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問0:野球を辞めた主人公に残ったものを、本文から二文字で選びなさい。

☆ side - 二三桜樹


 野球を諦めた。早熟の体の限界。三歳でバットを握り、中学最後の年で全国制覇。プロ野球選手の父とバッテリーを組む。子供ながら描いた夢を叶えるべく単身愛知から大阪へ。甲子園優勝は逃したものの、飛躍の一年夏。十八歳以下の世界大会では背番号1(エースナンバー)を背負い、優勝。そして二年の春。俺の肩は悲鳴を上げた。


 打撃(バッティング)にも自信があった。打者としての道を進むも、膝と足首を負傷。オーバーワークも重なり、2年の夏を前に医者から宣告を受けた。これ以上野球を続けると日常生活にも影響が出る。と。

両親や監督、仲間共相談し、話を重ねた結果。夏休みを利用して実家の愛知へと戻って来た。



 俺は、茂野吾郎にはなれなかった。



 夏休みも残り半月。課題が終わるかの岐路に多くの学生が立たされているだろう。朝早くに起きる習慣が抜けきらない俺は、爺さんの仏壇の前で手を合わせていた。


 父はオフシーズン以外、家にいることは少ない。妹は現役高校生モデル。俺と妹は既に高校生。母は出来る限り父と一緒にいたい。と父に連れ添う。

 その為、家には中々人がいない。唯一、父方の祖父である爺さんが家にいたが、去年亡くなった。煙草も酒も嗜まなかったが、婆さんと同じく迎えは早かった。

 丁度俺が肩を壊した頃だった。野球のみで生きて来た。食事も。睡眠も。何もかもを野球に捧げていた俺は、焦り、他を気にしている余裕が無かった。その結果が今だ。

 爺さんの葬式に出なかったことは今更ながらに後悔している。


 爺さんは趣味で古本屋を趣味で営んでいた。少しの誇張も無く、趣味で営んでいた。

 二三(いちなし)家は言ってしまえば金持ちだ。古本屋を営んでいた父方の祖父は高度経済成長期に先代から受け継いだ会社を拡大。その後、会社を類似事業を生業とする海外企業に売却。二年間顧問としての立場を勤めた後、四十半ばで古本屋を開業した。


 本を通して知り合ったのが父方の祖母。名家の三女として生まれて推理小説家として名を上げた。文学的なものから、子供向けのものまで。作品がドラマ化やアニメ化をする程の人気を持っていた。持病があり、還暦手前で亡くなった。


 母方の方も普通とは言い難い。祖父と祖母は当時は珍しい国際結婚だ。

 祖父は考古学者。昔はアメリカの研究チームに在籍し、世界各地を巡っていたらしい。今は大学の歴史科の准教授をしながら日本各地の発掘調査を主に遺跡を転々としている。祖母の生まれはロシア。共和国だった時代の生まれ。嘘か本当か。若い頃は世界で怪盗として名を馳せていたそうだ。

 偶然遺跡の宝狙いの祖母と、調査中だった祖父が出会い、壮大な試練を乗り越えて結ばれたそうだ。今では地元でお料理教室を開くおばあちゃん。母は天然が凄まじいので、幼少期に聞かされた冗談を真に受けているだけだと思う。


 お分かり頂けるように割と職歴がしっかりしてる我が家は、加えて幾つか不動産も持ち合わせており、父は「お前らの孫の代まで無職でも大丈夫」とほざいていた。目が本気だったので妹共々しっかり自分で稼ごうと幼いながらに思ったのは覚えている。


 爺さんが亡くなったと共に閉めた古本屋だったが、父の一存で先日から再開店。俺が店番を勤めているが、思考をあちらこちらに脱線する程には時間を持て余すほど暇だ。


 朝十時から夜七時まで。何をする訳でもなく、気になるタイトルの古書をカウンターで読み漁る。客入りはそれなりにあるが、購入者は稀で、本当に暇である。


 古本屋とは言え、爺さんの店、〖古書エウレカ〗は、古本屋と言われて想像するような店ではない。

 外観からは分からないが内部はそれなりに広い。本に湿気は天敵と言わんばかりに空調設備が揃っており、内装もアンティーク調で非常に雰囲気がある。本が無ければカフェと言われても不思議でないくらいに。

