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ダンスパーティー当日2

本日2話目です。

R15バージョンです。

 ダンスパーティー会場はキャンベル王立学園の大ダンスホールで行われる。学園のホールと言えど、王国の舞踏会場に引けを取らない豪華さだった。すでに入場を果たした生徒達は飲み物を片手に談笑していた。


「キャシー、エリザベスさんはもうすぐ入場なさるかな」

「そうね。伯爵家が終わったからもうすぐだと思うわ」

「さすが家格が上がる程ドレスや宝石の質も上がるね。今年の流行りはピンクダイヤモンドかな」

「駄目よ。今年の流行はもう遅いの。来年は真珠が流行る筈よ。常に先を見て仕入れないと」

「わかってるさ。それに来年のドレスの流行はキャシーの着ているアドバンス地方でしか取れない虫の繭からとれる糸で作ったその布地のドレスだろう」

「シーッ、虫の糸なんて知られたら流行るものも流行らなくなるわ。そこは濁して流行らせるのよ」


 ハート家独特の会話をしつつ、キャサリンがエリザベスの入場を待っていると、「ジルベルト・ストーン侯爵令息様、ティタニア・オスマンタス男爵令嬢様ご入場」とのアナウンスが流れた。


「ハァッ?! 」


 入場扉から現れたのは、真っ黒いタキシードを着たジルベルトと、紫色のドレスを着たティタニアだった。ジルベルトの相手がエリザベスじゃないことに一瞬会場もざわめいたが、すぐにそんな興味は他に移る。


「ちょっと私行ってくる! 」


 キャサリンは慌てて会場である大ホールを抜け出して、アナスタシアが控える王家専用の控え室へ向かった。しかし、控え室の前には護衛の騎士が立っており、アナスタシアに話があると訴えても取りついでもくれない。


「シア様! キャサリンです。ベスが、エリザベスが大変なの!! 」

「おい、おまえ!! 」


 令嬢だったら有り得ない大きな声を出してキャサリンはアナスタシアを扉の外から呼んだ。

 すると扉が開き、青銀髪を緩やかに後ろに整えた濃紺のタキシードを着た美男子が現れた。その光の加減によって色を変化させる瑠璃色の瞳は王家特有のもので、この美男子がサイラス第3王子であるという証明でもある。


「彼女はシアの友人だ。キャサリン嬢、中へ」


 王子が自分の名前を呼んだことに驚きつつ、それどころじゃないと礼もそこそこに控え室に入る。


「キャシー、いったいどうしたというの? 」


 アナスタシアは、ソファーに姿勢良く座り紅茶を嗜んでいた。その背後にはラスティと思われる男性が立っていた。思われると言うのも、黒いタキシードを着て、いつもはボサボサの茶色い髪の毛を綺麗にオールバックに整えてスッキリと顔を出していたのだ。何故顔を隠していたんだ?! というくらいの美形で、サイラス第3王子となんとなく雰囲気が似て見えるのは、瞳の色が似ているからだろうか? 瑠璃色よりやや紺がかった瞳の色で、キャンベルの瑠璃色と違うのは、光が当たっても色が変化しないという点だけだった。


「ラスティ様……よね? あなた、そんな顔をしていたのね」


 ラスティは軽く会釈して肯定を表した。ラスティはアナスタシアの正面のソファーにキャサリンを誘導する。エスコートされるままにソファーに腰掛けたキャサリンは、マジマジとラスティの顔を見た。


「キャシー、ラスティの顔はどうでもよろしくってよ。ベスがどうかなさったの?! 」

「そう! あのクソカス野郎!! ティタニアをエスコートして入場したんです! 」


 とうとうキャサリンまでジルベルトを「クソカス野郎」扱いである。


「まぁッ! まぁッ! まぁッ! 」


 アナスタシアの扇子がボキリと音をたてて壊れる。


「すぐにベスをこちらに呼んでちょうだい!! 」


 ラスティが控え室から出て、護衛の騎士にエリザベスを連れてくるように伝えたらしい。


「シア、さすがにダンスパーティー用の扇子はそんなにないだろうから、そうボキボキ折るもんじゃないよ」


 サイラスがアナスタシアを宥める様に声をかけるが、アナスタシアの凄まじい怒気はおさまらない。美女の怒りの表情は大迫力だ。


「まだ一つ目ですわ! ボキボキって、すでに何個も折っているように仰らないで! 」

「いいじゃないか、あのクソカス野郎が、大々的にオスマンタス男爵令嬢との仲を自分から周りに広めてくれたんだから」

「それはそうですけれども、それを見たベスの気持ちを考えますと……」


 今度はシュンとしたアナスタシアの肩に、戻ってきたラスティが無言で手を乗せた。アナスタシアはウルウルと瞳を潤ませながらも、貴族令嬢の根性で涙を溢すことなくラスティを見上げた。ラスティはハンカチを出して、そんなアナスタシアの目尻を化粧が崩れないように拭いてやる。


