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ダンスパーティー当日

R15バージョンです。

午後にも投稿します。

 ダンスパーティー当日、エリザベスとキャサリンはゴールド公爵邸に朝早くから訪れていた。


「こんなに絞める必要ないと思います! 」

「駄目ですわ。一センチでも細く!ほら、気合いを入れなさいませ」


 キャサリンは今までダンスパーティーは自主的に不参加で通していた。しかし、商売をするならば貴族に顔を売ってナンボだとアナスタシアに言われ、どうせならアナスタシアと二人化粧品の広告塔になるべきだと、今回のダンスパーティーは出席することにしたのだ。初めてドレスを着るキャサリンにとってコルセットも初で、その拷問のような締め付けにさっきから悲鳴が止まらない。ドレスは商会の扱うレンタルドレスから拝借してきたらしい。


 コルセットを締め終わると、公爵家の侍女達が三人の着付けをしてくれる。髪も綺麗に結い上げてもらい、最後に化粧をしてもらう。もちろん全てハート商会の新作を使用した。


「まぁ! ベスはとても化粧ばえしますのね。いつもは可愛らしいのに、今日はコケティッシュな魅力で溢れてますわ」

「うん。レースの透け感が、逆に見えそうで見えない色気を醸し出している気がしますね」


 超絶ゴージャスな美女と、クール系美女に言われても、全くもって真実味がない。第一、全体的にスレンダー(凹凸が乏しいとも言う)な自分のどこに色気があるのかわからない。色気と対極にあるのがエリザベス・ミラーだと言っても過言ではない……と、エリザベスは思っていた。


「私なんかより、お二人の方が素敵です」


 アナスタシアのドレスは、髪色よりも少し暗い色の赤いワンショルダーのドレスで、グラマラスな胸元が強調され、ウエストの括れから豊かなヒップラインを辿り、膝上くらいから裾にかけて広がるマーメイドスカートは、まさに彼女の女性らしい体型を余すところなく全面に押し出していた。マットな赤い口紅は大人の色気に溢れ、とても16歳の小娘には見えなかった。青みの強い瑠璃色の生花を髪に飾っていて、「もしかしてサイラス第3王子の色ですか? 」と聞いたら、「それは全くもってありえませんわ」と返された。

 一方キャサリンは、片側だけ編み上げて複雑に結い上げ、逆サイドは下ろした髪型がとても似合っており、身体のラインに沿ったタイトなドレスを着ていた。ただし、太腿辺りからサイドにスリットが入っており、歩く度に真っ直ぐでひきしまった足が惜しげもなく見えた。光沢のある銀色のドレスは光の加減で色々な色に見え、見たことない布地で仕立てられていた。


 支度の終わった三人は、公爵家の馬車で学園に向かった。


 アナスタシアのエスコートはサイラス第3王子が、エリザベスのエスコートはジルベルトが、キャサリンのエスコートはキャサリンの従兄弟がすることになっていた。アナスタシアは王族専用の控え室へ行き、エリザベスとキャサリンは通常の控え室に向かった。ラスティはサイラス第3王子のお付きとしてダンスパーティーに参加するらしく、誰のエスコートもしないと聞き、エリザベスは密かに胸を撫で下ろしていた。


「キャシー」


 控え室に入ると、金髪巻き毛の可愛らしい男の子が走り寄ってきた。背の高いキャサリンと同じくらいの身長で、クールで表情の乏しいキャサリンとは正反対にニコニコと満面に笑みを浮かべている。瞳の色はキャサリンと同じ藍色だった。


「ダニー、走ったら駄目よ」

「もう!成人したんだからダニーは止めてってば」

「成人した大人は走らないわ」

「だって、あんまりにキャシーが綺麗だから、貴族のボンクラ息子に目をつけられたら大変だと思って。ほら、僕がキャシーのエスコート役でしょ? ちゃんとエスコートする相手がいるぞって牽制しとかないとじゃん」

