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イザベラ・カーン、認める

午後も投稿します

「ウウンッ! イザベラ・カーン子爵令嬢、あなたジルベルト・ストーン侯爵令息と関係を持ったこと、お認めになりますのね」


 アナスタシアは仕切り直すように扇子でイザベラを指差し、ビシッと言い放った。


「認めるか認めないかと言われると……」


 いやいや、数回抱いて下さったとか、胸を揉むのが上手いとか、すでに認める発言してますけどね。


 イザベラはチラチラとエリザベスに視線を寄こしていたが、今までのオドオドと気弱な様子から一転、背筋を伸ばして唯一自慢の巨乳をこれみよがしに張った。(エリザベス視点)


「私、後悔はしてませんから。ミラー伯爵令嬢とご婚約していたことは、えぇもちろん存じてました。謝罪もします、慰謝料を寄こせと言うならもちろんお支払いします。私がジルベルト・ストーン侯爵令息様に抱いていただいた事実をないものにはしたくありませんから。……ただ、相場とかちょっとどれくらいかわからないんですが。あまり頻度は多くないことをご考慮いただけたら……とか思ったりなんか」


 最初は威勢よく話していたのが、どんどん尻窄みになっていく。潔いのか悪いのかわからない。


「慰謝料とかはいらないんです」


 エリザベスの言葉にイザベラは明らかにホッとしたように巨乳をなでおろして、いきなり立ち上がったと思うと真っ赤な絨毯の上に綺麗な土下座を披露した。


「では、謝罪ですね! 」

「いえ! そういうのもいらないんです」


 いくら掃除が行き届いているだろう商談室でも、土足で上がっているのだから制服が汚れてしまうだろうと、慌ててイザベラの側に行き立たせる。


「じゃあ……? 」

「あなた、そのことを調停員の前で証言できて? 」


 アナスタシアに扇子でビシッと指差され、イザベラは戸惑いの表情を浮かべた。


「調停員ですか? 」

「そうですわ。出来る限りあなたの名前が世間には出ないようにするとお約束いたしますわ」

「なぜ調停? 」

「婚約破棄したいからです」

「は? 」


 エリザベスの口から出た「婚約破棄」という言葉に、イザベラは心底理解できないと首を傾げる。


 婚約、婚姻の確定は王家の許可が下りれば調印可能だが、解消には調停で審議されて解消の事由が書面にまとめられる。それが正当だと認められて初めて王家から解消許可がでるのだ。


「ですから、私はジルと婚約破棄したいんです。そのためには不貞の……他の貴族令嬢との不貞の事実を証拠にしないと、家格が上のストーン侯爵家に伯爵家である私から婚約破棄の申し立てができないからです」

「ミラー伯爵令嬢がストーン侯爵令息様を婚約破棄したいんですか? されるんじゃなくて? 」


 エリザベスが婚約破棄されることはあっても、エリザベスから婚約破棄を言い出すことは有り得ないと言わんばかりの様子に、さすがのエリザベスもイラッとしてしまう。


「あの、もし仮にストーン侯爵令息が見目も良く優れた人物だとしても、まだ婚約の時期に所構わず、不特定多数と不貞を働くような人物であるとわかったら、婚約破棄を考えるのが普通だと思いますよ」

「あんなクズカス野郎、ただ婚約破棄するくらいじゃ生温いですわ」

「え? でも、ジルベルト・ストーン侯爵令息様ですよ? 例え庶子がうじゃうじゃいたとしても、彼ならば仕方ないかと……」


 心底、ジルベルトが相手ならばそんなことは些細なことじゃないかと思ってそうなイザベラに、エリザベス達は目が点になってしまう。


 それ、何かの宗教ですか? ジルベルト教ですか? 凄い洗脳されてません? 


 ジルベルトのどこにそんな価値があるのか……と考えて、エロゲーの主人公だからかと納得する。実際、不貞の現場を目撃するまでは、エリザベスだってジルベルトのことが大好きだったのだ。不自然なまでに。今思うと、優しくて誠実で素晴らしい人物だと思い込んでいた気がする。

 女性には何においても魅力的な男性に見える、それがエロゲー主人公効果なんだろう。じゃなきゃ誰でも彼でもエロには持っていけないだろう。男子にしたら憧れのスキルに違いない。


