番外編(ナディア)
外の庭では、暖かな日差しの中で警備の者がものものしく武装した状態で、見回りをしていた。
私はチラッとそれに目をやり、私たちの潜入が気づかれていない様子を確認した。彼らは気づいていない。
私たちは某国の首相官邸にいた。私もリーポウも変装していた。リーポウの変装は、わざわざ特注で作ったフェイスマスクが大活躍していた。
私たちは首相の側近に化けていた。準備に3ヶ月かけた。話し方、指紋、静脈認証、瞳孔レンズ、ありとあらゆるものに対抗策を検討して、綿密に計画して対応を進めた。
マイルストーンは全て狂いなく実行済だった。
計画には、分刻みでチェックポイントが設定されており、私たち二人を支援する要員は三十二人いた。私たち二人だけが首相官邸に潜入しており、チーム全体が息を飲むような緊迫感の中で、計画が速やかに進行していた。
今、私たちは、軽口を叩いている。化けた相手の二人の関係性を忠実に再現して演じているのだ。
「天気が良いと大臣の持病も悪化しないから、サインをもらいやすくて助かるわ。」
「その点については完全に同意するよ。」
とかなんとかだ。
さっきまで、地下駐車場で二人の側近の頭にピタッと銃を突きつけて、縛ってロッカーに入ってもらった。ロッカーは監視カメラで私の部下が遠隔監視しているのだ。事が終わり次第に、ロッカーの鍵は開けられ、誰かに気づいてもらえる仕掛けが仕込んであった。
廊下の突き当たりが首相の部屋だ。今日の警備の者は私とリーポウを見て、軽く会釈をした。
私も会釈をする。
首相の部屋が開けられ、私がいつものように入っていった。リーポウは入り口の警備の男に会釈をして、さりげなく秘書室の扉をノックして入って行ったはずだ。私が失敗したら、リーポウは警備の男を素手で仕留める段取りだった。
だが、私は失敗しない。
「おはようございます。首相。」
首相に笑顔で挨拶をし、そのまま机に近づき、書類を手渡しした。そして、さりげなく飲み物に薬を混ぜた。
龍者の実を使っているので、目にも止まらぬ速さだろう。監視カメラをスローにしまくっても映らないドラキュラ並みの速さだろう。変な例えだが事実だ・・・
首相は書類に目を通しながら、水を飲んだ。そして、意識をゆっくり失った。
私は大統領に話しかけて、大声を出した。
「誰か、来てー!!!」
警備の者が慌てて入って来る瞬間、素早く気を失った首相の首筋に注射を打った。これも監視カメラをスローにしても映らないだろう。今度は慌てた私が覆い被さっているので、どのカメラ的にも死角だからだ。
首相は死んではいない。
ただ、二度と政治の現場には復帰できないだろう。
私は飛び込んできた警備のものに、救急車を呼ぶように指示を出した。
「首相は息はあるが、気を失っているようよ。」と言った。
そのまま、救急車に乗って私もリーポウも病院に一緒に行った。私とリーポウは完璧に側近を演じ切っていた。
しかし、病院に着くと、目にも止まらぬ速さで病院の屋上に駆け上がり、待機していたヘリに乗り、飛び立った。
途中で、トンネルで待機していた車数台の1台に乗り、そのまま空港に直行し、航空機を使って国境を越えて帰宅した。
変装を解いてから、プライベートジェット機を使ったのは言うまでもない。
戦争も、民間人を含む建物への攻撃も、こうして未然に阻止された。
私の名前はナディア・ストーン。世界最強のスパイだ。