「そんな必要ないから。ベス、この子が従弟のダニエル。ダニエル・ハート、普通科1年なの」

「初めまして。エリザベス・ミラーです」

「初めまして。ダニエル・ハートです。未来のキャシーの夫になる予定です」

「まぁッ」


 エリザベスが口を押さえながらキャサリンを見ると、別に否定も肯定もせずに相変わらず美しい立ち姿で立っていた。


「キャシー、ほら僕らの入場の時間だ」


 ダニエルが腕を差し出して、キャサリンがそっと手を添えた。


「ベス、会場で」

「はい。後で」


 入場は平民から始まり、一代貴族、男爵……と、身分別に低位のものから順に始まる。エリザベスは侯爵令息のジルベルトがエスコート役なので出番はだいぶ後だ。


 控え室の1/3くらいがはけた時、エリザベスはまだこないジルベルトを捜しに広い控え室を移動しだした。

 背の低いエリザベスにとって人混みで人探しはかなり至難の業だ。しかし、探しているのが人よりかなり背の高いジルベルトであったから、周りの頭から飛び抜けて見える金髪を目当てに足を進める。


「ジル……」


 辿り着いた先には、濃い紫色のドレスを身に纏ったティタニアを腕にべったり貼り付けたジルベルトがいた。ティタニアのドレスは少し小さめなのか、大きく開いた胸元から胸がはち切れそうに盛り上がって下品にその存在を主張していた。


「エリ……ザベス? 」


 美しく着飾ったエリザベスを信じられないように見るジルベルトは、ティタニアを腕から引き剥がすのも忘れていた。そんなジルベルトの腕をティタニアが抱き込むようにしてジルベルトに甘ったれた声で話しかけた。


「あら、ミラー伯爵令嬢は今日はいらっしゃらないんじゃなかったの」

「え、いや、その……」


 そこで初めてティタニアの存在を思い出したのか、ジルベルトは適切なエスコートの位置にティタニアを戻そうとする。


「今日は私をエスコートしてくださるってお約束でしたわよね。大夜会ではお家の事情でミラー伯爵令嬢のエスコートしなきゃならないからって」

「エリー、今回は一緒に出席する話はしていなかっただろ」

「それはそうですけど……」


 いつも話などなくても、婚約者としてのつとめだけはこなしていたジルベルトだったから、まさか今回エリザベスのエスコートをするつもりがなかったとは思いもしなかった。


「その、今回はティタニア嬢のエスコートを頼まれたんだ。その、兄の友人の従弟の知り合いが彼女のエスコート役だったらしいんだが、急な予定が入ってしまったらしく。そんな関係でティタニア嬢と知り合いになって」


 それは赤の他人と言うのですよ。


「まぁ! 私、ジル様とは特別に親しい友人だと思っていましたわ。知り合いだなんて酷い人」

「いやまぁ、友人ではあるが……」

「そんな理由で、今回のダンパのパートナーは私ですの。ミラー伯爵令嬢には申し訳ないけど」


 全く申し訳ないとは思ってない満面の笑みで、ティタニアはグイッとジルベルトの腕を自慢の豊満な胸に引き寄せた。


「いや、その……」


 婚約者がいるところで他の令嬢をエスコートすることがいかに非常識かくらい、ジルベルトも理解しているのだろう。ジルベルトはエリザベスに戸惑いの視線を向けながらもティタニアを振り解くこともできずに、オロオロしていた。

 そろそろ半分以上が入場する中、残っているのは伯爵家以上の高位貴族の子息子女ばかり。みな、興味津々にエリザベス達を見ていた。


「ですから、ミラー伯爵令嬢はお帰りいただけるかしら。ほら、ジルベルト様もお困りじゃないの」


 厚顔無恥とはティタニアの為にある言葉に違いない。以前のエリザベスであれば、きちんと確認しなかった自分が悪かったのだと、言われるままに帰ってしまったかもしれない。

 でも、今現在のエリザベスはそこまで大人しく言う事をきくほど無知ではない。すごすごと引き下がるなど、無理して衣装を調えてくれたベルトモンド夫人や、化粧品を提供してくれたキャサリン、綺麗に着飾らせてくれたアナスタシア、なによりこの素敵なドレスや小物を贈ってくれたラスティに申し訳が立たない。


「私は大丈夫です。ジルは彼女をエスコートしてさしあげて」


 ジルベルトは明らかにホッとした表情で頷く。

 誰も帰るとは言っていないが、ジルベルトはエリザベスが帰ると思ったんだろう。ジルベルトの順番になり、エリザベスを置いてティタニアと控え室を出て行った。

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