 両親の祖父母同士、仲が良かった。母方の爺さんの伝手を使い、海外からも棚や机、テーブルランプなどを仕入れて揃えたそうだ。店内音楽も、入り口近くに置かれた現役の蓄音機が奏でている。常連の人だと自前のレコードを持ち込んで流す人もいる。


 奥には販売不可の古書を読むスペースも小さくだが存在している。会社の休憩時間や、家事の合間、中には古書では無く、雰囲気を重視して試験対策を行う学生もちらほら。他には、販売不可のプレミア価格の付いた古書が展示ケースに十数点。県外からこれを目当てに来店されるお客さんも休日にはそれなりにいる。コーヒーの一つでも販売したら売上も上がるだろうが、本があるので飲食は当然不可だ。


 そこそこの出入りはあるものの、肝心の古書を買い上げるお客さんは少ないのが現状だ。経営はもちろん赤字だが、爺さんが好きでやっていた事し、赤字もプレミア価格の古書を売れば俺が死ぬまで営業を続けてもお釣りが来ると父が言っていた。俺が就職するまでの間、好きにしろ。とのことだ。

 他所からは放任主義と言われそうだが、父は放任ではなく、馬鹿なので難しい事を放棄した放棄主義。昔から行き当たりばったり。振り回されたのが懐かしい。今ではその血は妹に受け継がれている。俺は父の馬鹿は人類に影響を与えると本能的に悟り、DNAに必死の抵抗を見せたのか、似ていると言われることは少ない。


 切よく三日掛けて読み終わった本を戻し、新たな本を物色する。


「なんだこれ」



“今変之噺”



「いまかわ・・・こん・・・いまがわのはなし?」


 見たことも聞いたことも無いタイトル。厚本の間に挟まっていた百(ページ)ほどの薄い本だ。何となく気になったので、本を手に取り、カウンターに本を持ち帰った。

 カウンターに戻り、一息付いたところで来店。カランコロンと少し重厚感のある金音と共に入って来たのは金髪碧眼に甘いマスクを持った青年。


「オーキ殿、こんにちはでござる」


 黙っていれば少女漫画に出て来る王子様と見間違う彼は、服部(はっとり)全蔵(ぜんぞう)。由緒正しき忍者らしい。


 そんな訳が無い。


 見た目と正反対の流暢な日本語と、取って付けたキャラ付け忍者語尾。軽薄な性格。入学時、女子の熱い視線を独り占めし、三日後には汚物を見るような目で見られた伝説の男らしい。


 九月から俺が通う学校の同級生であり、以前この店でバイトをしていたらしく、再開店を気に良く顔を出す。今では顔馴染み。妹とも交流があり、頭のおかしいやつだ。


「なにか失礼な事考えていないでござるか?」

「そんな訳ないだろう。頭のおかしいやつめ」

「唐突の罵倒」

「頭のイカレたやつめ」

「グレードアップしないでほしいでござる」


 付き合いは短いが、軽口を叩き合うくらいの仲ではある。命拾いしたな全蔵。これが店の外なら重口を使ってお前は死んでいた。


「軽口の対義語は重口でないでござるよ、オーキ殿」

「平然と思考を読み取るな」

「忍者ゆえ・・・。それで今日は何を読むんでござるか?」

「“今変之噺”ってやつ。全蔵知ってる?」

「知らん。聞いたこともないでござる」

「棚を見ていたら目に留まってさ」

「そういう時、本を開いたら異世界に召喚されたり、過去にタイムスリップしたりするのが定番でござるな」

「昨日、”ゼロの使い魔”見たぞ」

「おお。元祖異世界転移でござるな。拙者も叶うならば一度は異世界に行ってみたいものでござる」

「ははっ、行けたら面白そうなんだけどな」


 夢のある、現実味のない話を二人でしながら何気なく本の表紙を開く。



 閃光。瞬間、辺りを真っ白な光が包み込んだ。



「「 え? 」」



 俺達は二人して間抜けな声をあげた。




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