43. 守ってくれた人(ナディア)
伯爵家のキッチンでは、颯介が餃子パーティーをやろうと提案して、餃子の作り方を皆に教えていた。
辺りは既に夕暮れとなり、広い伯爵家の庭園ので、私はテーブルの上にランプを置いて、銃をアッバスに向けたまま、彼に話を促していた。
「ヴィオラは、僕の学生時代の友人だよ。ナディア。」アッバスは静かに話し始めた。
死んだ彼の名前を聞くと、いまだに心臓がピクンとする。
私は黙ってアッバスに話を続けさせた。
「君がまだ、作家として有名になる前のことだ。ヴィオラがある日、女の子と歩いているのを見かけたんだ。」
「僕たちは寮の部屋が隣だった。ヴィオラが女の子といるのを見たのは初めてだったから、誰なんだろうと不思議に思ったんだ。僕は、アラブのプリンスで、君も知っているとは思うが、彼は苦学生だった。だが、僕たちは妙に気があったんだよ。」
アッバスは静かに話し続けた。私の心臓は少しずつ心拍数が早くなってきていた。
「数年経って、君が作家として売れっ子になった時、どこかで見た顔だなと思ったんだ。でも、最初は全く気づかなかった。」
「でも、久しぶりにヴィオラと再会した時に、ふと思い出したんだ。華々しく作家として成功した君が、あの時ヴィオラと歩いていた女の子だってね。」
「君は、一体何をしたんだ?」アッバスは身を乗り出して声を潜めて言った。
「ヴィオラが殺された理由は、奴らが君の存在をヴィオラから聞き出そうとして、ヴィオラがそれを最後まで拒んだからだ。」
私の頭の中で、また、あの時のヴィオラが亡くなった時、病院に駆けつけた時のヘリの轟音が耳に蘇った。頭の中で割れそうに音がする。
私のことを聞きだそうとされた?
私の正体を隠し通そうとして亡くなった?
「君は一体何者だ?」アッバス王子はそう言った。
「僕は、単に、ヴィオラの学生時代の友人として、奴らから接触を受けた。」
「そして、ヴィオラのごく少ない友人関係を聞かれたんだ。」
本能でわかる。アッバスは本当のことを話している。
「僕は、最初は全く分からなかった。彼には本当に友人が少なかったからだ。でも、しつこく奴らに聞かれて、一人だけ思いついた人がいた。それは、君だ。」
「1回、昔、彼が君と歩いているのを見たかもしれないと奴らに言った。それだけだ。」
「それから、奴らは僕の金を騙し取り、僕の金を戻す代わりに、君を殺せと言った。レッドサタンを取り戻せるとも。」
アッバスは真剣な顔で私に言った。私の周りの酸素は無くなったのか。息が苦しい。
「僕は君が何者か全く知らない。でも、さっき、マシンガンを持った奴らが襲ってきた時、はっきり分かったんだ。ヴィオラが守った人は、君だったんだってね。」
私の中で何かが壊れそうになった。こみ上げてくる感情をどう抑えて良いのか分からない。涙腺が決壊してしまいそうだ。
そこに、間抜けな声がふわっと耳に入ってきた。
「ナディア姉さーん、餃子できたよー」颯介が遠くで呼んでいる。
そして、若き伯爵とジャックが私たちの様子を見にやってきた。
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