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五話 レト少年の最悪初対面


 ――マリアベルの不思議な提案から三日も経たないうちに、レティナは騎士団本部の一室で、ある人物と対面していた。


「レト、紹介するわ。この仏頂面が、わたくしの弟のルシードよ」


 偽名を呼ばれ、レティナは居住まいを正す。


 友人であるマリアベル・テレント公爵夫人が紹介してくれたのは、鋭利な美貌の青年だった。


 弟と言われ、レティナは対面する青年をそっと見る。


 (――きれいな人)


 マリアベルが大輪の花であるならば、ルシード青年は見る者全てを凍らせるような氷のような美しさを持っている。

 だが、やはり並ぶと血のつながりを感じさせる美貌だった。


 そんなルシードから、キッと険しい眼差しを向けられ、レティナは不躾に見ていたことに気付き、慌てて下を向いた。


 その間に、マリアベルは弟に呼び掛けた。


「ルシード。この子はレト。事情があって、テレント家で保護した少年なの。しばらく、貴方の部隊で預かってくれると主人から聞いているのだけれど?」

「……騎士団長からは、たしかにそういう命令が出ている。だが……ダーメンス家の関係者、なのだろう」


 婚約者の家名が出て、わずかに顔をあげる。すると、氷のような眼差しに見下ろされ、レティナは思わず身をすくめた。


「この時期に、あの家に関わりあいのある人間を内側に置くなんて……」

「あら、ルシード。レトはいい子よ? この子の人柄はわたくしが保証するわ」

「姉上に保証されたとしても、だ。あの家に関わりのある人間が」

「……言葉には気をつけない、ルシード。元、よ。この子はダーメンス家の元関係者」


 マリアベルにたしなめられると、その端正な顔をぐっとしかめたルシード。


 同じことだと吐き捨てた彼は、どうやらダーメンス家に良い感情を持っていないようだ。


 本当に、こちらを嫌がっているのが伝わってくる。

 それなのに、ここまで拒否感を示しているルシードに頼っていいのだろうか。


 挙げ句、こちらは嘘をついているという負い目がレティナにはある。

 自分がダーメンス家にいたことは話してあるが、それ以外はすべて偽っている身だ。


(や、やっぱり、こんなことは……)


 レティナは思わずマリアベルの方を見た。すると、マリアベルは心配ないというように微笑む。

 

「ルシード、貴方があまりにも威圧的だから、レトが不安になっているじゃない」

「ふん。……男のくせに、軟弱な」

「あら? 貴方の目付きの悪さには、男も女もないわ。屈強な殿方だって怯えるそうじゃない」

「…………」


 マリアベルの擁護に、ルシードは相変わらず険しい表情のまま黙った。


(うぅ、視線が二割増しで厳しくなった気がする……)


 ――そう。レティナは名前や立場、性別まで偽り、レトという名前の少年になりすましている……マリアベルの思いつきは、冗談ではなく本気だったのだ。


 ダーメンス親子に見つからないように、そして他の貴族に娯楽として消費されないために、レティナ・チャバルはしばらく身を隠していた方がいいと言われた。


 そして、避難場所として上がったのがマリアベルの実弟、ルシード・リグハーツが率いる隊だった。


 ルシードは上の覚えもめでたく、将来有望とされる騎士だ。だからこそ、十九歳という若さで隊を任されているのだと、レティナですら聞いたことがあった。


 そんな人のところへ、わざわざ自分のような者が身を隠すなんてと思ったのだが、騎士団長でもあるマリアベルの夫、テレント侯爵が許可を出すどころかルシード・リグハーツと彼が率いる隊員たちに話を通してしまったというのだ。


 あまりの素早さにレティナが目を白黒させている間に、こうして初面談という運びとなったのだが……。


「お前にどんな事情があるのかは知らないが、我が隊の預かりになった以上、他の隊員と区別なく扱わせてもらう。この程度でいちいち不安がっていては、やっていけないから肝に命じておけ」


 冷たい口調で言い捨てる彼とは……どうにも上手くやっていける気がしないレティナだった。

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