51. トラビコン(颯介)
広い伯爵家の中庭で、俺は畑からジャガイモを引っこ抜いていた。ジャガイモは豊作だった。辺り一面に葉が青々と広がり、ここでは色んな穀物が収穫できた。
中世ヨーロッパの伯爵家の庭で、ジャガイモを引っこ抜く。一体どんなシチュエーションになったら、そんな状況になるのか説明は難しい。
俺は、21世紀の日本で、保険会社のシステムを作っているアプリベンダーの仕事をしているただのサラリーマンだ。アップル製品とユニクロを身につけている、普通の若者のはずだった。同じフロアで働く、メガネをかけた田中さんに恋焦がれている普通の若者のはずだ。それが、この状況になるのは気に食わない。だが、ワクワクすることも多い・・・・のも事実だ。
あれから、俺はオリーブオイルでトラビコンの魚を唐揚げにした。ケンタッキーフライドチキンでバイトしまくった俺にとっては、そんなことはお茶子のサイサイだった。
俺たちはトラビコンの魚を食べた。が、これといって、龍者の実ほど効果が体に現れたわけではなかった。
来い!プテラーー!
呼んでもプテラは来ないし、走っても、忍者のように早く走れるわけじゃないし、一体何の効果があるのかさっぱりだった。普通に美味しかったけどね。
ミラン・ガストロノムスバックストッカー、ナディア・ストーン、この2人はずっとヒソヒソと話していた。
二人が生きる時代間には、焼700年くらいのの月日が横たわっているというのに、この二人は実に気が合いそうだった。
いや、そんなことより・・・
俺が実は死んでたって?
いやー、それはないっしょ!と自分に何度も言い聞かせたが、あのトラビコンの魚を持って帰ろうとした時に、確かに、意識が遠のく感じは俺の中でしっかり残っていた。
意識が遠のく中で、誰かが腕をつかんだと思ったのが、実は、ミランだったということだな・・・
俺は、何度もあの瞬間を反芻したが、俺の手は絶対的にレオの手に届かなかったのだ。レオはずっと必死で手を伸ばしてくれていた。なのに、俺がトラビコンの魚を持って帰ろうと欲張ったばっかりに、レオと手をつなげず終いだった。あそこで俺は死ぬ運命だったのかーと思うと、なんか切なかった。
ナディア姉さんは、執念でトラビコンの魚を干物にした。なんで干物の作り方を知っているのかわからなかったが、とにかく、魚を開いて干物を作ってしまったのだ。
何の効果があるか分からないが、とにかく日持ちを良くしておくという執念だ。
多分、ナディア姉さんは、一人で五番目の扉を開けて、友人を助けに行くつもりだ。
それについては、俺は確信を抱いていた。
俺が実は死んだというのを聞いてから、もう誰も巻き込めない!と思って一人で思い詰めているに違いないのだ。
俺は、豊作のジャガイモとオリーブオイルでポテトを揚げようと思って、ジャガイモをかごに採った入れながら、ナディア姉さんの様子を注視するのに余念がなかった。
一人で行かせてたまるかい、姉さん・・・
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