 キャサリンは、その一連の動作を見つつ、、違和感を拭えないでいた。通常のポンポン言い合うアナスタシアとラスティの態度と、目の前のまるで恋人同士のような甘い態度がどうにも一致しないのだ。


「シア、怒るか泣くかどちらかにしなよ。せっかく塗りたくった化粧が崩れるよ」

「まぁッ! ラスはお黙りになって!この化粧品はハート商会の新作ですのよ。多少の水では落ちませんの。ねぇキャシー」

「え、あ、はい。水を弾く成分を含んでますので」


 キャサリンは無表情を崩さず、全てを納得してしまった。普通なら大声を出して驚くところだろうが。


 今までラスティ・ウッドとして会っていた男が、実際は目の前にいるサイラス第3王子であったということに。

 サイラスとアナスタシアのやり取りは、今までのアナスタシアとラスティのやり取りそのものだし、何よりアナスタシアがサイラス第3王子のことを「ラス」と呼んだ。「ラス」はラスティの愛称ではなく、サイラスの愛称だったんだろう。

 そして、アナスタシアがサイラスと婚約しないのはラスティが好きだから。ラスティもアナスタシアを想っているのがその視線からもモロバレであるが、二人はいまだに両片想いの状態らしい。

 原因はサイラス第3王子、彼が婚約者を決めないからだろうが、サイラスは多分……いや高確率でエリザベスに惹かれている。そしてエリザベスも。


 第三者だからこそ、現状が手に取るようにわかるキャサリンだった。

 無表情に以上のことを考察していた時、騎士に連れられてエリザベスが控え室にやってきた。扉を開けたのはラスティで、エリザベスはラスティに気がつくことなく控え室に入ってきた。


「エリザベス! ベス、こちらにお座りになって」


 アナスタシアはエリザベスを自分の隣に座らせると、その身体をしっかりと抱き締めた。


「なんてことでしょう! キャシーから聞きましたわ。どうしてクソカス野郎があの女をエスコートすることになりましたの?! 」

「いえ……、去年は特に一緒に行く話もなく婚約者として参加していたから、今回もそうだと思っていたんですけど、今回は違っていたようで。オスマンタス男爵令嬢をエスコートする約束をしているから帰れと言われました。でも、せっかくみんなに綺麗にしてもらったから、ダンパには出るつもり。ファーストダンスが終われば、ホールへの出入りはできますもんね」


 エスコートなく入場することはさすがに貴族令嬢としてできないが、入場が終わり王家の挨拶の後のファーストダンスさえ終われば、ホールへの出入りは自由にできるようになる。どうせジルベルトからエスコートを受けてもすぐに放置されるのだから、いつ入ったって同じことだ。


 アナスタシアの手元からメリメリと音がした途端、サイラスがひょいとアナスタシアの扇子を取り上げた。


「だから、なんでもへし折ろうとするなよ。エリザベス嬢、初めまして。僕はサイラス・キャンベル。第3王子だ」


 エリザベスはパッと立ち上がって淑女の礼を取った。


「ご挨拶もせずに失礼いたしました。ミラー伯爵家長女エリザベスにございます、サイラス第3王子殿下におかれましては……」

「あぁ、堅苦しいのはなしにしようか。シアとラスティの友ならば、僕の友達でもあるからね。君のことはシアから聞いている。僕も是非、君の婚約破棄に協力すると約束しよう」


 エリザベスは頭を下げたまま深くお礼の言葉を伝えた。王族にこんなに間近で会うなんてまず有り得ないことだし、何よりも光り輝く美形であるサイラスを直に見るなど、恐れ多過ぎて無理だった。


「まぁ、座りなよ。それで、エリザベス嬢……僕もベスと呼んでもいいだろうか? いいよね? で、ベスはエスコートがいなくなってしまったということだよね」


 あまりにフランクな様子のサイラスに、エリザベスは恐る恐る顔を上げて腰を下ろした。


「はい」

「ふーん、じゃあ僕と出ようか」

「はい?!」


 あまりにびっくりして、素で返してしまったエリザベスは、慌てて口を押さえて俯いた。


「キャサリン嬢はもう入場は済ませたんだよね」

「はい。従弟と」


 王子にも普通に返事を返すキャサリンの度胸の良さに感心してしまう。


「ならまだ入場していないのは僕とシア、ラスティにベスだよね」


 エリザベスはそこで初めてラスティの存在に気がついた。あまりに自然にというか存在感なくサイラスの後ろに立っていたから気が付かなかった。しかも、顔面モロ出し……それが普通なのだがオールバックに整えた髪のおかげで顔がしっかり見えた。イケメン、サイラスもラスティもタイプが似たイケメンだった。


 でも、前に見た瞳より少し色が濃い? いや、気のせいよね。それにしても、いくら動揺していたからって、ラスティに気が付かないなんて……。私ってラスティのこと好きなんじゃなかったのかな?

 好きな人に気が付かない自分っていったい……。


 エリザベスはラスティの素顔を見た衝撃よりも、好きな人に気が付かなかった自分の鈍感さ加減に衝撃を受けていた。




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