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28. プテラからボンジュール(ナディア)

  風がかすかにそよぎ、私の両手に持った銃口を優しく撫でて行く。

 

 目の前の壮麗なルーブル宮殿は、改修工事が行われているようだった。この時代のルーブルは高い城壁に囲まれていた。


 ミッションの説明では、フランソワ1世時代と言っていた。となるとだ。


 コーヒーにクロワッサンどころではなくなりそうだ。

 食べ物より、心配事に心と頭を使おう。


 私の頭は歴史の記憶を遡る。ルーブル宮殿の元になった、レオナルド・ダ・ヴィンチを含む多くのイタリア人芸術家のスポンサーだった、フランソワ1世のルーブル改修が始まったのは1546年。フランソワ1世が亡くなったのは1547年。目の前のルーブル宮殿は、1年くらいは改修工事をしていたように見える。今は1547年くらいかもしれない。


 ルーブルの城の改修に着手した翌年ぐらいという計算なら、フランソワ1世がまもなく亡くなる頃、もうすぐアンリ2世に王が亡くなる頃だ。


 ダ・ヴィンチはなくなって、30年経過していないくらいだ。


 うーん。ペストがフランスで流行ったのは1530年くらい。

 おっと!パリの街は不潔な時代だ。


 夢が崩れるが、これが現実よ。立派な王の城に目をくらまして、事実を忘れるところだったわ・・・


「朝ごはんは中止よ。」私はジャックに言い、私は銃を素早くしまった。

「え?」


 頭の中で、芳しいコーヒーの香りを振り払う。もう少しの辛抱だ。こんなの、きっと敵地に乗り込むよりはたやすいはず。さっさと片付けて、戻ってアフリカの友人の仇を取ろう。その前に、豪勢なホテルのジャグジーに入ろう。


 私は気を取り直して、目の前の状況に集中した。

 

「ペストが流行ったくらい、パリの街は不衛生な頃よ。」

 私はジャックと伯爵とサファイアに言った。伯爵はポカンとしていたけど、ジャックとサファイアにはすぐに通じた。


「早くミッションをやり遂げましょう!」サファイアも言った。


「この城壁を飛び越える必要があるわね。」私はそう言って辺りを見回した。


 サファイアが叫んだ。

「プテラノドンがあそこにいるわ。」


 確かに、通りの向こうに、プテラノドンが座り込んでいるのを私は見つけた。2匹いる。

 

「騒ぎになる前に、あれに乗って城壁を越えよう。」ジャックも言った。

「あなたたち、行くわよ!」ナディアは2匹のプテラノドンに大声で言った。スパイの私の新たなペットだわ。忠犬のように私の指示をこの2匹は聞いてくれた。


 プテラノドンは喜び勇んで走ってきた。

 なんてこと!目立ち過ぎるわ。私はハラハラしたが、2匹は大喜びだ。

 

 龍者の実をかじった私のプテラノドンに私と一緒にナディアが乗り、ジャックのプテラノドンにジャックと伯爵が乗り、あっと言う間に城壁を乗り越えた。


 城壁の中に着陸すると、私は皆に言った。

 「ここで待っていて。扉を開けるわ。」


 ジャックが私の持っていたロープをカウボーイの投げ縄の要領で2階の窓の尖った部分に引っかけた。

 私はそれを命綱にして、忍者のように城の壁を走り(龍者の実効果がプラスされていて、最強がさらに最強になったかもしれない)、空いている窓から城の中に侵入した。


 イメージは、ルパン3世のカリオストロの城だ。でも、城の壁や屋根を走る私はルパンの方だ。


 私が忍び込んだ窓は、プテラノドンが通れる大きさではなかった。


 ドバイの高層ビルよりは低いが、城への侵入も正直かなりスリリングだ。何が起きるのか、全く予想がつかない。私はのスパイ根性はワクワクして仕方がない。


 改修中のためか、思ったよりガランとした城内だったが、中はとても豪華な作りをしていた。さすが王の城だ。

 私は小走りに走り、城の大きな扉のある入り口に向かった。階段を駆け降り、一人の家来らしき人物にツキをくらわして通り過ぎた。


 大きな扉を中からかんぬきがかかっていたのを開け放ち、指笛でジャックに合図をした。すぐにどしどし音を立てて走るプテラノドン2匹とジャックとサファイアと若き伯爵が走り寄ってきた。


 私達は城内をくまなく走り歩いた。

 王の城らしく、豪華なキッチンを途中で見つけた。そこで、暖かいパンを幾つかくすねた。仕方ない。腹が減っては戦ができぬ。


 私たちは行儀悪く、食べながら走った。そして、開放の呪文のために、余ったパンをそこにあった、清潔そうな袋に入れて持ち歩いた。


 レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」は、非常に奥まった部屋で大切に多くの絵画と一緒に飾られていた。後世に伝えられた「モナリザ」とこの時点でほぼ変わりがないように見えた。


