんとなく好ましいとか、こいつ苦手だなとかわかるくらいだけど」


 魔力が強いほど感じやすいとは知らなかった。そういえば、昔のエリザベスは魔力香なんて匂わなかったかもしれない。わかっていたら、ジルベルトに混ざる女性の魔力香で、ジルベルトの浮気に気がついていた筈だから。わかるようになったのは、サイラスの匂いを意識するようになって、それから色んな人の匂いが区別できるようになったんだった。


「えっと、ラス様はさっきも言ったけどサンダルウッドの香りなの。シア様はベリー、キャサリンは百合、本物のラスティ様はシトラスでしたね。あまり沢山の人がいると匂いが混じって鼻が馬鹿になるけど、数人なら嗅ぎ分けられるんです。私の側にいたのは、いつもサンダルウッドの香りのラス様でしたよね。私の好きなのはサンダルウッドの香りがするラス様ですから」

「そこまで区別できるのか?」


 驚いた表情のサイラスを見ると、まさか自分の鼻か普通ではないような気がして不安になる。まさか、警察犬並みに鼻がきくとか、私の前世には日本人だけでなく犬までいたんだろうか?


「えっと……できません?」

「ベスは甘い香り。凄く美味しそうで、たまに我慢がきかなくなる。でも、どんな匂いかとかまではわからない。凄く好きな匂いとしか。他はまぁ、なんとなく良い香りとか、嫌いな匂いだなくらいだよ。ベスの香りだけは他と違うとはわかるんだけどな。ちなみにストーン侯爵令息の香りは?」


 エリザベスはウエッという表情をする。


「すっごくくっさいムスクです。しかも、色んな女の人の匂いが混じっているから、本当に鼻が曲がりそうな匂い。特に最近はオスマンタス男爵令嬢の匂いが濃くて、トイレ臭が半端ないですね」

「トイレ?」

「オスマンタス男爵令嬢は金木犀の香りなんですけど、自然な金木犀の良い香りじゃなくて、臭いトイレの匂いを誤魔化す時に使う芳香剤の金木犀なんですよ。その2つが混ざり合うと、とにかく臭いトイレにいろんな芳香剤を置いてみた……みたいな香りになって、吐き気が止まらない感じです」

「そ……そんなに臭いのか」


 魔力香で人物を識別までできるのは、もしかすると私の特殊能力なんだろうか?前世の記憶が戻ったことによるチート能力みたいな?でも、そんなチート能力がなんの役に立つのかわからない。いや、ラス様を識別できただけ役に立った?後は嫌いな匂い(主にジルベルト)がしたら早くに退散できるかも。


 フムム……と考え込んでしまっていると、エリザベスの頬を擽ったサイラスの指がそのまま下がり、エリザベスの顎に指がかかった。

 自分を見てと言うように上向きにされ、瑠璃色の瞳が優しく緩んだ。


「失敗した。変なこと言って思い出させるんじゃなかった。ベスは僕のことを好きになってくれたんだよね?ちゃんと僕だって認識して」

「そうですよ。最初はラスティ様だと思っていましたけど、その時だって今目の前にいるラス様でしたからね。ラス様がサイラス第3王子殿下だってわかった時は、本当に腰が抜けるくらいビックリしたんですから」

「そう?じゃあ今度は腰が砕けるかもね」

「え?」

「君が好きだよ、ベス」


 甘く蕩ける瞳に見惚れる間もなく、サイラスの唇がエリザベスの唇に近づく。至近距離で見つめ合って、エリザベスはゆっくりと目を閉じた。

 ほんの少し……かすめるようなキス。キスと呼べるのかわからない触れ合いに、エリザベスが切なげな息を吐き出した。


「あぁ、そんな声を聞いたら我慢できないに決まってる」


 サイラスの唇がエリザベスの顔中に降ってくる。額に、目尻に、頬に、鼻に。しかし、唇がしっかり重なることはなかった。エリザベスはそっとソファーに押し倒され、サイラス真上からエリザベスを見下ろした。


「いつか、君の全部を僕にちょうだい。ごめん、少し予約させて」


 サイラスは唇をエリザベスの首筋に当てた。軽く食むように徐々に下に下がり、鎖骨辺りに唇を寄せる。Yシャツのボタンは第3ボタンまで外され、でも、ギリギリ下着は見えない。Yシャツの裾はスカートから出され、エリザベスの薄いお腹に直にサイラスの手が当てられた。


 肝心の場所は触られていないし、サイラスの唇も手も動いてはいないのに、エリザベスの身体は敏感に反応してしまう。それが凄く恥ずかしいのに、もっと触って欲しいという気持ちと、これ以上はいけないという気持ちがエリザベスの中でせめぎ合う。


 どれだけの時間がたったのかわからない。数十分だったのか、数分だったのか。サイラスが最大限の理性を総動員して身体を起こした。そしてエリザベスの胸の頂きに触れずに音だけのキスをして、エリザベスの身体を抱き起こす。


「今のは予約だ。いつか、ベスの全てを貰うから。その権利をもぎ取るから。それまで、誰にも触れさせないで。約束して」

「うん……約束します」


 エリザベスはサイラスにギュッと抱きつき、サイラスはそんなエリザベスを膝の上に向かい合うように乗せて、何度も頬にキスをくれた。

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