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問5:殺人事件が発生。凶器は血の付いた消しゴム。犯人は誰か本文から探しなさい。

 始業式。この世界の俺は高校までの道をあやふやにしか覚えていない不良のようで、道に迷った結果、割とギリギリに学校に着いた。教師にバレずに侵入できるという不良らしい理由から、正門ではなく、プールから学校に入った記憶が残っていた。


 三メートル程の鉄網をよじ登り、プールサイドの降り立つと三人の女子と目が合う。


 前の世界では交流は無いが、記憶にも残っている三人だ。


「あ、不良くんだ」

「不良くんが始業前に来るなんて珍しいな!!」

「不良くん、泳ぐ?」


 同じ高校二年生。人懐っこそうなのが吹奏楽部の(いちご)。小麦肌の元気いっぱい陸上部、二子(にこ)。庇護欲を掻き立てられる超マイペース、三胡(みこ)

 あと十五分で始業だと言うのに呑気にスク水着用してプールで遊ぶ三人は、誰もが認める馬鹿。名前から馬鹿一号、二号、三号や“三馬鹿”と呼ばれる彼女達。

 俺の名前を不良と勘違いしているのか、馬鹿故なのか。学校で浮いている俺に気にせず話しかけてくる彼女達は、この世界の二三桜樹において数少ない友人だ。


「いや、泳がない。それと、勝手に使っているなら見つかったら怒られるぞ」

「ふっふっふ。甘いな不良くん。うち達はこの学校の生徒!このプールは学校のもの!つまりうち達にはこのプールを使う権利がある!!すげぇだろ!!」

「権利があっても、管理している先生の許可が無いと怒られるだろう」

「そうなの?」

「そうだろ」

「さっき、佐藤先生(さとせん)に手振っちゃった・・・」

「あの人なら大丈夫だろ・・・」


 佐藤先生。略してさとせん。は、今年二十六歳の女性教諭だ。一言で言うとほわほわしている。柔らかい雰囲気と、優しい喋り方から生徒に人気の高い彼女だが、ほわほわしすぎて心配になる。休日にショッピングモールにいた彼女は、服屋のマネキンを俺だと思い、学校に来ないことを15分ほど注意していたとか。俺が話しかけた時、心底驚いていたが、俺の方が驚いた。彼女の伝説は他にもいくつも。目を離すと何をするか分からない先生だ。


「いつから泳いでいるんだ。唇、遠目でも分かるくらい変色してるぞ」

「朝四時」

「馬鹿共、死にたくなければ今すぐ上がれ」

「全員足、つっている」

「一時間前から動けないんだよ。すげぇだろ」

「不良くんがどうしてもって言うのなら助けさせてあげるよ」

「ドヤ顔かましてんじゃねぇぞ、くそ馬鹿!!助けたら全員土下座だかんな!!」



 三人を保健室に運んだ俺は、ずぶ濡れになりながら2-Bの教室に辿り着いた。教室に入ってそうそう周りから変な目で見られたが、今はそれよりも早く体を休めたい。


「水も滴るいい男だね」

「誰?」


 自席に座ると、前の席に座っていた小柄な女子生徒が話し掛けてくる。思わず誰と聞いてしまったが、これには理由がある。

 俺の前の席は記憶が正しければ佐久間(さくま)(りょう)。偉丈夫という言葉が似あう短髪の男子生徒だった。思わず佐久間さんと呼びたくなるような頼れる見た目をしている。三馬鹿と同じく偏見なく接してくれるいい奴だと記憶していたので、話すのを楽しみにしていたのだが、まさか帰宅部で何か・・・。


 佐久間さんは”あの”帰宅部に所属している。俺の世界では部活に所属していない人達の総称だが、この世界の帰宅部は違う。三年間での死亡率12%。退部率57%の超危険部活。気安く口に出すことすら出来ない名前だ。あの全蔵でも帰宅部とは戦いたくないと言わせるほどの化物達だ。


「ボクだよ、ボク。佐久間だよ」

「さ、佐久間さん?」

「うん。帰宅部の活動中に油断してね。女子の体になっちゃった」


 あはは。と笑う彼・・・彼女?を俺はとても恐ろしく思った。油断すると性転換する帰宅部ってなんだ。帰宅部怖い。いや、でもこの世界は獣人や亜人のいる世界。割と有り得ることなのかもしれない。それにしても、性別が変わるなんてビックリ夏休みデビューだ。


「災難だったな」

「まあね」


 栗毛の短い髪は内に跳ねている。くりくりの瞳。薄い唇。制服は男子用を着用しているが、体が小柄なのでコスプレにしか見えない。元の彼からは想像できない。というより、元の姿と重なって何とも言えない気持ちになる。


「桜樹、電話鳴ってるよ」

「やべ、切り忘れてた」


 小さく音を奏でるスマホに表示された名前は『服部全蔵』。そう言えばあいつまだ来てなかったな。


「もしもし、どうした?」

『オーキ殿!窓!!一番左の窓開けて欲しいでござる!!このままだと初日から遅刻しちゃう!!!』

「ああ、了解」

『助かるでござる!!・・・・・・こらぁー!全蔵―!ちゃんと昇降口通れー!!・・・・・・ひぃぃぃぃぃぃぃ!!オーキ殿、はよぅ!!』


 始業まで後一分。あいつ教室の窓から侵入する気か。一応ここ三階だけど、忍者相手に気にしても無駄か。


 言われた通り、窓を開けるとすぐに壁をよじ登ってきた全蔵がひょっこりと顔を出す。


「あっ」

「あひんっ・・・・なんでぇぇぇぇええええ!?!?」


 想定外にいきなり全蔵の顔が至近距離に出てきたので驚いて手が出てしまった。ここまで走って来たのか、はぁはぁしてたし、気持ち悪かったのでつい・・・。


 真っ逆さまに落ちていった全蔵。手を伸ばせば助かっただろうが、相手が相手なのでよしっ!!


