問6:スターバックスコーヒーにおいて一番美味しいと感じたものを述べよ。期間限定メロンは至高とする。
「く、ぁ~」
「おねむだね」
「おう」
翌日の昼休み。俺、桜華、全蔵、そして全蔵の妹であるママちゃんの四人で集まり、中庭のベンチで弁当を突いていた。
早朝ボランティアに参加した俺達は一時間目が終わる頃には疲労と眠気が限界。先程の4時限目まで秒毎に進化し、強くなる眠気を相手に必死に戦っていた。全蔵は二時間目に負けた。
学校敷地内で新たに発見された遺跡の発掘作業ボランティアは本当に苦痛だった。砂を掬い、ふるいにかけてを永遠に繰り返す。虚無だ。途中から己とは何か。真実とは何か。平等とは偽りか。を考え始めた時は、危なかった。もう少しで革命家になるところだった。
結局見つかったのは錆びた枝のようなよく分からないものだけ。精神的にも酷く疲れた。
「オーキ兄、ピーマンは敵です」
「はい」
「ピーマンは悪い子です」
「ピーマンにもいい奴はいます。食べなさい」
「こいつは、兄弟どころか隣の苗の養分を全て奪い取り、皆殺しにいた後に高笑いするタイプのピーマンです。食べてしまえばそこで終わり。だけどっ!!こいつに家族を殺されたピーマンたちはそれを望んでいない!!もっと惨い復讐を望んでいる!!オーキ兄の綺麗に並んだ歯で磨り潰して断末魔を奏でないと、あの家族ピーマンたちが浮かばれないよ!!」
変な芝居を始めた桜華を無視して、口の中にピーマンを詰め込み続ける。飲み込んだ瞬間、次のピーマンを弁当箱から箸に充填し、口を開いた瞬間に射出。開くことを拒んだ場合は横腹を摘み、強制的に開けさせる。
桜華は苦いものと辛いものが大の苦手。『苦いは、苦しいって書くの。辛いは、辛いって書くの。それを喜んで食べるのはドMだよ!!』とのこと。しかし、桜華はモデルだ。読者モデルでは無く、“cocoka”というティーン雑誌と専属契約をしているプロのモデル。野菜嫌いでもある彼女は家事も壊滅的なので、放っておくと体が油とファストフードで出来上がってしまう。両親がいない今、朝昼晩と妹の栄養管理をするのも兄の仕事となっている。
前の世界ではプロ野球戦手。今の世界ではお笑い芸人として地方を飛び回る父。その縁もあり、桜華は元子役だ。今ではメディア露出をNGとしてモデルのみの活動だが、十年前はテレビで桜華を見ない日は無かったほど人気だった。
デビューは六歳。『自衛アイドル!てぃんくる☆こんばっと』という教育テレビ番組だ。前半がアニメパートで後半が実写パート。前半のアニメで登場した護身術を後半で大人相手に試すというイカれた二部構成の番組。その実写パートの主人公として配役された桜華はそこで人気が爆発。
今では再放送が禁止されている伝説的連続テレビドラマ『信長様、それは秀吉ではありません』でも大事な役を貰った。ストーリーとしては、突如いなくなった秀吉を探し、猿の目撃情報を求めて世界各地を旅する信長の悲恋ストーリーだ。最終話ではジャングルでゴリラと抱き合う秀吉を見て涙する信長が観られる。本気で怒られろ。
「そう言えば、桜樹さんは課題終わりましたか?」
「ママちゃんのお陰でどうにか」
これまで傍観していたママちゃんが、会話の節目で話を始める。
全蔵の家で勉強した時に連絡先を聞いた事もあり、夏休み中は課題関係でお世話になった。余談だが、末の人魚姫ちゃんに気に入られたようで、よくママちゃんのスマホを使って家に来るように催促される。今度、お土産を持ってお邪魔しようと思う。
ママちゃんは桜華と同じ高校一年生だが、俺達二年生の課題を難なく解く位に頭がいい。サイドに束ねた金髪を巻き、薄っすらとした化粧。目鼻立ちは全蔵の兄妹なだけあって整っている。桜華より少し小さい位の身長に、着崩した制服。丁寧な喋り方とは裏腹に、見た目は割と派手だ。
「手伝った報酬として、私の事は“超絶可愛いプリティマーちゃん”とお呼びください」
「分かったよ。超絶可愛いプリティマーちゃん」
「超絶可愛いプリティマーちゃん。オーキ兄の課題手伝ってくれてありがとうね」
「そう言えば今日の夕飯当番は超絶可愛いプリティマーちゃんだったでござるな」
「へぇ。超絶可愛いプリティマーちゃんは料理もできるのか」
「流石だね。超絶可愛いプリティマーちゃん」
「・・・・・・マーちゃんだけでいいです」
