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ララ・ベルトモンド衣装店

R15バージョンです。

午後にも投稿します。

「破廉恥な真似は許さなくってよ! 」


 扉がバタンと音をたてつ開き、アナスタシアが扇子をラスティに投げつけた。


「人の部屋で不埒な行為は止めてください」


 キャサリンも極寒の視線をラスティに向けている。ハッと我に返ったエリザベスは、慌ててラスティから離れた。


「あ……、いや、違うのよ」


 アナスタシアがラスティとの間に割り込んでくると、エリザベスをギューッと抱き締めた。アナスタシアの豊かな胸に顔が当たり、そのタユンとした弾力にエリザベスは「ほーッ」と息を吐いた。気持ち良すぎる。


「ごめんなさいね。ベスをこんな野獣と二人っきりにして」

「つい仕事のことしか見えなくなってしまいました。せっかくベスが家にきてくれたのに、すみませんでした」


 キャサリンにも手を握られ、エリザベスはフルフルと首を振る。


「全く! 待てもできない駄犬だったなんて、幼馴染として恥ずかしい限りですわ。ラス、ステイですわよ、ス・テ・イ! 」

「僕を犬扱いするのは君くらいだよ、シア。しょうがないじゃないか、ベスの可愛いが過ぎるんだから。それよりも由々しき事態だ。」

「なんですの? 」


 ラスティがエリザベスのドレス事情についてアナスタシア達に話しだした。エリザベスは、婚約者にドレスも贈られないお飾りの令嬢だとバレてしまったと、シュンと項垂れてしまう。


「まぁ、まぁ、まぁッ! 」


 アナスタシアは扇子をギリギリと握り締め、バキッと折ってしまった。


「シア様、手が! 」


 慌ててエリザベスがアナスタシアの手を掴んだ。


「オホホホ、わたくしとしたことが」


 アナスタシアはスカートポケットから新しい扇子を取り出し、上品に口元を隠した。ラスティが無言で折られた扇子を受け取り、部屋のゴミ箱に捨てに行った。あまりにスムーズな動作に、まるで折れた扇子など存在しないようだ。


 慣れてる。


 エリザベスとキャサリンはアナスタシアの新しい扇子(色・柄ともに前の物と一緒)と、ゴミ箱を何度見かしてしまう。


「クソカス野郎のことはちょっとおいておいて、わたくしやらなければならないことができましたわ」


 クソ野郎から、クソカス野郎にレベルアップしましたね。


「キャシー、化粧品のお話しはまた後ほど。書面にて契約書を持たせますわ。ベス、行きますわよ」

「行く? 何処へです? 」

「ラス、あなたはどうなさりますの? 」

「もちろん、お供するに決まってる」


 どこにお供するの? どこに行くって会話あったかな?


 オロオロするエリザベスをよそに、アナスタシアはキャサリンに辞去を告げると、エリザベスの腕を組んでハート商会を後にした。ハート商会の馬車寄せに待たせていた馬車に乗り込むと、「ララベルに行くわ」と御者に告げて馬車は走り出した。


 ララベル……ララ・ベルトモンド衣装店のことじゃないよね?


 ララ・ベルトモンド衣装店とは、王妃様御用達の衣装店で、メインはオーダーメイドのドレス制作などだが、その他小物から宝石まで幅広く取り揃え、既製品のドレスも扱っていた。一流ブランドは値段も超一流で、普通の貴族くらいじゃ手が出ない。もちろんエリザベスも名前だけは知っていても、既製品のドレスでさえ、ララベルの物を買おうとは思ったことはなかった。


「あの……ララベルって」

「ララ・ベルトモンド衣装店ですわよ。ご存知ない? 」

「知ってます、知ってるだけですけど」

「あそこなら多少は融通ききますから、来週のダンスパーティーにも間に合いますわ」


 やはりララ・ベルトモンド衣装店だった!


