52. とらい(ナディア)
私の目は涙で曇る。(五番目の扉を開けた一回目の挑戦だ。)
目の前で、ヘリコプーターからロープが降りてきて、当時の私がヘリコプターからロープをつたって病院の屋上に降りてきたのを目撃している所だ。風がとても強くて、ロープが大きく揺れていた。あの時のように、ヘリのプロペラの轟音が私の中で耳鳴りのように大きくなる。
息ができない・・・私は戻る時間を間違えた。この時間には、既にヴィオラは死んでいるはずだ。私の体がわななく。体が震えて、動けなくなった。
この時間じゃだめだ。救えない。
その時、そっと誰かに肩をつかまれた。私はハッとして思わず身構えて、空手の攻撃型をとり、振り向いた。
颯介だった。私について来たのだった。後ろにアッバスの姿も見えた。
「帰ろう。ナディア姉さん。」颯介が静かに言った。
アッバスも頷いた。
「僕にとっても、ヴィオラは古い友人だったんだ。放っておけないよ。君の後をついてきた。」アッバスはボソボソと言った。
そうだ。私は戻る時間を間違えた。これではダメだ。二人の言う通りだ。戻ろう。
こうして、一回目の挑戦は終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
本当に失敗した。
私は銃弾を受けた。
腕を負傷してしまった。血が大量に流れている。
思うように動けない(今は、五番目の扉を開けた二回目の挑戦だ。)
皆が寝静まった夜明けを狙ったので、今度は誰もついて来てないだろう。
私は次の銃弾を避けるために建物の影に身を隠した。
今度は、敵がヴィオラを襲撃してきた瞬間に戻ってしまったのだ。
これでは、私も敵にやられてしまう。
私は負傷していない方の手で、銃を素早く構える。この銃1つでは、おそらく私はヤラれてしまう。
慰めに、フッと息を人差し指に吹きかけてみる。何も起こらなかった。龍者の実効果はとっくに消え去っているから当たり前だ。
さーて、もはやここまでか?
私がそう思った時だ。
敵と私の間に、真っ赤に燃える炎が一気に壁のように立ちはだかった。
そして、颯介が風のように私が隠れている物陰に飛び込んできた。
え?
「ナディア姉さん、龍者の実の種を噛み砕いたんだ。歯が欠けちゃった。」
そう言って、颯介がニタっと笑った。
颯介はポケットから出したハンカチに、口から砕けた種を吐き出した。
「あーあ、多分、これ、歯だね・・・」とか呑気に言っている。砕けた種の中に、欠けた歯が混ざっているらしい。
「さあ、戻ろう!」
私は、颯介に力強く担がれた。そして、すごいダッシュで颯介に運ばれた。
あっと言う間に伯爵家のキッチンまで戻ってきた。
そこでは、ジャックとアッバスが仁王立ちして、怒り狂っていた。子供たちも恐れおののいた、心配そうな顔で集まっていた。
「ナディア、だめだ!」
「一人で勝手に行くのもダメだ。そんなことをしたら、もう離婚だ!」ジャックは烈火のごとく怒った。
「龍者の実とやらをゲットするまで、行ってはダメだよ。」アッバスも静かに諭すように言った。
私は大量の血が流れているのを、さいたシーツでジョージアに止血してもらいながら、仕方なくうなずいた。
「そうね、先に龍者の実をゲットしに行きましょうか。」私はそうつぶやいた。
ヴィオラ、もうちょっと待っていて・・・
私は必ずあなたを救い出す準備をするわ。
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