顔を赤くさせて俯くマーちゃん。珍しくお茶目を見せた彼女だったが、俺達三人に挑むには早すぎたようだ。悪ノリ、バカ騒ぎ、無茶ぶりの少年ジャンプもビックリの三拍子をしている俺達の方がおかしいのだが・・・。
「そう言えば、クラスの皆がオーキ兄の話をしてたよ。大人しくなったって」
「そ、ソウカナ?」
「うん。前は警戒心丸出しで猫みたいだったって。最近は良く笑って犬みたいってクラスの子が言ってた」
「俺、学校のペット感覚なのかぁ」
「猫っぽいオーキ殿・・・くくっ・・・それはそれで見てみたいかもしれないでござる・・・くっ・・・ふっふっぅぅぅあああああ!!口の中でニュルニュルが暴れるぅぅぅぅううう!!!」
ムカつく全蔵の口の中にミニトマトをシュート。暫く悶絶しているがいい。
不良と言っても色々いるが、この世界の俺は素行の悪さと喧嘩が酷かったようだ。遅刻早退は当たり前。常に話し掛けるなという雰囲気を纏い、売られた喧嘩は全部買う。全蔵程では無いが、客観的に見て二三桜樹という人間の潜在能力は高い。鍛えた分だけ育つ体と、優れた体幹。関節が柔らかく、瞬発力にも優れている。どのスポーツでも好成績を残すだろうと言われていた。高校ナンバーワンの投手の体は伊達じゃない。
この世界ではそれに加えて魔術的才能がある為、喧嘩は負け無し。ここら辺のガラの悪い高校で名前が通る位には喧嘩ばかりだったようだ。
「このままいけば、十月にはモテモテだね」
「うーん。モテモテは嫌だなぁ」
「彼女欲しくないの?」
「欲しいけど、モテモテは嫌だ」
俺もモデルの桜華と同じ血が入っているだけあって顔立ちは整っている方だと自分でも思う。全蔵と比べると泣きたくなるが。
モテモテというより、女性ファンが一定数いた俺は高校一年間でかなりの女性トラブルに巻き込まれた。何故、既製品未開封のチョコレートの中に記入済み婚姻届が入っているのだろうか。割と自分に好意を持つ女性はトラウマだ。
「桜華は恋人作らないのか?」
「スキャンダルはNGで~す。それに、私にはオーキ兄がいるからね。どう?キュンとした?」
「見て、鳥肌」
「おう。歯ァ食いしばれや」
ドスの効いた声で拳を振り上げる桜華。決して清純派モデルが出していい声では無い。
「じゃあマーちゃんと結婚するぅ~」
「桜華ちゃんなら歓迎です」
「俺達も結婚するか、全蔵」
「ははっ、それもいいでござるな」
「『俺達も結婚するか、全蔵』『ははっ、それもいいでござるな』・・・よしっ!!」
「それをどうするつもりなのでござるかっ!!?」
「お前にムカついたらこれを六さんに送る」
「ご無体な!!ご無体な!!!!」
録音機能は便利だなぁ。
「何が望みでござるか」
「お前に全財産渡したからお金が無い。我々はお菓子を要求する」
「あの240円はやっぱりオーキ殿かぁぁぁぁ!!!あの日、拙者死ぬかと思ったんでござるよ!?少しでも目線を外せば浮気を疑われるとかプールを楽しむどころの話じゃなかったんでござるからな!?」
「愛されてるね(笑)」
「殴る」
「『俺達も結婚するか、全蔵』『ははっ、それもいいでござるな』」
「へへっ、やだなぁ。冗談でござるよ、オーキ殿!!ささっ!!肩をお揉みするでござるよ。いやぁ。持つべきものは親友でござるな!!拙者、オーキ殿と仲良し!!ラブ&ピース!!!」
「『拙者』『オーキ殿』『ラブ』『でござるな』『望み』『は』『揉み』『揉み』『ピース』」
「オーカ殿!?!?」
「兄者・・・それはちょっと」
「ママァ!?見てたよね!!今の捏造見てたよね!!兄、超ピンチ!!助けて!!!」
桜華がえげつない事をしている。全蔵可哀想に・・・。
俺達の間では、弄るなら心が折れるまで。隙を見せた方が悪い。の認識。この場合、全蔵がどれだけ可哀想でも全蔵が悪い。
「『愛』『する』『桜華』『結婚するか』『全財産』『要求する』・・・パパに送るね(悪い笑顔)」
「やめろ(全力で首を横に振る)」
洒落にならない。血の気が引いていくのが分かる。
「オーキ兄、私、喉乾いたなぁ」
「お前に人間の血は流れてないのか!何故そこまで惨いことができる!!非人道!!ばか!!ばーか!ばーか、ばぁぁぁぁか!!」
「同じ血でござるよ、オーキ殿」
「グランデバニラノンファットアドリストレットショットノンソースアドチョコレートチップエクストラパウダーエクストラホイップ抹茶クリームフラペチーノ」
「今からスタバに行けと!?昼休憩あと十分しかないけど!?」
「ダッシュね。お金はあげる」
