キャサリンの行動記録(日記)抜粋
午後にも投稿します。
R15バージョンです。
4月20日(晴れ)
今日の午前の授業は王国史、数学、地理。
昼休みに図書館へ王国史の本を借りに行く。Kの棚の裏で挿入している男女を発見。ジルベルト・ストーン先輩とアイラ・キンベルだった。(言い方!挿入って……。アイラ・キンベルって第1攻略対象の平民子女だ:エリザベス)
なかなか終わりそうにないので本を借りるのを諦めた。
午後は化学実験。化粧水の抽出に役立ちそうだ。
5月15日(晴れ)
一限休講になり、屋上の定位置で読書。(ああ、屋上の小屋の上ね:エリザベス)しばらくするとジルベルト・ストーン先輩が上級生女子を連れて現れた。女子の声がうるさ過ぎて読書を断念。後ろから致していたようだ。(これは誰?というか休講は一年だけだろうから、授業サボってまで何しているのかしら。:エリザベス)
次からは耳栓を持って行こう。
6月3日(雨)
昼休み、小説を読む場所を探しに体育倉庫に行ってみた。3年男子生徒が雨の中体育倉庫を覗いていた。扉の隙間から、マットの上で裸で抱き合う男女が。またジルベルト・ストーン先輩だ。相手は古文学のマリア先生。(彼女は攻略対象外だった筈だけど:エリザベス)
他の生徒に見せて閨の実践授業でもしているんだろうか? 興味がないから場所を移動した。
午後の体育の授業、体育館でマット運動だった。(エッ?ジルが致していたマットをみんなで使ったってこと?!:エリザベス)
9月30日(曇り)
放課後、家庭科教室に忘れ物を取りに行った。中からガタガタ音がした。調理台に女子生徒を押し上げてスカートの中に頭を突っ込むジルベルト・ストーン先輩がいた。(調理台って、宮廷料理のマナー授業のときに宮廷料理学科の生徒が料理してた場所だよね?調理台はさすがにアウトじゃない?!:エリザベス)女子生徒が叫び声を上げていたので暴行かと思ったが、喜んでいただけだった。イザベラ・カーン子爵令嬢、いつもボソボソ朗読するのに、大きな声も出せると知った。(とうとう貴族子女がでてきたよ。胸の大きな眼鏡女子、第5攻略対象だわ。確か初の貴族子女。彼女の攻略は至ってシンプルなんだけど、彼女を攻略しないとその後が続かないのよね:エリザベス)
11月7日(雨)
体育教師に午後に使う三角コーンを体育館に運んでおけと命じられ、体育倉庫へ向かう。体育倉庫を開けると中は真っ暗で誰もいなかった。跳び箱の裏に三角コーンを発見し戻ろうとしたところ、誰かが入ってきたから隠れてしまった。
ジルベルト・ストーン先輩がガーベラ・ブロンドの腰を抱きながら入ってきた。今まで見た中では、比較的時間がかからずサックリ終わった。いつもねちっこく腰を振りたくっているジルベルト・ストーン先輩だが、今回は単調だったように思われる。あまりタイプではないなら抱かなければ良いのに。結局、事が終わるまで出られなかった。こんなことなら本を持ち歩いていれば良かった。(問題はそこじゃないよ、キャシー。ガーベラ・ブロンドか、一代爵位の騎士爵の令嬢か。微妙な立ち位置ね:エリザベス)
2月3日(雪)
風邪気味で保健室に行ったら、ベッドの目隠しに引かれたカーテンに抱き合う男女の影がうつっていた。明らかに最中の物音に「ジルゥ、ジルベルト様ァッ」という声がした。
最近遭遇してなかったから油断した。
ベッドで休みたかったが断念して薬だけ探してもらっておいた。
家に帰ったら39度の熱があった。インフルエンザだったようだ。(保健室は病気や怪我をした人の為の場所だよ!ジル最低!!:エリザベス)
2月19日(晴れ)
図書館でジルベルト・ストーン先輩が司書の先生と絡んでいた。探している本の棚のところだったから本当に勘弁して欲しい。結局本を探すのは諦めた。(ちょっとキャシー、さすがにジルの不貞現場に遭遇し過ぎじゃない?:エリザベス)
2月20日(晴れ)
防寒対策ばっちりで屋上の定位置で読書をしていたら、またもやジルベルト・ストーン先輩が。この寒いのによくやると思う。相手はティタニア・オスマンタス。「ジルゥ、ジルベルト様ァッ」という鼻にかかった声、なるほど保健室の相手は彼女だったらしい。ちょっと長かったからさすがに冷えてしまった。(連日遭遇ですか。悲惨としか言いようがない。なんか、ごめん。一応まだ婚約者だから代わりに謝っておくね:エリザベス)
4月20日(雨)
図書館で何故かジルベルト・ストーン先輩に声をかけられた。聞こえないふりをしてスルーした。気持ち悪すぎる。(やっぱりごめん!ジルがキャサリン攻略失敗した日なんだね:エリザベス)
5月15日(晴れ)
昼休み、図書館でまたジルベルト・ストーン先輩に声をかけられた。無視しておいた。(ジル、再挑戦したんだね……。なにげにしつこい性格なんだ。知らなかった:エリザベス)
放課後、家に帰る途中、すれ違った馬車の窓の中に抱き合う男女が見えた。馬車の紋章はストーン侯爵家。カーテンを閉めるべきだと、誰も忠告しないのだろうか?女子は黒髪だった。
6月30日(雨)
3回目となるとうざ過ぎる。ジルベルト・ストーン先輩に声をかけられた。しかも、腰を触られた。(セクハラ!:エリザベス)本で手を叩き落したらビックリした顔をしていた。貴族に手を上げたのだから打首になるだろうか?