「全然仕方なくないです。私は好きな人を不特定多数と共有する趣味はないですし、そんな我慢を享受する気もないですから」

「なるほど……。ミラー伯爵令嬢は見た目によらず短気な質なんですね」

「そういう問題じゃ……」


 イザベラの瞳がキラリと光った。


「わかりました。いくらでも証言します。なんなら、吹聴して歩いてもいいです」

「いえ、調停で証言してもらうだけで十分です。そんな不名誉な噂が広まったら、あなたの将来にも問題が」

「大丈夫です! ジルベルト・ストーン侯爵令息様が私の初めてを奪ったと証明できる物は持ってますから! ストーン伯爵令嬢が婚約破棄するのなら、私はバンバン噂を広めて彼の婚約者の地位をゲットしますから! 」

「あの、噂を広めるのは婚約破棄が成立してからにしてください。事前に婚約破棄に向けて動いているのがバレると、侯爵家の力で証拠証言をもみ消されてしまうかもしれないから」


 今から噂を広げかねない勢いのイザベラに、エリザベスは慌ててストップをかける。それでなくても侯爵家がジルベルトのことについて調べているようだから、万が一エリザベスとの婚約持続の為にカーン子爵家に圧力をかけないとも限らない。


「そうですわ。もし万が一、侯爵家からクソカス野郎との関係を問い正されたとしても、そこは無関係を通すのです。あなたが口外するつもりがないとわかれば、あちらもあなたのおうちに手を出すことはないでしょうからね」

「ミラー伯爵令嬢との婚約破棄が成立したら、公表していいんですよね」

「それはお好きに」


 本当にあんな見境なく女性に手を出す男でいいんだろうか?


 イザベラ本人はやる気満々みたいなので、好きにしてもらうことにし、ジルベルトの他の相手について知っているか聞いてみた。


「そうですね、私より前の方はわかりませんが、ガーベラ・ブロンド騎士爵令嬢、マイラー・ホークさん、ティタニア・オスマンタス男爵令嬢、ライラレシア・ブラウン男爵令嬢、マリア先生にスザンナ先生、後は……」


 怖いくらい把握してる。

 第5攻略対象がイザベラで、それ以下の攻略対象(マリア先生以外)をつらつらと上げていく。しかも攻略順に。攻略対象外の女性の名前も上がりつつ、最後に14番目の攻略対象であるルルア・グリーン伯爵令嬢の名前で締めくくられた。


「食堂のホークさんにも手を出してるんですか?! 彼女、三人の子持ちで、良いお年でしたよね? 」

「まぁ、マリア先生も見えないけれど、それなりのお年ですわよ」

「全員に共通するのは、豊満なお胸ですね」


 自虐ネタではないのだが、エリザベスの発言に皆が一瞬静かになる。


「ルルア・グリーン伯爵令嬢は、騎士団に婚約者がいる筈ですわ」

「彼女はジルベルト・ストーン侯爵令息様だけでなく、いろんな男性と関係してますよ。婚約者と初めてを済ませたからと、イケイケなんです。ブラウン男爵令嬢も同様ですけど。彼女らは他にも男性がうじゃうじゃいますから、ジルベルト・ストーン侯爵令息様の婚約者候補にもなれませんね! 」


 誰も彼もイザベラのようにジルベルトの婚約者に成り代わりたい訳ではないと思うが、そんな情報まで……。


 というか、アナスタシアが攻略されないとしたら、ルルア・グリーン伯爵令嬢が最後の攻略対象者になる筈だ。まぁ、攻略対象外にも手を出しているみたいだから、これからも関係人数は増えることだろうが。


「では、もう少し証拠を集めて調停の日程が決まったらご連絡いたしますわ。それまでは……」

「もちろん了解してます。絶対に周りにはもらしません。あの! 一つよろしいでしょうか」


 イザベラがエリザベスの方にズイズイと顔を近づける。


「はい? 」

「ジルベルト・ストーン侯爵令息様にももちろん、ミラー伯爵令嬢が婚約破棄を考えているなど漏らしません。でも調停までの間、もしジルベルト・ストーン侯爵令息様からお誘いがあった場合、それに応じるのは良いのですよね? 」


 イザベラの鼻息が荒くて、エリザベスは苦笑気味に頷いた。


「……ハハ、お好きにどうぞ」

「私、ミラー伯爵令嬢とはお友達になれる気がします! 」

「それは……どうかなぁ」


 来た時からは考えられないくらい晴れ晴れとした表情でイザベラは帰っていった。一応アナスタシアの馬車で送ると言ったのだが、調停まではお互いに接触しない方がいいだろうということになり、ハート商会の従業員に辻馬車をひろってもらったらしい。


 ティタニアといい、イザベラといい、ジルベルトが本当に身体(巨乳)目当てでしか女子を選んでないんだなと痛感したエリザベスだった。

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