「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
財布から千円札を二枚取り出して手渡す桜華をこれでもかと恨めしい顔で睨んだ俺は全力でスタバへと走った。メニューは後半の抹茶くらいしか覚えていなかったので、店員さんに『抹茶の美味しいのください』でゴリ押した。店員さんごめん。
その帰り道。正門付近で1人の女生徒とすれ違う。
「二三桜樹・・・ですね?」
「あ、はい」
と思ったら話し掛けられた。急いでいたが、一度止まって女生徒を見る。
瞬間。俺の目は彼女では無く、彼女の影に目が止まった。
影が白い・・・。
陽光を浴びてくっきりと彼女のシルエットを映し出す影の色はCGを見ているように白い。そこから白線が伸びる。白線は徐々に太さを増し、黒が混じっていく。視線を上げていくと最終的に黒色に染まったそれは彼女の長い髪に繋がる。
瞳に光が無い。目を合わせると、そこに俺の姿は映っていなかった。肌が病的なまでに白い。口に貼り付いたという表現がしっくりくる、横に割れているような大きな笑み。初対面だということだけが理由ではないだろう。彼女に対しての強い警戒心が解けない。
「知っています。知っていますとも。貴方は覚えていますか?私の名前、知っていますか?私に興味を持っているのでしょうか。持っていなければ少し悲しいのです。私はスキア。スキア・ノート。桜樹と同じ高校二年生。そう、同じなの。同じにしたよ。私は君に興味がある。何が好きなのか。何を愛しているのか。何を考えて、何を嫌うの?教えて欲しい。一緒に答えて欲しい。私はアナタを好いています、好きなの。これが恋?それとも違うのかな。毎日一緒にいたい。ずっと傍にいたい。だから永遠に生きて欲しい。永遠を共にしたい。永遠は嫌い?私は嫌い。けどオーキがいるなら好きになるよ、一緒にいられるなら好きになる自信があるよ。その目は何を考えているの?分からない。分からないから教えて欲しい。けど、それを考えるのも楽しいよね。楽しいかも。私は君の好みかな?好きになれそ?なれないのなら少し残念。何が不満か教えてくれたら変えるよ。好きな人がいるなら、その人になるよ。なってみせるさ。震えているの?寒い?私はまだまだ暑い。そう言えば昨日、かき氷を食べたの。美味しかった。貴方と食べたらもっとおいしいのかな。誰かと食べるとおいしいっていうもんね。本当かな?試してもいい?今からどこか行こうよ。でもおめかししたい。デートって待ち合わせするものなの?本にはそう書いてあった。どんな服を着ようか。何が好き?どんな服でも着るよ。好みに合わせてあげる。嬉しい?私、尽くすタイプなの。自分でも知らなかった。尽くすタイプは好き?普通かもしれない?リードする女性が好きなの?う~ん、それは苦手かも。こんな私でも受け入れてくれる?心配だよ。心配なの。凄く不安。嫌いになった?嫌いにならないで。泣きたくなるほど悲しいから。悲しいのよ。捨てられたくないの。何でもするから傍にいさせて欲しいの。私なんでもするよ、させてあげるよ。だから、ね?いっぱい教えて?」
「ははっ、それな(無敵)」
えー、なにこの人怖い。怖いし、近い。キスしそうだよ。
話の内容もかき氷しか覚えてない。かき氷美味しいよね。夏祭りとか行くと毎回食べるよ。ブルーハワイが一番おいしいよね。
この世界の俺のストーカーかな?と記憶を探るも、全然覚えが無い。人違い?いや、でも俺の名前知ってたし。うん、怖いね!!この世界の女性は、刺したり、脅したり、ストーカーしたりと、まともなのは紅香さんと、マーちゃんしかいない。五分の三が外れは闇ガチャ過ぎる。三馬鹿はもちろん外れ枠。
「そろそろお昼が終わってしまいますね。楽しい会話をもっと楽しみたかったのに」
「分かる~(涙目)」
今の会話だったの!?俺、三文字しか口にしてないよ?ほとんど自分で喋っていたよ。自問自答。自己完結の究極系みたいな会話の仕方してたよ?
“それでは、また”と言い残して影の中に彼女は沈むように消えていく。あの人も亜人の一種なのだろうか。それにしても怖かった。油断すると性別が変わる世界だ。俺も気をつけよう。
始業のチャイムが鳴り響く。まじかよ。脅されダッシュして、変な人に絡まれて散々な思いをしたあげく、遅刻とは・・・。
店員さんオススメの抹茶の美味しいやつを飲んだらいくか・・・。
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