隣国に亡命の準備をしたほうがいいだろうか?(被害者はキャシーだから!!許すまじ、ジルベルト!!:エリザベス)
7月18日(曇り)19日(雨)
連続でジルベルト・ストーン先輩を見かけた。二日共黒髪のティタニア・オスマンタスと体育倉庫に消えた。私には声をかけてこなくなりホッとする。捕縛に騎士団も来ていないし、打首になることはなさそうだ。(ジルの興味はティタニアに移ったようだ:エリザベス)
11月3日(晴れ)
屋上の定位置で本を読んでいたら、エリザベス・ミラーがいきなり転がりこんできた。ビックリした。ジルベルト・ストーン先輩対策に耳栓をしていたからあまり聞こえなかったが、ジルベルト・ストーン先輩がまたもや屋上で事に及んでいたらしい。(あの耳栓はジル対策だったのね?!:エリザベス)
エリザベス・ミラー、ジルベルト・ストーン先輩の婚約者という噂を聞いたが……。エリザベス・ミラーに乙女小説好きがバレてしまった!!!
エリザベス・ミラーも乙女小説が好きらしい。本の感想を言い合おうと、友達になろうと言われた。貴族令嬢と友達?エリザベス・ミラーが貴族らしくない令嬢であることはわかった。彼女となら友達になれそうだ。(嬉しい!:エリザベス)
★★★
「クソ野郎の情事に毎回キャシーが遭遇している訳ではないでしょうから、どんだけ学園で盛ってるんですのって話しですわね」
「そうだね。僕が調べただけでも、学園関係者12人の女性と関係しているね。先生と生徒半々ってところかな。メイドとかにも手を出してそうだし、下手したらご落胤とかもいそうだよね。調査結果にはなかったけど」
アナスタシアは扇子で口元を隠しても不愉快さを隠しきれないようで、猫目の目尻がさらに吊り上がってしまっている。ラスティは手帳を取り出して、キャサリンの日記と何やら確認作業をしているようだ。
「本当に調べてくれたんですね」
「もちろん。やるからには徹底的に。向こうが言い逃れできないように、確実に婚約破棄にもっていけるようにしないとだから。ただ……」
「ただ?」
「主に騎士科の生徒に多数話は聞けたんだけど、証言は断られちゃって」
「なんですって?!」
アナスタシアが目を剥き、ラスティは手帳を懐にしまった。
「あぁ、侯爵家が怖いんですね」
キャサリンの言葉にラスティが頷く。
「そのようだな。やはり実際に証言台に登るのは勇気がいるようだよ。領地の商売に圧力をかけられたら、それこそ家が潰されるかもしれない。侯爵家にはそれなりの力があるからね」
「そんなの、我がゴールド公爵家が盾になりますわよ」
「そうは言っても、全てを守れる訳じゃない」
「でも、じゃあどうしたら……」
やはり、ビデオやカメラのような物があれば……と、ないものはしょうがないのだがエリザベスはため息を飲み込んだ。
「キャサリン嬢さえよければ、この日記を証拠品として提出して、証言にも立ってほしい」
「私で役に立つのなら」
「でも!もし侯爵家がハート商会に圧力をかけるようなことがあったら」
あの温和そうで丸々としたキャサリン父が、ストーン侯爵家にペチャンコに踏み潰される姿が目に浮かんで、エリザベスはキャサリンの手をギュッと握った。
「ベス、商売人を舐めてもらっちゃ困るわ。ストーン侯爵家やその息のかかった貴族から商談を切られても、色んなところに伝手はあるものよ。第一、うちの商売相手は何もこの国の貴族だけじゃないわ。他国との取り引きもありますから」
キャサリンがいつものクールな表情に柔らかい笑みを浮かべる。その破壊力たるや!同性でも惚れてしまいそうだ。
「オホホホ、ゴールド公爵家がハート商会を支援しますわ。何も問題はありません」
「本当ですか!ではシア様のお名前をお借りしても?!新しい化粧品の看板になっていただきたいんです」
