なんでミラン?(颯介)
俺は、夜勤明けにあくびをしていた。
昨晩はシステムの更改対応で、ほぼ全システムの担当者が徹夜だった。やっとの思いでなんとか無事に切り抜けることができた。
朝になり、各ファンドの値が決まり、特別勘定を繰り入れたファンドは正確に値を叩き出して、契約単位の保証金額を正確に算出していた。コールセンターの画面にも正しい値が表示されている。客がいつ何時問い合わせても、正しい値が表示される正常状態を示していた。
俺はゆっくりと伸びをして、フロアの6階を歩いていた。これから帰宅して、家でゆっくり寝るのだ。
カバンを持った手が誰かに当たった気がして、はっとして、寝ぼけた目をこする。
「あ、新城さん!」女性がが言った。
俺は慌てて振り向いた。
それは憧れの田中さんだった。(まさみだね)
あ!と心臓が嬉しく跳ね上がった俺は、目をこすりながら、田中さんの後ろに誰かいるのに気づいた。
燃えるような赤毛のまだ十代の子供だ。
「え?ミラン!」俺は思わず叫んだ!
眠気が一気に吹き飛んだ。
「なんで、ここにいるの?中世ヨーロッパにいるはずじゃ・・・。」
俺は田中さんが聞き耳を立てているのに気づいて、思わず口ごもった。
週末の徹夜作業で幻覚を見ているような気もするが、間違いなくミランだとどこかで分かっていた。
なんで?なんで?今の日本にミランがいるんだ?
俺の頭の中はパニックになった。
田中さんには、中世ヨーロッパの伯爵と村の子供たちのことも、数億年先の帝国を治める帝とそのお妃候補の沙織さんを一緒に救ったナディアのことも、アラブの王子アッバスのことも秘密だった。
そう、俺と憧れの田中さんはLINEを交換して、時々やりとりはできるようになっていた。だがそんなに近しくはまだなっていない。
そうでなくてもあの冒険のことは秘密だ。田中さんには話すつもりはなかった。チームナディアのことは俺の大切な秘密だ。
龍者の実の粉も、松明草の粉も、トラビコンの粉も俺は毎日持ち歩いていた。いつ何時、何があるかわからないからだ。
しかし、今、実際にゲーム出会った中世ヨーロッパにいるはずのミランが目の前に現れると、俺の心拍数は跳ね上がった。変な汗が吹き出してきた。
「ミラン、どうしたんだ?何かあったか?」
「颯介さん、大変なことが起きた。」
とても弱った表情でミランはそう俺に言った。
「この子供は誰ですか?」
田中さんが俺に聞いてきた。(まさみだね)
「田中さん、僕の知り合いの子なんです。すみません。」
俺はそう言うと、素早くミランの手を引いてエレベーターのボタンを押した。頼む、早く来い!
エレベーターが到着する時間が永遠に感じられたが、8台あるエレベーターのうちの一つがやっと6階まで到着した。朝早い時間だったので、幸い無人だった。
「田中さん、じゃあ、また!」
俺はそう田中さんに言うと、ミランの手を引いてエレベーターの中に乗った。
「どうしたの?」
俺はエレベーターの中で二人きりになるとミランに言った。
「助けて。」
ミランはそう言うと、燃えるような赤い髪を怪しく光らせて、何か呪文のようなものを唱えた。
何語かさっぱりわからん。
俺がそう思った瞬間に暗転した。
あー、ゲームに呼ばれた。
俺が思った時、目の前には見たこともない景色が広がっていた。
どこだ?いつの時代だ?