「窓閉めとこ」

「桜樹って鬼畜だよね」

「あっ、スマホの電源切らなきゃ」

「ふぅ~!スマホより薄い友情~!!」



 始業式。我らが担任の幹先生ことミッキー先生の暴走により、負傷者十七名を出す大惨事になり、俺達は教室に戻って来た。何故未だに教員をやれているのか不思議で仕方ない。


「おはよう!さっきはごめん!!」


 元気な声で教室に入って来たミッキー先生。昨日の合コンで失敗したからって、校長先生の頭で幽玄ノ乱を奏でた後に、教頭の股間を蹴り上げたのは絶対にごめんで済まない。

 止めに入った男性教諭をなぎ倒し、両手で教諭の襟首を掴んで振り回していた。俺、全蔵、佐久間さんの三人でなんとか捕縛に成功した。動物園から逃げ出したゴリラの方がまだ簡単に捕まってくれると思う。あれをして拘束を誰かが外す訳も無いので、体を縛っていた硬鋼線(スチールワイヤ)を引き千切って教室に来たのだろう。化物かこの人は。


「あれ、佐久間。女の子になったのか」

「はい!」

「そうか!可愛いな!!」

「ボクもそう思います!!」

「拙者もそう思うでござる!!」


 全蔵を始まりに、『俺も!!』、『私も!!』と声が各所で上がり、最終的には『さ!く!ま!』『さ!く!ま!』と教室全体でコールしながら佐久間さんを胴上げ。隣のクラスの担任が怒鳴り込むまで胴上げは続いた。このクラス怖い。この世界の俺が不良になった原因はこのクラスにある気がする。


「さて、夏休み気分のお前らに朗報だ。課題を出す時間です。ちゃんと終わらせて来ているだろうな?特に服部と、珍しく顔を出した二三。出さない教科一科目に付き私がキスする。舌も入れる」


 ふぇぇぇ。桜華、お兄ちゃん学校辞めるかもぉ。


 今年三十二歳。艶が無くなりつつある黒髪と、老いに抗う姿勢を辞めないミッキー先生。顔はそれなりに美人なのに結婚できないのは絶対こういう所だと思う。あと人を片手で振り回す怪力。


「どうしようオーキ殿。提出しに行くの怖いでござる」

「目を見ちゃ駄目だ。目を合わせたらやられる」


 全科目提出を終えた俺達だが、一科目毎に舌打ちをするのは辞めて欲しい。


 今日の日程は始業式と課題の提出。諸連絡のみ。始業式は混沌と化したが、後30分も経てば終わる。始業式が濃すぎて早く帰りたい。


「あ、そう言えば・・・」


 精神的な疲れを感じながら、隣の席からちょっかいを掛けて来る全蔵の顔面に国語辞典を投げ付けていると、ミッキー先生が思い出したかのように呟く。


「今から言う事、皆怒らずに聞いてくれる・・・?」


 凄く嫌な予感がする。教室全体の心が一つになった気がした。


「連絡忘れていて・・・・。明日、早朝ボランティア参加できる人いる?三人・・・集めないと先生、教頭先生に怒られちゃう」

「教頭先生それどころじゃないと思う」


 何故かって。ゴリラに股間蹴り上げられているのだから。ボランティアを気にしている暇など無いだろう。もしかしたら佐久間さんと同じく明日には女性になっている可能性すらある。


「誰か・・・!誰かいないか・・・!!ボランティアとかぶっちゃけどうでもいいけど、先生怒られたくないから誰か犠牲になってくれ」

「我が身大好きでござるな。ペットの如く甘やかしてるでござる」

「そうか服部!やってくれるか!!」

「えぇ・・・」

「あと二人の道連れは服部が選んでいいぞ。やったな、特権だ!」

「ステイ!ステイだ全蔵!!クナイをしまえっ!!!」

「大丈夫でござる!証拠は残さないでござる!いきなり担任が変わるくらいよくある話でござるよ!!ふー・・・!ふー・・・・!!」


 沸点を越え、肩で怒る全蔵を宥める。


「てへっ☆」

「なんでそこで煽れるんですか貴方っ!!人間じゃねぇ!!」

()れる・・・拙者なら()れる・・・。次の瞬きと同時に・・・・・」

「落ち着け全蔵!!六さんに言い付けるぞ!!」

「拙者ボランティアだーいすき!!ミッキー先生ありがとー!!オーキ殿、明日は暇でござるな?ボランティアよろしくでござる!!」

「こいつァ・・・!!!」


 ()れる・・・俺なら()れる・・・。次の瞬きと同時に・・・・・例え忍者だろうと、必ず仕留める。


「桜樹、消しゴムを全蔵に向けて何しているのさ」

「止めないでくれ佐久間さん!!それと、優秀な弁護士に連絡してくれ!!」

「はぁ・・・ボクも一緒にボランティア参加するから落ち着きなよ」


 佐久間の兄貴ィ!!かっけぇよ。背中がでけぇ!!屑2人を見た後だと余計に格好よく見えるぜ!!流石学校の頼れる兄貴分、佐久間さんだ!!


 へへっ、佐久間さんが来るならボランティアも悪くないな(鼻の下をこすりながら)


「それじゃあ服部、二三、佐久間の3人よろしく」

「「「はーい」」」

「あ、時間は朝四時に学校集合だから。よろしくな!それじゃあ解散!!」



くそあまァァァ!!!

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