キャサリンの目がキラリと輝き、まさに商売人の顔つきになる。
「よろしくてよ。でも、わたくしの名前を出すのなら、完璧な物でなくてはなりません。わたくしも商品開発に口を出させていただきますわよ」
「望むところです!」
「ラス、わたくしキャシーとお仕事のお話をしてまいりますから、クソ野郎との婚約破棄案について、ベスと話を詰めておいてくださいませ。キャシー、ラボを拝見したいわ」
「もちろん、了解です」
アナスタシアとキャサリンは化粧品のラボラトリーに行ってくると、意気揚々と部屋を出て行ってしまった。
「全く、面白そうなことを見つけると、昔から周りが見えなくなるんだから」
「ラス様は、シア様とどんな幼少期を過ごされたんですか?」
「そうだね。男兄弟みたいな感じだったかな。今でこそ綺麗に化粧して着飾って淑女然としてるけど、子供の時は三人で泥んこになって走り回っていたよ。多分、木登りが一番上手なのはシアだね。今でもきっとそうだよ」
楽しそうな子供時代だった。エリザベスはいつもドレスを着せられ、ジルベルトの婚約者として相応しいようにと、慎ましやかに生活するように言われてきた。下の二人の妹はやりたいことをやり、伸び伸びと成長する中で、エリザベスだけは侯爵家から派遣されてきた家庭教師にがんじがらめに縛り付けられる生活だった。
父親も母親も家庭教師がいない時はできる限り甘やかしてくれたけれど、侯爵家の方針に逆らうことができなかったからだ。
「素敵な子供時代だったんですね」
「まぁ、あの二人がいたから僕の今があると思っているよ」
「シア様と第3王子様ですね」
「あ……うん、そうそう、第3王子様な」
何故かラスティがエリザベスから視線を外したように思われた。ボサボサヘアーで完全に目は隠れてしまっているのだが。エリザベスはラスティの目の辺りをジッと見つめる。ラスティがあえて何かを隠しているように思われた。
「あ、紅茶のおかわりもらってこようか? もう冷めてしまっただろう」
「大丈夫です」
なおもジッとラスティを見つめると、さらにラスティの挙動が怪しくなる。
「なんで動揺してるんですか? 」
「そりゃ、可愛らしい女の子と二人っきりで個室にいると思えば動揺もするさ。しかも、その可愛らしい女の子がベッドに座って僕のことを見つめてくるんだもの」
「こ、これは他に座るところがなかったからで、他意はありませんから!」
「わかってるよ。わかってるけど、そこで妄想逞しくなるのが男子ってもんだよ」
エリザベスは慌ててラスティから遠ざかるように座る場所をずらし、人一人分くらいの間が空いた。
「そんな、あからさまに拒絶されても辛いんだけれど……」
「拒絶はしてません。適切な距離をとっただけです」
「拒絶……してないんだ」
ラスティがボソリと呟いたが、動揺しているエリザベスには聞こえなかった。
「ねぇベス、僕達の今の適切な距離ってこれくらいだよね」
「はい?」
ラスティは、二人の間にあるスペースを指さして言った。それはエリザベスが自分で空けた距離ではあるが、口に出してさらには実際に目で見てみると、その隙間が凄く開いているように思えてせつない気持ちになる。
もっと近寄りたい。
ピッタリと寄り添って、0距離でラスティと触れ合いたい。
エリザベスは、自分の中に湧いて出た感情に戸惑いを感じる。
多分、ラスティに好意を持っているとは自覚していたが、自分の中に性的衝動のようなものがあるとは今まで感じたこともなかったから。
好きだから、触れ合いたい。
それは人間として当たり前の感情なのかもしれない。ただ、そのまま突き進んではジルベルトと同類になってしまう。
でも……。
「今はこの距離だけど、いつかは……」
ラスティのせつなそうな声音に、エリザベスは小さく頷いた。