 既製品ですらララ・ベルトモンド衣装店の物を購入したらいくらかかることか。そんな贅沢品は自分にはもったいなさ過ぎると、エリザベスは顔色を青くさせた。


「いえ、シア様、私にララベルのドレスなど豚に真珠、猫に小判ですから」

「ちょっと何を言っているかわかりませんわ」


 慌て過ぎて、この世界にない諺を使ってしまったエリザベスだった。


「私にはもったいないってことです」

「でも、融通がきく衣装店を他に知らないんですもの。ラスはご存知? 」

「いや、僕もララベルくらいしか」


 エリザベスはギョッとしてラスティを見る。ウッド子爵家はララ・ベルトモンド衣装店を利用できるくらい資金繰りが滑沢なんだろうか。


「私は去年のドレスで全然……。それに領民の大切なお金を、私のドレスなんかに……」

「ドレスなんか?! ベス、その考え方は間違っていてよ! わたくし達の装いは全て戦う為ですわよ。ドレス一枚、髪飾りに至るまで完璧に着こなして、化粧でより完璧な美に近づける。それがわたくし達の武装ですもの」


 舞踏会は戦いですか?!


 アナスタシアは拳を握って力説する。果たしてアナスタシアは舞踏会で何と戦っているのか? エリザベスにとって舞踏会は、目立たず壁の華になって時間をやり過ごす場所だから、アナスタシアが何と戦っていれのか、エリザベスにはさっぱりわからなかった。


「シア、扇子の替えはもうないだろう。クールダウンして」

「あら、その心配は無用でしてよ。座席の下に予備を数個しまっていますから」


 アナスタシアは自分の座っている席を扇子で叩いて言う。

 扇子の予備を何個も持ち歩いているアナスタシアにも驚きだが、今はララ・ベルトモンド衣装店に行くのを阻止しないといけない。


「うちの経営状況じゃララベルは高嶺の花なんです」

「あら、そんな心配は無用よ。今からではフルオーダーメイドはさすがに無理でしょうから、既製品を手直しすることになるでしょう。既製品はそんなにお高くないですわよ。それに、そのくらいならラスが出すでしょう。先程の破廉恥な真似の代償として」

「破廉恥……」


 破廉恥も何も、《《まだ》》何もしていない……と言いかけて、エリザベスはボボボボッと顔を赤くする。《《まだ》》ってなんだ。何か期待していたようではないか。


「もちろん、僕に任せて」

「でも……」

「素敵な衣装で、こんなに可愛いベスを蔑ろにしたクソカス野郎をギャフンと言わせてやりましょう。わたくしゴールド公爵家も最大限の協力をお約束しますわ。支払いはラスが全面的にしますからノープロブレムですわ」


 そうこうしている間に馬車はララ・ベルトモンド衣装店の前に停まった。


「ゴールド公爵令嬢様、突然のご訪問今日はいかがなさいました? 」


 馬車から下りると、目の前に立っていた婦人が優雅に腰を折って挨拶してきた。豊かな栗毛を綺麗に結い上げた肉感的な女性だった。


「ベルトモンド夫人、実はドレスを見せていただきにきたの」

「それはいくらでも。来週のダンスパーティー用のドレスに、何か不都合でもございましたでしょうか? 」

「あれは最高の出来でしたわ。わたくしではなく、こちらのエリザベス・ミラー伯爵令嬢の物なんですの」


 ベルトモンド夫人はエリザベスに目を向け、優しげに微笑んだ。どうやら彼女がララ・ベルトモンド衣装店の経営者でありデザイナーであるララ・ベルトモンド本人らしい。


「まぁ、お初にお目にかかります。ララ・ベルトモンドと申します。ミラー伯爵令嬢様、よろしくお願いいたします」

「初めまして。エリザベス・ミラーです。あの、私は身長も低いですし、とてもララベルの素晴らしいドレスを着こなせる自信がないんですが……」

「そんなことございませんわ。ミラー伯爵令嬢様は確かに小柄でいらっしゃいますけれど、全体的なバランスは大変よろしいと思います。十分にドレスを美しく着こなせる筈です」


 ベルトモンド夫人に促されて店に入ると、二階にある特別室に通された。

 カチンコチンに緊張しまくっているエリザベスと、ゆったりと出された紅茶を飲んでいるアナスタシアとラスティ。あまりの場馴れ感に住む世界が違う二人なんだなと痛感する。


「ミラー伯爵令嬢様、あちらの別室で採寸をお願い致します」

「……はい」


 今更嫌ですとも言えず、ヒラヒラ手を振って「いってらっしゃいませ」と言うアナスタシアに引きつった笑顔を返しつつ、エリザベスは従業員の後について別室に移動した。




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