 私はかの有名なモナリザの絵に静かに近寄った。現代のルーブル美術館で見た絵とは少し違った。色味が違う。


 私は頭につけたバングルの中央の高性能カメラに認識させてみた。

「ダ・ヴィンチのモナリザを認識いたしました。」


 静かな館内に、高性能カメラの涼やかな声が響いた。


「やったわ!さあ、みんな早く!」


 サファイア、ジャックも、カメラアプリにモナリザを認識させることに成功した。伯爵は途中参加だったので、高性能カメラのバングルをはめられていなかったのだ。


「さあ、行くわよ!」私は皆に合図をして、パンの袋を手に、厳かに言い放った。


「いでよ、ドブネズミ!」


 辺りはシーンとして、何も起こらなかった。なぜ?

 目をつぶってもう一度言い、ジャックも言い、サファイアも言い、最後に若き伯爵も言ってみた。しかし、何も起こらなかった。


「分かった!」ジャックが突然はっとしたように言った。


「もう一つのミッションだよ!イタリアにいるレオナルド・ダ・ヴィンチの未完成の「モナリザ」を認識させるタスクがまだ達成されていないんだ!」


「ああ、ピーターたちね!」サファイアも叫んだ。


 そうとなったら、さっさと撤収するべきだ。


 中央集権国家を実現しまくっているこんなフランス国王の城に黙って侵入し、王の愛するコレクションに近づいていることがバレたら、この時代は間違いなく処刑だ。ギロチンだ。

 

 凄腕のスパイを誇る私がこんな所でギロチンになるわけには行かないわ・・・


「逃げるわよ!伯爵も行くわよ!」私は、がっかりして落ち込む伯爵の腕を引っ張り、走り出した。


 城の外に早く出て、プテラノドンと逃げなければ。


 衛兵のような格好した者たちが、大勢で廊下を走ってくるのが見えた。


 まずい!


 私たちは、はさみ打ちにされた。

 衛兵たちは、プテラノドンも怖くないようだ。なぜ?

 王の方が怖いわけ?


 そうだわ!私は夢中でカバンから松明草を取り出し、2匹のプテラノドンに1枚ずつ葉っぱを食べさせた。


 その途端、プテラノドンは驚くほどの勢いでブワー!!と口から炎を吐いた。


 ぎゃああ!

 衛兵達はどよめいてちりじりに逃げ始めた。そりゃそうだろう。。ドラゴンだもの。


 私たちは炎を吐く2匹のドラゴンの背に乗り、逃げ惑う衛兵たちを追っているような絵図になった。実際は、追っているのではなく、なんとか城の外に出ようとして、大きな窓を探していたのだが。


 そして、ついに、王が手を振るような大きなバルコニーを見つけた。そのバルコニーに向かって一直線にプテラノドンに乗って走って行く時、王がいた。


「ひー!!!」フランソワ1世は声にならない声を上げた。側近らしき人たちは腰を抜かしている。


「ボンジュール!フランソワ1世!」私は手を振った。


 おっと次の王になる息子らしい立派な人が顔を恐怖に歪めて立っているわ・・


「ボンジュール!アンリ2世」


 私は火をふくプテラノドンにまたがって、右手を高く上げて腰を曲げる仕草をして(正確には上半身しかお辞儀をしていないが)、両陛下に素早く挨拶をした。


 そしてバルコニーから一気に空に飛び立った。

 炎を吐くプテラノドンは、そのまま空を飛び続け、庭を抜け、城壁を飛び越え、パリの街並を眼下に、飛び続けた。

 セーヌ川の辺りに立ち並ぶ立派な貴族の館のような近くを飛び続け、夢のようなひとときを私たちは味わった。


 す・て・き!


 と、当然、何かに強く呼び戻さた。

 頭を何かに強く引っ張られたような感覚だ。

 最悪だわ・・・気づくと、私たちは中世ヨーロッパの賑やかな都の市場の中央に立っていた。

 

 私たちの目の前には、ピーター、ジョージア、レオ、ダッカー王子、颯介が呆然と立っていた。


 「僕の生まれた王都だよ。」とダッカー王子がかすかな声で言うのが聞こえた。


  解放の呪文をダッカー王子が言ったということ?


 「そんなー」颯介の弱々しい声が私たち現代人の心に響いた。

 私も同感だ。申し訳ないが、もう、ニューヨークに戻りたい。ジャグジーと芳しいコーヒーが恋しい。




お読みいただきまして、ありがとうございました!


もし、少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、もしくはイイネ、☆をつけて頂けると大変ありがたいです。

今後の励みになります。


最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました!


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