溺れることは久しからず
「もう……やめて……!!!!!」
太陽が照りつける海面の上、誰かが強引に髪の毛を掴み、凄い力で顔面から叩きつけた。
それも何度も何度も何度もだ。
視界が空と海の境界線を交互に映し出す。
頭を抑えつけられ、顔を上げる度、必死で息継ぎをした。
それは死に抗うように。
なぜこんなことをするの?私が何をしたって言うの?
叫びは空気と一緒に口から漏れる。
誰でもいい、誰か助けて……。
溢れる涙は水中に溶けて消えしまう。
水飛沫が顔にかかるたび、鼻の中に苦い水が入り、喉の奥が強烈に痛む。
すると、水面上から誰かのうすら笑い声聞こえた。
人がもがき苦しむ様を見て、何がそんなに楽しいのか。
私には到底、理解できない感覚。と同時に怒りに似た感情が湧いてくる。
その時、大きな白波が私の身体をさらい丸ごと飲み込んだ。
廻る視界。なすすべなく、海の中へと引きずり込まれる。
ああ、沈んでいく。
身を任せるままゆっくりと。
もういい、精一杯生きた……。
言い訳の残りカスを魚が群がり食べていた。
やるだけのことはやった……。
嘘は泡沫のように消えていく。
今までありがとう……。
諦めたように瞼を閉じる。
……瞬間。
なぜだろう?……ふと、苦しさが弱らいだ。
私は水圧に抗うように恐る恐る目を開ける。
視界の向こう、辺りの暗転をコバルトブルーのスポットライトが映し出す。
それは潮の流れに乱反射し、デトリタスの粒がキラキラと瞬いていた。
見たこともない幻想世界。
なぜかはわからない……。なんとなく行きたいと思った。
「これで最後……」
私は力を振り絞って泳ぎ出す。
無様にかっこ悪く、這いつくばるように。
その時、誰かが足を掴み、深海へと引きずり込もうとする。
『放して!嫌だ!やっぱりまだ、死にたくない!』
絡みつく無数の手を必死で蹴り、引き剥がそうとした。
しかし、剝がしても剝がしてもまとわりつく。
何かを掴もうとする手に救いはなかった。
高度は、徐々に下がっていく。
暗く……。
深く……。
静かな闇。
そして、私はその深海へと飲まれていく。
意識だけははっきりとしていた。
……もう長年経ったのだろう。
体は化石のようだった。
誰かの糧にはなったんだろうか……。
光る粒は海流に乗って、ゆっくりと浮上していく。
私という存在はプカプカと海面を漂っている。
太陽の光。それはどこか懐かしくて……暖かい。
「……私はまだ生きていい?」
声にならない声は澄み渡る大空の向こうへと雲になる。返事はまだない。
私は咳をして胸に溜め込んだ異物を吐き出した。
――そう、私が『誰よりも海水を飲む人』である。
ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品の至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると幸いです。
この作品は最強の知恵の教え『般若心経』の意訳です。
私はこの『般若心経』を読み解く度、頭がおかしくなりそうになるので
上手い解説できるかたいらっしゃいましたらコメント等で教えてください。
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誰よりも海水を飲む人
@dekisidesho