問3:服部家5人姉妹に名前に規則性がありますが、1人だけ規則性から外れた子がいます。それは誰か
メンヘラ地雷ヤンデレ六さん襲撃事件の翌日。俺は、全蔵の家に来ていた。
『魔導書店エウレカ』は毎週火・木が定休日なので火曜日の今日はお休み。一日かけて家で課題をしようと思ったが、現在我が家は桜華のモデル仲間が数人押し寄せている。お兄ちゃん、そんな家にいたら精神壊れちゃう。と言い残して勉強道具を持って家出することにした。野球少年は女性に興味はあっても、経験が無いのだ。同じ屋根の下なんてドキドキで心臓がマシンガンビートを刻んでしまう。
家出先の全蔵の家は平屋の古民家。この世界の全蔵のお父さんは忍ではなく、貿易会社の部長さん。単身赴任が多く、家にいることは少ない。
そんな服部家は今の我が家より姦しい。母、全蔵の二人に加えて五人の妹達。服部ママ、ミミ、ムム、メメ、人魚姫だ。上のママちゃんは、桜華と同い年の高校一年生。下の人魚姫ちゃんは小学二年生だ。
自分の部屋を持っているのは男の全蔵だけ。しかし、全蔵の部屋にはクーラーが無い。この猛暑日の中、クーラー無しは熱中症も怖い為、クーラーの効いた居間を使わせてもらっている。
七人住みには少し手狭だと全蔵も言っていたが、実際に来てみると凄まじい。五人姉妹は大部屋を共有で使用しているのだが、その部屋にもクーラーが無い為、五人とも基本は出掛けるか居間にいるらしい。
今日は全員居間に集合。女の子五人のところで勉強を始めればどうなるか。大騒ぎである。姉妹仲は悪くない為、無視される事はない。ないが、絡まれる。
末の人魚姫ちゃんなど遊びたい盛りで好奇心旺盛。人懐っこい性格もあり、最初の三十分は俺の膝の上にいたのだが、一時間経った今、何故か俺の顔面にセミのように貼り付いている。逆肩車のような体勢だ。
「オーキ殿大丈夫でござるか?」
「何も見えない」
「どうしてそうなったのでござるか」
「俺にも分からない」
長女のママちゃんは全蔵があれなので凄いしっかりしている。次女のミミちゃんは中学二年生。反抗期か。それとも内向的なのか部屋の隅でスマホを触っている。三女ムムちゃんは中学一年生。兄の全蔵が好きなのか、先程から全蔵の背にもたれてタブレットで絵を描いている。四女メメちゃんは小学四年生。腕白だ。先程も軽快に全蔵の顔面に飛び蹴りを放っていた。十人十色。各々の性格が濃い。
当然。彼女達は、全蔵を含めて四分の一しか日本の血が流れていない。日本人特有ののっぺりとした顔立ちではなく、彫りが深く、鼻が高い美人、美少女。そんな彼女達が趣のある日本式の平屋で畳の上で生活している風景は脳がおかしくなりそうになる。感覚としてはキャストが全員外国人のサザエさん。
「オーキ殿、まずいでござるな」
「ああ。とてもまずい」
勉強を開始して2時間。元の知識もあり、俺と全蔵は順調に課題を片付けていたのだが、とある壁に当たってしまった。
“歴史”と“魔術理論”だ。魔術が絡む事項が何も分からない。この世界の全蔵は見るからに阿呆だったようで、そもそも分かっていない。この世界の俺も稀有な才能を持っているとのことだが、記憶を辿ると完全な感覚派であり、まともに授業を聞いていない。
「何で織田信長が安土で幕府開いてるんだよ」
「卑弥呼が開祖の魔術師!?どこのゲームでござるか!!」
「世界史の獣魔大戦争ってなんだ。吸血公爵・・・?ダメだ。教科書読んでいるはずなのに、ファンタジー小説見せられている気分になってきた」
「数ある魔術の中で第四級魔術と第二級魔術が何故アナベルの定理に当てはまらないのか答えよ~?知らんでござるよ。性格が悪くてハブられるだけでござろう」
