呼び出し
翌日――
教室に入るとアリスは一瞬で気がつく。
友人たちに未来を見通す力があったことを。
未来日記はやはり「当たる」ということを。
教室の雰囲気はすでに不穏なものであった。
女子たちの視線が冷たい。
というか視線を合わせようとさえしてくれない。
アリスはクラスメイト一人一人に、にこりと微笑みかけるが、皆、ドン無視をするか、居心地が悪そうに視線をそらす。
その光景を見て思わず汗が滲み出る。
(フ、フラグが立ちまくりだ)
たぶんだけど、この分だとリルムとドロシーの予言は当たる。
確実に。
アリスはそれを確かめるため、自分の席に向かう。
やはりそこには画鋲が置かれていた。
(いやいやいや! それどころじゃないでしょ!)
思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。
なぜならば置かれていたのは画鋲だけではなかったからだ。
見れば画鋲の他にも、釘なども置かれている。
もはや嫌がらせや苛めの域を超えているよ。
アリスは溜息と共にそれらを片付け、教室の端に置かれているゴミ箱に捨てる。
一瞬、燃えないゴミを入れてもいいか迷ったが、取りあえず投棄するしかない。
アリスはついで自分の机の中に手を入れる。
そこにはやはり大量の手紙が詰め込まれていた。
「い、いったい、何通入っているんだ……」
少なくとも10や20通ではない。
となるとクラスの女子全員が送ってきた計算になるが、あえて誰が送ったかは想像しないことにする。
手紙などは一人で何通も送れるし。
問題なのは中身であった。
リルム曰く、そこには恐ろしいまでの罵詈雑言が並べられているらしいが……。
内容に軽く目を通す。
「……うん、確かに人の心を折りにくる文章だ」
そう言わざるを得ない。
口に出すと立ちくらみをしてしまいそうになるのであえて口にしないが、昨日、リルムが予言した言葉の10倍酷いことが書かれていると解釈して貰って構わない。
ああ、人ってこんなに醜い文章が書けるのね。
数多の小説を読み込んできたアリスが感心してしまうくらいに多彩な語彙でアリスを罵ってくれる。
さらに付け加えると、手紙の中には『お約束』のカミソリも忍ばせてあった。
もはや古典的手法である。
「あは……あはは……」
と、乾いた笑いしか漏れ出なかった。
アリスはそれもゴミ箱に捨てる。
もちろん、回収係の子が怪我をしないように、紙で何重にも包んで丁重に梱包して。
アリスは「はあ、と溜息をつきながら」 教室に入ってきた講師の授業を受けた。
溜息の理由は、講義の内容が苦手な数学だからではない。
放課後、予言通りに校舎裏に呼び出されるのだろうな、そう思うと憂鬱になったのだ。
案の定、放課後になると、一人の女子に呼び出された。
「ええと……」
記憶力を総動員して、目の前の子の個人情報を思い出す。
確かこの子の名は、ルクレシア・モナフォード。
この王国の大貴族モナフォード公の姪に当たる子だ。
たぶん、この学科で一番やんごとなき血筋で、一番気位の高い子だと思われる。
それにだけど、一番意地悪、だと思う。
それを証拠にアリスに校舎裏にくるように促す。
無論、アリスに言いたいことがあるのだろう。
Sランクの称号が気に食わないのかもしれないし、アリスに好意を寄せる男子の中に彼女が思いを寄せる子がいるのかもしれない。
もしくはその双方か。
ともかく、アリスのような木っ端貴族の娘が目立ちまくり、モテまくってることが腹立たしいらしい。
気持ちは分からなくもない。
アリスがもしも大貴族のお嬢様で、自分よりも遙かに格下の娘が入校初日からチヤホヤされていたら腹立たしくなるかもしれない。
しかし、気持ちは理解できるけど、そのやり口は到底納得しがたいものがある。
アリスはルクレシアに耳元で囁かれる。
「校舎裏にくるか来ないかは貴方の自由だけど、もしも校舎裏に現れなければ、貴方の大切なお友達の椅子の上にも画鋲が置かれることになるかもね。うふふ……」
と妖艶な笑みを浮かべる。
「………………」
そんなことを囁かれてしまえば、校舎裏に行かざるを得ない。
アリスはむくり、と椅子から立ち上がると、ルクレシアを睨み付ける。
ガンを飛ばす、とまでは言わないけど、それなりの視線を送ったつもりだが、ルクレシアには暖簾に腕押しのようだった。
「いいわ、なんの抵抗もしない小娘をいたぶってもなにも面白くないし。ふふふ、今から貴方の顔が苦痛に浮かぶ様が楽しみだわ」
ルクレシアはサディストのような言葉を残すと、取り巻きたちを引き連れ、教室を出て行った。
アリスは彼女の後ろに黙って着いていった。
ちなみに未来日記にはこう書かれている。
『くれぐれも相手に怪我をさせないようにね。それだけは注意して』
もちろん、分かっているつもりだけど、アリスはまだ力の制御が上手くできなかった。
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