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プチ百合ショー

 王都のとある通りにある古着屋さん。


 貴族の令嬢であるドロシーなどは通うことはないが、中堅商人の娘であるリルムはよく利用しているらしい。


 リルムの実家はそれなりに裕福らしいが、一代で成り上がった商人の娘。


 娘には徹底した節約意識が植え付けられているらしく、このような店を利用しては余った仕送りを貯蓄に回しているらしい。


 曰く、


「商人なんていつ没落するか分からないし、それにもしものときは貯めたお金で家出を企んでいるもので……」


 リルムは気恥ずかしげに心情を吐露する。


 なんでも、リルムのお母さんは元々、どこぞの修道院の尼さんをしていたらしく、リルムはそのあとを継いで神職に就かなければいけないらしい。


「なんで商人の娘なのに神職?」


 と思わなくもないが、その理由は単純なもので。


「うちの母方の家系は代々、使徒教会の尼になるのが習わしなんです。それをうちのお父さんが無理矢理お母さんを口説いてリルムを産ませちゃったものだから……」


「つまり、お母さんの分まで神様に尽くしなさい、ということ?」


 リルムはうなだれるように頷く。


「なんという悲劇……」


「仕方ないんです。それがおじいちゃんとの約束だから……」


 ちなみにリルムの母も祖父はとっくの昔に他界しているのだが、父は律儀にもその約束を守るつもりでいるらしい。


 もうおじいちゃんはこの世にいないのだから、破ってもいいのでは?


 とある日、尋ねたことがあるが、父は首を横に振る。


「それはできない。お前の母さんもじいさんも他界しているが、約束は約束だからな」


 と、とりつく島もない。


 ちなみにリルムの父親は完全な無神論者だ。


 またリルムの祖父が悪霊になって父の枕元にたったという話もない。


 ただ、商売人として、母と結婚するときに交わした約束は反故にできない、その一点張りだった。


「つまり、貯金はいざというときのための逃亡資金?」


「簡単に言うとそうなります」


 とリルムは頷く。


「ただ、シスターになるのが厭なのではなく、もしもシスターになれなかったときの保険のためですが」


 修道院でのほほん、と一生を過ごすのは、案外、リルムの人生には相応しいような気がしていた。


 問題なのは万が一、シスターになりそこね、商人の娘として政略結婚のコマにされるときの話だ。


 そうなったときにそなえ、逃亡資金を用意しておかねば、というのがリルムの考えかただった。


 アリスは思わず抱きしめてしまう。



 がしッ! という擬音が出そうなくらい勢いよく、力強く。



 突然のことにリルムは、「きゃあ」と可愛らしい声を上げる。


「ど、どうしたのアリスちゃん」


「いや、なんか急に親近感が湧いてきたの。自分でもよく分からないけど、しばらくそのままにさせて」


 アリスがそう言い切ると、リルムはしばし、そのままでいてくれた。


 思えばアリスも望まぬ道を歩まされている、という点では、彼女と似た境遇であった。アリスの場合は未来の自分によって聖女にさせられる未来を回避する必要が、リルムはがんばってデブ商人の妻ルートを回避する必要があった。


 アリスとリルムの間に芽生えた友情は、決して偽りのものではない。


 アリスはぎゅっとリルムを抱きしめる。


 王都の往来で繰り広げられるプチ百合ショー。


 ドロシーはやれやれ、とそのドリルヘアーを揺らしていた。

「面白かった」

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