67. ラスト(颯介)
五番目の扉の前で、俺たちは誓った。
危ないと思ったらすぐに引き返してくること。
そして、ついに、チームナディアの作戦は、決行された。
貧しいアフリカの村が作戦の舞台だ。
アフリカは夜だった。
指揮官ナディアの計算では、襲われる1週間前のヴィオラの粗末な小屋の前に、俺たち先着部隊は着いたはずだった。
「ヴィオラ?」ナディア姉さんは小屋の中にそっと声をかけた。
「誰だい?」男性の声が聞こえた。
「私よ。ナディア。」ナディア姉さんが答えた。
俺たちは緊張して、後退り、暗闇に隠れて、ナディア姉さんが扉を開けて出てきた男性と話すのを息を潜めて見つめていた。
隠れてそこにいたのは、アッバス、ピーター、ジャック、そして俺だ。
万が一のことがあった時のために、後方支援部隊とし、伯爵とジョージアとレオを中世ヨーロッパの伯爵家に残してきた。ダッカー王子も占い師も念のために伯爵家に待機していた。
何せ、前回は、ナディア姉さんは一人で行って負傷をしたのだ。俺とアッバスが救いにいかなければ、多分ナディア姉さんが死んでしまっていたのは間違いない。
当然ながら、俺たちは全員龍者の実を食べていた。松明草も。トラビコンの魚も干物をさらに粉末にしたものを、全員が持っていた。俺が、命をかけて持って帰ってきた魚は無駄にすることなく、ちゃんと役に立つようにしてあった。
ナディア姉さんは、俺たちにうなずいた。
「確かにヴィオラよ。」そういう意味だ。
ナディア姉さんは銃を2丁持っていたが、今はしまってあった。いざとなれば、炎の光線が出せるからだ。
今回は、五番目の扉の前で、ナディア姉さんとピーターが、何かぶつぶつ唱えて、二人の髪の毛が燃えるように赤く輝くのを俺たちは見た。ナディア姉さんの髪の毛は決して赤毛ではないのに、その時は真っ赤になっていた。
ついに俺を無事に52回目で救うことに成功したらしいミランも、伯爵家に合流していた。ミランのアドバイス通りに、今回はナディア姉さんとピーターは試したのだ。
「あ!ヴィオラ!」
ナディア姉さんは、おそるおそる出てきた男性に飛びついた。
「どうしたんだい?こんな夜更けに。突然。」ヴィオラと呼ばれた男性は驚いたように言っていた。
「逃げるのよ。ヴィオラ。私が失敗したわ。あなたを巻き込めない。今、すぐに逃げましょう。」
ナディア姉さんは、素早く男性にそう言った。男性は戸惑っているようだったが、ナディア姉さんの言うことをすぐに飲み込んでくれたようだった。ナディア姉さんは男性が荷物をまとめるのを手伝い、二人で小屋の外に出てきた。
ナディア姉さんは、ヴィオラという男性が現地の人にもらったという2本のトウモロコシを持って出てきた。
「早く!」
「これは食べられる状況よ。食べ物ゲットよ。」ナディア姉さんはトウモロコシの一本をピーターに持たせた。
前もって、解放の呪文を唱えるのは、ピーターとナディア姉さんだと決めてあった。
俺は、ナディア姉さんが肩を抱いているヴィオラという男性の片手を掴み、俺のもう片方の手をアッバス王子が繋ぎ、もう片方の手をジャックと繋いだ。ピーターだけが一人でトウモロコシを持って立った。
ナディア姉さんも空いている手でトウモロコシを持っている。
二人は目を合わせてうなずいた。
練習した通りに、ピッタリ同じリズムで、息を合わせてナディア姉さんとピーターは言った。
「いでよ、ドブネズミ!」
世界は暗転した。
俺は、ニューヨークのスタバの前に立っていた。ニューヨークは昼間だ。ナディア姉さんとヴィオラとアッバス王子とジャックがそばにいた。
俺たちは涙ぐんで、お互いをしっかり抱きしめた。もー言葉にならない。ここまで本当に長かった。
ピーターは、無事に、伯爵家の城壁にある二十三本目の木の下に戻っただろう。
中世ヨーロッパでも、皆が歓喜の声をあげて祝杯をあげているだろう。
「ジャック、このままヴィオラをお母さんの所に連れて行くわ。」ナディア姉さんはジャックに言った。
「僕もついていくよ。」アッバス王子がそう言った。
そうだった。二人は古い友人だからね。
「分かった。気をつけてね。」ジャックはそう言って、ナディア姉さんを抱きしめた。
俺は、例のナディア姉さんの部下のリーポウがついているから大丈夫だろうと思った。
「颯介、元気でね!」ナディア姉さんが俺に言って抱きしめてくれた。
「分かった。姉さんも気をつけて。」俺はそう言って、もう一度、皆をそれぞれ抱きしめた。
あ!田中さんに連絡しなきゃ・・・
あ、その前に、スマホを充電しなきゃ・・・
俺は、急に現実を思い出して、少しウキウキした。
俺、ニューヨークで田中さんとデートしたんだった。
って夏休みそろそろ終わるんじゃない?
あー、日本に帰って仕事だー。
でも、最高だったなと思う。俺の旅はほんとーに最高だった。
「気をつけろよ。」ナディア姉さんの部下のリーポウが迎えに現れて、急に俺にそう言った。
もう、敵はいないんだよね?・・・
「敵は、もう遠くに言った。」ジャックとアッバスがそうリーポウに言った。そうだ。奴らはクフ王と共に古代エジプトにいるはずだ。
「よく知らないが、分かったよ。」リーポウがそう言った。
そう、今の所、敵はもういない、はず、だ。
俺は食べきれないほどの龍者の実と、松明草と、トラビコンの魚の粉末を持っている限り、もはや、普通の生活は送れなそうだ。龍者の実と松明草も日本に帰ったら乾燥させて粉末にしよう。凍らせたら、いざとなったら食べられないしね。いやー、でもこのままの形状では税関を抜けられないな。
どうやって携帯用の食料にできるか、ナディア姉さんに相談しよう・・・
次のエピローグで終わりです。
お読みいただきまして、本当にありがとうございました!




