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模擬試合

 模擬試合がある日、座学の授業は行われない。


 皆、模擬試合が行われる円形闘技場での待ち合わせとなる。


 いわゆる現地集合、現地解散、というやつだ。


 アリスたちは試験会場に向かう道中、会話を弾ませる。


「まるで遠足みたいだね」


 というのはリルムの言葉。


 それにはアリスも同意。


「幼年学校の遠足みたい」


「だよねだよね」


「うんうん、よく山に登ってみんなでサンドウィッチを食べたよね」


 と、はしゃぐ二人。


 ちなみにリルムもアリスも田舎育ちだ。


 遠足といえば山、もしくは川。


 その二択しかなかった。


 気が合うのも当然である。


 一方、子爵家のドロシーは、ずっと王都で暮らしていたから、逆に山に登ったことがないらしい。


 王都の遠足といえば郊外にピクニックに行くか、工場見学とか、市場見学とか、そういったものですわ、という。


「むむう、それはそれで羨ましい」


 アリスたち田舎育ち組とは縁のない場所だ。


 ああ、一度でいいから高名な魔術師の研究所を見てみたい。


 何百人もの人たちが働く陶器工場を見学した。


 市場で働く人たちの姿を見学してみたかった。


「王立学院でそういう遠足はないのかな?」


「幼年学校じゃないんですからないと思いますわ」


 と、断言するドロシー。


 彼女は無情にもアリスの夢をひとつ壊してくれた。


 軽く気持ちを落としていると、ドロシーが話しかけてきた。


「そんなことよりも、今日の模擬試験の鍛錬はしてきましたの?」


 その問いにアリスは自信満々に答える。


「もちろん!」


「珍しいですわね、魔法が嫌いなアリスが魔法の練習をするなんて」


「だよね」


 とはリルム。


「ふっふっふ、このアリスを甘く見て貰っては困る。魔法が嫌いでも将来が掛かっていればがんばるのだよ」


「将来というと?」


「だって今日は魔術科の教科長さんが見学にくるんだよね?」


「たしかそんなこと言ってたね」


「うん、先生が言ってた。そこで目立つことができれば教科長さんが話しかけてきてくれるかもしれない」


「話しかけて貰ってどうしますの?」


「もちろん、直談判。なんとか史学科に転入させて貰えないかお願いしてみる」


 その問いを聞いた二人は顔を見合わせると、溜息を漏らす。



「まだ史学科に未練があるんですわね」

「まだ史学科に未練があるんだね」



「もちろん! だって、私の夢は、司書の資格をとって、本に囲まれて生きることだからね。その為にはなんとか司書の資格を取らないと」


「司書の資格ならば、魔術科を卒業した後に取ればいいんじゃありませんこと?」


「うん、そういう方法もあるけど、ふたつの理由でそれはできないの」


「ふたつの理由?」


「ひとつは、うちが貧乏だから。魔術科を卒業したら即働きに出ないと」


 もしも私学の学校に入り直して司書の資格を取るには、とんでもないお金が掛かる。


 この世界で教育を受けられるのは裕福な人間だけなのだ。


「ちなみにもう一つの理由は……」


 と、言いかけてアリスは慌てて言葉を飲み込む。


 まさか、

「未来日記によって聖女になる運命が定められている」

 などと口にすることはできない。


 未来を見通せる力は、親友である二人には内緒にすべき事柄だったし、そもそもアリスはその未来を全力で回避するために頑張っているのだ。


 わざわざ彼女たちに真相を告白する必要はない。


 アリスの理想としては、穏便に史学科に転科し、その後も彼女たちと友人関係を続ける。ということだった。


 さて、その為には頑張ってこの模擬試験で良い成績を収めないと。


 その為にはまずは軽く模擬試験の演習をしておこう。


 そういう結論に至った