「そんな訳ないだろ。以下の条件で第七級魔術である《灯火》を発動させる時、魔術を発動してから形成を終えるまでの時間を小数点以下3桁まで求めよ。気温;22℃、天気:晴れ、湿度:47%、場所:鳴門院赤松(東経135°)。どこだよ!?鳴門院!!明石市なのか!?兵庫なのか鳴門院は!?」
「頭痛いでござる」
俺の知らない学問がここにある。
諦めようかと思ったが、このままにしておくと留年もありえる。妹と同じ学年は嫌だ。だが、今から勉強するにしても分からない二人が一から漁って間に合うのかどうか。
俺達の発言を聞いて、ママちゃんが溜息を付きながら教科書とノートを広げたちゃぶ台の上の空のコップに麦茶を注いでくれる。見た目は年頃相応に派手だが、根が真面目で面倒見がいい。
「アナベルの定理は、“虚の魔術師”アナベル=テイナーが1847年に発表した魔術構築プロセス数をα、属性固定値をβとし、その魔術に魔力をどれくらい必要とするかを出すものです。”(α×3.34)÷β+2”で固定値は教科書に載っています。第四級魔術は判定が875平方メートル以上の範囲攻撃が該当します。第2級魔術は一方向に射程が100メートル以上ある魔術が該当します。魔術師から放たれた魔術は術者から360メートルの地点から威力が減衰する為、射程や範囲によって届かせる為に追加で魔力が必要になります。つまり、129600平方メートルを超える魔術が含まれる第四と、360メートル以上の射程を持つ魔術が含まれる第2級魔術は定理に当てはまらない魔術が存在します。先程の問題をかみ砕くとこんな感じです」
「オーキ殿分かったでござるか?」
「アナベルの定理が実力不足で、修行が必要なのは分かった」
「真・アナベルの定理が必要でござるな。改でも可」
「はぁ・・・。分からないところは私が教えますから聞いてください」
神様・仏様・ママ様だ。ありがてぇ・・・!!
一つならまだしもこの調子で問題が続くと確実に頭が付いていかない。直ぐに聞けて解説付きで返ってくる環境ほど素晴らしいものは無い。
「それより、“虚の魔術師”でござるよ。ちょっと恥ずかしい通名みたいなのがあるのでござるな」
「そうだな。“変態貴公子”」
「黙れ。“天然(笑)記念物”」
「うるせえ。”三刺れ男”」
「“バレンタインデー既製品婚姻届封入事件”」
「“ゴキブリをメスカブトだと持って育て続けた馬鹿”」
「“エスカレーター誘拐事件”」
「“全校集会爆竹サンバ”」
「それはオーキ殿も一緒にやったでござろう!?」
「バレンタインデーの話は禁句だろうがよォ!!」
くそう。お互いの黒歴史を把握しすぎている。相手が悪すぎる。このまま続けてもお互いの傷を抉り続けるだけだ。
「今日のところはこれくらいにしておいてやるよ」
「尻尾巻いて逃げるのがお似合いでござるよ」
「“天翔ける折りたたみ傘の悲しみ”」
「あれは墓場まで持っていく約束でござろう!?」
「おっと抵抗するなよ。俺は昨日、六さんと連絡先を交換している。刺されたく無かったら大人しくしな」
「卑劣!外道!!ひとでなし!いちなし!!」
「おい、俺の苗字で韻を踏むな」
「二人とも、勉強をしてください」
「「はい、すみません」」
怒られた俺達はママちゃんがいないと何もできない蛆虫野郎なのでおとなしく勉強を再開する。それはそうと、先日全蔵がコンビニのエロ本コーナーで袋とじを一生懸命開けずに見ようとしている所を激写しておいたので六さんに送っておく。バレンタインデー事件の罪は重い。
夕飯をご馳走になり、家に帰ると何故かお泊りの雰囲気になっていたので、全蔵の家に泊めてもらおうと再び全蔵の家に戻ったら、何故か。理由は分からないし、検討も付かない。不思議でたまらないが、『反省中』と書かれたTシャツを着た全蔵が家の前で正座をしていたので俺達二人はエウレカで夜を明かした。
全蔵、すまん。
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