64. オペラ座からプラベートジェット機への道中で(ナディア)
「さあて、ようこそ、カルロス」4つの銃が、四人の敵の頭をピタッと狙った。
私の両手の銃とリーポウの両手の銃だ。
ニンマリ笑いながら車に乗り込んできたカルロス含め4人は、ギョッとしたように身動きを止め、青ざめた。
アッバスも銃を取り出して、カルロスを狙った。
「なめた真似はやめた方がいいわ。」私はそう言い、素早く四人を後ろ手に縛りあげ、敵の体から武器を全て奪った。
「クッソ。はめたな。」カルロスはそう言ってアッバスを睨んだ。
「はめたのはそっちでしょう。」アッバスは上品に、だが冷たく言い放った。
「どこ行くんだ?」カルロスは車の行き先を非常に気にした。
「さあね。フランスにさよならね。」私は軽く言った。
「はあ?」カルロスは呆気に取られて言った。
「黙ってな。」リーポウに頭をこづかれて、カルロスは黙り込んだ。
気絶されると、プライベートジェット機に運び込むのに面倒なので、飛行機に乗るまではこのまま黙っていてもらうしかない。
「ナディア姉さん」私は唐突に名前を呼ばれて、ハッとして飛び上がった。
ミラン・ガストロノムスバックストッカーがそこにいた。
え?なんで?
「リーポウ?」私は少し険しい声で、リーポウにどういうことか説明を求めた。
「いや、この子がナディア姉さんに話があると言うから。オペラ座の前で待っていたら、この子に話しかけられたんだ。」リーポウは言った。
「ほら、だって、スタバで俺がこの前投げ飛ばされた時、この子も君と一緒にいただろ?」リーポウは後ろめたそに言った。
「それに名前がほら・・・」リーポウは言いかけて、私にすごい目で睨まれて黙りこくった。
私の本名を、改めてカルロス含めて四人の敵に教える必要はない。奴らは私とリーポウのやり取りを耳をダンボにして聞いている。
「ヘッドフォン!」私が鋭く言うと、リーポウは素早くカルロス含めて四人の耳にヘッドフォンを装着した。爆音が流れているはずで、「耳がいてーよ」とカルロスがぼやく声が聞こえた。
よーし、さあ、どうした。聞こうじゃないの。
私の本名には、確かに、ガストロノムスバックストッカーが入っている。
ナディア・ガストロノムスバックストッカー・ストーンだ。マスコミは略して、ナディア・ガム・ストーンと言っている。ガムの部分の名前が長いから公称として、もうガムとしているというのは有名だ。
でも、正しくはガストロノムスバックストッカーというのを知っている人は、ほんの僅かだ。
私は、ピーターたちの名前を知った時、ただの偶然かと思った。しかし、ミランにピーターたちの祖父と紹介されて出会った時に、何か引っかかるものを感じだ。しかし、ピーターたちに出会って以来、ゲームに巻き込まれて忙しく、私の家系図をまだ遡ったことはない。
ただ、王家の血筋が入っていることは聞いたことがあった。私に空手と柔道を教え込んだ教授から聞いた。
正直あまり気に止めていなかったが、リーポウはミランが名乗った時に、同じ名前ということで、ハッとしたのだろう。
「ミラン、一体どうしたの?あなたはなぜここにいるの?」
「僕は、迷子になったんだ。五番目の扉を開けて、失敗して、パリにいる。もう3ヶ月ここにいるんだ。」
ミランはそう言った。
「そしたら、ナディア姉さんがこの街に来ていると何人かの人が興奮して話していたんだ。今日、偶然、聞いたんだよ。オペラ座に入って行ったという話を、さっきカフェで誰かが話していたんだ。だからここにきたら、スタバにいた男性がいたんだ。」ミランは続けて言った。
「あの時、この人は私に空手のツキを入れられたわよね。」私はリーポウを指さしてそう言った。
「そうだね。この人は、まーたナディア姉さんを狙っているのかと僕は思った。だから、話かけてみたんだ。」ミランはそう言った。
「彼の誤解は解けた。」リーポウは静かに言った。
「だから、俺は、車に載せたんだ。聞けば、3ヶ月パリに置き去りみたいじゃないか。」リーポウは続けた。
「わかったわ。」私は静かに言った。考え続ける。一体どういうこと?
「召喚の呪文が必要だ。」ミランは言った。
「ナディア姉さん、このゲームを呼び出せる呪文があるはずなんだ。失敗したときに元の場所に戻れなくなるでしょう?」ミランは続けた。
私もそれは考えていた。占い師には、ゲームの設計を変える方法を聞くつもりだった。しかし、その後、ミランがやってきて、五番目の扉の存在を教えてくれて、行きたい場所と行きたい日時に行ける可能性を示してくれた。
「あなた、颯介を救った?」私はミランに聞いた。
「まだだけど・・・」ミランは口ごもった。そしてハッとしたように私の顔を見つめた。
「もしかして?僕、できた?」ミランはそう言って目を輝かせた。
私はうなずいた。
「つまり、あなたは、五番目の扉を使って、颯介を救おうとしている最中にここで迷子になったのね。」私は言った。
「あなたは52回目で成功したと言ったわ。今は、何回目で迷子になったの?」私は聞いた。
「51回目だよ」ミランはそう答えて、すごい笑顔になった。
「次だね?次のチャレンジで、僕は成功するんだね?」ミランは笑っていた。
「ね、それって、51回目と52回目の間で、占い師に召喚の呪文を聞いたからじゃないの?」アッバスが冷静に割り込んできた。
リーポウはもう、ちんぷんかんぷんという顔で、宙を見ている。
「なんの話だよ。召喚の呪文って・・・」とぼやいて、銃をカルロスに向けていた。カルロスは爆音に顔をしかめてじっとしている。
どうせ、聞こえたところで今の話が理解できるまい。
なるほどね。召喚の呪文で、初めて五番目の扉のチャレンジが成功に近づくのか。
金塊1本渡して、ダッカー王子の呪いを解いてもらったが、金塊3本でも渡して、召喚の呪文をゲットするか・・・
私は考えた。ダッカー王子は私の祖先ということなのか?ジョージアとダッカーが結婚すると、王家の血筋を引くガストロノムスバックストッカーの子孫が産まれるわね。私の祖先ならば、展開的にそうならないとおかしい。でも、今の所、ダッカーとジョージアは誰が見てもラブラブだ。ありえなくはないな・・・
あー、今は余計な事を考えている場合ではない。とにかく、ミランは私の祖先の可能性は捨てきれないわ。
私たちは、カルロスら4人を引っ立ててプライベートジェット機に乗り込み、パリからニューヨークへのフライトを楽しんだ。ミランはその間、ゴージャスな座席ですっかりくつろぎ、安心しきって寝ていた。
リーポウと私が交代で仮眠を取ったが、リーポウは私が起きている間は、ずっと「で?」を繰り返して、ナッツを食べ続けて考え込む私に質問をし続けた。
私は、リーポウの質問には一切答えなかった。
金塊を1本ニューヨークのアジトから持ってきて、今の2本と足しておくか・・・?
ヴィオラ奪還計画の前に召喚の呪文ゲットをしておくべきだわね・・・
金塊3本は痛いが、致し方あるまい。
颯介の命を救い、ヴィオラの命を救い、かつ、安全にクフ王をエジプトに送りつけて自分たちも帰還するためには必要な出費だわ。
今まで頑張って努力して金持ちになっておいて、本当に報われる思いだわ・・・
カルロスがいなかったら、ウィスキーのロックを飲むところだけど、油断せずにシラフでいるわ。