「今回の模擬試合は《衝撃》の魔法を使うんだよね?」


 アリスは確認するように問うた。


「うん、そうだよ」


 とはリルムの返答。


「アリスちゃんは《衝撃》の魔法を唱えられるようになった?」


「ふふん、なったからこんなに自身満々なんだよ」


 アリスは小ぶりの胸を突き出し、鼻高々。


「すごいですわね。先日まで水魔法しか使えなかった娘とは思えませんわ」


「まあ、わたしもいつまでも水魔法ばっかりに頼っていられないよ。てゆうか、水魔法しか使えなかったら、進級できないよ」


「ふふふ、そうだね。アリスちゃんは《照明》も《飛翔》も唱えられないしね」


「うん、まずはそういった基本的な魔法から覚えないとね」


「基本は大事ですわ。何を始めるのにもまずは基本から。それが我がドロッセルマイヤー家の家訓です」


 彼女はそう言うと、呪文を詠唱し始める。


「目標はあの木でいいかしら」


 そう呟くと同時に、手のひらから《衝撃》の魔法を放つ。


 彼女の魔法はまっすぐ飛び、木に衝撃を与える。


 じりじり、という音が鳴り響き、木を大きく揺さぶる。


「これが魔術師の基本的な攻撃魔法、《衝撃》ですわ。基本の基本、本来は幼年学校で習うものですが」

「今回はこの魔法を使って勝負するんだよね」


「そうですわね、この魔法の最大の利点は対戦相手を傷つけないで済むということですわ」


「《衝撃》の魔法は相手をビリビリとさせるだけだからね」


「魔法とは相手を傷つけるためでなく、人々の役に立つためにある。by大賢者サラザール」


 アリスはふと昔読んだ本の一節を引用する。


「魔術を志すものが最初に習う言葉ですわ」


「そうなんだ。でも良い言葉だね」


 アリスは得心すると、ドロシーと同じように《衝撃》の魔法を唱える。


 まだまだ覚えたてなので、初歩中の初歩の魔法にも詠唱が必要なのが今のアリスだ。


 水魔法は詠唱なしに唱えられるんだけど、どうして初歩の初歩魔法は難しいんだろ。


 そんな疑問を胸中に、古代魔法文字を詠唱する。


「??????? ????? ?????」


 意味は、衝撃よ、敵を貫け! この国の共通言語だとそんな感じになる。


 貫けとはまあ物騒な言葉だが、そんなに危険な魔法ではない。


 先ほどドロシーが放ったように相手がぴりぴりするくらいだ。


 ――そのはずなのだが、アリスが使うとまったく別の魔法になってしまうようだ。


 木にめがけて放った《衝撃》の魔法は、じりじりという音を立てるよりも、



 どかん!



 という音を立てた。


 そして、ぽきり、と折れる木。


 もしも人体に放っていたとしたら、と思うとアリスは冷や汗をかく。


 リルムも呆れたような声で言う。


「……相変わらず魔力の加減はできないんだね」


「そ、そうみたい」


「ちなみにアリスちゃんは何ブロック?」


「ブロックって?」


「模擬試合はトーナメントで行われるって説明を受けたでしょ」


「ああ、そうだった。たしかAだったかな」


 ほっと、溜息を漏らすリルム。


「良かったリルムはCブロックだ」


「そうか、じゃあ、決勝戦まで当たらないね」


「ちなみにドロシーちゃんは何ブロックなの?」


 その言葉を発した瞬間、ドロシーは軽く顔を青ざめさせる。


「わ、わたくしはアリスと同じAブロックですわ」


「そっかー、じゃあ、すぐに対戦できるかもね」


「そ、そうですわね。友達だからといって手は抜きませんから覚悟しておいてくださいね」


「うん、全力で頑張る!」


 と、笑顔のアリス。


(そ、そこは手加減すべきでしょー! だってあんな《衝撃》まともに食らったら無事じゃすまないよ)


 リルムはそう思ったが、なぜかそのことは注意できなかった。

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